上 下
8 / 282
はじまりの街

8.君も友だち!

しおりを挟む
 カミラに抗議したらちゃんと納得してもらえた。ということで、チュートリアルを本格的に開始。

 敵であるモンスターはシステム的に用意されてないらしく、自分で探さなきゃいけないみたい。索敵も含めて、バトル指南ってことだね。

「どこにいるかなー?」
「街の近くはスライムと跳兎ジャンプラビが多い。あっちの木があるエリアまで行くと、草原狼プレアリーウルフが出てくる」
「なるほど。じゃあ近場で探そ」

 周りをきょろきょろ。意外といないもんだね。もっとどんどん現れるもんだと思ってた。

「……スライムはすぐに出てくるはず」

 カミラがちょっと戸惑ってる。ここまでモンスターが現れないのは異例らしい。

 どうしてかな? スライムといえば、異世界との狭間でちょっぴり仲良くなったけど。もしかして、僕がモンスターに分類される種族だから、とかありえる?

「んー……この草、気になる」

 警戒しながら歩いてたら、足元にトゲトゲした葉っぱがあった。なんか密集してる。

「それ、薬草。街の近くは採り尽くされてることが多い。ラッキー」
「そうなんだ! じゃあ採集しとこう」

 もしかして、チュートリアルが独立した空間で行われてることと関係ある? プレイヤーが一人もいないから、冒険者ギルドと同じ感じでここも隔離されてるっぽいんだよね。

 ま、ラッキーだし、ありがたく採集しちゃお。
 これ、プチッと採っていいのかな?

「あ……スキルってこんな感じか……」

 薬草に触ったら、勝手に切れた。手の中にはわさっとした草の束。薬草とったどー!

 掲げてみたら、カミラに不思議そうに見られた。楽しんでるだけなのでスルーしてください。

 そそくさとアイテムボックスにしまう。薬草の束(普通品質)✕1って表記がいいね。枠いっぱいまで集めたい。

「普通品質。採集レベル2だと、この品質か……」
「アイテムの品質は最低・低・普通・高・最高まである。普通品質はGランク冒険者なら良い方」
「へぇ、解説ありがとう」

 つまり、ランドさんは最低品質を回避したくてスキルくれようとしたのか。下から三番目は十分でしょ。

 プチプチと薬草採集をしながらモンスターを探す。なんで出てこないんだろ?

〈採集を百回行いました。称号【採集ダイスキ】が贈られます〉

「あ、なんか来た」

 ステータスを確認。
 称号【採集ダイスキ】の効果は、採集した際にアイテムの品質が上がるってものらしい。いいね!

 というか、僕もう採集を百回もしてるの? アイテムボックスの一枠が埋まってない——と思ったら、二枠に分かれてた。低品質と普通品質で、枠が違うんだね。
 称号の効果があると高品質が採れるのかな。それとも普通品質の割合が増えるのか? 要検証だ。

「暇……」
「それはごめん」

 カミラが遠くをみつめてる。
 なんでモンスターが現れないんだろうね? 探してないだろって言われたら否定できないや。つい、薬草探しに熱中しちゃって。薬草がお金に見えるんだもん。

 いや、そろそろちゃんとチュートリアルこなしたい。集中して探そう。

「——ん?」

 気合いを入れ直したところで、背の高い草の陰になにかが見えた。ぷるぷるしてる物体。見覚えあるよ! でも、なんか色が違う?
 前に見たのは青だったけど、こいつは緑。草に紛れてるから、飛び出してこないと探しにくい。

「スライム発見!」
「やっとバトル」

 カミラがそう言うけど、これ、バトルになる雰囲気かな?

 スライムは僕を見て『やっほー』って感じで体を震わせてる。

 どうもどうも。もしかして、異世界との狭間で会ったスライムさんのお知り合いです? あ、違うの。会ったことはないんだ。——あれ、王様だったの!?

 衝撃的な事実を知ってしまった……。例として用意されただけだと思ってたあのスライム、王様だったらしい。
 スライム様って呼ぶべき? 僕、クッション代わりにお尻に敷いちゃったんだけど。

「なにしてる?」
「へっ、あ、スライムとお話を……」
「敵なのに?」
「敵なのかな?」

 カミラが目を丸くしてる。ここまで表情崩してるのは初めて見た。そりゃ、野生のスライムと仲良くしてたら驚くよね。

〈スライムから情報を得たことにより、称号【スライムキングを尻に敷く】が贈られます〉

 ふぁ!? なんかもらっても微妙な称号が来ちゃった……。尻に敷くって、なんでそんな称号用意してんだよ。

 ステータスを確認しまーす。
 なになに——称号の効果は【スライムとの親密度が上がりやすくなる】か。すでに仲良くなってた気がするけどね?

「スライムくん、お名前あるの?」

 ぷるぷる。ないってさ。なんで声もないのに理解できるんだろうね。僕もモンスターだからなんだろうな。

「じゃあ君のこと【スラリン】って呼ぶね!」

 スライムくん——スラリンがぴょんと跳ねた。喜んでくれて嬉しい。ネーミングセンスないとか否定されなくて良かった。
 カミラが「えっ……」と呟いてるのは、モンスターに名前を付ける行為に対してだと思いたい。

 ——シャラン!

「スラリンが光った!?」

 急に緑っぽい光を放ったスラリンにびっくり。光が消えても、特に変化はない気がするけど……。

〈野生のモンスターと友情を育みました。スライム【スラリン】からモンスターカードが贈られます〉

 モンスターカードってなんぞや?
 ヘルプ参照——これ、フレンドカードのモンスター版みたいだね。フレンド欄にモンスター用のタブができてる。登録されたモンスターはバトル時に召喚可能らしい。パーティーメンバー、ゲットした感じ?

 フレンド第三号はモンスターかぁ……。そろそろプレイヤーともフレンド登録したいよ。すごく脇道を突き進んでる気がする。

〈〈ワールドミッション『モンスターをテイム』が、プレイヤーにより達成されました。これより転職可能な職業に【テイマー】が追加されます〉〉

 えっ!? これワールドアナウンスってヤツ? プレイヤー全員に通知されてるんだよね?
 初めて聞いたよ……。これ、僕がきっかけになってるっぽい。

 モンスターとフレンド登録すると、テイム認定になるのか。バトルに召喚できるなら、テイマーっていうより召喚士っぽいけど。

〈このワールドで初めてモンスターをテイムした報酬に、スキル【テイム】【召喚】と、アイテム【モンスター空間(草原)】が贈られます〉

 アイテム?
 確認したら、アイテムボックスの中に、草原のジオラマ模型みたいなのがあった。

 説明文に【テイムしたモンスターを保有できる空間。草原の環境が設定されている。現在の保有可能モンスター数は五体。この空間で保有したモンスターは、召喚する際の詠唱時間が短くなる。保有期間中にモンスターの世話等は必要ない】って書いてある。

 ふへー。なるほど。
 それにしても、職業ってまだ変更できないんじゃない?

 ヘルプを確認したら、転職機能が解放されないと、テイマーになるのはやっぱり無理みたい。随分と先取りしてワールドミッションをクリアしちゃったのかも。

 テイマーじゃなくても、モンスターを召喚できるの? って思ったら、召喚スキルの説明にちゃんと書いてあった。

 テイマーじゃない場合、召喚スキルがレベル1だと、モンスターがバトルに参加できる時間が五分で、再召喚が可能になるまで一時間かかるんだって。
 テイマーは無制限みたいだから、随分と違うね。

 テイマーになると、街でもモンスターを連れ歩けるようになるみたい。テイマーが増えたら、僕も街で目立たなくなるかな?

「スラリン、モンスター空間に入る?」

 アイテムボックスから取り出したジオラマ(両手で抱えるサイズ)を見せたら、スラリンが嬉しそうに体を震わせた。
 そして白い光を放って消えていく。

「えっ……あ、ジオラマの中にちっちゃいスライムがいる!」

 芸が細かいことに、モンスター空間内で動いてるモンスターの姿を観察できるらしい。インテリアにも良さそうだね。

「……よくわからないけど、おめでとう?」
「ありがとう!」

 カミラが不可解そうにしてる。でも、お祝いしてくれるってことは、異世界の住人NPC的にもテイマーは受け入れられるってことだよな。

「バトルはできなかったけど」
「そうじゃん! 今回の目的は初バトルなのに……」

 忘れてた。
 またモンスター探さないと。でも、スラリンと仲良くなったから、スライム倒すのは気が引けるなー。
 ……いつになったらチュートリアル終わらせられるんだろう。


******

◯NEWアイテム
【薬草の束】レア度☆
 草原や森など、様々なフィールドで採集できる。回復薬の材料になる他、そのまま食べても体力を1だけ回復できる。

【モンスター空間(草原)】レア度☆☆☆
 テイムしたモンスターを保有できる空間。草原の環境が設定されている。現在の保有可能モンスター数は五体。この空間で保有したモンスターは、召喚する際の詠唱時間が短くなる。保有期間中にモンスターの世話等は必要ない

◯NEW称号
【採集ダイスキ】
 スキル【採集】を使って採集を百回行うと与えられる称号。採集した際にアイテムの品質が少し上がる。

【スライムキングを尻に敷く】
 異世界との狭間でスライムキングを踏んづけた者が、その真実を知ることで与えられる称号。スライムとの親密度が上がりやすくなる。王様を尻に敷いた君はスライムから尊敬されてるよ!

◯NEWフレンド
【スラリン】
 東の草原で出会ったスライム。緑色の体で、草に紛れることができる。

◯NEWスキル
【テイム】
 モンスターを一定の確率でテイムできる。自分のレベル以上の相手には効きにくい。テイムしたモンスターはフレンド欄モンスタータブに記載され、召喚可能になる。

【召喚】
 テイムしたモンスターを召喚できる。モンスターがいる場所との距離に従って、詠唱時間が変わる。召喚すると、パーティー枠を一つ使用する。レベル1では、一回のバトルに一体召喚できる。
 テイマーはモンスターの召喚可能時間に制限なし。モンスターが負けた場合は、一時間モンスターのステータスが半減する。
 テイマーでない場合は、召喚可能時間・再召喚可能になるまでの時間に制限がある。レベル1では、召喚可能時間五分、再召喚可能になるまで一時間。

◯NEWシステム
【テイマー】
 転職可能な職業。
 モンスターをテイムし、召喚する。バトルフィールド以外でも連れ歩くことが可能。
 テイムしたモンスターのスキル・ステータスを選択し育成することができる。

******
しおりを挟む
感想 1,121

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

【完結】聖女ディアの処刑

大盛★無料
ファンタジー
平民のディアは、聖女の力を持っていた。 枯れた草木を蘇らせ、結界を張って魔獣を防ぎ、人々の病や傷を癒し、教会で朝から晩まで働いていた。 「怪我をしても、鍛錬しなくても、きちんと作物を育てなくても大丈夫。あの平民の聖女がなんとかしてくれる」 聖女に助けてもらうのが当たり前になり、みんな感謝を忘れていく。「ありがとう」の一言さえもらえないのに、無垢で心優しいディアは奇跡を起こし続ける。 そんななか、イルミテラという公爵令嬢に、聖女の印が現れた。 ディアは偽物と糾弾され、国民の前で処刑されることになるのだが―― ※ざまあちょっぴり!←ちょっぴりじゃなくなってきました(;´・ω・) ※サクッとかる~くお楽しみくださいませ!(*´ω`*)←ちょっと重くなってきました(;´・ω・) ★追記 ※残酷なシーンがちょっぴりありますが、週刊少年ジャンプレベルなので特に年齢制限は設けておりません。 ※乳児が地面に落っこちる、運河の氾濫など災害の描写が数行あります。ご留意くださいませ。 ※ちょこちょこ書き直しています。セリフをカッコ良くしたり、状況を補足したりする程度なので、本筋には大きく影響なくお楽しみ頂けると思います。

どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな

こうやさい
ファンタジー
 わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。  これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。  義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。  とりあえずお兄さま頑張れ。  PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。  やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

死に戻り公爵令嬢が嫁ぎ先の辺境で思い残したこと

Yapa
ファンタジー
ルーネ・ゼファニヤは公爵家の三女だが体が弱く、貧乏くじを押し付けられるように元戦奴で英雄の新米辺境伯ムソン・ペリシテに嫁ぐことに。 寒い地域であることが弱い体にたたり早逝してしまうが、ルーネは初夜に死に戻る。 もしもやり直せるなら、ルーネはしたいことがあったのだった。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!

よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。

処理中です...