上 下
37 / 38

37

しおりを挟む
夕日が海に沈もうとしている。
アルジェント様が予約してくれていたレストランのテラス席から、美しい景色を眺めた。
シーフードが自慢のレストランらしく、白身魚のソテーも、エビや貝をふんだんに使ったパスタも絶品だった。デザートのクレームブリュレもほっぺたが落ちるほど美味しかったので、今度ランチアを連れてこよう。

・・・と、私はどうにか平静を装っていたのだが、ロマンティックな雰囲気になったらなったで、だんだん落ち着かなくなってきた。
波の音やキャンドルの明かりが、良いムードを演出してくれてるんだけど・・・これから告白することを考えたらドキドキし過ぎて胸が苦しくなってきた。
アルジェント様も妙に口数が少なくなって、珍しく私たちの間に緊張感が走る。

「あ、あの、とっても美味しかったです。連れてきてくれてありがとうございます、アルジェント様」
「い、いや。君に喜んでもらえて良かったよ」

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

わあああ!無言の時間が居た堪れない!
アルジェント様もそう思ったのか、急に波打ち際を散歩しないかと誘ってきた。
ちょうどいい。このままここで告白するのは、ちょっと難しいかもと焦っていただけに、アルジェント様の提案はありがたかった。



すっかり日が落ちて、少しずつ星が瞬き始めている。
私とアルジェント様は砂浜をゆっくりと進む。私はアルジェント様から少しだけ距離をとると、こっそり腹式呼吸をして緊張を鎮めようと頑張っていた。さあ、告白、するぞ・・・告白・・・告白・・・!

「・・・リモーネ」
「ひゃいっ!?」

お、思わず声が裏返ってしまった!恥ずかしい・・・!
アルジェント様に目を向けると、彼のアイスブルーの瞳が熱を持っているのが分かった。
視線だけで身を焦がされそうなほど熱く見つめられ、私は立ちすくむ。

「リモーネ・・・!」

切なげに私を呼びながら、目の前まで来たアルジェント様は――

「すまないっ!!」

そう叫んで・・・・・土下座した。

はぁっ!?ちょ・・・どういうこと!?わ、私、これから告白するつもりだったんですけど!何の謝罪なの、これは!?

「リモーネ!!私は、君を愛している!!この世界の誰よりも!!」
「と、とにかく土下座は・・・ん?今何と?」

え、愛してるとか言った?愛・・・愛!?

「わ、私!?・・・私を愛してるんですかぁぁ!?ってゆーか、それでどうして土下座するんですかぁぁ!?」

意味が!意味が分からない!誰か助けて!
土下座で謝罪されながら愛を告げられるって、どういうことなの!?

「私は、君に嘘をついていた・・・!メーラ嬢のことを可憐だと思ったのは本当だが、付き合いたいなどとは思わなかったんだ。私は、自分が心変わりをしてしまったと勘違いして、君に婚約解消を申し込んでしまった・・・・」

アルジェント様の話を聞いて、ようやく私は納得した。私があれだけ頑張ってメーラさんとの仲を取り持とうとしたのにアルジェント様が消極的だったのは・・・彼自身がそんなことを望んでなかったからなんだ。

スコンっと私の胸から重しが抜けた。

「・・・アルジェント様は、メーラさんに恋をしていたわけでは無かったんですね?」
「彼女の笑顔に、一瞬見惚れてしまったんだ・・・。私はそれを恋だと勘違いしてしまったが・・・君にオルカとの交際を報告されて、間違っていたと気付いた。オルカに嫉妬したんだ・・・とても、激しく」

ふ、ふおぉ!そんなこと言われたら、嬉しくなっちゃうじゃないですか!
私はアルジェント様を立ち上がらせるために手を伸ばした。彼は少し躊躇したものの、私の手をとる。私はその手をギュッと強く握った。

「・・・あのね、アルジェント様。実は、私もアルジェント様のこと、愛しているんですよ」

あ。アルジェント様の口がぱかーんと開いた。ちょっと面白い。

「え?リ、リモーネは、いや、うん、オルカとの交際は偽装だって聞いたけどっ、ええっ??」

何だかものすごく混乱させてしまった。というか、オルカとリコルドめ。私に内緒で勝手に偽装をばらしたな。後でお説教しないと。

「この気持ちに気付いたの、アルジェント様に婚約解消されてからなんですよ?・・・こんな鈍感な私ですが、それでもいいですか?」
「私の方が君よりもよっぽど鈍い愚か者だよ。私が望むのは君だけだ。君こそ、こんなに鈍くて女心に疎い、ヘタレな私でいいのかい?」

う~む。相変わらず自己評価の低い王子様だ。・・・だけど。

「私は、ぜーんぶひっくるめて、アルジェント様が大好きですっ!」

思い切ってアルジェント様の胸に飛び込むと、リリリリ、リモーネ!?としばらく慌てふためいていたが、やがてしっかりと抱き締めてくれた。

二人の視線が重なる。

満天の星空の下、私たちは生まれて初めてのキスをした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚された勇者様が前世の推しに激似だったので今世も推し活が捗ります

蔵崎とら
恋愛
耐えて耐えて耐え抜いた先で待っていたのは、とんでもないご褒美でした。 国王夫妻の長女として生まれたのに、王家に稀に出現するらしい『先天性魔力欠乏症』という貧乏くじを引いてしまったセリーヌは、婚約者から疎まれるわ貴族たちから陰口を叩かれるわと散々な毎日を送っていた。 しかし王族とは世のため人のために生きるもの。無能の自分でもサンドバッグになることで人のためになることが出来るのだと耐え続けていた。 そんなセリーヌに転機をもたらしたのは、この世界を救ってくれた勇者様。 そしてなんとその勇者様は、前世の推しに激似だった。しかもそんな前世の推しに激似の勇者様と結婚!? 本人を目の前にこっそり推し活をしてみたり毎日が供給の日々に心臓が止まりそうになってみたり、とにかく耐える日々は終わりを告げた。 推しさえいれば何をされようと何を言われようとひとつも気にならない。だって推しに思いを馳せるだけで頭の中はいっぱいいっぱいなんだもん! そんな表面上はお淑やかな王女様が脳内薔薇色パラダイス状態でキャッキャしてるだけのただのラブコメです。頭を空っぽにしてからお楽しみください。 この作品は他サイトにも掲載しております。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

結婚式をやり直したい辺境伯

C t R
恋愛
若き辺境伯カークは新妻に言い放った。 「――お前を愛する事は無いぞ」 帝国北西の辺境地、通称「世界の果て」に隣国の貴族家から花嫁がやって来た。 誰からも期待されていなかった花嫁ラルカは、美貌と知性を兼ね備える活発で明るい女性だった。 予想を裏切るハイスペックな花嫁を得た事を辺境の人々は歓び、彼女を歓迎する。 ラルカを放置し続けていたカークもまた、彼女を知るようになる。 彼女への仕打ちを後悔したカークは、やり直しに努める――――のだが。 ※シリアスなラブコメ ■作品転載、盗作、明らかな設定の類似・盗用、オマージュ、全て禁止致します。

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

婚約者と親友に裏切られたので、大声で叫んでみました

鈴宮(すずみや)
恋愛
 公爵令嬢ポラリスはある日、婚約者である王太子シリウスと、親友スピカの浮気現場を目撃してしまう。信じていた二人からの裏切りにショックを受け、その場から逃げ出すポラリス。思いの丈を叫んでいると、その現場をクラスメイトで留学生のバベルに目撃されてしまった。  その後、開き直ったように、人前でイチャイチャするようになったシリウスとスピカ。当然、婚約は破棄されるものと思っていたポラリスだったが、シリウスが口にしたのはあまりにも身勝手な要求だった――――。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。 しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。 一体どういうことかと彼女は震える……

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...