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商人への道?

84.初日だし……

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 僕の屋台を出せる場所は、市場の端の方に割り当てられてた。お隣さんは空いたまま。ちょっと寂しい。
 ちゃんと集客戦略を練らなきゃ、利益が出ないかも。

「ここで屋台を開くよ~」
「わかりました。私は半日接客すればいいんですね?」
「うん。僕がいないこと多いと思うから、よろしくね」

 シシリーが「すぐにでも働けます!」って言うから、一緒に来たよ。まだ昼にもなってないし、お試し営業してみようねー。

 屋台は基本的に朝から昼の三時間営業、八日に一回お休みにする。
 バイトさんの一日の労働時間は最大四時間で定期的に休日を設けてください、ってリエインに念を押されたから。

「はい。商品の説明はどうしましょう?」
「今から教えるよー。新規商品を用意したら、その都度説明しておくからね」

 カンペを準備した方がいいかな? でも、家庭教師をしてたシシリーなら問題なさそう。鑑定スキル持ちは勝手に鑑定して、商品の説明を求めないことが多そうだし。

「――まずは屋台!」

 僕もちゃんと見るのは初めて。ワクワクする。

 アイテムボックスから屋台の模型を取り出したら、目の前の空白地帯が緑の線で囲まれた。設置可能ってことかな?
 ちょっと移動させようとしてみたら赤い線に変わったから、そういうことなんだろう。

 うん、と頷いて設置。考えるだけでできるのって便利だな~。

「可愛い屋台ですね」
「でしょ! 僕らしい感じ!」

 うさぎの耳がついた屋根。丸みのあるカウンター。うさぎのイラストが描かれた看板。
 それ以外の装飾はないけど、可愛い雰囲気いっぱい!

 褒めてくれるシシリーにニコニコしながら、屋台設備を見て回る。

 カウンターは、商品として設定したアイテムの見本をミニチュアサイズで並べてくれるみたい。取り出して実際のサイズを確かめてもらうこともできるらしい。

 これ、シシリーが説明してくれたことだよ。屋台での商売について、事前に調べておいてくれたんだって。助かる~。

 早速商品を並べながら、シシリーに説明する。うさぎモチーフのブローチとピアスを、僕と見比べて微笑んでたのがなんだか可愛い。
 でも、設定した値段を教えるとなぜだか驚かれた。

「このブローチとピアスには防御力を+5にする効果がありますよね? しかも、アクセサリー装備枠を消費しないので、冒険者が欲しがると思います。一人一つしか装備できないのも、デメリットとしては些細ですし。もっと価格を上げた方がいいのでは?」
「……え?」

 予想外の言葉にぽかんとしちゃう。
 防御力+5? それ、結構すごいよね。しかも装備枠を消費しないって……大きなメリットじゃん!

 慌てて鑑定してみる。錬金術で作った時は、そんな説明なかったと思うんだけど。

――――――
【うさぎのブローチ】レア度☆☆☆
 天兎アンジュラパの綿毛から作られたうさぎモチーフのブローチ。
――――――

 やっぱり、シシリーが言うような効果は見えない。

「もしかして、シシリーって鑑定スキルのレベルが高い?」
「高いと言っても、レベル5ですが」
「十分高いよ!」

 僕の全鑑定スキルはレベル2だよ。これでも結構使ってるんだけど、なかなか上がらないんだよね……。

 しょんぼりとしながらそのことを教えたら、シシリーが「あぁ」と納得した感じで頷いた。

「私の鑑定スキルはアイテム鑑定に特化していますから。すべてを網羅する全鑑定スキルより、レベルが上がりやすいんですよ」
「そんな落とし穴があったんだ……!?」

 全鑑定スキルをお得にもらえてラッキーって思ってたけど、まさかのデメリット。もっとたくさん使えってことだね。

「えぇっと……あまり気を落とさないでくださいね? レベルはいつか上がりますから」
「うん……ありがとう」

 シシリーの気遣いを無駄にしないよう、なんとか元気を取り戻す。気長にがんばるよ。

「――僕はわからないんだけど、そんなすごい効果があるなら、もうちょっと価格を上げるよ」

 もともとはファンの子たちへの思いをこめて、ちょっと安めに設定してたんだ。でも、攻略にも有用ってなったら、買うのはそういう人ばかりじゃないし、あんまり市場相場を崩さない方がいいだろう。

 とはいえ、どれくらいが適正価格なんだろう?

「こうしたアクセサリーは冒険者だけでなく、着飾りたい方にも人気が出るでしょうし、一つ三千リョウくらいがちょうどいいと思いますよ。試してみて、需要が高いようでしたら、さらに値上げをしてみるのはいかがですか?」
「三、千……!」

 高い。僕の感覚だと、これにそんなお金を出すの? って感じ。使った材料は、僕の綿毛と金具用の金属くらいだよ? 原価一割もかかってないよ?

 でも、シシリーがこう言ってるってことは、三千リョウが妥当な価格なんだろう。とりあえず、その価格で試してみるかぁ。

「――じゃあ、それで。あ、他のアイテムも、シシリー的に価格を変えた方がいいのとか、説明を付け加えた方がいいのとかあったら教えて!」

 もう完全に頼っちゃおう。シシリーがすごく頼りになるんだもん。

 いくつかのアイテムで追加の鑑定結果を説明されて、「それはお客さんに教えてあげてー」とか、「それは言わなくていいよー」とか返していく。価格設定もちょっと変えた。

 ほとんどのアイテムが想定していたより高くなったけど、これで売れるかどうかは試してみないとわからない。

「商品は全部揃いましたね。開店しますか?」
「うん、しよう!」

 屋台の看板近くに垂れ下がる札を『OPEN』に変える。
 市場の端に位置しているとはいえ、たまに通りがかる人が興味をそそられた感じでこの屋台を見てたんだ。お客さんは逃さないようにしないとね。

 早速近づいてきた人に、シシリーと声をあわせて挨拶。

「「いらっしゃいませ!」」

 さぁ、『うさぎの何でも屋』のはじまりだ~。


◇◆◇ 


 目の前の通りを歩き去っていく人の姿を視線で追う。

「……暇だねぇ」
「そうですね……」

 ぽつぽつとお客さんは来てくれたけど、料理が何点か売れただけ。冒険者さんが来ないから、錬金術で作ったアイテムは全然売れない。
 ブローチやピアスに興味を持ってくれた女性もいたけど、「高いわねぇ……」と言って買ってくれなかった。

「もうそろそろ夕方だし、店じまいする?」
「わかりました……。モモさん、すみません。商売って、知識だけじゃやっていけないんですね……」

 シシリーがしょんぼりと肩を落とした。
 開店前に指摘してくれたことは確かに正しかったんだろう。でも商売は、時に利益度外視で集客に努める必要があるんだ。それで常連さんができてから、利益を求めるのがいいんだろうな。

「そもそも、この場所がお客さんを集めにくい感じだったからね。僕の事前準備が足りなかったってことだよ」

 お客さんを集めるには、まずは掲示板でアピールするのがいいかな? タマモに声を掛けたらすぐに来てくれそうだけど、こういうところで頼り切るのはよくないよねぇ。

 僕のことを好きって言ってくれてる人を金づるみたいに扱うつもりないし。でも、僕をモチーフにしたアイテムがあるなら、教えない方がダメかな?

「――あ、そうだ。シシリーのその服装も屋台の雰囲気と合ってないかも。制服作っちゃう?」
「え!?」

 ほのぼのとした感じの屋台に、タイトな黒のスカート、ジャケット姿のシシリー。正直ミスマッチだって、最初から思ってたんだよ。髪も可愛い色なんだし、もっとゆるふわな感じが合ってると思う。

「制服、どんな感じがいい? あ、うさぎ着ける?」

 売り物のブローチをシシリーにあげる。これを着けるだけで、ちょっとは店との一体感が出るでしょ。

 初日から屋台が上手くいくとは思ってなかったし、暇な時間を有効活用することにして、シシリーの飾り方を考える。

 制服もゆるふわがいいかなぁ。屋台ってラフな感じの服装の人が多いし、うさ耳がついたパーカーとかどう? 僕の綿毛でもこもこのやつ、作れないかな?

 錬金玉で検索してみたら、【うさぎパーカー】は綿毛が八個必要だった。……いけるいける。

「あの……なにをしてるんですか……?」

 くしくし、と毛繕いしたら、アイテムボックス内の綿毛が増えた。余ってた分と合わせて八個になったから、すぐさまパーカーを作る。
 可愛いパーカーができたよ! ふわもこで着心地もよさそう!

「これ、着て!」
「え……私が、これを……?」

 固まってるシシリーを見上げて、ちょこんと首を傾げる。

「嫌?」
「……嫌、ではありません。集客のためでしたら……!」

 シシリーが気合いを入れた感じで受け入れてくれた。ジャケットを脱いで、白シャツの上からパーカーを着る。垂れたうさ耳がついたフードをかぶれば、ひっつめにした髪も目立たず、ゆるふわな感じ。

「可愛いよ~」
「ありがとうございます……。このような服を着たのは初めてですが、意外と楽しいですね」

 まじまじとパーカーを見下ろして、シシリーは少し嬉しそうに頬を緩めた。硬い表情の時より、似合ってるよ。これ、制服にしちゃおうか。

 ちょっと沈んでた気分が上がってきて、シシリーと目を合わせてニコニコ。
 集客戦略はもうちょっと考えないとねー。

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