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商人への道?

96.握手会じゃないよ?

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 開店準備をしてるシシリーに合流して、商品を補充してから隣に座る。僕は身長が低いから、高めの椅子を用意したよ。

「お待たせしました~。うさぎのなんでも屋、開店です!」

 列の先頭に声を掛けたら、「きゃあ、今日はやっぱりモモさんも店番なんですねー」と嬉しそうに言いながら女の子が近づいてきた。
 開店前に列ができてるってすごくない? 三十人くらい並んでる気がする。商品足りるかな?

「たまには自分で売れ行きを見るのも大切かなって思って!」

 ライアンさんに触発されて、もうちょっと商人としてがんばろうかなって思ったんだ。

「みなさん、ほぼ全買いだと思いますけど」
「破産しないでね」
「私はお金を貯めてから来てるので大丈夫です!」

 ぐっとサムズアップする女の子に苦笑しちゃう。そこまでして買いたいのかなぁ。

「あ、新しい料理来てる! モモさんが作る料理、美味しくて可愛いから嬉しいです。価格も安めですし」
「喜んでもらえて嬉しいよ~。パン系を作れるようになったから、今後増えていくと思う。片手で食べられて便利だし」

 会話を楽しむ僕の横で、シシリーがせっせとアイテムをまとめてお金のやり取りをしてる。……僕、ただいるだけの存在になってない?

「モモさん、どうぞこれを手渡しして差し上げてください」
「あ、抽選券だね」
「はい。十個ご購入ごとに一枚お渡しするので」
「……すごい商売だなぁ」

 自分がしたことだけど、ちょっと引いちゃう。お客さんが喜んでくれてるから良いんだけどね。

 抽選券自体も、僕をモデルにしたようなイラストが描かれてて凝ってる。たくさんのパターンがあって、これをコンプリートしたいって人もいるらしい。シシリーは商売上手だ。

 数枚の抽選券を女の子に渡したら、「これで十枚突破……!」とすごいことを言われた。いつもありがとうございます?

「ほんとに、破産しないでね?」
「はーい! モモさん、最後に握手お願いします」
「それくらいならいいよ~」

 手を優しく握られる。「やわふわ最高!」と満面の笑みを見せられると、僕も嬉しくなっちゃう。

 その後、お客さんが帰る間際に握手するのが当たり前になっちゃって、疲れることになったけど。あんまり気軽にOKするものじゃなかったね……。

「モモさん、もう商品少ないです」
「あっという間だったねぇ」

 列がなくなった頃には、商品はほぼ残ってない状態だった。もうお店閉めちゃおうか。
 シシリーが言うには、今日はいつもより品切れになるのが早かったらしい。僕がいたからかな?

 シシリーと店仕舞いの作業をして、売上を受け取る。

「――あれ? もしかして、五十万リョウ達成したかも」

 定期的に銀行に預けてるから、商業ギルドに行って確かめないとわからないけど、近い額になってる気がする。

「おめでとうございます! 屋台から店舗での営業に切り替えますか?」
「そうだねぇ。そろそろシシリーとの契約期間も終わるし、商業ギルドとお話してこようかな」

 あっという間だったなぁ。せっかく作った屋台だし、今後も活用したいけど。他の街で商売をする時とかいいかも。

 そんなことを考えながら、コーヒーとアップルパイを並べる。シシリーとおしゃべりタイムだ。

「――領主さんとのお話はどうなったの?」
「また家庭教師として雇っていただけることになりました。お嬢様からも口添えがあったようで……閣下は少し落ち込んでいらっしゃったようです」

 シシリーが苦笑する。
 やっぱり領主さんとイザベラちゃんが上手くコミュニケーション取れてないのが原因の一つだったかぁ。落ち込むくらいだから、イザベラちゃんに愛情を持ってはいるんだろうけど、忙しいのかな。

「領主さんって忙しいんだろうねぇ」
「最近は異世界の方が増えて、それに合わせて法やシステムを変える必要があるようですから、特にお忙しくなっているようですね」
「僕たちのせいでもあったのか……」

 しょんぼり。顔も見たことない領主さん、ごめんね。

「いえ、あの、閣下がお忙しいのは元々ですよ!」
「それもどうかと思う」

 フォローしてくれるのは嬉しいけど、領主さんが忙殺されてる状況ってよろしくないのでは? 良い領主さんっぽいけど。

「――まぁ、僕にはどうしようもないし。少しでもイザベラちゃんと接する時間を増やしてくれたらいいな」
「それは私の方からもお願いしてみます」

 真剣な表情で頷いたシシリーが、不意にパチッと手を合わせる。

「――そういえば、そろそろお嬢様とお話しようと予定を調整しているのですが、モモさんのご都合はどうでしょうか?」
「僕も立ち会うんだったね。えっと……明々後日なら大丈夫だよ」

 ログインできる時間帯を教えたら、シシリーが「では、その時間で調整します」と頷く。
 イザベラちゃんへのプレゼントを揃えておかなきゃ。ぬいぐるみと料理を持っていこうかな。僕が作ったものを気に入ってくれてたみたいだし。

「――う~ん、やっぱり幻桃ラールペシェかなぁ……」

 食べて美味しかったって言ってたから、持っていってあげたい。でも、それならパティエンヌちゃんが作ったやつの方が良いのかな。

幻桃ラールペシェですか?」

 僕の呟きを拾って、シシリーが首を傾げる。

「僕、幻桃ラールペシェを栽培してるんだ。グルメ大会で優勝した桃カフェに卸してるんだよー」
「そうだったんですか!?」

 シシリーに話したことなかったかも? 予想以上に驚かれて、僕の方がびっくりしちゃう。

「え、なんか問題あった?」
「いえ、以前、閣下から『幻桃ラールペシェを再び街の名産にしたい』というお話を伺ったことがあったので……。モモさんがよろしければ、閣下にご紹介しましょうか?」
「おぉ……どうしよう……」

 すごい儲け話になりそうだけど、領主さんに会うのはちょっと気が引ける。悩ましい。

「いつでも大丈夫ですので。気が向いた時にお声がけくださいね」

 シシリーはすぐに僕の躊躇いを見抜いたようで、微笑みながら提案を一旦下げてくれた。

「そうする。ありがと」

 にこにこと笑いながら何気なくミッション欄を確認したら、しっかりと『第二の街に貢献』というミッションがあった。進捗度10%。
 これ、幻桃ラールペシェ栽培でちょっと貢献してるっていう認定がされてるのかな。

 報酬は『農地一区画またはホーム(小)』だって。
 ホームはもう持ってるからいらないけど、農地はもう一個あってもいいかもしれない。ちょっと前向きに考えておこう。

「——あ、そうだ。シシリー、このぬいぐるみを鑑定してみて!」
「分身……?」
「いや、ぬいぐるみだってば」

 取り出した大きなぬいぐるみにシシリーが目を丸くしてる。

「あぁ、ブローチやピアスのようなアイテムということですね」
「そうそう。まだ売るつもりはないんだけど、イザベラちゃんにプレゼントしようかなって。もふもふ好きそうだったから」

 鑑定してもらう理由を説明したら、シシリーが真剣な眼差しでぬいぐるみを見つめる。成人女性がそんな表情でぬいぐるみと向かい合ってるのは、ちょっとシュールだ。

「……効果は『傍に置いて寝る(ログアウトする)と、その後四時間の精神力・幸運値が10上がる』ですね」
「え、つよ!」

 びっくりした。ブローチより綿毛の量が多い分、効果が上がるんじゃないかと思ってはいたけど。

 自分用にも作った方がいいかな?
 全部綿毛で作ると、効果が上がるかもしれない。うぅ、どう作るか悩ましいなぁ。

「お嬢様は可愛いものがお好きですから、きっと喜んでくださいますよ」

 嬉しそうにふわりと微笑むシシリーを見上げ、僕も頬を緩める。
 イザベラちゃんに贈るの楽しみだなー。

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