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第四章 タラッサ連合国編

3.思ったより順調かも

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アルバシェルは珍しく時の神殿でリオラリオに謁見を申し込む。
即日許可が降り、久々に対する。
相変わらず艶やかに華麗なる存在として現れ、強制することなく周りに膝を折らせる時の巫女リオラリオ。
既に今までの報告は出してあるが、その瞳は全てを…未来をも見透かしているようでアルバシェルは小さな恐怖を感じた。

「貴方から謁見を申し込むだなんて珍しい。天輝が街に降りるんじゃないかしら!!」

大袈裟に驚くリオラリオだが、質問の内容は既に把握しているのではないかとアルバシェルには思えた。
姉の下にもお人形は多種多様に存在し、世の情勢を的確に察知していた。
そんな姉が単刀直入に述べる。

「フレイちゃんの事でしょ?」

情報によるものと感によるものの違いはあれど、直接的な所はフレイリアルと似ている…と思った。
姉…と言う存在だが、記憶に残る中で考えても一緒に行動した姿が余り思い浮かばない。寧ろ姉の婚約者だったリュマーノと一緒に遊んだ記憶の方が鮮明だ。
つい恨み言では無いけれど其のままを伝えてみる。

「私は子供って昔から苦手なのよ…例え血を分け合った人間であってもね」

リオラリオは、さっぱりキッパリ言い放つ。

「あなた自身への執着は全く無いの…忘れないでよね…」

それはともすれば意に沿わぬなら切る…と警告しているようにも感じる言葉。他意無き事と分かってはいるが心冷える。
意に反すること無く過ごすならば、気を使い目をかけてくれる。だが決して完全に心緩し甘えて良い存在で無いことは把握していた。
目的の為ならば非情になれる人だと言うことは昔から知っている。


時の巫女に謁見を申し込むことになったのは、白の塔でニュールと短時間だが2人で話した内容のせいだった。確実に答えを得ておく必要性を感じたからだ。
ニュールから訪ねられた。

「お前は巫女と言う存在を知っているか?」

ニュールの言う巫女が役職としての巫女を指しているのでは無いことは直ぐに分かった。
大賢者がそれぞれ所有する情報礎石は、ニュールとアルバシェルの持つ物で、それぞれ表面上の内容は異なる。だが重なる部分が有ることや、更に奥に沈めば共通のものとなってくるであろう事は2人共本能で理解していた。

此の質問が身近な者へ焦点を絞った探りである事は、アルバシェルも一瞬で理解した。

アルバシェルの回りには確実に本物である巫女がまず1人。姉であり時の神殿の祭主である時の巫女リオラリオがいた。
そして状況から察するに、そうであろう者について確認するためにニュールは訪ねたのであろう。

アルバシェルの推察通り、ニュール自身が持つ魔物魔石の記憶では得られない情報がある。由緒正しき賢者の石を持つアルバシェルの記憶の記録や解析された情報礎石を参照すれば、何らかの情報が即座に得られるのではないかと思ったから尋ねたのだ。

ニュールは、白の塔一帯を包む霧作る防御結界陣を解除したのはフレイリアルであると本人より申告を受けた。
そしてディリの言葉を思い出す…巫女が陣を解除した…と。
疑問符を付けながらも絡まり繋がる。

巫女と言う存在について、ニュールは塔に居る時にディリから聞いた話を思い返してみる。
魔石なく直接彼方と繋がり魔力を導き出せる者。
ディリ達は大賢者により作られし者と言っていた上に、もともと持つ魔石をはずし偽物の巫女になったと説明していた。
ディリ達は偽物の巫女…と言う存在。

『…では、本物は?』

エリミアの地でのフレイリアルの状況をニュールは思い出す。
王位継承権ある王族であるのに体内魔石持たず、守護魔石で守護者契約を結ぼうとした事。
魔石持たぬ者なのに大魔力を容易に収束させ吸収していく。
他人の放った魔力を吸収してしまう存在。
巫女と言う存在自体に馴染みの無いニュールはアルバシェルに尋ねてみたのだ。
アルバシェルは察し答える。

「わが姉は役職名としてでなく能力的に巫女だ。そして、もう1人は条件と能力的に巫女だと判断できると思う…だが詳細まで検証した事は無いので確定は出来ない」

「そうか…ヤッパリそうだよな」

ニュールはその言葉に納得し呟く。
それでも、その存在が何者であるのか…今後にどう影響するのか…謎のままだった。
中途半端な存在は先を予測しづらくし、危険を回避しにくくする。

アルバシェルも自身の中に渦巻くフレイリアルへの思いと、同時に沸き上がる巫女と言う存在の不確かさから巻き起こる不安。
それを解消するためにリオラリオを訪ね教えを乞う事にしたのだ。

「フレイは…巫女…なのか?」

「そうよ。あなたにだってあの子の中身が見えるでしょ? 回路は有るけど魔石は無いはずよ…私と一緒よ…」

そして続ける。

「私が時であの子が…大賢者も揃いつつ有るわね…。でも指標が負に傾いているわ…切り離しを進めないと事象が混迷し望まぬ方向に進み目的が妨げられる」

そこには冷徹に目標へ進む、周囲との繋がりの欠片もない時の巫女の目があった。



イストアの集落が移住した村から先は、王都へ向けて人が多くなる。ここから先は嫌でも街道の上を行くしかないから移動するものが集まる。
タラッサへ行く船の出るリネアル汽水湖までは、急いでも後2泊ぐらい必要であり街に滞在せねばならないだろう。

「そう言えば、お前ら旅芸人の一座なのに興業はしないのか?」

イストアに痛い所を突かれる。草原でヴェステに追われている話はしたし、戦う姿も見せたがこの設定は頭のなかから消えなかった様だ。

「あぁ、ここは今まで行った国と違い、魔力扱いに厳しいだろ? オレ達のは魔石使う一座だからこの国での興業は諦めたんだ…許可とか大変だろっ」

「見たかったのに残念だ…」

本気でガッカリしてそうなイストアに少し申し訳無くなった。

ここら辺は街と街を半日ほどで渡れる場所のせいか、魔力感知板が街道沿いにまで設置されていて気が抜けない。
夕時に差し掛かる前に宿を決めるため、もう少し進めそう…と言う手前の街で宿を取ろうと歩みを止める。

「悪いが泊められん」

最初の宿でやはり断られる。
人相風体をフードで隠し、有耶無耶にして通過しようとするが甘くない。
通常の宿は危険を避けるため、宿に入るときフード等外す事を強いられる。逆らえば用心棒が出てきて摘まみ出されるだけだ。
揉め事を避けるためには通常宿への宿泊が必須だと思ったので、毎回表の宿を回っていた。

「あぁ、奴隷連れなら裏で探しな…」

だが、ここでも言われてしまった。
確かに裏宿…訳ありの者達が泊まる宿になら楽に泊まれるだろう。だが、ぼったくられるしヤバイ奴らに囲まれるのが目に見えている。

『そんな所に泊まったら…戦いに至り…根絶やしにしてしまい目立ってしまう…』

ニュールのそこいらの雑魚には決して殺られる事は無いと言う、傲慢にも思える考え…だが事実でしか無いので誰も文句は言えないだろう。
次の行動を思案していると、横からイストアが口を出してきた。

「こいつらは国々を流離う旅芸人なんだってよ! あたしは偶々、草原から同行しているだけなんだよ」

自分が加わった事で宿泊を断られているのでは無いかと思ったイストアが気にして間に入ってくれたようだ。

「魔石使う旅芸人なんだってよ! …そうだよなっ」

「…あっ、あぁ」

その勢いに思わず返事をするニュール。

「ほぉ、魔石使いの旅芸人一座か…それなら話は別だ!」

宿屋のオヤジの言葉に疑問符を浮かべると、オヤジが申し出る。

「なら泊めてやるから、代わりに今日ここで興行してくれ!!」

「???」

宿を得るかわりにニュール達は厄介ごとを背負い込んでしまったようだった。


宿屋のオヤジ曰く、元々依頼していた者達が国内の隠れ魔石使いだったようで、今朝ほど師団に捕らえられ連行されてしまったそうだった。

「魔石の使用許可は取ってあるから大丈夫だよ。ほどほどのモンだったら宿代もチャラにしてやるよ」

宿のオヤジは太っ腹そうに言うが出来次第の様だ。
2部屋ほど用意されたので一座の者以外へは興行内容は秘密と言うことで、申し訳ないがイストアを残し一部屋に集まる。

「すまん! 何だか本当に興行することになってしまったようだ…」

ひたすら申し訳無さそうに話すニュール。

「2度目だから大丈夫だぞ」

モーイが軽く受け流す。

「今回もナイフ投げか?」

ミーティが今回の演目の確認をする。

「あぁ、主な演目はそのままで良いだろう。一応魔石使い一座って事で気に入られたから、少し効果も…」

「私が遣る!!」

手をピンと前に挙げ、興奮ぎみに乗り出し主張するフレイ。
ずっと夢に見てた魔石による幻想的な演出の披露…絶対に遣ると譲らないフレイに皆諦め顔で許可した。
あの小悪魔風、艶麗なフレイの姿を再度見られると期待したミーティだけが残念顔だった。

ニュールは座長兼護衛で何もしないのかと思ったら、小さな笛を取り出した。

「タリクが遣ってたと言う音楽担当に入るよ」

軽く言う。

「本当に吹けるの?」

皆が思ってても口に出さないことを相変わらずフレイはズバリと聞く。

「それなりだがな…」

そう言って軽く演奏し始めたのは、何処か懐かしい感じの…風を感じるような…流麗な音楽であり、景色浮かぶ様な演奏だった。思わず皆が聞き入るぐらいの水準だ。

『何このオヤジの装備! あんなに強いのに戦闘特化仕様じゃないのかよ』

心で呟いたのはミーティだけじゃ無かった。

『あぁ、窓辺で笛の手解きを受けたら素敵だぁ~その後、他にも手解きを…最っ高!』

モーイの妄想が爆発し、脳内世界でニュールとの夢見る様な甘い世界が出来上がっていて現実世界から旅立っている状態だった。
フレイは口から疑問がそのまま出ていた。

「ニュール…そんなに色々出来てモテそうなのに何でモテなかったの?」

その純真で直接的なフレイの言葉に致命傷が与えられる瞬間、ミーティはニュールの口からゴフリッ…と心の痛み共に魂抜け出すのを見た気がした。

「…知るか! オレが理由を聞きたいわ」

痛々しいニュールの言葉だけがコダマした。


夕時2つから公演をはじめる。
今までやってたと言う魔石使い達の演目も、チョットした手品と魔石による効果だったようで大差は無いと思えた。

だがフレイが遣ったのは正しく魔石夢幻魔術団の幻想奇術だった…いやっ、それ以上かもしれない。
今まで禁止されて鬱憤の溜まっていたフレイは、ここぞとばかりに遣り放題にヤラカシた。
内容は自身が体験した天輝降りる瞬間を感覚で表した様だが、見たこと有るものでさえも凄いと思うのだから見たこと無いものには衝撃だっただろう。

光に包まれ貫かれ辺り一面に立ち上る光の粒。その中に現れる様々な輝き持つ動物や魔物や景色が一所に止まらず飛び交う煌めく立体的な映像。
だが再現する映像としては最高であったが魔力の扱いとしては無駄な所に余計な魔力がダダモレ状態でありニュールがその魔力を回収し影響及ぼさないよう片付ける。
自身の担当する演奏以上に苦労してそうだった。

モーイ達の離れ業的曲芸も、映像により飾り立てられ一層派手に仕上げられる。それに見合う高い完成度を求められてしまうが対応した結果、皆して最高峰に位置できるような演目を作り上げてしまった…素人一座なのに。

「いやぁ、あなた方がこんなに凄い一座であったとは感激です…」

宿のオヤジの言葉遣いが丁寧になっていた。

「「「……」」」

一名以外は絶句する。

「いやぁ、そんなに気に入って貰えました? 遣った甲斐がありましたよぉ~」

フレイだけがドヤ顔で返事しながら皆を見回す。

「是非、もう何日か興業を…お部屋ももっと良い場所をご用意しますので…」

ニュールは申し訳なさそうに宿屋の主人の申し出を丁寧に断り、部屋に戻る。

「明日朝一で出発するぞ…それほど規模の大きくない街で噂が広まれば旅への支障となりかねない」

フレイも、つい調子に乗って目的を忘れて居たことに気付く。

「…ごめんなさい」

その落ち込む様に、つい甘々父さんなニュールが出てくる。

「まぁ、もう少し考えろ。…だが魔石の扱いは随分と上手くなったぞ。頑張ったんだな」

何時ものように頭に乗せてくれた手が嬉しくてフレイは自身の気持ちが安定するのを感じた。
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