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第四章 タラッサ連合国編
27.未知への思い
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海底にある立ち上がる岩壁にある重々しい石造りの扉を開けると、そこにはエリミアの賢者の塔に入った時と同じ景色が広がっていた。
その違和感に一瞬振り返り、此処が海底にあるタラッサの…レグルスリヤの賢者の塔…水の塔である事を再確認した。
キミアからニュールが魔力展開するのを避けるよう言われていたため、フレイに探索魔力を広げさせ内側も確認する。
特に罠となるような隠れた転移陣なども存在しないようだった。
一歩踏み込む。
扉の内に入ると、自動で扉が閉じる。
閉じると同時に外部に鈍い衝撃音が響き、再びこの扉の外が海の中に沈んだであろうことが感じられた。つまり、このままでは入った場所からは出られないと言う事になる。
入った先…広間の階段付近に、塔の賢者と思われる者が礼を執り待っていた。
「大賢者様が既にお目覚めになり、貴殿方をお待ちになっております」
その言葉と共に付いてくるよう指示されたので従う。
時間より大分早い上に、着いてすぐの素早い対応だが、有り難くお言葉に甘え大賢者様との内謁の場へと向かう。
此処の賢者の塔は、塔と言っても上空ではなく地下へ進む構造の様だった。
地下3層より、最下層へ潜る為の陣が有ると言う。地下と地上の違いはあるが、塔の他の部分もエリミアの塔と類似した造りをしていた。
惜しみなく壁に使われているのは藍玉魔石のようであった。
海底の閉鎖された空間に魔力放ち満たし、清々しい空気を生んでいる。薄水色の淡い輝きが徐々に強くなり、塔自体が進むに値する者であるかを魔力で刺し貫き確認してくるようであった。
転移陣に乗り地下18層まで辿り着き、陣から降りると其れは顕著となる。
鮮烈な魔力が来訪する者を迎え入れ試す。
魔力の塊が押し寄せ、周囲を取り囲み包み込む。そして存在ごと消し去ってしまいそうな強烈な流れを作り、内側へと浸透し渦巻く嵐を作り収束し…弾けて四散する。
地輝や天輝の洗礼を受けたようであった。
18層へ至った案内する者は、防御陣も敷かれている転移陣の中に留まり出てこない。
そして言葉にて先へ進むことを促す。
「申し訳ありませんが、私はこれ以上は進めません。22層、透の間で大賢者様がお待ちですので其方へ階段を使い、赴いてください」
言われるままに快適な魔力満ち溢れ降り注ぐ空間を行く。
一層潜るごとに重圧感増し、清められていく感じが強くなる。
久々にエリミアと同等の力満ち足りた塔の魔力を感じ、全てが洗い流され調えられる様な気がした。
ニュールもフレイも浄化され、22層に辿り着く頃には気分もスッキリしていた。
階段を降り切った最下層に扉がある。
扉を叩き開く。
中央に深潭の地輝石が置いてあり、予想外に落ち着いた力ある輝きを放っている。その奥に恰幅の良い白い髭を豪華に蓄えた老人が椅子に深く座り目を閉じている。
それが大賢者様なのであろうか。
『生きているのだろ…』
ニュールが素直な疑問を最後まで言葉として思い浮かべる前に答えが帰ってきた。
「まだ生きとるよ」
ふおっふおっふおっ…と小気味の良い笑い声も響くが、目の前の恰幅良い老人からでは無かった。
奥からそう言いながら出てきたのは、そこに寝ている者とは全く違う見た目の眼鏡をかけた細くて小さな老人だった。
それが本物の先代大賢者エレフセリエだった。
「そっちは騙しだ」
「???」
「人は偉そうな見た目に屈服することもあるのさ。大賢者で国王と言ったらこっちよりそっちじゃろ?」
楽しげに片目をつぶり同意を求める。
『お茶目爺さんか!』
心の中で突っ込みを入れるニュール。
「そうじゃよ、お茶目さんなんじゃ! 楽しいじゃろ? 面白いのが一番じゃ」
その心の言葉に間髪入れず返事が返る。
「!!!」
ニュールは、口にしてない疑問に次々と返事をされ察する。
「そうじゃよ、此処にも白の塔と同じ様な陣を使ってるからバレバレなんじゃよ」
「アンタ、とても1の月に1~2度しか起きれない奴じゃないぞ!」
もう既に先達への尊崇とか…国王様への敬意であるとか…全て抜きになってしまっていたが、この大賢者様自体があまり気にしてない様だったのでそのままの対応にさせてもらう事にした。
「元気そうに見えるが、今だけじゃ。少しの間しか維持出来ないのは本当だ。だから早速質問を受け付けるぞ」
その言葉に、今までずっと深潭の地輝石を見つめていたフレイが此方に注意を戻し一番の気になる質問をぶつけるため名乗り出る。
「私が!」
「おう、お前さんが一番で良いよ」
先代大賢者エレフセリエは快く応じる。
「1度塔に繋がってしまったら、塔から解放される事はないのですか?」
「おうっ、行き成り聞きたい所からなんじゃな! うんっ此方においで、隣で座ってゆっくり話そう。お茶でも出したい所じゃが、まずは話だ。お前さんも突っ立ってないで座りなさい!」
大賢者エレフセリエがフレイとニュールを椅子に導き話を始める。
「まず1つ目の答えじゃがな…其のままでは解放される事は難しい。キミアからも聞いたじゃろうが代わりになるモノがあっても、完全には抜けられない。完全に解除するには世界の理への接続・解除・解放が必要じゃ。だが、此れには一度全塔に賢者の石、もしくは大賢者が入らねばならない。実行するのは険しい道じゃ…」
更にちょっと悲しそうな顔でエレフセリエは続ける。
「それに理に接続し上手く事が運んでも、そこに塔無しでの寿命の余力が無ければ解放…即、賢者の石の中じゃ」
それを聞きフレイも一緒に悲しい顔になる。
「この大賢者を…縛り捧げる様な機構の破壊は可能か?」
ニュールがその答えに続き質問を重ねる。
「可能不可能で言うなら可能である。ただし巫覡の権限ある領域での接続・解除・解放が必要である…そして、此れは行った結果が予測できない…全く不明なんじゃ。何せ誰もやったことがないからな…」
エレフセリエは一応追加で情報をくれた。
「此れは多分、時の巫女が情報を得ているだろう…だが、其を教えてくれるかは疑わしい」
時の巫女の名が出ると、フレイが本人から直接言われた言葉を呟いた。
「リオラリオ様は目指す目的の邪魔になるなら…誰であっても排除する…って言ってた…本気だった…」
ニュールの心の中にある危険人物一覧に、未知の人物なのに名前を載せてあるリオラリオ。下手に関わらない方が良いと言う予感の正しさが一層浮き彫りになる。
間を置かずフレイが追加の質問をする。
「じゃあ巫女や大賢者を辞めることは出来ないの?」
根源的な部分の、しかも核心を突く質問だった。
「ワシも…この運命の軛から抜け出せる方法を探して今に至るが、この命絶えるギリギリになっても抜けられない…そして死しても尚縛られる。どんな業を背負ってしまったが故に導かれた運命なのか…せめて最期には知りたいのじゃがな…」
苦し気に呟くように答えるが、大賢者エレフセリエは抗うために生き延びようとしているようだった。
「無意識下集合記録の持つ役割? 人格とは? 目的は…?」
「それはこの世界が…前へ進んで行くか判断する知の集合体。時には与え、時には奪い…状態を確認し続ける意思…枠組み。そして反応が薄くなった世界を…負に傾いた世界を処分する判断をする…繋がりに悪影響を与える世界は不要と判断されるようだ…」
言葉として紡ぐのがなかなか難しい内容のようだ。
捉えどころのない言葉が連なる。
「負に傾くとは?」
ニュールはエレフセリエに質問できる時間が少なくなってきていることを何となく感じ取り、わからない部分を埋めるための質問を矢継ぎ早に行う。
「滅びを願う心…自棄、悲観、失意、厭世、絶望。それらに指標となる生物が囚われたときに傾いていく」
「抗う方法は?」
「流されず自分をしっかり保つこと…自棄を起こした心は囚われやすく、捕まると駒にされる。ワシもずっと抗い続けている」
大賢者と言う存在は、自身の意識下を探索できるため遭遇しやすいらしい。だからニュールも遭遇していたのであろう…。
囚われてしまえば駒となる。
「駒になった者はどうなる?」
「自分の知らぬうちに希望せぬ道を選び意思と関係なく加担する」
「対処する方法は?」
「自身で自覚し制御する事…世界を切り…」
エレフセリエの様子が急に変わる。
「大賢者の持つ記憶の記録や情報礎石は、無限意識下集合記録と同領域にある…必要以上の情報の取得は…繋がりを作りやすくする…大いなる導きには逆らえない…」
苦し気に質問外の事を語り始める。
だが内容は知りたい事を理解するための…切っ掛けとなるようなことでもあった。
「あの子を大賢者にする時…紛れ込ませてしまったのかもしれない。それであの子が負に傾き導いてしまうのならワシのせいじゃ…」
大賢者エレフセリエは自身の告解と、塔の過去を語り始めた。
後継として導かれたにもかかわらず、賢者達がキミアをこの塔に入れたがらない…塔外で管理したがるのは、大賢者に至らしめる時 "意思" が入り込んでしまったと感じ取った者が居たからだ。
それは記録として受け継がれ、塔の賢者達がキミアを拒絶する理由となる。
キミアが大賢者として塔に繋がりつつも自由を保っているのは、賢者の石としてエレフセリエが塔に居るためだ。キミアは賢者の石を取り込むとき、自身の魔石と共に体も一度賢者の石の中へ取り込まれ…再構築された者であると言う。それによって繋がりを濃くし塔から切り離し自由を得た。
代償…が生じたのかもしれない。
この塔は遥か昔から、無限意識下集合記録の…意思…を認識し、その大いなる導きからの離脱を目指していた。
自分たちの人生を、自身が管理する中で全うするために…。
だからこそ、その意思…紛れ込んでいる可能性のあるキミアの受け入れを忌避する。
「おとぎ話のような昔話は聞いたじゃろ? 豊かな大地を得るために…と言うヤツを。だが、あれは…あの大地改編は望んで起こした訳では無いのだ…」
エレフセリエは続ける。
「あれは、意思に排除されたため起きた出来事である…と言っておこう。大賢者の中にある、記録も記憶も情報礎石としても…その事象の転換点で途切れておるはずじゃ、意図的に…」
そこには管理するものの意思が強制的に働いたようだ。
「意志あるモノ…その人格の役割と目的は判断を下すために、全てを管理下…手のうちに置き続け管理する事であり、その手から逃れ離脱する事を厭う…のか…」
ニュールは呟くように確認する。
それが無限意識下集合記録の人格が持つ意思であり、目的を達成するため手段であるとニュールは感じた。
そんな思考を巡らせる中、大賢者エレフセリエが憂い顔でキミアへの思いを語る。
「あの子はそうは思っておらんじゃろうが…この体はただの拡張領域と言う感じであり、ワシはもう基本はあの子の内にチャント居るんじゃ…あの子の内では表出できないが決して見捨てたりはしてないのじゃ」
正しく親の思い子知らずを表すような状況であるが、それは当事者が変えていくべき関係性であり愚痴をこぼされても困る内容であった。
だが、お節介ニュールは何処かで関わってしまいそうで、自身の余計なことに首突っ込んでしまう性分を心の中で戒めるのだった。
その違和感に一瞬振り返り、此処が海底にあるタラッサの…レグルスリヤの賢者の塔…水の塔である事を再確認した。
キミアからニュールが魔力展開するのを避けるよう言われていたため、フレイに探索魔力を広げさせ内側も確認する。
特に罠となるような隠れた転移陣なども存在しないようだった。
一歩踏み込む。
扉の内に入ると、自動で扉が閉じる。
閉じると同時に外部に鈍い衝撃音が響き、再びこの扉の外が海の中に沈んだであろうことが感じられた。つまり、このままでは入った場所からは出られないと言う事になる。
入った先…広間の階段付近に、塔の賢者と思われる者が礼を執り待っていた。
「大賢者様が既にお目覚めになり、貴殿方をお待ちになっております」
その言葉と共に付いてくるよう指示されたので従う。
時間より大分早い上に、着いてすぐの素早い対応だが、有り難くお言葉に甘え大賢者様との内謁の場へと向かう。
此処の賢者の塔は、塔と言っても上空ではなく地下へ進む構造の様だった。
地下3層より、最下層へ潜る為の陣が有ると言う。地下と地上の違いはあるが、塔の他の部分もエリミアの塔と類似した造りをしていた。
惜しみなく壁に使われているのは藍玉魔石のようであった。
海底の閉鎖された空間に魔力放ち満たし、清々しい空気を生んでいる。薄水色の淡い輝きが徐々に強くなり、塔自体が進むに値する者であるかを魔力で刺し貫き確認してくるようであった。
転移陣に乗り地下18層まで辿り着き、陣から降りると其れは顕著となる。
鮮烈な魔力が来訪する者を迎え入れ試す。
魔力の塊が押し寄せ、周囲を取り囲み包み込む。そして存在ごと消し去ってしまいそうな強烈な流れを作り、内側へと浸透し渦巻く嵐を作り収束し…弾けて四散する。
地輝や天輝の洗礼を受けたようであった。
18層へ至った案内する者は、防御陣も敷かれている転移陣の中に留まり出てこない。
そして言葉にて先へ進むことを促す。
「申し訳ありませんが、私はこれ以上は進めません。22層、透の間で大賢者様がお待ちですので其方へ階段を使い、赴いてください」
言われるままに快適な魔力満ち溢れ降り注ぐ空間を行く。
一層潜るごとに重圧感増し、清められていく感じが強くなる。
久々にエリミアと同等の力満ち足りた塔の魔力を感じ、全てが洗い流され調えられる様な気がした。
ニュールもフレイも浄化され、22層に辿り着く頃には気分もスッキリしていた。
階段を降り切った最下層に扉がある。
扉を叩き開く。
中央に深潭の地輝石が置いてあり、予想外に落ち着いた力ある輝きを放っている。その奥に恰幅の良い白い髭を豪華に蓄えた老人が椅子に深く座り目を閉じている。
それが大賢者様なのであろうか。
『生きているのだろ…』
ニュールが素直な疑問を最後まで言葉として思い浮かべる前に答えが帰ってきた。
「まだ生きとるよ」
ふおっふおっふおっ…と小気味の良い笑い声も響くが、目の前の恰幅良い老人からでは無かった。
奥からそう言いながら出てきたのは、そこに寝ている者とは全く違う見た目の眼鏡をかけた細くて小さな老人だった。
それが本物の先代大賢者エレフセリエだった。
「そっちは騙しだ」
「???」
「人は偉そうな見た目に屈服することもあるのさ。大賢者で国王と言ったらこっちよりそっちじゃろ?」
楽しげに片目をつぶり同意を求める。
『お茶目爺さんか!』
心の中で突っ込みを入れるニュール。
「そうじゃよ、お茶目さんなんじゃ! 楽しいじゃろ? 面白いのが一番じゃ」
その心の言葉に間髪入れず返事が返る。
「!!!」
ニュールは、口にしてない疑問に次々と返事をされ察する。
「そうじゃよ、此処にも白の塔と同じ様な陣を使ってるからバレバレなんじゃよ」
「アンタ、とても1の月に1~2度しか起きれない奴じゃないぞ!」
もう既に先達への尊崇とか…国王様への敬意であるとか…全て抜きになってしまっていたが、この大賢者様自体があまり気にしてない様だったのでそのままの対応にさせてもらう事にした。
「元気そうに見えるが、今だけじゃ。少しの間しか維持出来ないのは本当だ。だから早速質問を受け付けるぞ」
その言葉に、今までずっと深潭の地輝石を見つめていたフレイが此方に注意を戻し一番の気になる質問をぶつけるため名乗り出る。
「私が!」
「おう、お前さんが一番で良いよ」
先代大賢者エレフセリエは快く応じる。
「1度塔に繋がってしまったら、塔から解放される事はないのですか?」
「おうっ、行き成り聞きたい所からなんじゃな! うんっ此方においで、隣で座ってゆっくり話そう。お茶でも出したい所じゃが、まずは話だ。お前さんも突っ立ってないで座りなさい!」
大賢者エレフセリエがフレイとニュールを椅子に導き話を始める。
「まず1つ目の答えじゃがな…其のままでは解放される事は難しい。キミアからも聞いたじゃろうが代わりになるモノがあっても、完全には抜けられない。完全に解除するには世界の理への接続・解除・解放が必要じゃ。だが、此れには一度全塔に賢者の石、もしくは大賢者が入らねばならない。実行するのは険しい道じゃ…」
更にちょっと悲しそうな顔でエレフセリエは続ける。
「それに理に接続し上手く事が運んでも、そこに塔無しでの寿命の余力が無ければ解放…即、賢者の石の中じゃ」
それを聞きフレイも一緒に悲しい顔になる。
「この大賢者を…縛り捧げる様な機構の破壊は可能か?」
ニュールがその答えに続き質問を重ねる。
「可能不可能で言うなら可能である。ただし巫覡の権限ある領域での接続・解除・解放が必要である…そして、此れは行った結果が予測できない…全く不明なんじゃ。何せ誰もやったことがないからな…」
エレフセリエは一応追加で情報をくれた。
「此れは多分、時の巫女が情報を得ているだろう…だが、其を教えてくれるかは疑わしい」
時の巫女の名が出ると、フレイが本人から直接言われた言葉を呟いた。
「リオラリオ様は目指す目的の邪魔になるなら…誰であっても排除する…って言ってた…本気だった…」
ニュールの心の中にある危険人物一覧に、未知の人物なのに名前を載せてあるリオラリオ。下手に関わらない方が良いと言う予感の正しさが一層浮き彫りになる。
間を置かずフレイが追加の質問をする。
「じゃあ巫女や大賢者を辞めることは出来ないの?」
根源的な部分の、しかも核心を突く質問だった。
「ワシも…この運命の軛から抜け出せる方法を探して今に至るが、この命絶えるギリギリになっても抜けられない…そして死しても尚縛られる。どんな業を背負ってしまったが故に導かれた運命なのか…せめて最期には知りたいのじゃがな…」
苦し気に呟くように答えるが、大賢者エレフセリエは抗うために生き延びようとしているようだった。
「無意識下集合記録の持つ役割? 人格とは? 目的は…?」
「それはこの世界が…前へ進んで行くか判断する知の集合体。時には与え、時には奪い…状態を確認し続ける意思…枠組み。そして反応が薄くなった世界を…負に傾いた世界を処分する判断をする…繋がりに悪影響を与える世界は不要と判断されるようだ…」
言葉として紡ぐのがなかなか難しい内容のようだ。
捉えどころのない言葉が連なる。
「負に傾くとは?」
ニュールはエレフセリエに質問できる時間が少なくなってきていることを何となく感じ取り、わからない部分を埋めるための質問を矢継ぎ早に行う。
「滅びを願う心…自棄、悲観、失意、厭世、絶望。それらに指標となる生物が囚われたときに傾いていく」
「抗う方法は?」
「流されず自分をしっかり保つこと…自棄を起こした心は囚われやすく、捕まると駒にされる。ワシもずっと抗い続けている」
大賢者と言う存在は、自身の意識下を探索できるため遭遇しやすいらしい。だからニュールも遭遇していたのであろう…。
囚われてしまえば駒となる。
「駒になった者はどうなる?」
「自分の知らぬうちに希望せぬ道を選び意思と関係なく加担する」
「対処する方法は?」
「自身で自覚し制御する事…世界を切り…」
エレフセリエの様子が急に変わる。
「大賢者の持つ記憶の記録や情報礎石は、無限意識下集合記録と同領域にある…必要以上の情報の取得は…繋がりを作りやすくする…大いなる導きには逆らえない…」
苦し気に質問外の事を語り始める。
だが内容は知りたい事を理解するための…切っ掛けとなるようなことでもあった。
「あの子を大賢者にする時…紛れ込ませてしまったのかもしれない。それであの子が負に傾き導いてしまうのならワシのせいじゃ…」
大賢者エレフセリエは自身の告解と、塔の過去を語り始めた。
後継として導かれたにもかかわらず、賢者達がキミアをこの塔に入れたがらない…塔外で管理したがるのは、大賢者に至らしめる時 "意思" が入り込んでしまったと感じ取った者が居たからだ。
それは記録として受け継がれ、塔の賢者達がキミアを拒絶する理由となる。
キミアが大賢者として塔に繋がりつつも自由を保っているのは、賢者の石としてエレフセリエが塔に居るためだ。キミアは賢者の石を取り込むとき、自身の魔石と共に体も一度賢者の石の中へ取り込まれ…再構築された者であると言う。それによって繋がりを濃くし塔から切り離し自由を得た。
代償…が生じたのかもしれない。
この塔は遥か昔から、無限意識下集合記録の…意思…を認識し、その大いなる導きからの離脱を目指していた。
自分たちの人生を、自身が管理する中で全うするために…。
だからこそ、その意思…紛れ込んでいる可能性のあるキミアの受け入れを忌避する。
「おとぎ話のような昔話は聞いたじゃろ? 豊かな大地を得るために…と言うヤツを。だが、あれは…あの大地改編は望んで起こした訳では無いのだ…」
エレフセリエは続ける。
「あれは、意思に排除されたため起きた出来事である…と言っておこう。大賢者の中にある、記録も記憶も情報礎石としても…その事象の転換点で途切れておるはずじゃ、意図的に…」
そこには管理するものの意思が強制的に働いたようだ。
「意志あるモノ…その人格の役割と目的は判断を下すために、全てを管理下…手のうちに置き続け管理する事であり、その手から逃れ離脱する事を厭う…のか…」
ニュールは呟くように確認する。
それが無限意識下集合記録の人格が持つ意思であり、目的を達成するため手段であるとニュールは感じた。
そんな思考を巡らせる中、大賢者エレフセリエが憂い顔でキミアへの思いを語る。
「あの子はそうは思っておらんじゃろうが…この体はただの拡張領域と言う感じであり、ワシはもう基本はあの子の内にチャント居るんじゃ…あの子の内では表出できないが決して見捨てたりはしてないのじゃ」
正しく親の思い子知らずを表すような状況であるが、それは当事者が変えていくべき関係性であり愚痴をこぼされても困る内容であった。
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