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女の子たちに癒されています
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レアルからの手紙を読んだクローネは、思わずバシッと手紙を机に叩きつけた。
「何なの、これは!」
謝罪かと思いきやゴリラを褒めたあげく、自分に似ていると言い、仲直りのデートにまでゴリラ見物を提案してくる。
普通なら、馬鹿にしているのかと激怒する案件なのだが――
「……レアルは、私よりゴリラの方が好きなのかも……? どうしよう。私よりジョバンニくんの方が好きって言われたら……!」
長年レアルと付き合ってきたせいで、クローネも実は思考がおかしくなっていた。
どう考えても婚約者よりゴリラが好きなどという人間はいないはずなのだが、あのレアルならそれもアリだと思ってしまったのだ。
レアルはクローネに対して、態度で好意を示してはいるものの、言葉で伝えることは少なかった。まあ、言葉選びで地雷を踏んでしまうので、レアル自身が言葉にするのを控えてしまったせいなのだが。
レアルに好かれていることは確信していても、それがどの程度のレベルなのかクローネには判断がつかなかった。
(“愛するクローネ”と書いてあるんだもの。婚約者への形式的なものだとしても、好かれてなければ書かないわよね。デートのお誘いもあるわけだし…。でもでも、ゴリラへの賛美が多すぎるわ。まさか、ゴリラが好きだからゴリラに似ている私と結婚しようとしているんじゃ……!)
どんどんおかしな思考になっていくクローネ。そんなわけないだろ、と冷静なツッコミを入れてくれる人間がいないせいで、彼女の脳内は少しずつバグっていってしまった。
こうして、クローネとレアルの間に絶妙なすれ違いが生まれてしまったのである。
* * *
「どうして私はまたこんな格好に……」
金髪のウィッグをかぶり、軍服に身を包んだクローネが疲れたようにつぶやく。
「とっても似合ってるわ、クローネ! ラスカル様にそっくり!!」
興奮してピョンピョン跳ねるルピアにクローネは訂正を入れた。
「ラスカル様はもっと背が高いはずよ! それに、もっと凛々しく華やかなお方だわ! 私なんかが恐れ多い……!」
ラスカル様とは、“メルセイユの百合”という超人気乙女小説に登場する男装の麗人キャラである。
そう。今日もまたクローネはルピアにコスプレをさせられていた。
先日、アルバートのコスプレをしたクローネのことを、ルピアは乙女小説同好会でしゃべってしまったらしい。
すると、ずるい自分たちも見たいと仲間たちから懇願されてしまったと言うのだ。
趣味を同じくする仲間の願いをきかないわけにはいかないと、ルピアはクローネに“お願い”してきた。うるうるの、上目遣いで。
そして、結果こうなっているわけである。
「何をおっしゃいますの、クローネ様! とても素敵ですわ!」
「そうです! ラスカル様の凛々しいお姿をしっかりと再現されていらっしゃいますわ!」
「もっと自信を持ってくださいませ!」
クローネを取り囲んでいる乙女小説同好会メンバーたちがそろって力説した。
「皆さまにご満足いただけたのなら、何よりですわ」
にこりとクローネが微笑むと、はうっと数人の乙女たちが胸をおさえた。
「は、破壊力が凄まじいですわ……!」
「イケない世界に踏み込んでしまいそう……」
「皆さま、気をしっかりと持つのです!」
可愛らしい女の子たちにチヤホヤされたクローネは、少しずつ気分が上向いてきた。
変装(といっても男装ばかりだが)するのは違う自分になったみたいで楽しいし、そんな自分にキャーキャー言ってもらえるのも素直に嬉しかった。
そしてまた、クローネのサービス精神がムクムクと湧き上がる。
「このわたしだけを…生涯、愛しぬくと誓うか?」
フッと流し目を送り、ラスカル様の名セリフをバシッと決める。
「「「「「ぎゃあああああああっ!!」」」」」
バタバタと倒れていく女の子たち。
クローネはまたしてもやってしまったのだった。
「何なの、これは!」
謝罪かと思いきやゴリラを褒めたあげく、自分に似ていると言い、仲直りのデートにまでゴリラ見物を提案してくる。
普通なら、馬鹿にしているのかと激怒する案件なのだが――
「……レアルは、私よりゴリラの方が好きなのかも……? どうしよう。私よりジョバンニくんの方が好きって言われたら……!」
長年レアルと付き合ってきたせいで、クローネも実は思考がおかしくなっていた。
どう考えても婚約者よりゴリラが好きなどという人間はいないはずなのだが、あのレアルならそれもアリだと思ってしまったのだ。
レアルはクローネに対して、態度で好意を示してはいるものの、言葉で伝えることは少なかった。まあ、言葉選びで地雷を踏んでしまうので、レアル自身が言葉にするのを控えてしまったせいなのだが。
レアルに好かれていることは確信していても、それがどの程度のレベルなのかクローネには判断がつかなかった。
(“愛するクローネ”と書いてあるんだもの。婚約者への形式的なものだとしても、好かれてなければ書かないわよね。デートのお誘いもあるわけだし…。でもでも、ゴリラへの賛美が多すぎるわ。まさか、ゴリラが好きだからゴリラに似ている私と結婚しようとしているんじゃ……!)
どんどんおかしな思考になっていくクローネ。そんなわけないだろ、と冷静なツッコミを入れてくれる人間がいないせいで、彼女の脳内は少しずつバグっていってしまった。
こうして、クローネとレアルの間に絶妙なすれ違いが生まれてしまったのである。
* * *
「どうして私はまたこんな格好に……」
金髪のウィッグをかぶり、軍服に身を包んだクローネが疲れたようにつぶやく。
「とっても似合ってるわ、クローネ! ラスカル様にそっくり!!」
興奮してピョンピョン跳ねるルピアにクローネは訂正を入れた。
「ラスカル様はもっと背が高いはずよ! それに、もっと凛々しく華やかなお方だわ! 私なんかが恐れ多い……!」
ラスカル様とは、“メルセイユの百合”という超人気乙女小説に登場する男装の麗人キャラである。
そう。今日もまたクローネはルピアにコスプレをさせられていた。
先日、アルバートのコスプレをしたクローネのことを、ルピアは乙女小説同好会でしゃべってしまったらしい。
すると、ずるい自分たちも見たいと仲間たちから懇願されてしまったと言うのだ。
趣味を同じくする仲間の願いをきかないわけにはいかないと、ルピアはクローネに“お願い”してきた。うるうるの、上目遣いで。
そして、結果こうなっているわけである。
「何をおっしゃいますの、クローネ様! とても素敵ですわ!」
「そうです! ラスカル様の凛々しいお姿をしっかりと再現されていらっしゃいますわ!」
「もっと自信を持ってくださいませ!」
クローネを取り囲んでいる乙女小説同好会メンバーたちがそろって力説した。
「皆さまにご満足いただけたのなら、何よりですわ」
にこりとクローネが微笑むと、はうっと数人の乙女たちが胸をおさえた。
「は、破壊力が凄まじいですわ……!」
「イケない世界に踏み込んでしまいそう……」
「皆さま、気をしっかりと持つのです!」
可愛らしい女の子たちにチヤホヤされたクローネは、少しずつ気分が上向いてきた。
変装(といっても男装ばかりだが)するのは違う自分になったみたいで楽しいし、そんな自分にキャーキャー言ってもらえるのも素直に嬉しかった。
そしてまた、クローネのサービス精神がムクムクと湧き上がる。
「このわたしだけを…生涯、愛しぬくと誓うか?」
フッと流し目を送り、ラスカル様の名セリフをバシッと決める。
「「「「「ぎゃあああああああっ!!」」」」」
バタバタと倒れていく女の子たち。
クローネはまたしてもやってしまったのだった。
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