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どたばた大騒動?

234.空の旅を満喫します

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 呆然としてたみんなが、我に返って歓声を上げる。
 まだフィールド上には他のモンスターが残ってたから、すぐさま殲滅戦が開始した。凶獣イービルディアがいなくなったから、防衛が完了するのも時間の問題だ。

『散歩をしよう』
「え、僕はここで――」

 おりるよ、と言う前に、イグニスさんが急上昇を始める。僕はリリたちと合流したかったんだけどー!

『空を飛ぶのは良い気分だ』
「……そうだねぇ」

 もう諦めて、空の散歩を楽しみます。
 イグニスさんは街の周囲を飛んでるから、眼下に見慣れた景色が過ぎ去っていく。西のキーリ湖がキラキラしてて綺麗だなぁ。

「――あ、モンちゃん。口がぽかんと開いてる」

 僕たちを見上げてるモンちゃんの間抜けな顔に、つい笑っちゃった。
 古竜エンシェントドラゴンが登場することは知ってても、実際に見ると驚くものなんだね。たぶんモンちゃんに僕は見えてないだろうけど、手を振っておく。

「エリアの切り替えってこんな感じなんだなぁ」

 西エリアから南、そして東まで飛ぶ。エリアが変わる一瞬で、シャボン玉を割ったような感覚があった。なんだか面白い。
 今度、地上から別エリアに向けて進んでみてもいいかも。

 あっという間に北エリアに帰ってくる。イグニスさんの影響か、ぽかぽか暖かくて良かったー。

 この高度、霊峰の頂上が近いぞ。なんか滝のようなものが見える。あれが仙桃ミルクの滝かな? 天兎アンジュラパはどこにいるんだろう?

「イグニスさん、ちょっとホバリングしてー」
『ほば……?』

 言葉を理解してないみたいだったけど、その場で飛び続けてくれた。
 霊峰を凝視しても、天兎アンジュラパの姿も、住処らしい場所も見つけられない。残念。

 しょんぼりとしながら、イグニスさんに「もういいよ」と言おうとしたところで――

「――あ!」

 小さい姿が見えた。点のようだった複数の姿が、次第に近づいてきて輪郭がわかるようになる。

 もふもふなウサギ。背中には小さな白い羽。体色はさまざまだったけど、見た目は僕とそっくり。

天兎アンジュラパだ!」
『そなたの仲間か。小さき者たちだな』

 たくさんの天兎アンジュラパが好奇心で煌めいた瞳を僕たちに向けてくる。
 伝わってくるのは『なにしてるの?』『大きいトカゲだー』『一緒に遊ぶ?』という好意的な感情だ。歓迎されてるみたいで嬉しい!

「会えて嬉しい!」

 手を振ったら、たくさんの天兎アンジュラパが不思議そうにしながらも手を振り返してくれた。

「――あ、そうだ。これあげるよ」

 近くまでやって来た薄黄色の天兎アンジュラパに、仙桃ミルクジャムを使ったクッキーが入った袋を渡す。たくさんあるから、全員が食べられるはず。気に入ってくれたらいいな。

 受け取った天兎アンジュラパは、仲間のもとに持ち帰り、はしゃいだ感じで飛び回っていた。喜んでくれてるっぽい。僕も嬉しくなっちゃう。

 やっぱり天兎アンジュラパの見た目って可愛いなぁ。タマモが見たら、悶えちゃいそう。
 容易に想像できる姿に、思わずふはっと笑った。

「ねー、僕、いつか自分の力でみんなに会いに行くからね!」

 声を掛けると、何体かの天兎アンジュラパが僕を見て頷き、手を振ってくれた。
 正規ルートでの出会いじゃないから、これ以上の触れ合いはできないみたいだ。絶対、霊峰を突破して、天兎アンジュラパと仲良くなるぞ!

『行くか』
「うん。でも、どこへ?」

 改めて天兎アンジュラパと手を振って別れの挨拶をする。
 イグニスさんの翼が大きく羽ばたくと、瞬く間に天兎アンジュラパたちの姿が遠くなった。

『ふむ。もう何周かするか。あちらは人の気配が多いから、近づいてはならんだろうし』

 イグニスさんが頭を向けた方には、見たことがないほど高い建物が並び立つ街があった。まだ遠いところだけど、はっきりわかる。もしかして、あれが王都? 楽しそうな場所だなぁ。

「他の街はやめてほしいな」
『わかっておる』
「……あれ? 向こうにも家がある?」

 高度がぐんぐんと増していくと、王都らしき場所とは別の方角にある山の中に、複数の巨大な木があって、その木にたくさんの家がくっついてるのが見えた。ツリーハウスって感じ。

『あれは……山の街だな』
「山の街?」
『普通の人の街とは違い、高い壁で囲われず、自然の中で暮らす者たちの街だ。里より規模が大きい』
「イグニスさん、物知りだね」
『我が王と共にあった頃から存在している古き街だからな。確かあの近くに【神の降臨した地】があったはずだ』

 イグニスさんが親切に説明してくれる。
 神が降臨した場所かー。それなら、国から大切に保護されてるのかな。

〈創世の神の情報を入手しました。【第四の街ツーリへの道筋】がマップに追加されます〉

 え!? まさか、ここで新しい街を開放する手がかりを入手しちゃった?
 次の街は王都だったんじゃないの?

 慌ててマップを確認すると、王都から第四の街らしき場所へ伸びる道が描かれていた。

 第四の街って、本来王都に行ってから発見する場所だったんじゃ……? まぁ、ここで発見できたのはラッキーだったと思おう!

「イグニスさんのおかげで、天兎アンジュラパに会えたし、新しい街の情報も入手できたよ。ありがとう!」

 ようやく空の散歩を終える気分になったらしいイグニスさんから下りて感謝を告げる。もう北エリアの防衛も完了したみたいだ。

『うむ。我もゆっくりと飛んで楽しめた。また共に散歩しよう』

 サクノ山の方へと飛んでいくイグニスさんを見送る。

 レイドイベントではいろんなことがあったけど楽しかったな~。

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