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第四章 タラッサ連合国編

18.葛藤する思い

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食事を摂った後、部屋に戻りミーティは思う。

『何でオレだけ、コノこまっしゃくれた餓鬼の子守りなんだ?』

ミーティはうんざり顔でキミアを眺める。
まじまじと見ると、可愛らしいだけではない整った顔立ちの子供…美少年だった。
青みの入った輝く銀のくるりと巻いた髪に、透ける海の碧した大きな瞳を持ち、鼻筋通り、まつげ長く愛らしい顔立ちの子供…そのまま成長したら美男確実と言った感じの小憎たらしい子供だった。
しかも良い所の坊ちゃんで頭も回る。
視線を感じたのか、ニュールの居ない2人だけの部屋でキミアがミーティに話しかけてくる。

「ミーティはニュールと行かなくて良かったんですか?」

「行っちまったら、お前が1人になるだろ? 流石にそれは不味いから…」

ミーティは不服そうなのを隠しもせず答える。

「僕なら大丈夫ですよ! 1人なら女子部屋に行けます」

予想外の事を言う。

「置いてかれちゃたの…僕怖い…って言ったら、絶対に入れてくれると思います」

「!!!」

その巧みな流れを想像し絶句するミーティ。

「そうしたら、フレイと一緒に寝ます! 絶対フカフカです」

夢見心地に語るキミアの夢想に一緒に乗っかり想像してしまうミーティ。
そして結論に至る。

『コイツは放置すると危険。絶対に見張る!』

心に誓うのであった。
ミーティがここに居座るとわかったキミアは、諦め寝る支度をすると言い浴室へ行く。

「僕、長風呂なので放って置いて下さいね! もし覗いたら本当にフレイに言いつけますからね」

「覗くか!!」

タラッサもエリミア同様、水の機構は各所に行き渡っているので水を大量に使える。そのため、この程度の宿でも入浴できる浴槽がついている。
キミアは浴槽に沈むと、体内魔石の魔力を湯に流し込み…飛ぶ。


「御屋形様おかえりなさいませ」

迎えの言葉には反応せず無言で魔力を脱ぎ捨てるように解くと椅子にどっかりと腰掛ける。
そこには部屋に入って来たときとは違う姿の、十分成人した男が水浸しのまま腰布一枚で座っていた。

「この水を介して飛ばなきゃいけない性質何とかして欲しいよね」

「霧をお使いになれば…」

「少しは頭使ってよ、空中に拡散させたら魔力でバレちゃうだろ…水だってギリなんだから…それより、どう?」

子供姿の時と違う横柄な態度で気だるげに文句を言いながら、状況を確認してくる。

「ヴェステが本格的に動くようです」

「それは水辺で聞いたよ…来るのは影? 隠者?」

「はい、影で《三》が来るようです」

「ほぉ、今の《三》来るんだぁ…一寸それは面白いねぇ! でも、奴が僕のモノを傷つける様だと困るなぁ~」

「予定では、旧《三》単独の時に襲うようです」

「それだと、そっちだけでの戦闘になるからアレ確認できないよね…そっちが始まる頃教えてよ。途中でフレイと2人になるからコッチにも攻撃入れてくれない? あっ、だけど気を付けてね! 繋がると吸われて干からびちゃうらしいから使うならどうでも良い奴使ったほうが良いよ」

「かしこまりました」

「…君はホントいつも冷静でつまんないなぁ…陽炎は?」

「御屋形様のご指示通りサルトゥスとリャーフへ再び赴いております」

「ふ~ん、まぁいっか…あっ、そろそろ戻るね」

男は立ち上がると、そのまま風呂場へ行き湯を被る。
再び部屋の浴槽の中に現れた時には、先ほどの半分の背格好の状態で湯につかっている。
かなり浴室を使う時間が長かったようで、流石にミーティが声をかけてくる。

「おいっキミア、大丈夫か? いつまでも入ってるなよ」

「は~い」

そこには可愛らしい7歳の子供の声と姿があった。

「ミーティ覗かないで下さい! フレイに言っちゃいますよ」

「??」

「ミーティが僕の事じっと見ていて怖い…お風呂まで覗かれた…って」

「更に誤解される!! 洒落にならないからヤメテクレ!」

子供らしからぬ企む顔が見栄隠れするが…子供らしい悪戯心も湧いてくる。

「なーんて嘘だよ~一緒に入る?」

「遠慮しとく」

「内緒にしてあげますよ~」

「ばっ、馬鹿言うな!! 坊主と一緒に入って何が楽しいんだ」

ミーティは真っ赤になって本気でむくれてベッドへと戻ってしまった。
キミアは浴室で1人呟く。

「そんなに感情的になるとモット遊びたくなっちゃいます…面白くって遊べるミーティは最高だな。僕のおもちゃ決定~!」

男子部屋で楽し気な一方的お遊び空間が出来上がっているのに対し、女子部屋は緊張した空気に包まれていた…モーイのイラつきが最大になりブチ切れる直前の切迫感に。

「そんなに気になるんなら、自分で魔力動かして使ってみれば良いじゃないか!」

「でも…使って良いのか分からないし…繋がるかもわからないし…」

フレイはウジウジしながら言い訳した。
遠見の鏡を手に入れてから、フレイリアルは眺めては仕舞い…眺めては仕舞うを毎日何度も繰り返していた。それを見ていたモーイはいい加減呆れ、溜息つきつつフレイリアルに苦言を呈す。

「待つだけで何か答えが出たことあるか?」

「ない…」

「自分で動かなきゃ何も変化が無いこともあるんだぞ、気になるなら動け」

それでもモーイに不安そうな顔を向け躊躇するフレイ。

「何が不安なんだ?」

「私が…私の力が…相手を動かしてしまっているのでは無いかと思うと怖い。自分の場所が消えてしまいそうで…怖い。タリクは繋がりを閉ざしても他の繋がりが残ると言ってくれたけど、それでも全て消えてしまいそう…一つ一つの繋がりを確認するのが怖い…」

フレイは、自身の在り処の漠然たる様に怯える状態だった。
モーイはその支えとなるだろう、拠り所となる者たちについてフレイに聞いてみた。

「一度聞いてみたかったんだが…フレイにとって大賢者様や旦那はどんな存在なんだ?」

「リーシェはずっと一緒にいたい人…アルバシェルさんは一緒に歩んでいきたい人。二人とも共に在ると言ってくれた人」

何とも判断しがたい認識のようだった。

「本当に大切で失いたくないものなら不安定なままでいるな…。もし、失くしてしまうんじゃないかと不安になるようでも、代わりにはならないがアタシだってニュールだっているぞ」

そう言ってモーイはフレイの手を握ってくれた。
そこには淡く繋がり、親愛の情巡る循環が出来上がる。
一緒にいてくれると言ってくれる人が、ここにもいると思うと心強かった。

「そうだよね…ありがとう…モーイ大好き。モーイが居てくれて嬉しい」

そのフレイリアルの言葉は、あらゆる者を切捨てて生きてきたモーイの心をも溶かす。
新たな濃密な繋がりが出来上がるのだった。



ニュールは情報を集めるために酒場を渡り歩く。
酔ったふりして情報を持っていそうな者に目星をつけ、此方から話を切り出し情報を手に入れる。
影の頃にも良くやっていた行動であった。
2軒目で、この界隈を回っている気の良さそうな商人をカモにする。

「アンタ景気がよさそうだなぁ」

ニュールは気軽に気さくに近寄る。

「そうでも無いよ~結構、世知辛いからな~」

「そうだよなぁ、確かに何か世の中いろいろと危ないよな…大盗賊までタラッサに出るようになったって他の奴らが噂していたけど本当かぁ?」

早速聞きたいことを振ってみた。

「そうらしいぞ~今度は水の本神殿に出るらしいってよ」

「オレぁ届けもんが終わったら、お参りしてご利益でももらおうと思ってたんだけど物騒だなぁ」

「何の願い事だい?」

予想外の所に食いついてきたので適当に答える。

「いい嫁さんが欲しくてなぁ…」

「今からかい? そりゃぁ相当お布施を積まないとなぁ、はっはっはっ」

結構素直に酷いことを言う商人だった。

「傷つくなぁ…」

ニュールは本気で心に涙する。

「泥棒騒ぎは王宮に…って話も有るから神殿は大丈夫かもしれんよ」

「まぁ、少しでも可能性を試すよ」

「おぅ、頑張れよ!」

酒場でのたわいのない会話に、紛れ込む様に気配少なく背後に立ち割り込んでくる女が現れた。

「お兄さん、嫁を探してるならワタシはどうだい?」

するりと急に現れた気配と声と香りに身に覚えがあり、構えない振りをするが完全な警戒態勢となり身体に力が入る。
背後に現れた女を見て、共に居た商人は絶句する。
うねる豊かな薄茶の髪に金緑の瞳、整った顔をした妖艶な肢体と過剰に艶かしい表情の美女…。

「こんな別嬪さんが申し出てくれるなんて、アンタ果報もんだよぉ」

他人事なのに涙し感動し…椅子から立ち上がり後退り倒れた。

「おいっ!」

「まだ殺ってないよ…ワタシの事誉めてくれたからね…」

一緒に話していた男を椅子に戻し状態を確認する。薬を使われたようだ。
女が言ったように生きてはいるようだ…今の所。

「今度はお前か?」

「そうよ…今回派遣されたのはワ・タ・シ。今、ワタシ《三》なの…アナタの後を継いでコノ崇高な数字を守っているのよ、凄く光栄だわぁ」

恍惚とした表情を浮かべ、血なまぐさく残忍に微笑む。

「アナタを連れ帰って絶対に旦那にしたいの…だから大人しく付いてきて」

「嫌、お前の連れ合いって人形ばかりじゃないか!」

「えぇ、アナタは毒や魔力では死にそうに無いから物理的にやらせてもらうわぁ…凄~く楽しいわよぉ~。まぁ、暫くは普通に生きたまま楽しませてあげるから安心して」

一人で勝手に興奮してその女は悦に入り悶えていた。
元々ニュールが影に所属している頃は《13》だった女…新しい《三》は毒使いだ。
かなりの危険人物だった。
この者の気に障れば、たとえ一応仲間である影であっても独断で即処分してしまう…影の中でも一番沸点が低い女。
それを実行できる力量を持つからこそ出来る事。
ニュールが阻止しなければ、10人以上の影が新《三》に処分されていただろう。

この女との関りは、最初は《一》からの指令だった。

「あれ、止めといて…任務な」

「任務って…」

絶対正式な任務では無いのに、その時のニュールは従わざろう得なかった。
隠者Ⅸが言っていたように、黒の…は《一》として影の中に潜んでいた頃から変わらない。
黒の者との話から得られる情報量は少ない上に、指令はいつでも突然だ。
仕方なく、小まめに《13》の行動を制御していた。
そして知らないうちに…執着されていた。
それから何度も挑まれ、その度に回避し、執着度が増し…今に至る。
あまり見つかりたくない、追われたくない相手だった。
よくよく考えると影の中でもキラリと光る際モノの相手ばかりをさせられ、マトメテ押し付けられていた気がした。
問題アリの者たちの担当はいつもニュールであった。

『なんで何処でも曲者ばかり相手にするのだろうか…』

未だ自身を普通の枠の中に置いているニュールにとっては、周囲の素晴らしき面々に溜息しか出ないのであった。
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