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第四章 タラッサ連合国編

12.秘めた思い

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後味悪き終わりであるが、取り敢えず予定通りプラーデラを出立する事が出来た。

プラーデラ王国、国王シシアトクス・バタル・クラースの印象は、世間に広まる姿とあの最初の落ちついた王の佇まいとの間にはあまり差異は無かった。

だが本質隠し世を謀る者など掃いて捨てる程存在し、上の地位になればなるほど皆が皆そうである事をニュールは経験上知っている。
今回の掌返したような激しい対応が、そう言った良くある類いの事なのか…何か違う要因があったのか…ニュールは知りたい所であった。

「此処まで見境無い攻撃をするとは…比較的、理性的で賢明な王に見えたのだが変貌した要因は何なのか…」

甲板で風にあたりながら1人考え呟いていた。

「多分、私がアルバシェル様に依頼され、此処に来た理由にも繋がります。巫女についての説明をします…」

タリクがニュールの呟きに答えつつ背後から現れ、説明することを申し出る。
ニュールは誰が聞くべきか考え、まず自身が単独で聞くことにした。

アルバシェルは、白の塔でのニュールの疑問にしっかり答えるために時の巫女へ確認したようだ。
会ったことのないアルバシェルの姉と言う存在であるリオラリオ…その人自身が不可思議な存在であるとニュールは思う。
大賢者と同等の時を過ごし存在する、謎を秘めた人物に興味が湧いた。
だが大賢者リーシェライルをも手玉に取り苛立たせる豪腕さを考えると、ニュールは心の中の余りお近付きになりたくない人物一覧に、未知ではあるがリオラリオの名を加えておくことにした。

タリクはアルバシェルから依頼された5点の巫女についての説明を行った。

要約すると1点目2点目は、回路が他者と容易に繋がりやすく、繋ぐ者との魔力循環起こしやすい。その繋がりに自身の感情が引きずられるが、それ以上に相手を支配してしまい時に強制力を発動させる。
話からすると完全な支配も可能な様である。
相手の存在そのものを自身に向けさせてしまうため、相手が勝手に理由付けをした情で執着してくる。

「つまり…無差別な繋がり作る様な人間関係や接触は控え、自制して過ごすべき…と言う事か…」

なかなか今のフレイリアルには難しそうな注文であるが、自身が被った嫌な思いを思い返せる今なら多少は頭の隅に残るかもしれない…と漠然と考えるニュールだった。

そしてニュールはタリクがその現場に居合わせたにも関わらず、ある程度まで静観していた事にも考え及ぶ。
もしフレイリアルがシシアトクスとの事を最後まで拒否しなければ、主人の思いを理解しつつも目の前で起こるであろう事を放置しただろうと察する事が出来た。
今回救い出したのさえ、ギリギリの判断であったのだろう。

「私はアルバシェル様の為にならない者ならば、何者であろうと排除します」

「あぁ、分かっている…今回は助かった。有り難う」

一応守護する者を救ってくれた事にニュールは感謝する。
今回ここへの派遣に応じたのも、対応しなければアルバシェル自身がまた勝手に動くことを察したからだろう。

説明の3点目は本人次第だから放置することにしたが、4点目の魔力蓄える性質は今後も狙われる厄介な理由となろう事をニュールも想定した。

5点目は多分…彼方の力を利用するとディリのように彼方との接点が増大し、巻き込まれると言うことと推測する。そして仮の巫女であったディリと違い本物の巫女が呼び寄せる魔力量は世界を破綻させる可能性を持つと言うことだろう。
はたまた何か未知の事態が引き起こされるのか…其れは分からない。

大賢者以上に面倒さを感じる巫女と言う存在。
そして、その存在はニュールが目指す一部の者だけが割を食う世界からの脱却…何者かに操られ弄ばれる世界からの離脱…理への接触にも関わる予感のような知識のような実感が根底から湧き上がるのを感じることが出来た。

ニュールは頭の中でまとめながら色々と考えを巡らせた。

『それにしても魔力吸収の事は1点目と2点目の注意点に含まれると言うことだろうか…他人巻き込むゆゆしき事態惹き起こす特性…の様に感じるが、注意事項に入れていない。徹底して自分達側からしか考えない潔さを感じ凄い…』

リオラリオと言う者の本質をあらわしている様な気がしてニュールは気を引き締めるのだった。
   
タリクへと問う。  

「2点目の、その呪縛の様な思い生じた者を解放する方法は?」

これはアルバシェルやリーシェライルにも起きている事態なのではないか…とニュールは疑ってしまう。

「自分で自覚するしか無いようですよ…激しく誘導された思いではあるけれど、本人の思いには変わらないようです。解呪出来るかは自分次第のようです」

淡々と答えるタリク。

「だから望みを叶えさせてしまうのも一つの手のようです…場合によっては憑き物が落ちたように気持ち薄れる場合もあるようですから」

アルバシェルは時の巫女からの説明を受けても、自身の思いへの疑念の欠片さえ抱かずフレイリアルへの思い変わらなかったようだ。
そんなアルバシェルへ、取り敢えず餌の様にフレイを与えてみる事を検討しているのではないか…と言う風にタリクの言葉は一瞬聞こえた。

「まぁ結局、感情の昂りの一種…普通の恋愛と変わらないんでしょうね」

黙って聞いていたが、何だかタリクの達観した感じがニュールをムズムズした気分にさせる。

『もしかしてコイツはこの歳からモテ男なのだろうか?!』

何だか負けたような悔しい気分になるニュールであった。

「さてこの内容をフレイにどの様に伝えるか…」

ニュールが呟き思案しているとタリクが述べる。

「結局、いつか伝えるべき真実なら協力助勢出来る時に伝えておくべきです。後で悪意をもっている者に辛辣に伝えらた時の衝撃の方が計り知れないのですから…」

フレイが呼び寄せた魔力で魔力暴走引き起こし人形となった者が存在する話を、悪意ある者に利用された事をタリクは後悔していたのだ。
その者のためを思い秘した真実で、他の者になぶり痛め付けられるように伝えられる…。そんな事が起こるのなら、見守り補助できる余裕ある体制の時に伝えた方が良いと考えた。

タリクの助言に従い、今回の内容は様子を見ながら説明を挟み…直接そのままを伝えた。

「…私が無意識に繋げたせいで引き起こされた事だったんだね…」

フレイリアルの瞳が曇りその奥に闇が蠢く。

「そっか…この今ある繋がりも全て誘因されて繋がるだけの偽物かもしれないんだね。そして自分が謂われなき思いと感じることさえ…自分が引き出しているかもしれない…」

悲しいのに出す涙が乾いて苦しさだけが増していく様なフレイの思いが、守護者の繋がりでニュールに入り込む。

その時タリクが進み出ていきなりフレイリアルを押し潰すぐらい強く抱き締めた…。
一緒に話を聞いていた、ニュールは目を見開き…抱き締められてるフレイ自身も固まり絶句する様な情熱的な包容。

「これが私が貴方に誘引された…私の情です…」

フレイリアルの耳元で甘く囁くように告げ、離れる。
そして綺麗で可愛らしいのに酷く男前な表情で、切なく甘い笑顔を作る。

「だけど此れは誘引された情であり、私が持つ本来の情は迂闊で愚かな貴女が頑張っているのなら手を貸して上げても良いでしょう…と言う感じの親愛の情です」

そして何時ものタリクが不敵な笑みを浮かべる。

「だから安心なさい。全ての繋がりを貴女が一方的に閉じたとしても、完全に消え去るわけでは無いのです…誘因された思い以外の思いもしっかりと息づいているのです」

フレイリアルの厭世的になっていた表情に安堵の温もりが戻り、安心感で満たされた表情になる。

「有り難う、タリク…」

今度はフレイリアルがタリクを抱き締めた。

「だから迂闊で愚かだと言うのです…」

そう言うと一瞬で体勢が逆転し再度抱き締められた上に、フレイリアルは頬に口付けまでされてしまった。

「ひゃっ!」

「もう少し良く御勉強なさい。私が抱いてるのが劣情だったなら貴女は今自ら危険に飛び込んだようなものなのですからね! 自身の事も、もう一度その足りない頭と注意力で熟考なさい!!」

雷を落とされてしまったがフレイリアルの心は闇に落ちることなく現実を受け止めた。ニュールはその一部始終に立ち会い、タリクの華麗なる女性の捌きかたを見守りながら思う。

『この綺麗で可愛いお坊っちゃんは、此の歳で一体幾つの男女の修羅場を潜り抜けて来たので有ろうか…うっ、羨ましい!』

ニュールは心に湧き上がる羨望を大人の矜持で握りつぶし、話の続きとして天空の天輝石の事を伝えてしまう。

「天空の天輝石だが…既に他の者に奪われヴェステへ送られたようだ…」

「「!!!」」

「クリールを迎えに行った時、隠者?…以前は影の《五》とか、あぁ…それ以前は《14》だった…とか名乗っていた者…お前らも見知る者の様だが、ソイツに移動させられたらしい」

フレイもタリクも一瞬思い当たらない…と言う顔をするが、次に伝えた特徴で直ぐ思い出し微妙な表情になる。

「一見、礼儀正しそうで気弱な青年風の容赦ない…だけど鬱陶しい位に五月蝿い男だ…」

思い当たった其の人物を鮮明に思い浮かべ、げんなりした表情になってしまう。
それを本人が知ったら…本気で大喜びするであろう。

「ソイツが王から奪い、王宮より運び出したらしい…しかも、オレらに罪は擦り付けた様だ」

「酷い…」

「上手いやり方ですね」

「フレイ、お前の第一目的である天空の天輝石だったが…本物だったか確認したのか?」

粗方はそこに潜んでいたタリクより聞き及んでいたが直接確認してみる。

「確かに国王の言う通り魔力は抜けて、崩れ落ちる手前のような状態だったけど…本物だった」

フレイリアルは思い出し唇を噛みしめる。
色々な思い巡るようであった。

「天輝を感じたし、空間魔力もあった…そして私が魔力を導き入れれば復活すると分かった」

ニュールはその導きいれる魔力が巫女より導き出すなと厳命されている場所からのモノで有ることが想像できた。

「其れは巫女から禁止された事だと分かっているのだよな…」

「……」

無言の回答に様々な思い込められてるのはニュールにも良く理解できた。
一応タラッサの大賢者に会うと言う目標に向けて取り敢えず動き、そこで情報を得てから先の行動を決めることには納得した。

だがフレイリアルの心は当然のように天空の天輝石へ思い傾くのであった。

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