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第五章 ヴェステ王国編

34.動き守り抜く

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地上を破壊し作り変える大地創造魔法陣エザフォスマギエンは確かに解除された。

その魔法陣は環を描き回ることで、大地を少しずつ動かしていた。
既に魔力を溜め込んだ根本は歪み、捌け口を求める。
陣が解除された事で、力は捻じれた縄が元へ戻るように地表を魔力で振り回す。
そして、その衝撃で全てが波打つ。

天空からの攻撃を防いでいた場所にも、大地の奥底から届く魔力は容赦なく襲う。
…壊滅的になることは避けられたが、決して甘いものではなかった。

攻撃を受けていた王都や首都は既に大魔力持つ者の守護を受けていたため、避難場所で難を逃れる者が多かった。それ以外の都市は、避難勧告は出ていたものの守りなく相当損害を受けたようだった。
人的被害は少なかったが、都市としての機能を破壊された街が並ぶ。

「ちょっと手を貸したり、守ったりしてこの様かぁ。王だから守り抜く腹積もりがある…なんて、あの姫に大口叩いちゃったけど、そんなに甘くなかったな…」

苦笑いしつつ独り言ちるヴェステ国王シュトラ・バタル・ドンジェ。
内包魔石に亀裂が入った感覚があるようで、そのためなのか苦しそうに喘ぎ佇む。

赤の塔・紅の間より、魔物魔石による出来たての賢者の石と自身の内包する金剛魔石を使い赤の塔の塔付き大賢者の枠を埋め、大地創造魔法陣の停止に尽力した。
だが、塔付きの大賢者になった…と言う訳ではない。
貢献できたのは、内包した少し変わっている金剛魔石のせい。

その後に揺り戻しのように表出した大地創造魔法陣の名残の魔力も、自身の内包する金剛魔石を経由して大地に含まれる金剛魔石に分散吸収し力を弱める。

「途中までは上手くいったと思ってたんだけどな…」

魔力分散による揺れ軽減策により王都の被害は最小限に防がれ、大賢者が守る土地同様に守られていた。
だが、その力は体内魔石に影響及ぼし…最強硬度を持つ金剛魔石にヒビが入る。

『アイツは、特殊な…と形容が付く金剛魔石だと言ってたけど割れるんだな…』

自分事だが、明らかになった結果に純粋な感嘆の思いが湧く。


シュトラがまだ国王ではなく皇太子でしかなかった頃、他の子供達と同じく4歳で石授けの儀を受けた。

その頃に居た、変わり者の筆頭隠者が皇太子であるシュトラの儀式を執り行った。
魔石狂いの隠者…と呼ばれる、研究所にばかりいるような奴だったが知識と実力を伴う者だった。
儀式用に様々に用意された魔石の中には、蒼玉魔石や紅玉魔石、黄玉魔石なども含まれていた。
そして、かつて1度たりとも内包者出したことのない金剛魔石も含まれる。
儀式用に準備された魔石の説明をされたが、その変わり者の筆頭隠者が語る金剛魔石の話は聞いたことがなかった。

「金剛魔石はどれもそうですが、人が体験できない悠久の年と月を大地と語らい生まれ出る魔石なのです。特に今回用意したこの魔石は、含まれる魔力もそうですが魔石の中に大地の記憶を内包しています。人の手の入らぬ賢者の石…と言った所なのです。この魔石を内包出来れば大地と繋がり、伝説の大隠者の様に其の記憶を継承出来ると言われています」

シュトラは幼いながらもしっかりと聞き入り理解し…ワクワクした。
そんな半分眉唾な話をお伽噺としてではなく、研究成果として小さな子供に語るソイツは本当に変わり者だった。
その石授けの儀で、変わり者隠者の導きで特別な金剛魔石の内包者インクルージョンとなった。


シュトラは、様々な真理や理…と言われるような事について書いてある資料を手に入れ研究していた。大地創造魔法陣の停止に協力はしたが、それらに接触した者達は選択を迫られる…と書いてある文献も目にしていたので用心する。
大地創造魔法陣は世界の理の領域にあるもの、それは警戒すべきモノ。繋がった者達に一切素性を告げず、スルリと抜け出し戻る。

大賢者達は、シュトラの予想通り選択を迫られることになったようだ。但し、その選択は大賢者に限らず、接触してしまった者全てに漏れなく付いてくる権利…義務だった。

『選択なんかしたら責任と結界が押し寄せてくるだけ…選びたくもない余計なものを選ぶなんて真っ平御免』

度重なる負荷で傷ついた内包魔石からと思われる不快感が、間断なく襲ってくる。それでも逃れ抜け出してきた事に、少しだけ "シテヤッタリ" っと言う気分だった。
その時、空間に負荷がかかる感覚…圧力を感じる。

「そうか…貴方は賢者の石に等しき金剛魔石を内包する者なのですよね…。魔石自身の…大地の記憶が巡る者?」

そこにはグレイシャムの姿をしたモノが居た。

「明確な記憶ではないし、通常の人間同様に器は朽ちていく様な取るに足らない存在だけどね」

予想外の人物の予想外の登場なのに、シュトラは落ち着いて答える。

「もっと明確な勝ちを狙いたかったけど、そう上手くいかないね…」

そして気持ちを呟いた。
負荷がかかり傷を負った内包魔石は、体に受けた傷同様に生命を蝕み根幹にヒビを入れる。

「あなたの権利として、選べる手段が幾つかあります」

いきなり本題を告げられる。

『選択の時は遠慮して抜けてきたのに、ここで問われるはめになるとは…』

シュトラは聞きたくもない選択肢を確認する羽目になる。

「1つ目はこのまま果てる選択」

選ばず放置すれば一番高い確率で起こることである。一番無難で気楽な選択だとシュトラは感じた。

「2つ目は内包魔石である金剛魔石を、賢者の石に吸収させてしまう選択。これは大賢者として残れるか、逆に体ごと吸収されてしまうか…賭けです」

『此のなりたての賢者の石である魔物魔石に入ってる者の性格を考えると、こちらが吸収されて終わってしまいそうだ』

シュトラは苦笑いをしながら、2つめの提案を聞き流した。

「そして3つ目は、もし貴方が望むならば…こちら側にいらっしゃい。彼方の扉をも越えられる、永遠に探索するモノにしてあげますよ…」

とてつもなく魅惑的なお誘いをシュトラは受けた。

「欠けた魔石に魂分けし、自由を得ますか? これは、大半の内包魔石をいずれ賢者の石に取り込ませる事になりますが、一部は自由を得て扉を越える事ができるようになるでしょう」

そして禍々しい条件を出される。

「ただし器は此方で預かり、賢者の石へ不要になったら体ごと内包魔石を取り込ませます」

古今東西、肉体の提供を要求する奴にろくなものは居ない。

「内包魔石と共に一部心が分断されるので、永遠に魂欠けた者として過ごさねばならないでしょう。欠けた心を再び取り戻す可能性は少ないです」

「それでも、最後の選択肢が一番自分の夢に近く最善…と思えてしまったから願い選択するよ」

自身が望むような魅力的な選択肢を提示され、二つ返事に近い回答をしてしまった。
それでも残すものへの配慮として希望を出す。

「グレイ…我はこっち側の人間だし、一応ヴェステの国王もやってるから世界や国の存続を望むんだ…器を引き渡す事に異議はないが安寧を願う」

「我々も、閉じられる世界を観察するための拠点を手に入れる事が目的。世界が続く限り、安寧と程よい発展を貴方に代わりお約束しましょう」

「あぁ、ついでに此の者の活躍も約束通りサンティに伝えてやってくれ」

「了解しました」

そしてグレイシャムの姿をした者が、シュトラの近くにきて額に手を置く。
其処から聞いたことも見たこともない言葉が伝わる。

「では解放の呪を…」

我願う解放オプターレ・アナ・キアダーレ

ためらう事なく、伝わってきた切っ掛けとなる言葉を言い放つ。
その瞬間、欠片となって剥がれ落ちた金剛魔石にシュトラは入り込み一つの存在となる。

「貴方を縛る軛は消えました。どの世界でも未来永劫貴方は探索を続け、理を求められるでしょう。我々と存在する領域…次元は同じすが、貴方は我々と繋がるわけではないので自由です。次にお会いすることがあるならば、また一つ願いを叶えてあげましょう」

『何故願いを叶えてくれる?』

「楽しませてくれるから…とでも申しましょうか。貴方にもいずれ分るでしょう」

グレイシャムの中の者は艶麗に微笑み、シュトラを送り出す。

「次に我われが貴方とお会いできる可能性があるのは、賢者の塔です…忘れないでくださいね。我々を楽しませてください」

実体無きシュトラは探索するための自由を手に入れ、嬉々として縛りを抜け心のまま進む。
グレイシャムの中の者は器を受け取り、自身で入り込むと一部賢者の石に金剛魔石を吸収させ繋ぐ。
硝子目玉になっていない影響力ある体を手に入れた。

「世界が存続するなら役に立つでしょう…良い旅をボン・ボヤージュ

お互いに幸多からんことを願うのだった。



「地下に、こんな場所があるなんて知らなかった!」

仄かに青く輝く薄暗い空間をフレイリアルは見回す。

「此処は地下の機構を確認するときにしか降りてくることはないからね」

フレイリアルの感嘆の言葉に、リーシェライルが答えた。

エリミアの賢者の塔地下、転移陣で降りてきた場所は真円で出来ている円環描く踊り場のような広間が広がっている。薄暗いその場所は空間魔力に満ちていて、歩くたびに転移陣が起動するような光を足元に生み出し行く道を照らす。
手を繋ぎ、共に進んでいたリーシェライルが告げる。

「一緒に行けるのは此処までだよ…僕も行くべき場所へ進むから」

「うん、リーシェも頑張ってね。終わったら青の間へ行くね」

「フレイも頑張って。青の間で待っているよ…」

お互い叶うか分らぬ約束…とは思いつつも願う。
中央まで一緒に歩いて行き其処からは其々の道…果たすべき役目待つ道へ進む。
広間の中央に立つと2人とも沢山ある扉の中から、自ずと進むべき扉を認識出来るようになる。
自身の内側が扉を選び出す。
リーシェライルが進んだ方向と反対…来た方へ戻るような形でフレイリアルは歩く。

ひときわ空間魔力が集中するその場所へ向かい、扉に描かれる魔法陣に手を触れる。
それは開くのではなく、接触すると潜り抜けられる入り口だった。目で見える扉は存在するのに潜り抜けられる。全てがまやかしなのかと思い、他の部分を触ると扉が存在する。
多分、魔法陣の部分から許可した者だけを通り抜けさせる陣なのだろう。
中に入ると、明らかにその場所に収まる空間以上の空間が中に存在していた。

『空間が拡張されている?』

「君の力と同じで、他から切り取って此処に入れてるだけだよ」

そこに何かが存在している事を初めて認識した。
驚き、目を凝らし良く確認すると人が浮かぶ。

「目の前で存在を感じるのは初めましてだよね。素敵な姿をありがとう」

『??? 初めましては分かるけど、素敵な姿って?』

理解の範疇を超える言葉に心の中に疑問しか浮かばないフレイリアル。

「僕は実態ある存在ではないので、相手が持つイメージ…印象が姿になるんだよ」

その思いに的確に返事が返る。

『そうなんだ…って、私喋ってないよ! ここって白の塔みたいなの??』

白の塔と同じ、思いをつまびらかにする魔力と同じかと思いフレイリアルは問う。

「近い感じかな…ただ、此処の場合は場所自体が特殊だからね。実態と虚像が入り混じる空間なんだ」

どんどん解らない感じになるので、別の質問に移る。

「時の巫女リオラリオ様が既にいらっしゃるって聞いたんだけど…」

空間の特性に納得し、思ったことをそのまま口に出す。
比較的普段と同じであり、白の塔でもあまり違和感なく過ごせていたフレイリアルは切り替えるだけで通常対応できた。
考えなし故の特技…とも言える。

「来ているよ。だけど、此処は空間だけが存在する場所だからね…先に進んで、時空が重なる部分で会えるよ」

「時空重なる??」

色々聞けば聞くほど理解できないし、このモノの存在自体も理解できない。

「これから案内するから、それまでの間に叶えたい願いを考えてみて」

「私の願いは今も昔も、ちゃんとした天空の天輝石をリーシェの為に手に入れて、大賢者から解放することだよ」

理解できない状況や人物に戸惑うばかりだが、この問いには即答するフレイリアル。
フレイリアルの印象で出来上がったその者の表情が苦笑浮かべる。

「本当に自由な子だね…。天空の天輝石を満たさなくても、下の階層で大賢者達の総意を得られればそれは叶うよ。最も、そうすると彼に残された時間は少ないけどね…」

「どういう事?」

「塔と接続している大賢者と、接続してない大賢者の寿命の差だよ…。彼は自身として過ごした年数は少なくても、統合人格がずっと器を動かし続けていたからね…もう単独で生きる時間を超えているんだ。塔との繋がりが切れてしまえばそこから数日ともたないはずだよ」

「それじゃ、意味がないよ」

「では彼に通常の大賢者の寿命を与える…というのが願いで良いのかな?」

「その願いを叶えてください」

フレイリアルは力強く願った。

「でも、本当にそれで良いの?」

「何故?」

「だって君自身の命も、その魔力結晶が壊れるまでだよ…多分2~3日。ほぼ彼と一緒の状態だよ。彼は塔に再度繋がれば普通に時を送れるんだよ」

少し意地悪そうな顔をしてその者はフレイリアルに現在の自身の状況を突き付ける。

「リーシェを…あの場所から連れ出したくて天空の天輝石を手に入れようとしたのに、何でもう一度閉じ込めるようなことをしなくちゃいけないの!!」

フレイリアルは、したり顔して意見するその者に苛立ちを覚え叫んでいた。

「それでも…わたしは…自由に行動出来る翼をリーシェにあげたい…」

それが、揺らがないフレイリアルの思いだった。

「了解した」

そして願いは聞き届けられる。

「では次の選択は、時と空操る君達2人で、世界を超えた存在について今後の行く末を考えてみると良い…進むべきか止めるべきか。我々は、調査した結果以上に訪れた者達の判断を優先するからね…」

そう言ってフレイリアルに手を差し出し、手を取るとその場から一気に移動する。

「では、制御された時と空間へ赴きましょう」
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