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第四章 タラッサ連合国編

4.譲れない思い

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朝イチで出発したのだが、宿のオヤジに散々引き留められた上にこの先の街々でのお勧め宿屋と興業の為の紹介状を貰ってしまった。
かなり思い入れ深く見ていてくれたようだ。

「この国であの様な素晴らしい演目は見たことが有りません。是非他の者にも見せたいのです」

最初の時の横柄な態度は欠片もなかった。
あの態度は奴隷商と言う存在への態度であり、寧ろ偏見少なき宿屋の主だった様だ。

「ただ、お気をつけ下さい…公演を邪魔する者は無いと思いますが、王の威を借る輩が必要以上に魔力を貶めようとする流れがこの国にある事を…」

その流れに憤りつつ更に述べる。

「有るも無きも賜りし定めなのに、他を貶めるなど愚かであります」

内包者…魔石使いへの思い入れが有るようだった。



そのまま王都手前の街ミストまで行く。
このまま進めば乗船券さえ手に入れれば明日にはこの国と離れられるだろう。王都に滞在するよりは揉め事少なくなるはずと思い、この地に留まり宿を探した。
だが今までの街以上にこの街は厳しく、この面子での宿の手配は難しかった。

その為、皆で決を取る。
紹介を受けた宿へ行き興業をして泊めて貰うか、このまま街道沿いの空き地で野宿か…。
女3対男2で宿へ行くことになった。

「目の前に快適さが有るならそれを取るだろ!」

「今度はもっと上手く魔石を操る!」

「プラーデラ最後の夜ならちゃんと過ごしたいぞ!」

女性陣の快適選択思考…一部違う思考の者も入るが…安全を選択したい屁垂れな男達の意見を凌駕した。


決で選ばれた道に従い、紹介状を持って宿を訪ねる。予想外に高級で一瞬門前払いされそうになった。

「ブエナ氏の推薦…と言う事は確認できましたが…」

対応した副支配人と言う男が、横を向きプフッと言う聞こえよがしな失笑をした後伝える。

「当店での本興業は間に合ってますので他を紹介させて頂きます」

そして見下すように続ける。

「まぁブエナ氏の顔を立てる為、夕時初めぐらいに来れば前座の前座位なら出してあげますよ…あぁ、でも服装規定はお守りください…駄目なら入れることは出来ませんので…フフンッ」

「何処でも構わんが…」

ニュールは呟いた後、女性陣を見て言葉が止まる。
この時点で不穏な雰囲気だった。滅多に見せない高貴さでフレイリアルが冷たく言い放つ。

「時間通り伺わせて頂きます」

モーイも怖いぐらいに美しく微笑み丁寧に対応する。

「後程宜しくお願い致します」

イストアも見下し返す様に無言で見つめる。

「「こわい…」」

ニュールとミーティはその雰囲気に震え上がった。


紹介の紹介になる宿は、小さめの宿だがこざっぱりした良い宿であった。
もっとヤバイ所を紹介されると思ったので、皆安心した。
だが女性陣の臨戦態勢は解除されていなかった。

プラーデラ王国の正装を用意し美しく着込んだご婦人方。
サルトゥス程の露出度は無いがソレナリニ色々と出るとこ出す仕様。
フレイとイストアは胸を強調する服装であり、暴れたらはみ出すんじゃないか…と言う状態である。モーイは背中と尻が強調され、これまた後少しで外に出てしまいそうな気がした。全体的に強調する部分以外はゆったりした作りで、ご婦人方の自慢したい部位を晒す様な作りの服だった。
それに薄い。
サルトゥスは密着する様な線出す薄さだったが…ここの国のは肢体の影写し出す。
決して中身が見えてしまうわけではないのだが、布の中に写し出される影が心誘う。
ミーティはウホウホ顔だ。

『夜会服はどの国も何故こんなのが多いのだろうか…』

密かに悩むニュールであった。
ニュール達も正装と言える様なモノに着替えさせられる。

レースの付いたピラピラのズボンと上着…はニュールには余りにも似合わなかった。着せたモーイ自身が大爆笑していて、危うくニュールの硝子の心が打ち壊され別のひねくれた大賢者様が新たに出てきそうだった。
しょうがないので大賢者風長衣とローブを着せたら様になった。
人間着る服を選ぶ…と言うより着る服が人間を選ぶようだった。
ミーティは何を来ても程々だったので最初のリボン付の上着とズボンになった。


「なぁ、本当に乗り込むのか?」

ミーティは恐る恐る聞く。

女性陣がその言葉にいきり立つ。

「もらった借りは千倍にして返すぞ」

「報復の味は甘美だな」

「度肝を抜くのを披露してあげます」

時間通りの夕時少し前に最初に紹介を受けた宿へ向かい用件を伝えると、昼時に対応した副支配人が出てきた。
ニュール達の姿を見て若干狼狽える。

「あぁ、本当に来たのですね…。ならば半時の半分ほど前座の前座として入れておきますのでご自由にどうぞ」

相変わらず鼻持ちならない態度であった。

「えぇ、勿論自由に遣らせて頂きますわ」

フレイが極寒の態度で対応し、その者が存在しないかのように目にも入れず言葉だけで扱う。

「そこまでの御様子なら問題無くこなせそうですね…」

そう言って冷たく微笑む副支配人、まだ強気であった。
案内された場所と時間は、普通の明るい場所であり食事を摂る時間だった。
普通ならとても公演を…前座であっても行うような時間帯では無い。

「「「「だが場所と時間を貰ったなら本気を出すのが実力ある芸達者」」」」

いつの間にか皆、自分が素人なのを忘れていた…しかもイストアまで参加してる。

『オレ達、決して本職じゃ無かったはずだが…』

ニューもだけがチョット冷静なため、この勢いが恥ずかしいが引きずられて遣るしかない状況。

最初は食事だけしか目に入って無かった者達から、食事へ向ける興味を全て奪ってやった。
短い時間を更に加速させ、尚且つ余韻続く異空間へと放り込み一瞬で立ち去る。

満足感と共に宿に戻り、その宿で興業を行う。
時間と共に客が増え溢れるほどの大盛況。
あちらの公演の途中で抜けて、此方に来て頂けたお客様が多数見られた。高揚する皆のシテヤッタリ感が半端ない。
宿の主だけが不思議そうな顔で慌ただしく立ち働いていた。

そんな中で、突然公演の終わり際にフレイが放心状態となる。
そこからフレイの魔石による演出効果が切れてしまったので、ニュールが適当な光の効果を作り出し何とか終了まで導いた。
固まったまま動かないフレイにニュールが尋ねる。

「どうしたんだ? 大丈夫か?」

「…ニュール…大変! ここの国の王宮に天空の天輝石が有るって言ってるのが聞こえた…」

「!!!」

今まで情報の欠片さえ出て来なかったフレイリアルの第一の目的の初めての情報。



その時、外から踏み込む明らかに場違い感のある、ならず者的人相の男が乱入してくる。
舞台中央に居るミーティとモーイとイストアの所へイチャモンつけに行く。

「おいっ、お前ら他の宿から客を奪い取って豪勢に遣ってるって聞いたが、調子に乗りすぎは良くないんじゃぁ無いか?」

「奪い取っては居ませんよ…気に入ってわざわざ来てくれた方々は居ましたが、貴方もそう言う方ですか?」

「それを奪ったって言うんじゃぁ無いか?」

お互い疑問形での応酬、らちが明かない。
相手がソロソロ切れそうな感じなので皆様に迷惑がかからないように、ミーティが強制的に退場願った。
更に反対の端に明らかに観賞するためでは無さそうな人が居た。
ニュールはフレイのその話を手で制止し、先に怪しい人物へと事情を伺いにお邪魔することにした。

そこに居たのは知らぬ者だが知っている者だったようだ。
徐に立ち上がったその者は結界なども張り、万全の戦う体制整えていた。
だがニュールが体内魔石の力をほんの一瞬指先に集めた状態で結界に手を伸ばすと、結界など始めから存在しなかったかのように通り抜ける。
その者は一瞬のうちに首根っこをひっ掴まれ確保された。
確保された者は悪態つく。
一応、まわりの迷惑にならないよう静穏結界と隠蔽結界を重ねておいた。

「衰亡の賢者め! 我が国に…今度は王都に何をするつもりだ」

その言葉が丁度結界に触れたか触れないかの位置に近づいていたイストアには聞こえた様で、動きが固まる。

「ニュールが衰亡の賢者なの?」

イストアの父親が過ごしたシェルテの街を殲滅したのが衰亡の賢者であったのだ。
ある意味父親の仇とも言える存在。
無言で俯くイストアの表情は読めない。
ニュールはイストアが聞いてきた意図が読めず、同様に固まる。

「じゃあ、親父を…シェルテの街を…殲滅したのはニュールなんだね…」

「!!!」

イストアの言動で動揺し、一瞬力緩むニュールの手から捕らえた者は逃れ一目散に去る。
いつか誰かから言われるだろう…ニュールは、こんな日が来る事は想定していた。
討ったなら討たれた者の縁者から怨み買うのも必定、受け入れる覚悟もあった。

「怨んではいない。だが、勝負してくれ…」

面を上げたイストアの曇りなき瞳は、ニュールを無自覚に叩きのめす。
だがニュールにとって、その言葉は予想外であった。そしてイストアの表情には言葉通り怨みなどの負の感情は無く、決意の表情だけがあった。

「闇時に入る時間にここで待つよ」

微笑みながら皆の所へ戻って行く。
ニュールは、審判の時至るまで首洗い待つ心情だった。


だが容赦なくフレイリアルの持ってきたややこしい話も聞かなければならない。
フレイリアルの説明能力は行動を共にすることで把握していた…。

壊滅的に要点なく話し、とりとめなく話が他へ及ぶ…そして話を聞くものは無我の境地を悟る。心身の鍛練にはもってこいの試練。
イストアとの勝負の前に討ち果てる覚悟をせねばならないかと思った。

所が予想以上に理路整然とフレイリアルが詳細を語り始めた。
途中から入ってきた男女の組は、公演荒らしに行った宿から移動してきた者だったそうだ。

「あの宿に前座の前座で入った時、丁度巨大な骨付き肉がその卓上に運ばれてて…あの上品な場所でどうやって食べるか気になってずっと見てたの…」

話が逸れそうだったがフレイリアルはグッと我慢した様だ。

「その者達が此方に移動してきて向こうの演目の話をしているから、気になって聞いていたんだ」

その者達の会話は、むこうの宿で行われた興業の演目の酷さから始まった。

「全く酷いもんだったよなぁ」

「本当に時間を返して欲しいぐらいよね! あんなのただ灯りが点いたり消えたりしてる中で踊ってるだけよね」

「あぁ、ワザワザ凄いの見られるって王都から来たのにな」

向こうの宿で興行した一座は一応国内では有名所であったらしい。

「本当よね! でも貴方がこの一座の興業場所聞いててくれて良かったわぁ」

「余りの凄さに失念してしまいそうだったけど、何とか君のためにね!」

女を一生懸命持ち上げる努力をしている。

「そう言うしっかりしてる所…好きよ…それにしても、この魔石での演出って本当に凄いわね、特別な魔石でも使ってるのかしら?」

然り気無く喜び表す言葉頂いたのではと思われるが、男は照れて流してしまった様だ。

「前に魔石夢幻魔術団が書いた本を読んだけど、基本的な色を出す魔石を操り映像にするらしいよ」

「普通の魔石なのね…吃驚だわ!!」

ちょっと蘊蓄語り、自分の株を高める作戦か。

「尤も、城の奥底に眠ると言う天空の天輝石でやったら凄いの出来ちゃいそうだよね」

「噂の魔石ね! 以前から噂だけは聞いた事があったけど、王様も何でそんなもの急に引っ張り出して来たのかしら…」

女は耳にする王宮の噂に目を輝かせる。

「ヤッパリ、ピ…」

塞がれた口から、数瞬後漏れ出る吐息。

「ふぁあぁっ…もうっ、いきなりなんだからぁ!」

艶めく女に、魅惑的に微笑む男が手を差し出しその場から消えて行った。

『あれが大人の恋人の…』

フレイリアルは、ふと思い出す。白の塔を出立する時、アルバシェルから受け取ったソレも同じものなのでは…と。

天空の天輝石の事とソレを考えてしまった事で混迷し思考停止状態となり魔石の操作が止まったのだった。


フレイリアルにしてはしっかりと把握し詳細を見て話していたので感心すると理由を述べる。

「前にタリクに怒られたから…」

タリクに説明を求められた時に、支離滅裂な話をして酷く怒られた上に指導されたらしい。
思わず周りからの助力で成長する姿を見て微笑ましい気分になる。
だがニュールは思ってしまった。

『…って、これって親父気分ってやつだろうか? いやいや、その前に彼氏気分とか旦那さん気分…相手居ないし味わって無いから!!』

空しい心の叫びは大賢者と自覚しようが、重い展開の時だろうが消えないのであった。
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