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第五章 ヴェステ王国編

おまけ2 キミアとエレフセリエの行く道 2

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賢者の総意で動かせるはずの大地創造魔法エザフォスマギエンが起動された時、ことわり…無限意識下集合記録の持つ意志による裁定が働いている事をエレフセリエはキミアリエに告げた。

「自浄と言う名の制裁がもたらされているんじゃ…」

突然告げられた内容は、自然に導かれた抗いようのない力として、キミアリエの目の前に大きく立ち塞がるようだった。
だがエレフセリエは、切り抜けるための条件…可能性があることを語る。

「出来たら全ての塔が完全に大賢者と繋がる状態に…難しいとしても、なるべく各塔で力の均衡取れる状態…塔と塔で描き出す回路が巡り満たされる状態に導けるならば…世界の理に繋がり理不尽な力を止められるかもしれぬ…」

そうして、以前からエレフセリエに仄めかされていたことを実行する。キミアリエは、インゼルの白の塔に向かう事になる…大賢者の1人として塔と繋がるために…。

その前に理…無限意識下集合記録による世界の裁定についてエレフセリエが、知る限りの知識をいつものように口頭にて教えてくれた。

「全ての塔が繋がる大賢者で満たされるならば、大地創造魔法を止めることができる。それは世界の理に繋がることであり、無限意識下集合記録の領域に入ると大賢者は2つの願いを叶えられるそうなんじゃよ」

それはエレフセリエが危険を顧みず意識の深層に潜り得てきた情報だった。

「1つは大賢者の総意の下願う世界への願い。もう1つは大賢者の1人1人に与えられる願望叶える機会。
但しどちらも却下される可能性が有るらしいがな…」

人の意志を無視した勝手な仕組み。

「制限付き、ご褒美特典じゃな」

「ご褒美…と言うには危険が高そうですし、随分と人を甘く見た滑稽な仕組みですね…」

その時のキミアリエは身勝手なモノ達の遣り口に憤る。同じような思い抱えつつも、エレフセリエはにんまりと笑む。

「…だが、何もなく搾取されるよりはましかのぉ。それでも此処で私事を願うのは危険じゃ。不釣り合いな力による自分の願望の達成は、自身への危険を及ぼす」

そしてエレフセリエは真剣な口調でキミアリエに告げる。

「ワシらが得た力は、この地と人々から得た力。この世界が存続するために願いを使うべきなんじゃないかと思う…よ」

キミアは納得いかないながらも説得され、危険及ぼす願いは持たぬとエレフセリエに誓わされたのだ。
そして彼の領域に至った後、キミアリエは実際に世界の理を占める無限意識下集合記録に、大地への力の供給絶えぬこと…安寧を願った。
勿論ちゃんと叶う願い申し出る前に、キミアらしく約束などお構いなく色々と勝手な願いを申し出てみた。

「僕らを完全に自由にしてよ」

「無理だ」

「じゃあ、あの子を僕に頂戴」

「そう言ったことは、此処を通すべき願いではない。他者の意思を操ることは叶わぬ」

他者の意思を強制的に変化させるのは、無理な願いとして分類されるようだった。以外と出来ること出来ないことの境界がキッチリしているし、出来ないことが多い。

「世界を操る癖に、なーに綺麗事言ってるんだか」

キミアが毒づく。

「じゃあ、爺を長生きさせてよ」

「既に、その者は助言者コンシリアトゥール。生物としての域は越えている」

「何一つ願い事なんて叶わないじゃないか!」

却下され聞き入れられない要望にキミアリエは憤る。
キミアは其の領域に存在する人ならざるものが、哀れみ慈しむような瞳の色浮かべている様に思えた。

「…結局、爺の言う様な願いしか叶わないのか」

今にも泣き出しそうな表情で呟くキミアリエがそこに佇んでいた。
エレフセリエがキミアに制限をかけ、許さなかった個人的な願い。世界の理が導いた領域での契約…合意のもと世界に望む祈りのような願いと、自分自身のみが望む私的な願望。

「爺、奴らに何を願って叶えたんだ!」

叶えるためには対価を要するのは分かっていたこと。
その為、私的な願いも公式な願いに等しいものを望むようキミアに指導したエレフセリエ自身が、ごく身近な一人の為に願い望む。
エレフセリエは問い質すキミアに、悪びれず答える。

「大賢者になってしまった者を元へ戻す術はないようだから、普通にお前さんが大賢者としての人生を初めから歩めるように願ったんじゃよ」

「こっちの願いは叶えないくせに、そっちのは叶えるのかよ!」

あの領域のモノの取捨選択に納得いかないキミアは叫ぶ。だがエレフセリエは大人の余裕で答える。

「まだまだ、甘いのぉ。願う者の立ち位置の認識が間違っとるんじゃよ…現在の大賢者はお前さんなんじゃ…この塔との繋がりは持つがな…。既にワシは、賢者の石の中にいる非生物なんじゃからのぉ…フォッフォッフォッ」

全てを悟り朗らかに述べる。

「あぁ…その代わりワシが修練して手に入れた魔力操作技術は自分で取得しなおしとくれ! まぁ一度は経験している技術じゃし、記憶は内に全てある上に感覚も完全になくなってしまう訳でもない。少し努力すれば何とかなるじゃろ」

「それって一方的に僕が苦労するってことか?」

「そりゃしょうがないじゃろ…今持ってるお前さんの技術は、ワシのを活用しているに過ぎんのじゃからのぉ」

願いの代償は、全てを最初から遣り直す様な状態へ戻ること…大賢者を1から始めるような状態になると言うことだ。
大賢者とはいえ記憶や感覚があっても力振るうには、地道な技術や感覚の取得が必要となる。キミアはエレフセリエの身体が残ったままでの大賢者の継承であるため、魔力操作の全てを修練せずに得ていた。

「そう言う事じゃなくって…」

「分かっとるよ…お前も分かってるんじゃろ?」

「………」

エレフセリエに一言で諭されるキミアは、二の句が継げなかった。
沈黙することで若干冷静さを取り戻す。
海山羊マルカーペで海風を感じながら、エレフセリエが希望した通りの小旅行へキミアリエと共に赴く。

「海山羊に乗ったのは久々じゃ」

水の塔の祭壇前の地上出入口に準備された海山羊に、ご機嫌そうに飛び乗りはしゃぐエレフセリエ。
水飛沫あげる海の中に顔出す岩を足場に、海の上飛ぶように海山羊を駆使し進む。
子供姿のキミアが、妙に大人っぽい。大人なのだから大人っぽくて当然なのだが、まるで子供の心持つ者が背伸びしているようにエレフセリエに注意を促す。

「子供みたいに浮かれて、落ちるような愚鈍なことはしないで下さいね」

「バカにしちゃいかんぞ。ワシは王宮との伝令役の賢者も遣っていたのだからベテランじゃ! この道を20年は行き来したんじゃからな」

鼻高々に…かなり自慢げな感じで茶目っ気たっぷりに語るエレフセリエだが、透かさず突っ込みを入れるキミアリエ。

「いったい何年前の話なんだか…」

「この立場になる前じゃから、かれこれ400年ぐらい前じゃったかのぉ…まぁ、もう少し長いかもしれんがな…」

エレフセリエが大賢者になる前の話だから、当たり前と言えば当たり前なのだが…何故か鯖まで読んでいる。
思わず時の長さを聞いて、仰け反り吹き出すキミアリエ。

「ぶふっ!! それ古すぎ! …本当に大丈夫か?」

呆気に取られる程の年数が経過しているというのに、エレフセリエは動じない。

「一度身をもって覚えた事は、そうそう忘れないもんじゃよ。20年は遣ってたからなぁ」

「下っ端時代が長過ぎじゃない? 随分とうだつが上がらない生活が長かったんですねぇ」

穏やかな口調だが、わざと厭味ったらしく言うキミア。

「お前さんと違って真面目に修行した…と言っておくれ。それにワシは普通魔石から偶然に烏刺紐母魔石を内包しちゃったもんじゃからなぁ…」

キミアリエも初めて聞く話として、その特殊な魔石…水の塔が持つ賢者の石をエレフセリエが受け継いだ時の話を聞くことになった。
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