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第三章 インゼル共和国編
4.白い塔の中を進む
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此の白い空間で起き上がるのは何回目だろう。
そんなことを思いながらニュールは起きがけの微睡みの中を揺蕩う。
塔の空間は防御結界陣により中からも外からも閉じられていた。
まるで切り離された世界に存在しているかのような気持ちになる場所だった。
外からの侵入はおろか、其処に有ることさえ普通の人間に認識することが出来ないようになっていた。
朝と分かるのは、遠くで聞こえる時告げの鐘と茜指す日の光…とディリの襲撃。
今日は最初見たときの年齢で来た。
「ニュール、私が起こしたい。なのにもう起きている。早い!…ジジイか?」
「はいっ、身体はジジイです…中身は26…あぁ、もう27だけどな!」
「26…ディリと一緒。嬉しい…」
ここに来てから毎朝遣ってくるニュール誘拐実行犯は布団の上へ飛び乗り飛び付き誘惑する。
毎回様々な年齢層に変化してやって来る。
「ニュールの好み把握するため」
研究熱心な様だ。
「結果報告。10歳、16歳、26歳、37歳で反応があった…多趣味」
余計なお世話の分析結果だ。
「そりゃ、みんな知り合いの年齢だよ」
言い訳するニュール。
「ディリ、見た目7歳、中身26歳。反応する?」
「出るとこ出てない奴に興味有るか!おれは手から溢れそうなぐらいのボンっとある方が好みなんだ!確かに無理やり迫られてドキドキした事はあるかもしれない…だけど10歳や16歳に興味って…オレ的にはナイ!」
ニュールはディリへの返事はせずに心の中で更なる言い訳した…つもりだった。
だが、ディリの姿が瞬時に大人の姿に変わる。
「ただの知り合いには反応しない…ディリ感じるの衝動…心の強い動き」
心の動きに敏感だから色々把握するのだとニュールは納得した。
寝起きの布団の上で大人の姿のディリに手を伸ばし頬を撫でられると若干心がザワつくが、コレも察知される可能性があるのを考えると少し後ろめたい気分になる。
塔では毎日毎日毎日…健康的で文化的で至れり尽くせりな生活が用意され…規則正しく過ごす。
基本、日中は塔で文献を漁る毎日であり、文献への対応に飽きてニュール自身が辛くなるとニュロが直接遣ってくれた。
『これが切り替わりなのか…』
フレイが話した大賢者リーシェライルの様子を思い出した。
「嫌になるとレイナルになってた」
そんなフレイの言葉を思い出し、少しずつ大賢者の生活に慣らされている自分を自覚する。
周囲にある魔力を感じ、息をするように操れるようになってきている…自身に内在する力を少しずつ引き出し馴染んでいってしまうのも感じた。
そしてニュロの中にある記録と言うような情報も、繋がる部分の多い記録は参照できる。ニュールが知らない子供の頃の父親や、あの鬼畜のような魔石研究所の凄惨を極めた研究内容など…。
だがニュロを包む光と同じモノで包まれた箱だけは相変わらず開けないし、そもそも近付けない。
自身の中であるのに不思議なことだと思った。
意外に緩い囚われる日々の中で、心に澱の様に溜まっていく不満。
「あぁ、肉食いたい~!!あの日食べ損なったオーク肉のステーキ…ソコかよ~って自分で思うけどソコなんだよ~」
遥か昔に感じるような数の月前の事が、昼食直後だったのに急に思い浮かんだ。
「ニュール食べ物不足?オーク種居ない。イベル種ここでも捕獲出来る。食べたいか?」
オークは立ち上がり威嚇する熊型の魔物豚。イベルはオークに転遷し累代になる前の野生獣豚であった。砂漠部や荒野などに多いオークは塔周辺では捕れなかった。
「オレ、声に出して言ってたか?…そんな事はないぞ…」
ディリが話していることはニュールの頭の呟きだったハズ…思わず顔をしかめてしまう。
「そんなことはある。ここの塔、心、解放する暗示の様な魔力掛かる。小さな心の囁き拾うため…人形呟き小さい」
今まで心で思ってたあんな事やこんな事…全部自身で語り…さらけ出していたらしい。
「恥ずかしい…」
ここに来てからの言動を思い返してみる。
「顔を覆って赤面したい気分だ…」
「どうぞ…ディリ…気にしない」
ディリに促されニュールは言われた通り顔を覆いしゃがみ込み…ヘコンダ。
ディリは塔の理論を展開する。
「心も魔力も解放するの良いこと。解放すると接続できる」
少しニュールに…その中に居るニュロにさえも理解できない言葉を使う。
「今はディリの時。ラビリは中心で解放して接続してる。魔力捧げてる」
自分達の行動を満足そうに話す。
「解放と接続?」
「ディリとラビリこの塔の維持魔力取り出す装置。大賢者居ないからディリ達、遣るしかない。大賢者居るときディリ達、遣らなくて済んだ。大賢者、解放し接続し魔力を循環させる調整弁。ディリ達、循環と調整出来ない」
ニュールの疑問への答えと言うより、ソレが必要であると言う説明にだった。
かなり理解しがたい話だが、ニュールの中のニュロが研究者魂引っ提げてかなり表層まで迫り出してくる。
乗っ取られそうだ…。
「ディリ達、魔石はずした。彼方から力を呼べる。でもディリ達偽物の巫女。1年で壊れる。消耗早い。次にすげ替える」
「ディリとラビリが別の者になるのか?」
「ディリとラビリは白の巫女。存在、変わらない。他の人形と壊れた中身、まるごと取り替える」
物のように消費して取り替える様な扱いにニュールは憤る。
「そんな事するぐらいなら止めちまえば良いじゃないか!」
ニュールの声が無意識に大きくなる。
「止めると、この国、樹海側は全て水に沈む」
淡々と語る。
エリミアでも行っていた大賢者が発動する環境調整。あまり気付かれていないようだが、インゼルの塔でも最低限の状態維持のために力の発動は行っていたようだ。
「心配しなくても、ディリ達全て塔に捧げられた人形。替えあるから大丈夫」
綺麗な形に笑みを作る。その奥底にディリチェル自身の中に残る小さな小さな悲しみが見えた気がした。
この理不尽な処遇を当然のように受け入れてしまう者を目の当たりして、押さえようの無い怒りが湧いてくる。
どうせ、心を強制的な暗示の様な魔力でさらけ出し、解放するのを良しとするなら我慢する必要は無い。
怒りそのままに行動出来る事を感謝した。
悪くは無いし、被害者でもあるが、代表者であるディリを思う存分問い質し言葉をぶつける。
「誰がこのクソッタレな機構を作った?」
「無限意識下集合記録の流れの下で動く大賢者統合人格…今は、エリミアの大賢者の中に潜む」
ここで予想外の名を聞き、怒り以上の動揺が心に走る。
「なぜエリミアの大賢者の中に…」
「ディリ知らない。彼方で聞こえる声、漏れ聞いただけ。細い穴通る魔力も情報もホンノ少し。穴広がる、呑まれて消える」
ニュールは予想外に引き出された情報の渦に、只々埋もれるしかなかった。
1つ確かなのはこの機構の真理を究明しないと、知らないうちに嵌められ、泣かされ、踊らされ、消し去られる者が沢山生み出されるのでは無いかと言うことだった。
ニュールの行き場の無い怒りに沈む顔の横で、不思議そうにディリはニュールを見ていた。
「なぜ怒る?」
だがその問いかけは何故か嬉しそうであり、普段は明らかに目にする事の無い笑みを浮かべている。
「じゃあ、お前はなぜ笑う」
「笑う?ディリ?」
しばらく自身が浮かべてると言う表情に手を当て考える。
「ニュールと居ると嬉しい。心配してもらえてる。分かる…嬉しい…笑う」
何かが芽生え初めているようだった。
ニュールは一部の者の気付きもしない献身の上で、胡座をかき成り立つ国なんて消えちまえば良いと思った。
それと同時に、関わってしまったこの地を…塔に居る者達を見捨てられなくなっていくのを感じた。
「ほんっと、オレって女子供に弱すぎだ…」
自嘲するニュールであった。
感情や心が魔力と強い相関関係にある事は以前から研究されていたが、此処に来て今まで耳にしたことの無い概念や色々な情報がニュロへ入ってくる。
魔力を導き出す大本の場所若しくは存在。無限意識下集合記録と同一の場所にあると思われる其れ。
そして無限意識下集合記録が表在するために操る人格。
そもそもニュールの下、ニュロに続く連綿と繋がる記録のような記憶。全てを浚える訳でもなく繋がりのある所にしか辿り着けない。
ニュロはニュールの意識下で思索に耽る。
この世界の流れが何の思惑で進み何処へ向かっているのか…。
鍵は沢山見つかるが肝心の扉が見つからないと言った感じだ。
ニュールに問いながら多方面への気付きを促す。
『ニュール、お人形の作り方って知ってるよね…』
「あぁ…魔力を暴走させるなどして体内魔石との繋がりを破壊し、その体内魔石と無理やり回路を繋ぐんだったよな…」
胸くそ悪そうにその行いを語る。
『そう、魔力暴走などで完全に意識が破壊され回路と切断される状態まで辿り着いてしまうと、そこに其れまで存在していた自我は消え空っぽな器が出来上がる。其れを外部から回路を繋ぎ手に入れれば自由になるお人形が出来上がりだね』
「…」
『でも逆に自我喪失状態まで行ってしまうと、誰かがか直ぐに回路を繋ぎ動かさないと…器となってしまった者は500数えるより前に息を止めてしまう』
これもニュロが魔石研究所で関わった研究結果の1つだ…実際に何度も目にした実験結果を語っていた。
『回路自身が焼き切れたりして破壊された者は、魔力操作が出来なくなるだけで命への影響などもなく普通の人として暮らせる。だけど、暴走で自身と体内魔石の回路が破壊された者は死あるのみ』
ニュロは研究者としての自分自身が、この状況なのに喜びを感じているのが解ってしまった。
『矛盾がある…見えない真実が有ると言うことだ』
矛盾を解明し滞りを糺す道を見つける…まさしく研究の醍醐味。
突然得た遣り甲斐。
新たに生まれる謎に歓喜すると共に悔恨の情も味わい悟る。
自身が自由に扱える器は存在しないのだと言うことを…。
その瞬間、ニュロは守るつもりの者が守る者を狩る状況があるのでは…と閃くと共に、情報の中にあった大賢者リーシェライルと無限意識下集合記録により動く大賢者統合人格として存在する者との関係を憂う気持ちが生まれるのであった。
そんなことを思いながらニュールは起きがけの微睡みの中を揺蕩う。
塔の空間は防御結界陣により中からも外からも閉じられていた。
まるで切り離された世界に存在しているかのような気持ちになる場所だった。
外からの侵入はおろか、其処に有ることさえ普通の人間に認識することが出来ないようになっていた。
朝と分かるのは、遠くで聞こえる時告げの鐘と茜指す日の光…とディリの襲撃。
今日は最初見たときの年齢で来た。
「ニュール、私が起こしたい。なのにもう起きている。早い!…ジジイか?」
「はいっ、身体はジジイです…中身は26…あぁ、もう27だけどな!」
「26…ディリと一緒。嬉しい…」
ここに来てから毎朝遣ってくるニュール誘拐実行犯は布団の上へ飛び乗り飛び付き誘惑する。
毎回様々な年齢層に変化してやって来る。
「ニュールの好み把握するため」
研究熱心な様だ。
「結果報告。10歳、16歳、26歳、37歳で反応があった…多趣味」
余計なお世話の分析結果だ。
「そりゃ、みんな知り合いの年齢だよ」
言い訳するニュール。
「ディリ、見た目7歳、中身26歳。反応する?」
「出るとこ出てない奴に興味有るか!おれは手から溢れそうなぐらいのボンっとある方が好みなんだ!確かに無理やり迫られてドキドキした事はあるかもしれない…だけど10歳や16歳に興味って…オレ的にはナイ!」
ニュールはディリへの返事はせずに心の中で更なる言い訳した…つもりだった。
だが、ディリの姿が瞬時に大人の姿に変わる。
「ただの知り合いには反応しない…ディリ感じるの衝動…心の強い動き」
心の動きに敏感だから色々把握するのだとニュールは納得した。
寝起きの布団の上で大人の姿のディリに手を伸ばし頬を撫でられると若干心がザワつくが、コレも察知される可能性があるのを考えると少し後ろめたい気分になる。
塔では毎日毎日毎日…健康的で文化的で至れり尽くせりな生活が用意され…規則正しく過ごす。
基本、日中は塔で文献を漁る毎日であり、文献への対応に飽きてニュール自身が辛くなるとニュロが直接遣ってくれた。
『これが切り替わりなのか…』
フレイが話した大賢者リーシェライルの様子を思い出した。
「嫌になるとレイナルになってた」
そんなフレイの言葉を思い出し、少しずつ大賢者の生活に慣らされている自分を自覚する。
周囲にある魔力を感じ、息をするように操れるようになってきている…自身に内在する力を少しずつ引き出し馴染んでいってしまうのも感じた。
そしてニュロの中にある記録と言うような情報も、繋がる部分の多い記録は参照できる。ニュールが知らない子供の頃の父親や、あの鬼畜のような魔石研究所の凄惨を極めた研究内容など…。
だがニュロを包む光と同じモノで包まれた箱だけは相変わらず開けないし、そもそも近付けない。
自身の中であるのに不思議なことだと思った。
意外に緩い囚われる日々の中で、心に澱の様に溜まっていく不満。
「あぁ、肉食いたい~!!あの日食べ損なったオーク肉のステーキ…ソコかよ~って自分で思うけどソコなんだよ~」
遥か昔に感じるような数の月前の事が、昼食直後だったのに急に思い浮かんだ。
「ニュール食べ物不足?オーク種居ない。イベル種ここでも捕獲出来る。食べたいか?」
オークは立ち上がり威嚇する熊型の魔物豚。イベルはオークに転遷し累代になる前の野生獣豚であった。砂漠部や荒野などに多いオークは塔周辺では捕れなかった。
「オレ、声に出して言ってたか?…そんな事はないぞ…」
ディリが話していることはニュールの頭の呟きだったハズ…思わず顔をしかめてしまう。
「そんなことはある。ここの塔、心、解放する暗示の様な魔力掛かる。小さな心の囁き拾うため…人形呟き小さい」
今まで心で思ってたあんな事やこんな事…全部自身で語り…さらけ出していたらしい。
「恥ずかしい…」
ここに来てからの言動を思い返してみる。
「顔を覆って赤面したい気分だ…」
「どうぞ…ディリ…気にしない」
ディリに促されニュールは言われた通り顔を覆いしゃがみ込み…ヘコンダ。
ディリは塔の理論を展開する。
「心も魔力も解放するの良いこと。解放すると接続できる」
少しニュールに…その中に居るニュロにさえも理解できない言葉を使う。
「今はディリの時。ラビリは中心で解放して接続してる。魔力捧げてる」
自分達の行動を満足そうに話す。
「解放と接続?」
「ディリとラビリこの塔の維持魔力取り出す装置。大賢者居ないからディリ達、遣るしかない。大賢者居るときディリ達、遣らなくて済んだ。大賢者、解放し接続し魔力を循環させる調整弁。ディリ達、循環と調整出来ない」
ニュールの疑問への答えと言うより、ソレが必要であると言う説明にだった。
かなり理解しがたい話だが、ニュールの中のニュロが研究者魂引っ提げてかなり表層まで迫り出してくる。
乗っ取られそうだ…。
「ディリ達、魔石はずした。彼方から力を呼べる。でもディリ達偽物の巫女。1年で壊れる。消耗早い。次にすげ替える」
「ディリとラビリが別の者になるのか?」
「ディリとラビリは白の巫女。存在、変わらない。他の人形と壊れた中身、まるごと取り替える」
物のように消費して取り替える様な扱いにニュールは憤る。
「そんな事するぐらいなら止めちまえば良いじゃないか!」
ニュールの声が無意識に大きくなる。
「止めると、この国、樹海側は全て水に沈む」
淡々と語る。
エリミアでも行っていた大賢者が発動する環境調整。あまり気付かれていないようだが、インゼルの塔でも最低限の状態維持のために力の発動は行っていたようだ。
「心配しなくても、ディリ達全て塔に捧げられた人形。替えあるから大丈夫」
綺麗な形に笑みを作る。その奥底にディリチェル自身の中に残る小さな小さな悲しみが見えた気がした。
この理不尽な処遇を当然のように受け入れてしまう者を目の当たりして、押さえようの無い怒りが湧いてくる。
どうせ、心を強制的な暗示の様な魔力でさらけ出し、解放するのを良しとするなら我慢する必要は無い。
怒りそのままに行動出来る事を感謝した。
悪くは無いし、被害者でもあるが、代表者であるディリを思う存分問い質し言葉をぶつける。
「誰がこのクソッタレな機構を作った?」
「無限意識下集合記録の流れの下で動く大賢者統合人格…今は、エリミアの大賢者の中に潜む」
ここで予想外の名を聞き、怒り以上の動揺が心に走る。
「なぜエリミアの大賢者の中に…」
「ディリ知らない。彼方で聞こえる声、漏れ聞いただけ。細い穴通る魔力も情報もホンノ少し。穴広がる、呑まれて消える」
ニュールは予想外に引き出された情報の渦に、只々埋もれるしかなかった。
1つ確かなのはこの機構の真理を究明しないと、知らないうちに嵌められ、泣かされ、踊らされ、消し去られる者が沢山生み出されるのでは無いかと言うことだった。
ニュールの行き場の無い怒りに沈む顔の横で、不思議そうにディリはニュールを見ていた。
「なぜ怒る?」
だがその問いかけは何故か嬉しそうであり、普段は明らかに目にする事の無い笑みを浮かべている。
「じゃあ、お前はなぜ笑う」
「笑う?ディリ?」
しばらく自身が浮かべてると言う表情に手を当て考える。
「ニュールと居ると嬉しい。心配してもらえてる。分かる…嬉しい…笑う」
何かが芽生え初めているようだった。
ニュールは一部の者の気付きもしない献身の上で、胡座をかき成り立つ国なんて消えちまえば良いと思った。
それと同時に、関わってしまったこの地を…塔に居る者達を見捨てられなくなっていくのを感じた。
「ほんっと、オレって女子供に弱すぎだ…」
自嘲するニュールであった。
感情や心が魔力と強い相関関係にある事は以前から研究されていたが、此処に来て今まで耳にしたことの無い概念や色々な情報がニュロへ入ってくる。
魔力を導き出す大本の場所若しくは存在。無限意識下集合記録と同一の場所にあると思われる其れ。
そして無限意識下集合記録が表在するために操る人格。
そもそもニュールの下、ニュロに続く連綿と繋がる記録のような記憶。全てを浚える訳でもなく繋がりのある所にしか辿り着けない。
ニュロはニュールの意識下で思索に耽る。
この世界の流れが何の思惑で進み何処へ向かっているのか…。
鍵は沢山見つかるが肝心の扉が見つからないと言った感じだ。
ニュールに問いながら多方面への気付きを促す。
『ニュール、お人形の作り方って知ってるよね…』
「あぁ…魔力を暴走させるなどして体内魔石との繋がりを破壊し、その体内魔石と無理やり回路を繋ぐんだったよな…」
胸くそ悪そうにその行いを語る。
『そう、魔力暴走などで完全に意識が破壊され回路と切断される状態まで辿り着いてしまうと、そこに其れまで存在していた自我は消え空っぽな器が出来上がる。其れを外部から回路を繋ぎ手に入れれば自由になるお人形が出来上がりだね』
「…」
『でも逆に自我喪失状態まで行ってしまうと、誰かがか直ぐに回路を繋ぎ動かさないと…器となってしまった者は500数えるより前に息を止めてしまう』
これもニュロが魔石研究所で関わった研究結果の1つだ…実際に何度も目にした実験結果を語っていた。
『回路自身が焼き切れたりして破壊された者は、魔力操作が出来なくなるだけで命への影響などもなく普通の人として暮らせる。だけど、暴走で自身と体内魔石の回路が破壊された者は死あるのみ』
ニュロは研究者としての自分自身が、この状況なのに喜びを感じているのが解ってしまった。
『矛盾がある…見えない真実が有ると言うことだ』
矛盾を解明し滞りを糺す道を見つける…まさしく研究の醍醐味。
突然得た遣り甲斐。
新たに生まれる謎に歓喜すると共に悔恨の情も味わい悟る。
自身が自由に扱える器は存在しないのだと言うことを…。
その瞬間、ニュロは守るつもりの者が守る者を狩る状況があるのでは…と閃くと共に、情報の中にあった大賢者リーシェライルと無限意識下集合記録により動く大賢者統合人格として存在する者との関係を憂う気持ちが生まれるのであった。
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