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交換条件

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 きれいな景色が広がっていました。
 大きく見えていた木も、一面に広がっていた海も、そこからは遠くに一望できたのです。
「ここが……じ~さんの好きな場所なんだね」
「うん、ここから見える景色が好き」
 周囲には多少の草があるものの、ずっと食べていけるほどの食糧はありません。
「昔……僕がまだ羊の群れについていこうと思っていたときに通ったところなんだ。ずっと忘れられなくて、悲しいことがあったり、辛いことがあったら、ここに来ていたんだ」
「いい場所だね」
 じ~さんは微笑みました。
「みーちゃんと出会ってから、初めてきたよ。みーちゃんと出会ってからは、毎日が楽しかったから、この場所のこと、すっかり忘れてた。……僕も同じだ」
 じ~さんは遠くの景色をぼんやりと眺めます。
「僕ね、羊の群れでなじめなかったんだ。みーちゃんは羊がかわいいって言うけど、僕にはそう思えない。誰かを自分のために利用するような奴らにしか思えなかった。僕は、自分が利用されないようにとしか、思えなくなった。強くなりたいって思った」
「だから、狼になろうと思ったの?」
 みーちゃんはジッとじ~さんを見つめていました。
「初めは単純に狼になれば、いじめられることもないと思っただけ。でも、狼の強さはまた違くて。かっこいいなって思った。僕は狼にも、強くもなれなかった。あがいたつもりだったけど、僕は羊のままだ。この景色のことを利用して、都合がよくなったら忘れてた」
「それって、悪いことなのかな?」
 今度はみーちゃんがぼんやりと景色を眺めます。じ~さんの視界には、はっきりとみーちゃんの姿が映っていました。
「辛いことをひとりで抱えるって大変だもの」
 みーちゃんの肩がじ~さんに触れます。
「一緒にいてくれて、ありがとう」
 じ~さんは抱き寄せました。
「みーちゃん、僕より先に死なないで」
「どうしたの、急に」
「僕が死んだら、みーちゃんが僕を食べてね」
「嫌だよ」
 真顔での即答に、じ~さんの顔が歪みました。
「嫌だよ」
 今度はじ~さんです。
 フウと、みーちゃんはため息をもらすと、
「しょうがないな。わかった。じ~さんの言う通りにする」
 と、諦めた声を出しました。
 じ~さんの表情はパッと明るくなります。そのときです。
「ただし、交換条件」
 ハッキリとしたみーちゃんの声です。
「私が先に死んだら、そこから生えてくる草をじ~さんは食べてね」
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