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第四章 タラッサ連合国編

2.思わぬ繋がり

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改めて小屋の外回りを破壊したお詫びをする為に、揃ってイストアの前に立つ。

「取り敢えず、まずは謝らせてもらう。済まなかった!」

一応皆神妙な顔をして並ぶ。
イストアは此の惨状…と言うか結果と言うものに感嘆の言葉しか示さなかった。

「あんた達、凄いなぁ! 吃驚したよ」

その言葉に再度謝罪を述べ補償についてニュールは切り出す。

「本当にスマン! 修復は何日掛けてもやらせて貰うから勘弁してくれ!」

その言葉を受けて、イストアが有り難い事を言ってくれる。

「あぁ、気にすんな。修復も要らないよ」

「???」

余りにも都合が良すぎるため、疑問を浮かべるニュールに説明してくれる。

「ちょうど此の集落は今日一杯で隣村へ全戸移住予定だったんだ」

「じゃあ、イストアも?」

フレイが気になり速攻質問する。

「うんにゃ、なかなか決心出来なくって…あたしは此処に残るつもりだったんだ…」

引っ越し予定だから直さなくて良い…と言うのかと思いきや残る予定だったと言う。

「じゃあ、直さないと…」

モーイも気になり口を出す。

「いやっ、直さなくて良いから一つ願いを聞いてくれ…」

修繕以外の願いを代償として求めるイストア。

「??」

恐る恐るニュール達はイストアが申し出る内容を聞く。

「あたしを一緒にタラッサまで連れてってくれ…」

「!!!」

「やっと決心したよ!」

決心したイストアが語る。

「あたしが魔石持ちなのは分かっただろ?」

皆頷く。

「だからなんだ…」

そしてイストアは、此の国のしきたりや制度…そして自身の事などを教えてくれた。


此の国では基本魔石持ちになったらヴェステ同様、国に召し抱えられる。
石授けで正式に魔石持ちになった者はその場で、それ以外の雑魚魔石などの内包者となった者は立年の儀までに申し出るようになっていた。

そして内包者は全てプラーデラ王国魔力特化師団へ所属することになる。

だが雑魚魔石持ちは例外があった。村や集落等の小集団にも防衛用魔石使いを1人置いて良いことになっていたので、その任に就くならば入団を免除される。


イストアはこの集落の護衛魔石使いとして集落で雇われていたが歓迎された存在では無かった。

イストアの母は7の年程前に再婚し集落の長の家に入る。
元々集落の役付きの家に生まれ、将来的には長の嫁と決められた者だった。母は村が盗賊に襲われた時に拐われ、助け出した父と縁を繋ぎ結婚することになったのだ。
だが、それさえも集落に入り込むための父の茶番では…と言われていた。
結局イストアが4歳の時、噂で父が街ごと殲滅されたと聞いた。実際に帰って来なくなりの母と共に2人で街外れに住むことになった。
その時点で集落に戻ることも出来たはずだが、何だかんだ母は父を待っていた様だ。

イストアは父と同じ内包者であった。儀式によるものでは無い、雑魚魔石によるものだったので国から直ぐに召集される事は無かった。
選任の儀の後すぐにイストアは集落から問答無用で魔石使いの弟子に出される。
そして、5の年ほど経過し修行から戻ると強制的に防衛壁の護衛魔石使いに任命され…母には2度と会わせてもらえなかった。

今回の集落丸ごとの移動も直前まで聞かされず、暗に残るか出て行くかの2択しか用意されなかったのだ。
残ればいずれ国から召集がかかり自由無き身となる…若しくは父と同じように身を落とし自由を得るか…。


プラーデラ王国は魔力由来資源に乏しい。
魔石も内包者も純粋に国内で生まれたであろうモノは希少だった。
それ故、補うために外国よりそう言ったモノ達が流れてきた。
流れてくるモノは質に問題が有ることが多く、街を荒らし市場を荒らす。

見かねた先代国王が動いた。
国王自身も内包者では無かった。

「魔力は共有されるべき資源。プラーデラ王国内で独占は許さぬ。異議あるものは我の前にて申し立てよ!」

そして魔石使いの一元管理と魔石市場の国営化を図った。
そこから街や村、集落などの大きさによって存在して良い魔石使いの人数を取り決め、街中往来での魔力行使を禁じ、草原での魔力による戦闘などを強く禁じた。

更に現プラーデラ国王シシアトクス・バタル・クラースが先代の意思を継ぎ、国の方向を定める。
この国王は内包者であり黄玉魔石を内包する魔力扱う力強き者であった。
だが魔力の縛りなく暮らせる国を目指す。

「魔力など無くとも成り立つ国を築こうぞ」

そして国をあげて魔力で維持する生活からの脱出を試みる。
古文書的文献を塔であった遺跡状の建物より持ち出し、王宮の奥深くに保存してある。それらを紐解き利用し、魔力なしで動くように様々な物を組み替えてきた。

だが一番重要な水資源の管理…水の組み上げなども魔石に頼っている。
水資源の管理だけは文献を参照し色々研究し試みたが、魔石に完全に頼るより方法が見つから無かった。それでも魔力に頼らなくても成り立とうとするプラーデラ王国が、少しずつ出来上がっていく。

現状どうしても代替の効かない水資源管理用魔石を調達するため、魔石供給源となる砂漠を求め戦う。
それに伴い内包者は見つけられると、プラーデラ王国魔力特化師団へと加えられるようになった。対外的な地位と待遇は保証されるが、戦場を渡り歩かされる過酷な部署が多いと言う。

「あたしはならず者にも軍人にも成りたくない! だから魔石使いの多いタラッサへ行く。そこで本当に遣りたいことを探してみたいんだ」

イストアは希望に満ち溢れた瞳を輝かせ説明した。

ニュールは悩む。
自分達が追われる身であることなど諸々の事情説明がしにくく、同行し却って危険にさらしてしまう可能性がある。
返事が出来ず悩んでいると他から返事が返される。

「いいよ! 人数増えた方が楽しいよね~」

答えを返したのは勿論あまり考えないフレイリアルである。

「おいっ! 簡単に決めて巻き込んだら…」

「だってニュール言ってたよ、何もしなくても物事は進むって…だから一緒に行ってみるのも有りなんじゃないの?」

フレイは何だか違う事を言った時の内容を持ち出した。

「それとはまた別問題…」

モーイがニュールの発言を押し潰す様に言う。

「確かに旅に危険は付き物だからな~」

「何したって、来るときは来るもんな!」

そしてミーティまでも同行に同意する。ニュールは溜息をつきつつ答えた。

「皆の許可が降りたなら反対のしようもない。だが、オレらもチョットした事情でヴェステ軍から追われる身。何が有っても自己責任って事で良いなら、タラッサまで同行することに異議はない。寧ろ、街や国の状況を教えてもらえると有り難い」

こうして一名、旅の友が増えた。



先日のインゼルの白の塔の一件で大量の隠者が消えた。
細かいことを言えば隠者Ⅲ~Ⅸが消え、現地にいた内包者1000名の内400名程が消えた。

隠者に関しては実質半数以上をお人形として確保したそうであり、戦力としての問題は少ないようだ。だが細かい調整が必要な潜入や工作活動は、人数が減った分かなり過密な調整と振り分けになってくる。

「明日からお前、隠者Ⅸな…だからその依頼やれ」

指令を受けるために呼び出され、会いたくもない黒の将軍にまた会ってしまった。
しかも隠者になったばかりなのにⅨの番号を言い渡される。
ちらりと目に映った依頼も、あの会いたくないお嬢さん関連のよう…。

『ボクはボクが関わりたくない奴ばかりに関わることになる』

「あのぉ、ボクはあのお嬢さんに警戒されているんで難しいと思うのですが…」

機先を制し指令を渡される前に申し出るが、あえなく撃沈。

「国王陛下からの勅命。決定事項だな…」

相変わらず黒の将軍からの指令は、「だからどうした!」と叫びたくなる情報量の少なさ。
いきなりの指名による指令。

“エリミア第六王女の略取、又は仲間への紛れ込み、最悪は一時連れ出し…その場合、要事前連絡”

どれもこれもな内容である。標的との相性なんて微塵も考えられてない。
今は守護者である元《三》も居る。

『最後の連れ出し条件の要事前連絡って…機を見て行動するのではなく罠限定かよ』

突っ込みどころだらけの指令だった。

『あのお嬢さんに会ってから僕はついてないと思う…』

隠者Ⅸとなった者はしみじみと思う。
思い当たる不運について述べれば止まらなくなる。
例えば標的の息の根を綺麗に止める所で抵抗されたり、逃げられたり、嫌な任務に赴かされたり…数え上げれば切りがない。

自室に戻った後、溜め息をつきつつも黒の将軍からもらった標的の予想行程表を確認する。

「ヴェステにいる間に何とかしちゃえば面倒が無かったのに…」

ブツブツ文句を呟きつつ目を通す。

「ふーん、陣は使わないんだ…しかも砂漠経由ではなくプラーデラから船ね…」

地図の上、リネアル汽水湖を指差した後隣へ指を移す。

「じゃあ此処で一度ご挨拶しに行こっかなぁ~」

指し示したるは王都ポタミ。

「あぁ~皆にあった時の嫌そうな顔を想像するのも、チョットだけ快感ですね」

口の端を歪め、舌で舐めつつ…愉悦の表情浮かべる隠者Ⅸ。

「どうせなら王宮内にでも押し入ってもらって、お尋ね者にでもなってもらうと彼らの形見が狭くなって楽しいかも知れないかなぁ…誰かに消えてもらうってのも有りだし…何しろ消しそこなってますしねぇ」

楽しい思索のお時間だったのに、ある人物が浮かべるしたり顔が脳裏にチラつく。

「あっ! 何~か嫌だな、あの御方に踊らされている感が半端無いや…マジで理解されちゃってる? 気持ちわるぅ~吃驚だわ!」

隠者Ⅸは追うのも観察するのも大好きだが、追われるのも観察されるのも大嫌いだ。

「まぁ、仕様がないですね…あの御方が僕より上手なのは良く理解しちゃってますから…それぐらいじゃ無いと付いて行く気が起きませんからね」

目を細めにっこりと残忍に笑む。

「期待通り、まずは中に入って踊ってヒッチャカメッチャカになるまで、よぉーくかき混ぜて標的ちゃん達には疲れてもらいましょう」

楽し気に行動を始める隠者Ⅸであった。
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