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第五章 ヴェステ王国編
14.動く途中
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強固な結界張らせ厳重な警備を置くリーシェライルを捉えた部屋へと、王妃に協力を申し出たグレイシャムが遣って来る。
王妃は当然のように喜び分かち合うものとしてグレイシャムへ向かい話しかける。
「やっとこの日が来ました」
そう微笑む王妃にグレイシャムも感慨深いと言った風情の笑みを浮かべ答える。
「えぇ、やっとこの日を迎えました」
そして無言で恭しく畏まり跪き…リーシェライルへ向かう。
「!!!」
そのグレイシャムの行動に王妃が驚愕し、絶句した後すぐさま問い質す。
「何故なの? この者を排しエリミアの安寧を得るのでは無かったの?」
グレイシャムは事も無げに述べる
「一度国外に出す…とは申しましたが、此処で捉えたり排す行動取る等とは一言も言っておりません。真に導く方を迎えるとは言いましたけどね…」
そして更に楽しげに伝える。
「貴女の協力により、その方が早々に戻ってきて下さいました…余計なモノを排したリーシェライル様です。この方こそ真に進むべき道をとれる方です 」
それに答える様に美しく微笑み、艶然とそこにあるリーシェライル。そして王妃を慈悲の目で見やり声を掛ける。
「騙されてる事にも気づかず突っ走り、自身で踏み外す様は潔く滑稽で笑えました…」
更に追討ちをかける様に、今度はグレイシャムが言葉を加える。
「他国に似た技術あるにも関わらず、この地の技術情報が頑なに秘匿されてきた訳を考え…疑問に思う事もなく、予言などと言う戯言に踊らされている愚か者。滅びを導く様な馬鹿げた行為であると気づきもしない王妃など、国にとっての害悪そのものでしょう…」
呆然とする王妃は未だ自身の状況を理解できない。
「王国の滅び…が存在するとするならば、浅薄な貴女自身が引き入れた結果です。折角用意して頂いた贈り物ですが、この特別な部屋はあなた自身が使うに相応しい…結界をもう1つ加えておきますので、それも含めて献上致します」
振り返らずに結界追加し立ち去るリーシェライルと、それに付き従うグレイシャム。王妃は結界付きの部屋に1人取り残された。
賢者の塔へ戻る道すがら、グレイシャムはリーシェライルに尋ねる。
「王妃の処遇は?」
「とりあえず、臥せっていると言うことで軟禁だけど、フレイが近々戻ってくると思うから決めてもらおうかな…」
「了解しました。それまでは保留させて頂きます」
「どういう決断を下すのか楽しみだな…」
その状況を愉し気に思い巡らせ、暗い喜びに浸り美しい笑みを更に研ぎ澄ませるのであった。
フレイリアルとタリクはあと半日ほどでドリズルの町…という所で一度休憩することにした。
そしてフレイは感覚が掴めてきた空間の置換による転位を、アルバシェルが過ごしていた家へと荷物を送ると言う事で試してみた。
「何故、いきなり実行しようと思うのですか?」
いきなり遣ってみた結果、のっけからお説教を食らうことになった。
「頑張らないといけないなぁ~何か役に立ちたいなぁ~って思って…」
全く悪気なく人に頭痛の種をもたらすフレイに頭を抱えるタリク。
ニュールがフレイリアルと共に過ごし通り抜けてきた道々の心中を察する。
試そうとしたのは陣無き転移…転移と言うか空間の切り取り…転位…と言う感じの位置の移し替えの様なモノだった。
通常の転移は一度バラバラにして目的地に送り届け再度組み立てるような仕組み…フレイリアルの今回出来るようになったモノは、空間まるごと切り取って違う場所に入れて目的地に移動する転位…と言う様なモノらしい。
「大丈夫! 決して存在をバラバラにしたりはしないので、分断されてしまう様な失敗は無いと思う」
強気で自信満々に述べるその曖昧な内容が、フレイリアルの主張の根拠だった。
正しく根拠なき自信。
狭い場所に移動して存在そのモノが潰れたりすることは有るかもしれないがそれは普通の転移と同じ。特段騒ぎ立てる事でもないとフレイリアルは思っていた。
だが新たな力は未知で無限の可能性を持っていた。
フレイリアルの結界が強固なのも、一部空間に働きかけ他空間と重ねていたため攻撃が無効となったからだと思われる。
この力あれば他の世界に行ったり、他の世界を作り上げる事も出来るような気がした。
世界を組み換える力…作り出す力…またしても人の手に余るのではないかと思う力がそこに現れた。
「それでも何が起こるか分からない力なのは一緒です。その力を使いこなす事は大切な事ですが、未知の領域の力で有ることも忘れないで下さい」
『…自分自身も人も巻き込まぬように』
最後の部分をタリクは伝えられなかった。自身の存在が異質で有ることを刻み込まれているフレイリアルにとって、その指摘は酷な事であろう。そして十分に身に染みた事であると推測出来たからだった。
『私は繋がりが出来上がってしまった此の者を、もう排除出来ないかもしれない…ならば、アルバシェル様の為にならぬと判断したのなら…』
答えは自然と思いつく。
『引き離し、自身の手で連れ去り…共に?』
自分で考えついた結論にタリクは衝撃を受ける。
もしも…の場合の苦しい決断を思い描いたはずなのに、それが甘美なモノに思えてしまう自分自身の思い。それが繋がりに毒されつつ有るせいなのを自覚し、警戒するのだった。
ドリズルの街にもヴェステと専属契約する草…という、生活に紛れ込む情報集める専門の者たちが存在する。
町はずれの簡素な家に…情報収集指定箇所に動きがあるのを掴んでいた。
タリクが家を管理させていた人形の行動を、人を迎えるための行動に変化させていたので一目瞭然だったのだ。
『近日中に、戻るだろう…新たな報告を出さねば』
その場を後にしようと家に背を向けた瞬間、背後でズドドンッといきなり大きな音がした。
驚き振り返ると、屋敷の結界内に旅で使われていた様な荷物が現れた。
「結界内に転移? 家主は王宮にいると聞いていたが…」
思わず声に出して呟いていた。
結界施された場所への転移は、結界を作り出した者以外が行えば不安定な転移となりまともに辿り着かないはず…だが荷物は普通の状態で届いている。
「王宮から送られたとも思えぬ荷物…まぁ、考えるのはあたしの仕事じゃあないから良いのだけどね…報告だけはキッチリ上げるさ。…大分近くまで来ているようだし、探して標的自身の情報も集めておくかな…」
そうして家の周囲から人影が一つ消える。
だが、その場所を探るものは其れだけでは無かった。
「情報によると多分、此処に現れるはずだ…」
「その情報、随分と高そうだな…」
「依頼の金額が半端なく上がったんだ、絶対に取り零さない為にも多少の経費は必要さ」
「確かに、この依頼一件こなすだけで一生優雅に暮らせる金額だよな」
少し躊躇するように相棒に問う。
「それだけ、達成困難…って事…なんだよな?」
情報を得た男がその内容を伝える。
「それが、今は絶好の機会らしいんだ…警護する者の水準が低下しているらしい」
「そいつぁ、ありがたいな!」
「気合なんざぁ、入れたことが無いけど今回ばかりは気張るか」
殺る時以外気合の入らない男に気合が入る。
付け焼刃な努力はボロが出やすい…と言うことを知らないようだ。
明らかに裏の者らしき同じような怪しげな風体の者が5~6組、家の周囲を潜むとも言えない様な水準でうろついていた…少しずつ増えている。人知れず余計な本物の雑魚達が、溢れるように湧いてくる。
荷物を送ってしまい身軽になったフレイとタリクは気軽な散歩…とでも言う感じでドリズルの外れにある家に向け悠然と進む。
とりあえずの目的地まで近く、あと1つ時…と言う程度の距離。厳しい指導は予想外の危険を生む…と言う現実をタリクが学習したため、まるでご褒美の様なゆったりした時間が出来上がった。
フレイは俄然張り切る。クリールと共に草むらや岩陰、木の根元…と魔石を探しつつ駆け回りながら、ドリズルへ向けた小街道を進んでいく。
「相変わらず魔石好きだねぇ…」
横の小道から出てきた人影が声を掛けてくる。一瞬警戒したが、それはドリズルの街で世話になった石拾い兼鉱山主のアリアだった。
「よっ! 久しぶり」
「アリアさん!!」
フレイリアルが何の警戒感もなく駆け寄り抱き着く。
「またコッチの方に来たのかい? もう家に戻ったんだと思っていたよ。随分と短期間に大きく?!? …デカクなったな」
フレイに抱きつかれ思わず、伸びた背丈以上にその感触に驚くアリア。
フレイも懐かしさのあまり抱きついて再開を喜ぶが、その間にアリアに素性隠していたことを思い出す…サルトゥスの第15都市オイセレ出身の末端王族と偽っていたのだった。
「魔石が一杯で楽しいから、許可をもらって石拾いに来たの」
何とかそれらしい理由をつけた。
「そうか、良かったな。今度は一杯楽しんでいけ! まぁ前回も十分楽しそうだったけどな」
他の者だったら訝しむ様な理由だが、フレイなら妥当な理由であるとアリアも納得していた。
「そう言えば、予想以上に何でも出来るあんたの守護者のオッサンはどうした?」
「ニュールは少し別行動だよ。その代りタリクが一緒に来てくれたんだ」
「あれ…アノ兄さんの連れだろ? あんた、あの街外れの森近くに住む兄さんと結婚でもしたのか?」
「???」
前に会った時も思ったがアリアは情報通だった。タリクがアルバシェルの守護者であるとまでは知らないかもしれないが、従者の様な者だとは知っているようだった。
「違うよ、偶々森外れの家に用があるらしくて、私の石拾いの話を聞いてついでに…って守ってくれてるんだよ」
急な話の展開にフレイリアルはドキドキするが、何とか平常心を保ち対応する。
「あんたが結婚して守護者解任でもしたんなら、あのオッサンを勧誘しようと思ったんだけどね…」
「まだチャント守護者のままだよ」
「そっか…いやぁ、知り合いの…王宮に出入りする商人が、オッサンをヴェステの王宮で見たって言うんだけど…魔物みたいな残忍な雰囲気になっていたって…怯えてたもんでね…でも結局、まさか違うヤツだよなって話になって…」
「…えっ?」
その新たな情報にフレイリアルは一瞬固まるが答える。
「そうだよ! ニュールは超優しいから、私達の仲間を手助けしにチョット出かけているだけだよ。だから、ちゃんと帰ってくるよ」
不安を覚えつつも、帰れる状態になったのなら帰ってくる…そう信じて待つしかなかった。
「それにしても結婚してないとはねぇ」
アリアの話題が急に変わった。
「いやぁ~乳が一気に巨大化してるからてっきりねぇ…まだまだあたしの読みも甘いなぁ」
「!!!!」
ケラケラと笑いながらアリアは述べ、ある通説をモーイから聞きかじっていたフレイは赤面して絶句するのであった。
街中までアリアに魔石や天輝の状況を聞く。最近、天輝降りる回数が少なめであるとか、一部の魔石が買い占められてるとか、色々と興味深い話を教えてくれた。
道が分岐する所まで進み、別れの挨拶をする。
「色々教えてくれてありがとう!」
「こっちこそな!! また、ウチにも遊びに来いよ」
そしてフレイ達はアルバシェルの家がある方の道へ進む。
家に着く200メル程手前でタリクがフレイを制止した。
「12組ほど、雑魚が徘徊しているようです。貴女は此処で防御結界張り待機してください」
そう言うと魔石から魔力導き出し素早く纏い、家の前へ一気に飛んでいき瞬時に2人組の一組を纏めて一刀両断する。
タリクの言葉通り雑魚だったようで、さくさくと容易く片付いていく様が見える。
フレイもタリクが戦い始めた後、目立たぬよう空間魔力を込めた新しく作り出した結界を試しに纏ってみる。
『これならバレないかな?』
バレたら怒られる事分かっていても新しい力を試してみたくて…我慢できず…人も来なさそうなこの場所でならと思い挑戦してみた。
だが一組だけ、手前で待つフレイリアルの下へ遣ってきた者達が居たのだ。
「お嬢さん、あっしらの生活の為に一緒に来てもらえないですかね」
「痛い目見たくなかったら抵抗するな!」
何だか微妙な2人組。フレイだけでもモーイに指導された魔力体術で片づけられそうな、低水準な者達であるのが分かった。
『変に戦って言いつけを破ったら絶対タリクに怒られる』
既に新しい力での結界纏い、言いつけを思いっきり破っているのだが…その事は念頭に無い。
このフレイの考えが、この者たちの運の尽き…運命を定めることになった。
抵抗しないフレイにゆっくりと近づく2人。
『高い値段出して情報仕入れた甲斐があったぜ! こんなに手軽な標的だけが残るとはな…気合入れたおかげかな』
心の中でほくそ笑み、捕縛するため手を伸ばす。
「大丈夫、抵抗しなけりゃ丁寧にプラーデラまで運んでやるよ」
その言葉への拒否反応でフレイの魔力が強まり、結界として形成した空間魔力が増強される。
「私はプラーデラになんて行かない、行くなら貴方達が行って」
そう言い放った瞬間、目の前の2人はその場から消えた。
男の人生初めての気合の入った努力は人生最期の努力となった。
フレイがプラーデラの空を思い空間魔力溢れさせていたため、2人はプラーデラの空高くに現れ…落ちた。
フレイの転位魔力も十分危険である事が実証された。
起点も終点も要らぬ転位魔力は何処へでも飛ぶが故に、しっかり場所を選ばないと危険である。
実証実験に付き合わされた2人は、二度とこの世界に戻ることは無かった。
王妃は当然のように喜び分かち合うものとしてグレイシャムへ向かい話しかける。
「やっとこの日が来ました」
そう微笑む王妃にグレイシャムも感慨深いと言った風情の笑みを浮かべ答える。
「えぇ、やっとこの日を迎えました」
そして無言で恭しく畏まり跪き…リーシェライルへ向かう。
「!!!」
そのグレイシャムの行動に王妃が驚愕し、絶句した後すぐさま問い質す。
「何故なの? この者を排しエリミアの安寧を得るのでは無かったの?」
グレイシャムは事も無げに述べる
「一度国外に出す…とは申しましたが、此処で捉えたり排す行動取る等とは一言も言っておりません。真に導く方を迎えるとは言いましたけどね…」
そして更に楽しげに伝える。
「貴女の協力により、その方が早々に戻ってきて下さいました…余計なモノを排したリーシェライル様です。この方こそ真に進むべき道をとれる方です 」
それに答える様に美しく微笑み、艶然とそこにあるリーシェライル。そして王妃を慈悲の目で見やり声を掛ける。
「騙されてる事にも気づかず突っ走り、自身で踏み外す様は潔く滑稽で笑えました…」
更に追討ちをかける様に、今度はグレイシャムが言葉を加える。
「他国に似た技術あるにも関わらず、この地の技術情報が頑なに秘匿されてきた訳を考え…疑問に思う事もなく、予言などと言う戯言に踊らされている愚か者。滅びを導く様な馬鹿げた行為であると気づきもしない王妃など、国にとっての害悪そのものでしょう…」
呆然とする王妃は未だ自身の状況を理解できない。
「王国の滅び…が存在するとするならば、浅薄な貴女自身が引き入れた結果です。折角用意して頂いた贈り物ですが、この特別な部屋はあなた自身が使うに相応しい…結界をもう1つ加えておきますので、それも含めて献上致します」
振り返らずに結界追加し立ち去るリーシェライルと、それに付き従うグレイシャム。王妃は結界付きの部屋に1人取り残された。
賢者の塔へ戻る道すがら、グレイシャムはリーシェライルに尋ねる。
「王妃の処遇は?」
「とりあえず、臥せっていると言うことで軟禁だけど、フレイが近々戻ってくると思うから決めてもらおうかな…」
「了解しました。それまでは保留させて頂きます」
「どういう決断を下すのか楽しみだな…」
その状況を愉し気に思い巡らせ、暗い喜びに浸り美しい笑みを更に研ぎ澄ませるのであった。
フレイリアルとタリクはあと半日ほどでドリズルの町…という所で一度休憩することにした。
そしてフレイは感覚が掴めてきた空間の置換による転位を、アルバシェルが過ごしていた家へと荷物を送ると言う事で試してみた。
「何故、いきなり実行しようと思うのですか?」
いきなり遣ってみた結果、のっけからお説教を食らうことになった。
「頑張らないといけないなぁ~何か役に立ちたいなぁ~って思って…」
全く悪気なく人に頭痛の種をもたらすフレイに頭を抱えるタリク。
ニュールがフレイリアルと共に過ごし通り抜けてきた道々の心中を察する。
試そうとしたのは陣無き転移…転移と言うか空間の切り取り…転位…と言う感じの位置の移し替えの様なモノだった。
通常の転移は一度バラバラにして目的地に送り届け再度組み立てるような仕組み…フレイリアルの今回出来るようになったモノは、空間まるごと切り取って違う場所に入れて目的地に移動する転位…と言う様なモノらしい。
「大丈夫! 決して存在をバラバラにしたりはしないので、分断されてしまう様な失敗は無いと思う」
強気で自信満々に述べるその曖昧な内容が、フレイリアルの主張の根拠だった。
正しく根拠なき自信。
狭い場所に移動して存在そのモノが潰れたりすることは有るかもしれないがそれは普通の転移と同じ。特段騒ぎ立てる事でもないとフレイリアルは思っていた。
だが新たな力は未知で無限の可能性を持っていた。
フレイリアルの結界が強固なのも、一部空間に働きかけ他空間と重ねていたため攻撃が無効となったからだと思われる。
この力あれば他の世界に行ったり、他の世界を作り上げる事も出来るような気がした。
世界を組み換える力…作り出す力…またしても人の手に余るのではないかと思う力がそこに現れた。
「それでも何が起こるか分からない力なのは一緒です。その力を使いこなす事は大切な事ですが、未知の領域の力で有ることも忘れないで下さい」
『…自分自身も人も巻き込まぬように』
最後の部分をタリクは伝えられなかった。自身の存在が異質で有ることを刻み込まれているフレイリアルにとって、その指摘は酷な事であろう。そして十分に身に染みた事であると推測出来たからだった。
『私は繋がりが出来上がってしまった此の者を、もう排除出来ないかもしれない…ならば、アルバシェル様の為にならぬと判断したのなら…』
答えは自然と思いつく。
『引き離し、自身の手で連れ去り…共に?』
自分で考えついた結論にタリクは衝撃を受ける。
もしも…の場合の苦しい決断を思い描いたはずなのに、それが甘美なモノに思えてしまう自分自身の思い。それが繋がりに毒されつつ有るせいなのを自覚し、警戒するのだった。
ドリズルの街にもヴェステと専属契約する草…という、生活に紛れ込む情報集める専門の者たちが存在する。
町はずれの簡素な家に…情報収集指定箇所に動きがあるのを掴んでいた。
タリクが家を管理させていた人形の行動を、人を迎えるための行動に変化させていたので一目瞭然だったのだ。
『近日中に、戻るだろう…新たな報告を出さねば』
その場を後にしようと家に背を向けた瞬間、背後でズドドンッといきなり大きな音がした。
驚き振り返ると、屋敷の結界内に旅で使われていた様な荷物が現れた。
「結界内に転移? 家主は王宮にいると聞いていたが…」
思わず声に出して呟いていた。
結界施された場所への転移は、結界を作り出した者以外が行えば不安定な転移となりまともに辿り着かないはず…だが荷物は普通の状態で届いている。
「王宮から送られたとも思えぬ荷物…まぁ、考えるのはあたしの仕事じゃあないから良いのだけどね…報告だけはキッチリ上げるさ。…大分近くまで来ているようだし、探して標的自身の情報も集めておくかな…」
そうして家の周囲から人影が一つ消える。
だが、その場所を探るものは其れだけでは無かった。
「情報によると多分、此処に現れるはずだ…」
「その情報、随分と高そうだな…」
「依頼の金額が半端なく上がったんだ、絶対に取り零さない為にも多少の経費は必要さ」
「確かに、この依頼一件こなすだけで一生優雅に暮らせる金額だよな」
少し躊躇するように相棒に問う。
「それだけ、達成困難…って事…なんだよな?」
情報を得た男がその内容を伝える。
「それが、今は絶好の機会らしいんだ…警護する者の水準が低下しているらしい」
「そいつぁ、ありがたいな!」
「気合なんざぁ、入れたことが無いけど今回ばかりは気張るか」
殺る時以外気合の入らない男に気合が入る。
付け焼刃な努力はボロが出やすい…と言うことを知らないようだ。
明らかに裏の者らしき同じような怪しげな風体の者が5~6組、家の周囲を潜むとも言えない様な水準でうろついていた…少しずつ増えている。人知れず余計な本物の雑魚達が、溢れるように湧いてくる。
荷物を送ってしまい身軽になったフレイとタリクは気軽な散歩…とでも言う感じでドリズルの外れにある家に向け悠然と進む。
とりあえずの目的地まで近く、あと1つ時…と言う程度の距離。厳しい指導は予想外の危険を生む…と言う現実をタリクが学習したため、まるでご褒美の様なゆったりした時間が出来上がった。
フレイは俄然張り切る。クリールと共に草むらや岩陰、木の根元…と魔石を探しつつ駆け回りながら、ドリズルへ向けた小街道を進んでいく。
「相変わらず魔石好きだねぇ…」
横の小道から出てきた人影が声を掛けてくる。一瞬警戒したが、それはドリズルの街で世話になった石拾い兼鉱山主のアリアだった。
「よっ! 久しぶり」
「アリアさん!!」
フレイリアルが何の警戒感もなく駆け寄り抱き着く。
「またコッチの方に来たのかい? もう家に戻ったんだと思っていたよ。随分と短期間に大きく?!? …デカクなったな」
フレイに抱きつかれ思わず、伸びた背丈以上にその感触に驚くアリア。
フレイも懐かしさのあまり抱きついて再開を喜ぶが、その間にアリアに素性隠していたことを思い出す…サルトゥスの第15都市オイセレ出身の末端王族と偽っていたのだった。
「魔石が一杯で楽しいから、許可をもらって石拾いに来たの」
何とかそれらしい理由をつけた。
「そうか、良かったな。今度は一杯楽しんでいけ! まぁ前回も十分楽しそうだったけどな」
他の者だったら訝しむ様な理由だが、フレイなら妥当な理由であるとアリアも納得していた。
「そう言えば、予想以上に何でも出来るあんたの守護者のオッサンはどうした?」
「ニュールは少し別行動だよ。その代りタリクが一緒に来てくれたんだ」
「あれ…アノ兄さんの連れだろ? あんた、あの街外れの森近くに住む兄さんと結婚でもしたのか?」
「???」
前に会った時も思ったがアリアは情報通だった。タリクがアルバシェルの守護者であるとまでは知らないかもしれないが、従者の様な者だとは知っているようだった。
「違うよ、偶々森外れの家に用があるらしくて、私の石拾いの話を聞いてついでに…って守ってくれてるんだよ」
急な話の展開にフレイリアルはドキドキするが、何とか平常心を保ち対応する。
「あんたが結婚して守護者解任でもしたんなら、あのオッサンを勧誘しようと思ったんだけどね…」
「まだチャント守護者のままだよ」
「そっか…いやぁ、知り合いの…王宮に出入りする商人が、オッサンをヴェステの王宮で見たって言うんだけど…魔物みたいな残忍な雰囲気になっていたって…怯えてたもんでね…でも結局、まさか違うヤツだよなって話になって…」
「…えっ?」
その新たな情報にフレイリアルは一瞬固まるが答える。
「そうだよ! ニュールは超優しいから、私達の仲間を手助けしにチョット出かけているだけだよ。だから、ちゃんと帰ってくるよ」
不安を覚えつつも、帰れる状態になったのなら帰ってくる…そう信じて待つしかなかった。
「それにしても結婚してないとはねぇ」
アリアの話題が急に変わった。
「いやぁ~乳が一気に巨大化してるからてっきりねぇ…まだまだあたしの読みも甘いなぁ」
「!!!!」
ケラケラと笑いながらアリアは述べ、ある通説をモーイから聞きかじっていたフレイは赤面して絶句するのであった。
街中までアリアに魔石や天輝の状況を聞く。最近、天輝降りる回数が少なめであるとか、一部の魔石が買い占められてるとか、色々と興味深い話を教えてくれた。
道が分岐する所まで進み、別れの挨拶をする。
「色々教えてくれてありがとう!」
「こっちこそな!! また、ウチにも遊びに来いよ」
そしてフレイ達はアルバシェルの家がある方の道へ進む。
家に着く200メル程手前でタリクがフレイを制止した。
「12組ほど、雑魚が徘徊しているようです。貴女は此処で防御結界張り待機してください」
そう言うと魔石から魔力導き出し素早く纏い、家の前へ一気に飛んでいき瞬時に2人組の一組を纏めて一刀両断する。
タリクの言葉通り雑魚だったようで、さくさくと容易く片付いていく様が見える。
フレイもタリクが戦い始めた後、目立たぬよう空間魔力を込めた新しく作り出した結界を試しに纏ってみる。
『これならバレないかな?』
バレたら怒られる事分かっていても新しい力を試してみたくて…我慢できず…人も来なさそうなこの場所でならと思い挑戦してみた。
だが一組だけ、手前で待つフレイリアルの下へ遣ってきた者達が居たのだ。
「お嬢さん、あっしらの生活の為に一緒に来てもらえないですかね」
「痛い目見たくなかったら抵抗するな!」
何だか微妙な2人組。フレイだけでもモーイに指導された魔力体術で片づけられそうな、低水準な者達であるのが分かった。
『変に戦って言いつけを破ったら絶対タリクに怒られる』
既に新しい力での結界纏い、言いつけを思いっきり破っているのだが…その事は念頭に無い。
このフレイの考えが、この者たちの運の尽き…運命を定めることになった。
抵抗しないフレイにゆっくりと近づく2人。
『高い値段出して情報仕入れた甲斐があったぜ! こんなに手軽な標的だけが残るとはな…気合入れたおかげかな』
心の中でほくそ笑み、捕縛するため手を伸ばす。
「大丈夫、抵抗しなけりゃ丁寧にプラーデラまで運んでやるよ」
その言葉への拒否反応でフレイの魔力が強まり、結界として形成した空間魔力が増強される。
「私はプラーデラになんて行かない、行くなら貴方達が行って」
そう言い放った瞬間、目の前の2人はその場から消えた。
男の人生初めての気合の入った努力は人生最期の努力となった。
フレイがプラーデラの空を思い空間魔力溢れさせていたため、2人はプラーデラの空高くに現れ…落ちた。
フレイの転位魔力も十分危険である事が実証された。
起点も終点も要らぬ転位魔力は何処へでも飛ぶが故に、しっかり場所を選ばないと危険である。
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願い叶えるために動き始めた少女が、近くに居たオッサンを巻き込み結んだ守護者契約。
時は流れ…守護していた少女は大賢者となり、オッサンも別の地に新たなる大きな立場を得る。
変化した状況は、少女とオッサンの2人に…全てを見直す決断を促した。
しかも2人の守護者と言う繋がりを利用できると感じた者達が、様々な策謀巡らし始める。
更に…ごく身近で過剰に守護する者が、1つの願うような欲望を抱き始める。
色々な場所で各々の思惑が蠢く。
国王に王女に大賢者、立場を持つことになった力あるオッサンに…力を得た立場ある少女。
国と国…人と人…大賢者と大賢者。
目指す場所へ向け、進んでいく。
※魔輝石探索譚の外伝です。魔心を持つ大賢者の周りの子~から繋がる流れになります。
※小説家になろうさんで魔輝石探索譚のおまけ話として載せてたモノに若干加筆したものです。長めだったので、別話として立ち上げました。
※此のおまけ話は、此処だけのおまけ話です。
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
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