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第二章 サルトゥス王国編

33.外へ向かって流れ出す

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船から連れ出されて案内されたのは豪奢で優雅な造りの宿であった。

一応、王宮対応仕様の格好をしていたので2人とも違和感は無い。
だけどモーイ自身は心の違和感が有りまくりだった…空気感がいただけない様だ。

モーイにとっては思わず背中が痒くなるようなザワつく気分になる場所だった。
それなのに、「遅めですが夕食でも…」などとお誘いを受けてしまい断る暇もないまま、侍女を派遣され着付けまでされてしまった…。

アノ、此の国の王宮標準なスースーした服。

今回はこの前より布は厚く面積もあり、まだましだが十分に恥ずかしい格好だ。
モーイも着付けられた自分自身を見て赤面していた。

「これ、何だ?」

「そう思うのが普通だよね!王宮標準らしいよ」

フレイはこの装いは2回目であり、少し自分自身に余裕を感じた。モーイは徐にフレイを上から下までジックリ見定める。

「フレイ、あんた何でその歳でそんな濃艶な身体してんだ?」

「…っい、衣装のせいだよ…」

モーイに直接的に言われてフレイは赤面しつつ心のな中で叫ぶ…。

『私のせいじゃ無いもん!』

モーイだって相当誘う見た目の衣装で際どい。ドッチモドッチな気がすると思うのだが…そのままの感想をモーイに伝えると非常に喜んだ。

「マジで?!じゃあニュールに会えたら是非着てみるわ」

本気100%と言う感じだった。

「それじゃあ行くか」

いきなり確定事項の様に言う。

「??」

「相手の不意を突くなら衣装着せる侍女が立ち去ってすぐの今だよ」

即行動に移すことにした。


宿から神殿は通り向かいであり、着飾られたご婦人がコートを羽織って神殿にお祈りに行くと言う時刻よりは少し遅めだが…無いわけでは無い。
神殿もまだギリギリ開いている時間。
軽い隠蔽を掛けて神殿に入り込むと、祈りの時間の様で丁度一ヶ所に集まっている。

『『此れなら陣まで行けば…』』

フレイもモーイも同じように思い転移の間までの足が速まる。

「そんなに甘くないっか…」

辿り着いたモーイはため息をつき呟いた。
陣がある部屋は目の前にあるがその部屋の前まで中央の祭壇へ向かう長い列が延びている。

「最後に並んじゃえばいいんじゃない?」

フレイがモーイへ声を潜め囁く。
確かに延びる列の最後尾は丁度その部屋を通り過ぎ、30メルと言った辺り。今から並ぶ人間も少なそう。此処に居る人数相手にしたり、隠れて待つより安全か。
モーイは決めたなら即行動。
サクッと最後尾の2人を落とし神殿の者が着けるローブを剥ぎ、すり替わる。
前に並ぶ者達は背後の変化に気付かない。
其のまま並んで居ると問題なく扉の前まで来た。
一応、周囲を確認し部屋へ入り込む。陣から浮かび上がる光で仄かに部屋が照らされる。

「やったぜ!」

思わずモーイが声を漏らす。
その瞬間起動したと思われる壁にある小さな陣が光る。
部屋には簡易な探索魔力が施された陣も隠されていた。

「…っち、やっちまったぁゴメン!」

「ここまで来たら飛ぶだけだよ」

奪ったローブを陣の外に投げ捨て、陣の上に乗る。
フレイの認証魔石の魔力を動かし陣を起動……出来ない!

「???」

混乱し戸惑っていると声を掛けられる。

「賊は王族の方ですか?」

仄かに明るいだけの薄暗い転移の間に、入り口からの明かりが差す。
柔和なあたりの好好爺…と言う感じ殿司の装束を纏う人物が現れた。

「認証魔石には魔力の出入りを封じるための陣が施されているので使えないんですよ…」

ニッコリと微笑むのに圧が強い。

「高貴なお方との争いは避けたいので、此方に大人しく出て来ていただけませんか?」

余裕の表情でだだっ子を諭すように待つ。

「…ダメか…」

モーイの呟きにフレイが答える。

「行くよ!」

その瞬間、転移陣に魔力が流れ輝き起動した。
陣の上にいた2人はその場から姿を消した。
残された者達は名残の輝きの中、唖然とした表情を消すことも出来ず、辺りを捜索し管理する者へ報告をあげるしか無かった。



「やっぱりアレは小物なのかな…折角忠告しといたのに」

影のなかで囁く影。その一瞬現れた気配も闇の中へと消えていく。



陣の回路繋がる先、王都 時の神殿 で輝きと共に転移陣の上に人影が浮かぶ。
宵時である此の時間に予定に無い転移が行われ、兵が呼ばれ人が集まり囲まれる。

王宮仕様の衣装の2人が陣の中で寄り添う姿は女神の顕現か…と大注目を浴びた為、直ぐに時の巫女の名代としてアルバシェルが呼ばれた。

既に皆休み始めるような時間である。

フレイは王宮仕様の衣装であり、この前よりは刺激的では無いが十分扇情的なその姿にアルバシェルは動揺した。
海に落ちたとの連絡は有ったので心配し、いつも以上に執拗に抱き締めた。
更に他の者の視線がフレイに集中している気配を感じ取り、遮るため自身のローブの中に引き入れる。
だがローブの中、薄物同士での密着はアルバシェルに更なる衝撃と動揺を招く。
グダグダな状況下、そこに控え冷ややかに視線を送るモーイが口を開く。

「…旦那!フレイの乳や尻に興奮して悶々とするのは分かっけど、周りも居るんだから後でドッカに籠もってジックリやっておくれ!」

頭から冷や水をかけるような言葉でアルバシェルは正気に帰り赤面し、フレイは今一つ?な感じ。
とりあえず安全のため萌葱の間へ向かう事になった。

「まぁ、王の歓待も取り敢えず受けたし、行っちゃっても良いんじゃないかしら」

粗方の説明を受けた、時の巫女リオラリオが判断する。

「保護されながら残って日程をこなしている内に後を追ったり襲撃したりの準備をされるより、進んでしまった方が安全ね。寧ろ良い機会だわ」

背中を押す言葉。

「後の決断は貴女たち次第よ…」

もう2人の心は決まっていた。
後ろを見たって変えられないなら、進んでみるしかない。
顔を見合わせ確認しフレイが答える。

「行きます」

決断した者達は動き始める。
手助けする者も最大の助力を送る。


その中で気付かれない様に、声を潜め呼び止める者が…。

「旦那、ちょっとイイか?」

モーイがアルバシェルを呼び止める。

「…確証は無いんだが、アンタの国の皇太子とその回りの何人か…お人形だと思う」

「!!!」

アルバシェルは絶句した。

「多分、フレイのアレで遣られちまったのを動かしてる奴がいると思う…」

「何で!」

アルバシェルの疑問に的確に答える。

「…アタシは闇の組織に所属してたから情報には強いんだ…だからお人形の存在は知っているし…見たこともある。アンタの姉ちゃん所の側近もそうだろ?」

「……」

アルバシェルはその予想外の事態に言葉が出なかった。

「…フレイには知らせたくない。覚悟したからって受け入れにくい現実ってあるからさ…」

モーイにしては暗い後ろを振り返るような目をした。
アルバシェルもフレイに話さないと言う判断に同意した。
フレイが、自身の存在やその意義に常に疑問を感じて居るのは感じていた。自身の起こした事がもたらす影響を、まだ完全に受け止めるのは難しいと…。

「その件は此方で対処しよう」

「宜しく頼むよ!」



萌葱の間で軽く夕食と仮眠を取り、真夜中に転移の間へと赴く。
その途中でアルバシェルが情報をくれた。

「不確かな情報だが、ドリズルに居るときに聞いた情報がある。樹海の民の集落にインゼルに繋がる転移陣があると言う話がある…自分の記憶かも定かでは無いので、いつの話かも不確かで済まないが…」

その情報の不確かさに自身で自身に呆れ、苦々しい表情のアルバシェルにフレイリアルは答える。

「リーシェもそんな感じだったよ!助言者さんの記憶かもしれないんでしょ?何時の情報か分からなくても無いより有る方が良いよ」

アルバシェルは自身の不確かで及ばない部分を包み込んでくれる優しい手を、捕まえ逃げられないよう一生自分の腕の中に閉じ込めてしまいたくなった。
そんな気分になってるアルバシェルを捕まえ強制的に制止するタリク。
アルバシェルは思いを飲み込み伝える。

「こっちを片付けたら行くから待っていてくれ…」

フレイは嬉しそうに元気に答える。

「待ってるよ!」


横で呆れるように見ていた時の巫女が無言で時が至ったことを知らせる。

「出発します」

フレイが宣言し、時の巫女が鮮やかに微笑む。

「貴方たちの未来に多くの幸有ることを願ってるわ…でも最善は、自分自身の手でより多くの幸を引き寄せる事よ!」

巫女の祝い言葉を背に転移陣を起動し目的の場所への一歩を踏み出すのであった。
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