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第二章 サルトゥス王国編

23.流れ辿り着く者達

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儀礼の間入り口付近。
その近辺に潜んで観察していた元《14》だった《五》が、其処に集う者達を確認し姿を現わす。

「皆さんお揃いですね…丁度程よく弱っている様で何よりです。これから皆様を今までのご苦労に報いる素敵な場所にご招待しますのでご期待下さい!…是非ヴェステに着いたらゆっくりと骨休めして下さい。おまけの方もご一緒にどうぞ!…あっ、皆で本当の骨になっちゃわないよう気をつけて下さいね~」

「「「!!!」」」

笑顔でそう告げると《五》が魔力を動かす。足元で巧妙に隠蔽されていた転移陣が浮き上がり、魔力の動きと共に起動する。
転移陣の上に居る者達は逃れようも無くその輝きの中に佇むしかなかった。

発動された魔力を回避する事は既に難しいため、次の状況に備え周りを警戒しながら魔力に飲まれる…だが、転移したのはフレイだけだった。

「あらららら、無理やり掻っ浚って行きましたか…一人だけとはビックリですね!凄いことしますねぇ…あぁ~折角良いところまで行けたのにまた引き時になっちゃいましたか。まぁコレも良い報告案件になりそうです」

フレイが消えたことに動揺するニュールとアルバシェルを置いたまま《五》は一人で突き進む。

「どうやら王都の神殿の様ですね…貴女のお姉さまは欲しいものを手に入れるのがお上手の様だ…」

そしてアルバシェルに笑顔で警告を伝えてくる。

「次は貴方の順番のようですので御覚悟された方が良いですよ」

あまりにも親しげな上に楽しげなもので距離感が無く、こちらの警戒感が崩れそうになる。

「それじゃぁ、またお会いしましょう!」

嫌な予感しかしない警告を残し、別れの言葉を告げて去る。
爽やかに…以前と同じように気配を断ち…消えた。

『あれ以上やっても得られるモノは少ないかな。今回は、失敗と同等の情報ぐらいしか得られなかったので、新しい場面展開の先で有益な情報でも拾いましょう。まぁ二人の大賢者を相手にする様な無謀は侵したくないですからね…』

自覚してないのは本人ばかり…既に断定して対応はする人間が増えてきている。


ニュールが賢者ではなく《大賢者》であると言うことを…。


アルバシェルは足元でぐったりしているニュールを助け起こし座らせる。

「大丈夫か?」

「あぁスマン。フレイは何処に!」

「多分、時の神殿に呼び出された。回路はしっかりあちらに繋がっているのは君にも分かるだろ?」

ニュールにもしっかり開かれた回路が繋がっている先を見ることが出来たし、其処には守護者の繋がりが健在であるのも感じ取れた。

「…アレを大分取り込んでしまった様だけど嫌な感じは無いか?」

「無い…あれは何だったんだ…」

その重く絡みつくような禍々しい存在を思い出し、ニュールの表情が険しくなる。

「死者の思いを纏う魔力の残滓の集合体…という所か。それぞれの思いも一緒に入って来ただろ?」

「…死者の…魔力…」

「でも、その思いを持っていたままの存在と言う訳ではなく、思いや記憶の切れ端が魔力に絡まってるだけだから気にしない方が良い…」

「……」

気にしない方が良いと言われて割り切れるようなモノでも無かった。

助言者コンシリアトゥールがしっかり守ってくれていたようだし、君自身が傷つけられたりは無かったろ?」

「…助言者?」

「君の助言者は何か伝えてこなかったか?」

「???」

ニュールにはアルバシェルの言うことも、質問の内容も何もかもさっぱり理解出来なかった。

「まさか自覚してないのか?」

「???」

「…君は、大賢者だよ…」

「!!!」

予想外の事が告げられた。ニュールにはアルバシェルが冗談を言っているようにしか聞こえなかった。

「自覚は無かったのか…君は姿の変化を起こさなかったか?」

「30歳ぐらい…歳を重ねたのではと思えた時、賢者…にはなってしまったとは思った…」

ポツリ…ポツリとニュールは自分が賢者で有る事を感じ取った時を話し、周りの人々に誤魔化そうとしていた…と言う事をアルバシェルに伝えた。

「賢者になるときに多少変化する者も居るけど、そこまで歳を取ったと感じるほど顕著じゃない…」

アルバシェルにあっさり否定された。

「オレが取り込んだのは魔物魔石だ…」

それでもニュールは必死に否定出来そうな材料を探す。

「関係ない…その魔石が代を重ねたモノで、案内者ガイドが居て適正があったのなら至る…」

アルバシェルは、予想外にもダダっ子のように現実から目を背けたがるニュールへ畳み掛けていく。

「君の中に、導く者を感じた事は無いか? 自身で持ち合わせてない知識を提示された事はないか? 大きな変化をしてから歳はとったか…?」

自身の中に否定しようのない現実への恐れが沸き上がる。

「そう…君は私と同じ塔なしの大賢者だ」

その事実をニュールは受け入れるしか無かった。


アルバシェルからニュールは説明を受けた。

「塔と繋がる大賢者は、塔に繋がらない大賢者より自由だけど、その分制御できる力や使える力が制限される。だが、積極的に天輝や地輝を自身の魔石に取り入れることで魔力回路は強化される」

更に説明を続けてくれた。
大賢者は、最終的に人が持つ魔力の流れや天や地の魔力の流れ、そして魔力そのものをそのまま制御できる様にもなる。大賢者でも個人差はあり、扱える魔力量には差がある。

「現在確認されている大賢者は君と私を含めて4人になる」

一人は高齢でもう意識が殆ど無いような状態だが後継を見いだせていない。
塔持ちはタラッサ連合国のその方とエリミアの大賢者リーシェライルのみ。

現在見つかっている塔は5塔。
機能しているのが2.5塔と言う感じだが、その中でもリーシェライルは塔に繋がっていることもあり抜きん出た能力を持つ。

塔と回路が開かれている利点は魔力供給が尽きない事。
欠点は散々あの日に見せつけられた。

塔と回路を繋いで無い大賢者が魔力不足を起こすと、魔力を周りから…もし魔力がなければ生命を魔力に変えて周りから吸い上げ補充すると言う。

「自分の生命から補うんじゃ無いのか?」

ニュールはまっさらな子供のように質問する。

「それは一番最後だよ…自分を優先する…生物として当然の仕組みだ」

アルバシェルは丁寧に一つ一つ回答する。
他にも塔なし大賢者は寿命が塔の持ちより短いと言うこと等も教えてくれた。

「塔持ちは器の耐久年数以上に長い寿命となるけど、塔なしはその半分ぐらいだから200年ぐらいかな」

それでも今の年齢から考えると悠久の時を生きるに等しく、驚愕の事実であった。
自分が違う生物になってしまったような…人間と言う範疇から外れてしまった様な気がした。

ニュールは砂漠の中で一人逃げている時以上の孤独感の中に放り出された。




「初めましてね…」

そこには闇夜の精霊かと思うような美しい人が、輝く闇色の瞳を興味深げにこちらに向けていた。
その嫋やかで麗しい御方は、美しい黒髪を無造作に束ね、石膏雪花魔石の肌を惜しげもなく晒し、質の良い簡素で緩やかな長衣を露になる艶やかな肢体の線も気にせず纏い腰ひも一つで止めている。
目を覆うか凝視するかの2択になるであろう艶姿であるが、フレイリアルは思わず凝視してしまった。

「悪いけど、あの状況から抜け出すため此方から魔力を送り転移陣の行き先を変えたの。今回はあちらで起動の魔力は流してくれたから楽だったわ!」

その美しい人は見た目とは裏腹に、どんどん一人で走り進むように話していく。

「今回は貴女だけご招待させて頂いたけど、機会が有ったら貴女の守護者にも是非会いたいわ。まだ自覚もない様だったけど、ちょうど良い機会だったから任せることにしたの…」

突然の転移陣の発動とその転移先の光景にかなり戸惑った。
フレイリアルは何だか色々と目が点になるし、話が飛び理解が及ばないような状況だった。
今まで転移先の強制変更とか転移陣の強制起動とか聞いたこともなかった。
ソレができるのなら落とし穴ならぬ落とし陣が作り放題で、しかも呼びたい人間だけ呼べるなんて、要人の捕縛し放題になってしまう。
そんな事を思っていると予想外の返事が返ってくる。

「この陣は悪用するほど容易では無いし消費魔力も半端無いから私達とか塔付き大賢者でないと利用出来ないから大丈夫よ」

色々な心の動きまで聞こえるのじゃないかと思うぐらい適切な返答。
チョット訝しんでいたがヤハリお構いなしに話が進んでいく。

「私は、時の巫女とも黒姫とも言われているサルトゥス王国の先代王?先々代王?だったかしら…まぁその血脈が娘…と言われている、第一王女であったリオラリオよ。リオで良いわ!」

フレイリアルはしっかりとその人を見極めるため見つめた。

「…塔の魔女とも言われているし、多分、色々な噂を聞いていると思うけど、真実は百年以上かしら…この塔で活動する者…私は大賢者に似た者かしら…」

噂以上に年月を経ていると聞きフレイリアルは単純に驚愕する。

「そして、私の弟があなたの知るアルバシェルよ…」

茫然とする…それは予想してない話だった。

「ただ、あの子は3才で賢者の石を取り込んでしまった後、意識を奪い…最近戻したので、自身で活動している年数は20年程。見た目より若干は歳を食っているけど私ほどでは無いから大丈夫よ!」

何だかお姉さんが保証してくれる。

「ウチノの弟、結構可愛いとこあるでしょ? 責任感も強いし良い子だから宜しくね」

『宜しくされてしまってもどうしたら良いのか…』

何が何だか分からないけれど、顔が熱くなるし必要以上にシドロモドロな動きのフレイだった。


「状況は刻々と変わっていくから必要な事だけ説明しておくわね…」

そう言ってその美しい顔に真剣な表情を浮かべる。

「まずは貴女の身体の事」

時の巫女リオラリオは説明してくれた。
通常よりフレイリアルが魔力の影響を体に受けやすい事。それが成長を著しく遅くし、魔力にさらされ続ければ肉体年齢の逆行さえ起きることがある…と。
一般の人間にソレが起こると耐えられず魔力暴走を起こし絶命、若しくは意思無き人形と化す。

「貴方は年齢より幼いと言われるんじゃ無い?」

過去に言われたことを思い出し、フレイはチョットだけ心がチクチクする。

「最近2の月近く塔から離れただけで成長したんじゃないかしら…年相応の見た目になりたければ暫く塔に近付かない状況で過ごすだけで現在の年齢まで成長するはずよ」

フレイは、しっかり実行しなければ…と思った。

「魔力は取り込む分には問題ないけど、浴びるのはそういったことが起こるし、私たちは逆行も起こるから…」

そう言ってリオが自身の魔力を動かすと今までの艶やかで美麗な女性の姿がかき消え、其処にはフレイと同じぐらいの見た目の美少女が立っていた。

「此は、私がこの塔を使い続けた報い…でも貴女は間に合いそうで良かった」

少し悲しげではあるが、後悔はしてないと言った目をリオラリオはしていた。

「何よりソレだと、弟が特殊な趣味の人間かも…と思うと姉として微妙だし…あぁ、見ている分には良いけど今すぐ手を出すようなら制裁を加えるから安心してね!」

何を何で安心するのかフレイは聞いていてよく分からない。

「あの子、気に入ったら見境無いからチョット心配なの…まぁ、女の子に見境なくなったことは無いから大丈夫よ!」

そこら辺のアルバシェルの特性を色々と説明されて気持ちの置き所に困るフレイであった。

「あと、貴女の魔力について…」

重要な内容であることがフレイリアルにも解った。

「取り込むのは問題ないし、周りから集めるのも問題はないわ。…でも自分自身から…その奥底から…取り出すのは慎重にね。体内魔石は調整弁なの…それが無い…と言うことは穴が空いている様な状態だと言うことを忘れないで…」

「!!!」

この人はフレイの中に体内魔石が存在しないことまで知っている。

『本当に何が見えているのだろう…』

フレイリアルの心に疑問があれこれ浮かぶが、その人は目線だけで質問を制止した。

そしてスルリと遠ざかると共に元の姿に戻り、振り返ったその時には今までの柔らかな表情が消え、強かで老獪な塔の魔女と言われる顔に変わっていた。

そして、今までと打って変わり強圧的にフレイリアルに対峙する。

「私には目的が有るわ。その目的のため、今まで全ての時間を捧げてきたの。…もし、その目的の妨げになるようなら貴女も、貴女の周りの自由も奪うし、排除する覚悟も持ってます。それが弟であっても、国であっても、世界であっても…邪魔をするなら戦います」

強い警告を受けた。

其処には目的の為なら、どんな手段であっても厭わないと言う覚悟を決めた者の目が有った。
直後、美しく艶やかな微笑みを溢し最初の気さくで親切で面倒見の良いお姉さんに戻る。

「本当はサルトゥスの王宮や塔や街中を見せてあげたいけど、その内あの子にでも案内してもらって頂戴」

部屋の奥に向け合図を送ると無表情な側仕えの方が書状を持ってきて、フレイリアルに渡してくれた。

「これで、友好使節としての任務は完了よ!後は其を国に提出なさい」

そう言い残し部屋を退出しようとした。
開けられた扉の所まで行くと振り返り、説明忘れを補った。

「あぁ、この陣は神殿とだけ繋がっているから魔力を動かせばあちらに戻れるわ」

そして最後に付け足しのように…若しくは言い出し辛かった内容なのか、呟くように言う。

「…貴女のお母様の事はごめんなさい」

「???」

それだけ言い残すと自分の用事は終わったと、速やかに立ち去ってしまった。
一陣の風のごとく通りすぎた跡だけ残しサッパリと消えた。


フレイリアルは樹海でモーイに案内された時の様に同じ場所をぐるぐる回ってから抜け出た気分だった。状況が頭のなかで少し整理整頓されるのを待ち、転移陣に魔力を流し皆の元へ戻る事にした。
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