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商人への道?

109.これは序章?

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 イザベラちゃんたちを連れてやって来たのはナンバーワン・スイーツフル。異世界の住人NPCのお店への評判を回復させる足掛かりになればいいな、と思って選んだ。

「桃カフェではないのね……」
「あそこはお客さん多すぎて、長時間待つ必要があるし、深い話をできる場所じゃないからねぇ」

 今だけはちょっと閑散とした状況が好都合。ライアンさんには悪いけど。
 すでにプレイヤーのお客さんが増え始めてるみたいだから、許してよ~。

 残念そうなイザベラちゃんを宥めながらテーブル席に着く。
 いつの間にか合流してた護衛のリシェードさんが、離れたカウンター席に座ってた。たぶん店の外にも騎士の人がいるんじゃないかな。

 それぞれ注文をして、スイーツが届いたところで本題に入る。

 ちなみに僕は、蜂蜜レモンかき氷を頼んでみた。爽やかで冷たくて美味しい!
 イザベラちゃんはレモンタルトを食べてご機嫌になってるし、シシリーは蜂蜜レモンのパンケーキを食べて満足そう。
 ルトは鶏レモンパスタを食べてる。軽食系も美味しそうだなぁ。

「それで、どうなったの?」

 話を切り出した僕に、シシリーが真剣な表情で口を開く。

「お嬢様に呪いを掛けた実行犯は、使用人でした。指示役はすでに姿を消していたのですが、どこかの貴族が背後にいる可能性が高いと考えています」

 思わずルトと顔を見合わせる。
 これ、完全に解決したわけじゃないよね。もしかして、他の街でも何か事件があって、ストーリーが進行していく感じなのかな?

「……真相を追ってくのも面白そうだな」
「面白がるのは不謹慎だよ」

 小声で楽しそうに呟くルトを軽く咎めたら、肩をすくめて口を閉ざした。
 ゲームのストーリーなんだから、楽しむのがダメとは言わないけど、シシリーたちの前で言うことじゃないよ。

 シシリーには僕たちのやりとりが聞こえなかったのか、小さく首を傾げてきょとんとしてる。

「実行犯の人は何が目的でイザベラちゃんを呪ったの?」

 誤魔化すように質問すると、シシリーとイザベラちゃんが複雑な表情で視線を交わした。

「……その人は『お嬢様が周囲の者と仲良くなるために必要なことだ』と信じ込んでいたようです」
「はっ? えっと……どういうこと?」

 僕の理解を超えてる。

「もしかして、オジョウサマは元々、周囲の人とあまり仲良くなかったってことか?」
「仲良くなかったというより、扱いに困っていた方はいたかもしれませんね……」

 ルトの遠慮のない問いかけに、シシリーが苦笑まじりに答える。

 つまり、好悪感情を反転させる呪いは、イザベラちゃんが嫌われてる状況を変えるためだった、ということ?

「呪い、全然意味なくない?」

 呆れちゃう。
 呪いによって仲良くなったとしたら、それは本心では嫌われてるってことだ。そして、本気でイザベラちゃんを好きな人を遠ざけることになる。

 意味がないどころか、状況を悪化させるだけだよね。
 実際、シシリーとか領主さんとかを遠ざけることになって、イザベラちゃんは孤立してたわけだし。

「——あ、でも、本気で嫌ってる人はいなかったってことかな。呪いの影響がある間、イザベラちゃんに好き好きアピールしてきた人はいないんでしょ?」

 それは唯一の朗報かもしれない。イザベラちゃんが少しホッとした感じの表情なのは、それが理由だろうな。

「そうですね。終わってみれば、良かったと言えなくもありません」

 シシリーが複雑な表情でため息をつく。

「背後にいるかもっていう貴族は何が目的だったんだ? そっちは絶対悪意あるだろ。こんなちっこい女の子孤立させて、どんなメリットがあるんだよ」

 ルトがイザベラちゃんの頭を撫でてから、少し怒った感じで呟く。ルトなりに、イザベラちゃんのことを心配してくれてるみたい。

 イザベラちゃんは少し驚いた表情を浮かべた後、嬉しそうに口元を綻ばせてた。可愛いねぇ。

「……現在有力な理由は、閣下の後妻にご令嬢を押し込みたい、というところでしょうか。再婚後に生まれる子どもの継承権を確実にしたい、というのもあるでしょうね」
「うわっ……貴族ってすごい……」

 そういうことね。というかその場合、イザベラちゃんの命がなくなってた可能性あったよね? こわっ!
 領主さん、これからはしっかりイザベラちゃんを守ってあげて!

「再婚決まってんのか?」
「いくつかのお家から申し出はあるようですが、閣下はお断りしていますね。お嬢様との関係が気薄になっていた頃に執務がお忙しかったのは、今考えると幸運でした。再婚のことを考える暇がなかったそうですから」

 おぉう……領主さん、お疲れさま……。僕たちプレイヤーのせいで忙しくなってたのが役に立った(?)なら良かったよ。

 ルトと顔を見合わせて肩をすくめる。
 今後、黒幕の貴族がゲームに関わってくるのかな。各街に領主の貴族がいるなら、そういうストーリーが展開されるのかも? それで、王都がエンディングの舞台になりそう。

 まぁ、僕がストーリーに関わるのは、今回が最初で最後の可能性高いけどね! 自分から見つけに行かないもん。

「お前、ストーリーに関わりそうな出来事あったら、ちゃんと報告しろよ」
「なんで? 僕、わざわざ探さないよ」
「無意識でフラグを踏みまくって回収してるヤツがなに言ってんだ」

 呆れた感じで言われる意味がワカリマセーン。
 視線を逸らしたら、頭をグリグリと押された。暴力反対!

 パンチをしようとしたけど、片手で額を押さえられちゃうと全然届かない。シャドーボクシングをしたいわけじゃないんだよ!

「あの、それで、今回ご迷惑をお掛けしたお詫びをお持ちしたのですが」

 僕たちの戯れに、シシリーの声が申し訳なさそうに割り込んでくる。

「お詫び? でも、もう農地もらったよ?」

 きょとんと首を傾げる僕の横で、ルトも片眉を上げて不思議そうにシシリーを眺めた。

「それだけでは足りないだろう、と閣下は仰せでした。——こちらがお詫びの品になります。お受け取りください」

 シシリーがテーブルの上に箱と紙を並べ、僕に差し出してくる。

〈〈ストーリー1『伯爵家に忍び寄る影』をプレイヤーがクリアしました。ストーリーの詳細は、メニューのストーリー一覧よりご確認いただけます〉〉

 ……ワールドアナウンスだぁ。
 ルトをちらりと見たら、『こうなって当然だったな』って感じで肩をすくめてた。

〈ストーリークリア報酬を入手しました〉

 個人向けアナウンスもあった。つまり、シシリーが差し出してきたのは、その報酬ってことかな。

「えっと……【名誉貴族証明書】と【黄金のブレスレット】?」
「はい。名誉貴族は功績のある者に対し、各領主貴族が市井の者に与える爵位です。一般の民より信頼度が高く、他の領地に行っても、優遇を受けられるでしょう」
「優遇……」

 よくわからなくてヘルプを見てみる。
 名誉貴族のメリットは、各街でホームや農地を入手しやすくなり、定住申請をしなくても住民としてのサービスを受けられることらしい。治療院を無料で利用できたり、ね。

「便利かも。でも貴族かぁ……」
「うさぎの貴族、ファンタジーだな」
「変だって言いたいの?」
「いや、お前らしいと思って」

 笑うルトを見上げて、頬を膨らませる。
 僕らしい、ってどういうこと。貴族扱いされるなんて、考えたことなかったんだけど。

「こちらのブレスレットは攻撃力強化に特化した宝物ほうもつです。冒険者として働かれる際に、実用的にご活用いただけるかと。資産として保有されるのもいいですよ」

 シシリーが微笑む。
 アイテムを鑑定してみたら『攻撃力+20』というシンプルだけど高い性能が示された。
 ……これ、錬金術の材料にしたら、より便利なものができそう?

「お前、これもらったからにはちゃんとバトルしろよ」
「ガンバルヨー」

 ジト目で見てくるルトから視線を逸らす。がんばるつもりはあるんだよ。

「モモ、よかったわね」

 にこにこと笑ってくれるイザベラちゃんが癒やしです。

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