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美味を求めて

68.幸せってこんな味

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 ルトと一緒に桃カフェに行って、パティエンヌちゃんに幻桃ラールペシェを渡した。

「こ、これが……あの、幻桃ラールペシェ……!」

 宝石を持っているような慎重な手つきで幻桃ラールペシェあらため、パティエンヌちゃんが「ほぅ……」と感嘆のこもった息をこぼす。
 満足してもらえたみたいだし、がんばった甲斐があったなぁ。

「それでピーチメルバを作ってくれる? あ、種は欲しいな。農地で育てて、幻桃ラールペシェを安定供給できるようにするからねー」
「っ、本当にしてくれるんですね……! ありがとうございます! 心をこめて作ってまいります。少々お待ち下さい」

 目に涙が滲んでたけど、顔は喜びで輝いてる。パティエンヌちゃんが幻桃ラールペシェで作るピーチメルバ、楽しみだなー。

「イベントミッションはどれくらい達成してるんだ?」

 厨房に下がったパティエンヌちゃんを見送ってたら、ルトに聞かれた。
 ミッションかー……すごいことになってるんだよね!

「お客さんを連れてくっていうミッションが三回カンストしてる」
「は?」

 イベントミッションでお客さん十人を桃カフェに連れて行く、っていうのがあったんだけど、ここで写真撮影会したら、それがカウントされてたみたいなんだ。僕が連れて行ったって言っていいのかわかんないけど。

 クリア×3、っていう表記と一緒に、39/40人って書かれてて、あと一人連れてきたら四回目のカンストができそう。
 リリを連れて来ようかな! アリスちゃんとも来れるかもしれないけど。

 他にも、ミッションはちょこちょことチェックして達成してるから、実は幻桃ラールペシェを五個納品できたら、一応全クリアになるんだよね。

「――なんっつーか、まぁ、楽しんでてよかったよ」

 僕の話を聞いたルトは、なぜだか呆れた顔だった。

「楽しいよー。あとは幻桃ラールペシェを作って……優勝させるだけだね」

 握りこぶしを作る。
 ここまで来たんだから、絶対優勝させなきゃ。桃カフェのアピールに、ビラ配りでもする?

 今の店内は、ちらほらとプレイヤーの姿があって、ほどよく席が埋まってる。視線を感じる度に手を振ったら、嬉しそうに手を振り返されるから、僕のファンなのかな?

 でも異世界の住人NPCの姿は少ない。やっぱ、桃カフェの危機を救うには、異世界の住人NPCの間で評判にならないとダメなんだろうなぁ。

「お前にはファン集団がいるから、なんとかなるだろ」
「そうかなー? 油断は禁物だと思うよ」

 最後まで気は抜きません。

「ふーん。……あ、そういや、イベントの報酬情報が更新されてたな。スキルリストで結構強いスキルを入手できるとかで、攻略組もイベントに参加しだしたみたいだぞ」
「えっ、確認してなかったよ」

 運営から届いていたお知らせを開いてみたら、確かにイベント報酬の詳細が出てた。

 一番良い報酬がスキルリストっていうやつで、リストに載ってるスキルから一つ選んで習得できるらしい。

 その他にも報酬は色々とあって、イベント後にミッション達成率と応援した店舗の順位に応じて配られるみたい。

 ミッション全クリで、かつ応援した店舗が優勝すると、ホームと農地の所有権をもらえる可能性もあるっぽい。これは、一名限定のクジ当選者への報酬なんだって。

「――スキルリストに詠唱破棄がある!」
「それと交換すんのはもったいなくね?」

 スキルリスト例に燦然と輝く文字にテンション上がったけど、ルトはなんだか冷めてる。

 確かにバトルでめちゃくちゃ効果的なスキルってわけじゃない。でも、僕はずっと欲しかったんだよ? スキル屋で交換できるとはいえ、いらないスキル集めるのも結構大変なんだよなぁ。

「んー……もらってから、考える」

 もう桃カフェが優勝するつもりで考えちゃってるんだけど、まだ結果はわからないよね。特に攻略組も本格的にイベントに参加し始めたとなると、結構影響力ありそうだし。

「お待たせしました。幻桃ラールペシェのピーチメルバです!」

 パティエンヌちゃんがやって来た。僕とルトの前におしゃれなスイーツが置かれる。

「……匂いからして、もう美味しい」
「食ってないのにか。……でも、俺もわかる」

 二人して凝視してしまった。
 スライスされた幻桃ラールペシェがとろりと蜜を纏って輝き、ラズベリーソースの赤色と映える白い果肉が芳醇な甘い香りを放っている。

「モモさんのおかげで、満足できる一品に仕上げることができました。ぜひご賞味ください」

 パティエンヌちゃんの真摯な声。そこには溢れんばかりの感謝の思いがこもっていた。きっと、その思いをいっぱいこめて、作ってくれたんだろう。これは、味わって食べなくちゃ。

「うん。いただきます!」

 手を合わせてからフォークを手に取る。
 幻桃ラールペシェをバニラアイスと一緒にラズベリーソースを絡めてぱくり。口の中に広がるのは、幸せの味だった。

「――美味しい……美味しいよ! 今まで食べたことないくらい!」
「うま……なにこれ、マジで、常識超えてる……」

 ルトが無心で食べ続けてる。全力で「だよね!」と言いたくなった。これを美味しいと言わない人なんていないよ。
 前に食べたピーチメルバも美味しかったけど、これは優にその味を超えていた。なんかもう、芸術品と表現したくなっちゃう。

「現実でも、こんな美味しいのは食べれないよ」
「そうだな。この世界だからこそ、の味わいかもしれねぇ」

 ルトがしみじみと呟く。
 一口ずつ、ゆっくり味わって食べる。なくなってしまうのが悲しくて、でも手は止まらない。ずっと食べていたい気分だ。

「……美味しかった……」

 最後の一口を味わい、じっとお皿をみつめる。幸せな時間って、どうしてこんなに早く過ぎ去ってしまうんだろう。

「楽しんでいただけて嬉しいです」

 他のお客さんの対応をしてたパティエンヌちゃんが近づいてきて、ふわりと微笑む。初めて会った時より、明るい笑顔のように見えた。

「――幻桃ラールペシェのピーチメルバを作ることができて、パティシエとして自信を取り戻せた気がします。正直このままお店を続けていてもいいのかと不安になっていたのですが……この味を、もっとたくさんの人に召し上がっていただきたいと思うようになりました」

 パティンヌちゃんが、目尻に滲んだ涙を拭う。目に希望の光が輝いてて、強い意志を感じる。なんかすごくカッコいい。

「僕もたくさんの人に、これを食べて幸せな気分になってもらいたいなぁ。そのためにも、幻桃ラールペシェ作り、がんばるね!」
「はい、よろしくお願いします!」

 深々と頭を下げたあと、パティエンヌちゃんが小さな包みを差し出してくる。中身は幻桃ラールペシェの種だった。

 美味しいピーチメルバを食べて、元気いっぱい。幻桃ラールペシェ作りがんばるぞー!

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