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第五章 ヴェステ王国編

19.動き出す前

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プラーデラ国王シシアトクス・バタル・クラースはひたすらその協力な魔力襲い来る状況から逃げた。
その今までに見たこと無いような攻撃を見届ける事で少しだけ正気に戻れた。

『あぁ、私はたとえ王であったとしても普通の人間なんだ…』

心の中で自分自身へと呟く。
それを悟ることで、1つ目の縛りからは少しだけ解き放たれた。

塔の遺跡へ遠打ちの第二砲撃を打った後、次の止めの一撃の後は殲滅戦になると思っていた。それなのに肝心の第三砲撃が防御結界に阻まれたのが分かった。防御結界が立ち上がり、見覚えのある黄緑の輝きが広がる。

『あの、忸怩たる思い噛み締めた一戦…対峙したかった者との邂逅…』

感慨に浸り歓喜する自分を感じる。
同じようにヴェステとの戦いを覚えていた者達は、一度退避することを進言した。

「王よ、ここは一旦城への退却を」

あの時も最終的には同じように声を掛けられた。

魔石豊富に得られる鉱床を内包する、少しヴェステに入り込んだ砂漠地帯。
そこを得るためにプラーデラから仕掛けた戦いであった。

ヴェステの魔力砲に十分に対抗し得るような攻撃力持つ移動型の遠打ちをしっかり配備し、地理的にも考察を重ね9割方取れると計算しての出陣だった。
負ける1割の要因は、隠者部隊か4将軍のうち誰かが部隊でやってくる事だった。
時期や状況加味し、その可能性少ないと踏んでの出兵であり読みは当たっていた。
それなのに敗色濃くなり退いた戦だった。

後々の分析の結果、負けた要因は1名の影の派遣によるものだった。
強固な黄緑の結界は集団で施されたものだと思ったら、1名の影が作り上げたのだと後から聞く。
必要最小限だが、どのような攻撃にも持ちこたえる強度の結界。策を弄することも無く純粋に結界の強さのみで勝負するような力強き結界が築かれ、その地を奪い取ることを阻まれた。

『あの時の雪辱戦…』

その切なる思い消し難かった…だが王含む指令部隊を後方に移して今後の進退を決断しようとした時、塔からの攻撃が始まった。

プラーデラの遠打ちの攻撃から逃れ生き残ったヴェステ軍は塔の周りに再集結し、自軍による抗戦だと勇み沸き立っていた。だがその者達は、塔が何者かに占拠されてしまったことに気付き慌て、守っていた塔に攻撃を仕掛け始める。
プラーデラへの攻撃も継続していたため、攻撃力を二分するという愚を犯す。

最初の遠打ちへの攻撃受けてから四半時後に広がる光景は、塔以外のモノは全て分け隔てなく殲滅を受ける…と言う状況だった。
そして、王は潔く敗走する事を選んだ。

『引く決断のできぬ、頭の無き者にはなりたくない』

塔を占める者は超越者のような存在である。その者が率いる猛者達に無茶な戦いを挑む愚かしさを、蛮勇と持て囃す気持ちは毛頭ない。自分との能力差を実感し、立つ舞台が違うことも良く理解する。
それにより諦めに似た解き放たれたる思いが生まれた。

それでもまだ縛られ続けている思いがあり、自由になるには程遠かった。
あの時は同じように戦い対等以上の戦力で対峙していたはずなのに、なぜかけ離れた結果となったのであろう。考え突き詰めると止まらなくなる。
そして、その違いに煽られるように王自身の欲が昂る。

『あの塔の本来の所有権はプラーデラ、ならば取り返して何が悪い』

引きはするが、諦めるつもりは更々無かった。



ヴェステ王国軍第一師団…通称白の軍、その頂上で王に仕える白の将軍は、王宮を訪れたある者に対し不快感と共に危機感を覚えていた。

国王を警護する体制は、通常は4将軍の管轄する各師団にて分担している。
白の将軍は基本的には王宮内での王の警護に当たり、王の不在時は王宮そのものの警固を行っている。

王は彼の者によって活性化されたと報告受けた、ヴェステの賢者の塔である赤の塔と言われたモノへ赴いている。
賢者の塔に関わる事であり、魔石研究所所長でもある第二王女サンティエルゼも伴っているため、本日は青の将軍が王の警護を担う。

先日、彼の者…ニュールは、白の将軍警護する王宮へ無断で入り込み、直接王へと面会し報告したそうだ。

『この前の来訪より、度重なる王への数々の暴言と暴挙…許しがたい事この上ない。しかも先日は我が白の軍が王宮を警固し、王の寛ぎの時を距離保ち守る中、羽虫の如く入り込み許可なく王の直近に現れ謁見したと言う…身分わきまえぬ愚かしき傲慢さ』

思い出しギリギリと歯噛みする白の将軍。怒りのあまり実際の行動となって表れてしまっていた。
何とか怒りによる罵詈雑言吐き出す事だけは我慢したが、自身の軍の不甲斐なさと、勝手極まりないニュールの行動に怒り心頭に発する。
しかも内部に亀裂起こさせるような裏切りとも言える、赤の将軍の離脱と隠者Ⅸなる者の離脱。
そもそも、その嵐のような出来事引き起こした筆頭とも呼べる不逞の輩も、ヴェステの影をやっていた者であり元《三》だ。

「あの者ども、どうすべきと思う…」

集めた精鋭の中でも知略を得意とする白の将軍側近とも言える者に声を掛ける。

「身内にできぬのなら排除、かなわぬのなら弱点を探す、持たぬのなら弱点作り出す。何一つ叶わぬのなら恭順…と言う所か…近付かぬと言うのが最良だと思うがな」

忌憚なき意見が述べられる。もう一人、将軍の下に控えていた者が言葉を足す。

「裏切りし赤の者と隠者の上位者…彼の者の周囲に居るは我らと同等…若しくは其れ以上かと…」

「……」

暫しの沈黙と熟考の後、白の将軍が指示を出す。

「取り敢えず、過去に接点あるモノを選び出せ。最良は筆頭となる者の守護の契約持つ者だが、他の利用価値あり王の獲物になっている故、そこは手出しは無用」

そして白の将軍が動き出す。



ニュール達は、プラーデラの塔の状態を調べる。塔の地下には、結界陣が施された部屋が存在した。
主な部屋は13…有る様だった。
部屋の陣を解除しても、更に結界陣を書物自体に施したようなものまで多数存在する。物理的に完全に破壊されているような陣がある部屋や、蔵書納められた資料室のような場所も存在する。

遺跡…と言われてた割に、閲覧するに耐えうる資料と呼べるようなモノが多く存在し、プラーデラが塔を所有している時代から意外と大切に扱われてきたことが読み取れる。
もっとも陣施され、開けられない…と言った物が多く存在したからこそ保存状態が良かったとも言える。
取り合えず片っ端からニュールが陣を無効化し解除していく。

「ニュール、こっちにも陣が施されてる扉があるぞ」

「あぁ、此処のが終わったら行く」

ミーティの声掛けに答えるニュール。暫くして近づいてきたニュールが言う。

「お前も少しは手伝え…」

「いやっ、オレ陣探し手伝ってるよ?」

ミーティは何故手伝ってるのに注意されているのか不満だった。ニュールの周りに密着しているだけのピオの方が余程手伝ってないように見えた。

「簡単な奴はお前も出来るはずだ」

「???」

「お前よりも回路の繋がり少ないピオでさえ、多少は出来るようになっているぞ…」

「へっ??」

言っていることが最初理解出来なかったが、ピオはニュールの周りをうろつきながら陣を解除する技術を学び、感覚を磨き挑戦していたようだ。

『どう見ても無理だと思うぞ…』

あまりにも予想外の事をニュールが言うので、ミーティは間抜けた返事しか返せなかった。心の中では無謀とも思える挑戦への誘いを色々と否定してしまう。

『あの、恐ろしい魔力量を巧みに扱うピオよりも強い繋がりって?…無いだろ』

以前のニュールならハッキリ理由を告げ、ミーティの為になる挑戦への後押しをしたであろう。

「…まぁ、いい。自覚無い…求めぬ者の資質ほど無駄なモノはない、自覚無いのならそれで良い」

今のニュールは合理的に切り捨てる。
だが、その会話を耳にしたピオは納得いかなかった。宝の持ち腐れのようなミーティの態度に厳しい視線を送る。
表面に表れない感情の奥底で、ミーティに対する嫉妬という名の殺意が高まる。

数日はこの発掘作業ともいえる、塔の状況確認を行うことになりそうだった。
細々と手を出してくるプラーデラ軍は遊び冷やかしているかの如き雰囲気で、表に出て対する頃には消えている。
そして、その攻撃にならない様な攻撃をひたすら繰り返していた。

「何か昔…ガキの頃、皆で近所の家の扉を叩いて出てくる頃を見計らって居なくなる…それを繰り返して家主を困らせる遊びをした事があるけど、それと一緒だなぁ」

プラーデラの小さな嫌がらせ的毎日の攻撃を受けていて、思わずのほほんと呟くミーティ。

「ミーティ…貴方、行儀の悪い嫌な子供だったんですね…」

ピオのシラッとした表情で返す言葉に吃驚して尋ねる。

「…えっ、それぐらいの悪戯普通だろ? ニュールだってあるよな?」

「ない」

一刀両断するような、ニュールからの一言だけの回答。

「…それだけ貴方が自覚なく幸せを…全ての恵みを享受してきた…と言うことなのでしょうね」

ピオの冷笑と、呟く言葉に冷やりとした空気が漂う。

「私は私の境遇を私なりに楽しんできましたが、そう言った方ばかりではありませんのでお気をつけなさい」

そして付け足す。

「寝首を掻かれないためにも強くなりなさい…。目に余る程の愚物ならば僕が貴方を排除しますよ…」

残忍な光宿す瞳で涼しい笑み作り、嘘のない心からの言葉が紡ぎ出されるのであった。
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