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はじまりの街

35.謎を深堀りしたら……?

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 道を進み続けて十分ほど。スラリンは帰還してしまったので、ちょっぴり寂しさを感じてたんだけど——。

「おお? なんか、広いとこに出た」

 ここが終着地かな。隠れるようにしながら、密かに広場の様子を窺う。
 広場は日差しが降り注いでて明るい。松明αはしまっても良さそうだ。

 上には丸い空が見えた。ここは縦穴の底らしい。随分と深い穴だ。
 壁面にはいくつも小さな穴があるから、ここへ辿り着く道はたくさん存在してるのかもしれない。

「——気になるのは、あれだよねぇ」

 広い空間の中央に、古墳のような土の盛り上がりがある。——って、モンスターに気づかれた!

 襲ってくる埴輪人形ハニワーレムから逃れるために、一旦広場に出てから、飛翔フライで壁の上側にある穴に退避。

 埴輪人形ハニワーレムより突進土竜ラッシュモールの方が対処しやすいのです。

「ここに埴輪人形ハニワーレムがいるのかー。っていうか、あっちの方にはゴーレムも……。厄介な場所だなぁ」

 動きが遅いから逃げられるけど、一度バトルが始まっちゃったら、袋叩きにあっちゃいそうな数のモンスターだ。一体倒すのにも時間がかかるからなぁ。

「それにしても、ここが聖なる地の理由ってことでFAファイナルアンサーでは?」

 埴輪人形ハニワーレムたちモンスターは、あの古墳っぽい場所を守ってるんだ。それがどうしてかっていう理由はわからないけど……。

「こんな時こそ、鑑定スキルの出番!」

 張り切って鑑定。主に魚系モンスターや料理を鑑定しまくった結果、鑑定スキルはレベル2になってるんだ。

——————
【古き王の古墳】
 かつてこの地を治めていた偉大なる王が眠っている古墳。王は古竜エンシェントドラゴンと契約を結び、多くの民を守っていたという伝承がある。
——————

「——おお? これ、王様のお墓なのか!」

 古竜エンシェントドラゴンと契約を結んでたって説明は気になるけど、大体納得できた。偉大なる王様の眠りが妨げられないように、モンスターたちが守ってるんだね。

 でも、王様ってテイマーだったのかな? 今に至るまで、モンスターが人間を守ってるって、ちょっと不思議……。

「まぁ、いいや。謎は解けたし、僕はここを荒らすことなんてしないよー。ゆっくりお眠りください」

 なむなむ。手を合わせて、目を瞑る。

 達成感を得られたので十分満足です。そろそろ帰ろうかな。あの上部の穴から飛んで出たら、街に帰りやすいかも?

『——我が王に敬意を払いし小さき者よ。感心した。我が身を見ることを許そう』
「ふぇっ!?」

 急に話しかけられた。低くて厳かな感じの声。
 驚いて奥に退避しちゃったけど、一拍おいて言葉の意味を理解して、また広場近くに戻る。

 そこには、いつの間にか大きなドラゴンっぽいモンスターが現れてた。というか、これ、古竜エンシェントドラゴンなのでは?

 僕は高いところにいるはずなのに、ばっちりと目が合う。

 ……あなた、大きいね? 小さき者って言われたけど、あなたに比べたら大抵の生き物が小さいと思うよ。

『我は火を司る古竜エンシェントドラゴン。我が友がくれた名はイグニスだ。特別に、そなたもこの名で呼んでも良いぞ』
「て、丁寧なご挨拶、ありがとうございます……?」

 イグニスさん、見た目の厳つさと違って優しそう。ちょっと安心した。

『そなたは何を求めて、この地に来た? 願いを叶えることを求めたわけではあるまい』
「聖なる地っていう謎の解明をしたかったんだけど……願いを叶えるって何?」
『人間は昔、この地に来れば願いが叶うのだと言って、大挙してやって来た』

 なんかうんざりした感じの声。
 そんな話は聞いたことないんだけど、相当昔のことなのかな?

『——故に我はこの地に山を築き、人間が訪れられぬようにして、友の眠りを守っているのだ』
「おおっと……? もしや、サクノ山ができた理由って……」
『うむ。友のためだ』

 イグニスさんが重々しく頷く。
 そっかー。カミラが言ってた、サクノ山が火を噴くのは火の古竜エンシェントドラゴンによるもの、っていうのは正しかったのかも。

「火で山が作れるんだ?」
『地面を溶かして、底にあるマグマを汲み上げる。それを繰り返せば山となる』

 火山活動を火で促進させてたってことかな? ここは古墳があるから、火口じゃないんだろう。ちょっと安心。いきなり噴火したら怖いもん。

「そこのモンスターたちは、王様が使役してたの?」

 今は大人しくなっている埴輪人形ハニワーレムたちを指し示す。

『あれらは我が土に火を噴き生み出したモンスターだ。ゆえに、我の影響で、土属性のモンスターなれど、木属性に弱いという欠点がないであろう? 代わりに、水属性が苦手になってしまったようだが……』

 おっと……土属性って、本来は木属性が弱点なんだ? 気にしてなかったなー。
 水が苦手なのは、火の古竜エンシェントドラゴンに生み出された——火の眷属って感じになったからだったんだね。

「どうして、わざわざモンスターを生み出したの?」
『我が気軽に外を彷徨うろつけば、人間たちが恐慌をきたすだろう? 友が守りし者たちの末裔に、そのような混乱は極力齎したくない。だが、侵入者を退治する役目を担う者は必要だ』
「なるほど、斥候みたいなものかー」

 納得しました。イグニスさんは人間に煩わされるのは嫌だけど、人間を脅かしたいわけでもないんだね。友だちだった王様の思いを、今も大切にしてるんだ。

 モンスターとこんなに深い関係を築けるって、その王様、すごく良い人だったんだろうなぁ。

『うむ。この山の周囲でモンスターが暴れぬよう、監視もしておるぞ。強大なモンスターにより、この地が攻撃されることは避けたいがゆえにな』

 イグニスさんはサクノ山一帯の治安を守っていた……? あれ? でも——。

「第二の街近くに、強いモンスターが現れたのは、放ってるの?」

 第二の街開放のためのミッションになっているであろうモンスターのことを言ってみる。なんかイグニスさんが言ってることと、矛盾してる気がするんだよね。

『……なに?』

 不意にイグニスさんの声が怖い感じになった。地響きのような声っていうか……おどろおどろしい?

「ひぇっ、急にどうしたの?」
『ぬかった……。微睡みすぎて、報告を受け損ねていたぞ。そのモンスターとやらは、大陸と島を繋いでいるところにいるのか?』
「た、たぶん?」

 掲示板に出てた情報によると、第二の街に繋がる道は途中から高い岩山に挟まれていて、そこをモンスターが塞いでるっぽいんだよ。
 攻略組が一回戦ったみたいだけど、瞬殺されたって。こわっ。

『良き情報をくれた。褒美に、我が戦っているところを見せてやろう』
「へっ?」

 急展開。
 驚いている間に、なぜかイグニスさんの頭に乗せられてた。これは、もしかして——?

「——ふわぁああっ!?」

 すごい勢いで浮き上がって、上部の穴から外に出る。
 ……ここ、山の頂上付近だったみたいだね。まぁ、落ち着いて観察してられる余裕はないんだけど。

「ぎゃあああっ!」
『うるさい』
「これが、叫ばずに、いられるかぁあああっ!」

 イグニスさんが飛ぶ速度ハンパない。風のせいで、僕は吹っ飛んじゃいそう。必死に近くの突起を掴んでるけど、腕がぷるぷるしてるよぉ。
 僕、飛べるけど、この勢いで落ちたくない!

『……ふむ、あやつか。確かに土塊つちくれどもには敵わぬ相手だろうな』

 不意に風が穏やかになった。イグニスさんは進むのをやめて、滞空してる。

 おそるおそる下を見たら、岩山の谷間がモンスターらしきもので塞がれてた。

 あれが、街同士の交易を乱した元凶のモンスターかな? よく見えないなぁ。とりあえず、鑑定!

——————
岩犀ロックライノ
 土・木属性のモンスター。高い防御力と攻撃力を持ち、向かってくる敵に即死攻撃をする。主な攻撃は突進と岩落とし。得意属性【風・土】苦手属性【なし】
——————

 二属性モンスターは初めて見たなぁ。即死攻撃持ちとか、怖すぎる。攻略組が瞬殺された理由がわかったよ。
 というか、あれ、サイなの? 言われてみれば、そう見えるような?

 ……嘘です。ここからだと、ゴマ粒のようにしか見えません。

『あれならば、我の一吹きで問題なかろうな』
「そうなの?」
『うむ。だが、我の頭の上にいると、そなたは熱波で火傷する可能性がある。あの岩場で見ておれ』

 親切に、イグニスさんは僕を岩山に下ろしてくれた。切り立った崖の下に、岩犀ロックライノがいるのが見える。

 ここも高いけど、浮いてない地面の安心感がすごいです……。もうあんなジェットコースターみたいな感じで飛びたくない。

『では、やるぞ』

 その言葉が『るぞ』って言ってるように聞こえた。たぶん、あながち間違ってない。

 飛び上がったイグニスさんが、大きく口を開ける。
 ……うわー、周囲の空気が揺らいで見えるくらい、熱が集まってるみたい。

『——火の鉄槌を下す』

 真っ白に見えるほど高温な炎の滝が岩犀ロックライノに降り注いだ。

 熱い! 暑いじゃなくて、熱い! 直撃くらってないのに、十分熱い! 火傷はしてないみたいだけど。これ、絶対オーバーキルってやつでは?


「……ふぁっ!? 地面が真っ赤でドロドロ!」

 炎が消えた後は、崖下が地獄みたいな景色になってた。
 地面が溶けてるー。溶岩かなー。ふははー……。


 ——環境破壊、ハンパないですね!?


******

◯スキル変化
【全鑑定】レベル2
 隠蔽された一部情報も鑑定結果に示される。

◯NEWエリア
【古き王の古墳】
 かつてこの地を治めていた偉大なる王が眠っている古墳。王は古竜エンシェントドラゴンと契約を結び、多くの民を守っていたという伝承がある。

異世界の住人NPC
【イグニス】
 サクノ山を造り、住んでいる古竜エンシェントドラゴン。火を司り、絶大な攻撃力と防御力を持つ。敵に回せば、死あるのみ。
 普段は微睡みながら、古き友の眠りを守っている。

◯NEWモンスター
岩犀ロックライノ
 土・木属性のモンスター。高い防御力と攻撃力を持ち、向かってくる敵に即死攻撃をする。主な攻撃は突進と岩落とし。得意属性【風・土】苦手属性【なし】

******
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