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第二章 サルトゥス王国編

7.繋がる場所に流れ着く

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次にニューモが目を開けると暖かくて柔らかい至上の楽園がそこにあった。

底に着地したと思った。だが、その先の急斜面で滑り落ち、暗闇の中で後頭部を強打してニューモは意識を飛ばした。
半分意識が戻った時、柔らかな布団の中でソレが目の前にあって包み込まれた。
相変わらず後頭部にズキズキとした痛みが走る。

薄目が空くか空かないかの時、ニューモはまだ寝てて良いと声が掛けられた気がした。本当にこのまま埋もれてても良いのか悩み、そのままもう一眠りしようか考えながらニューモが一瞬目を開けると…布団と違う柔らかさのソレが目の前に有った。

予想外のソレにビックリしたニューモは後頭部を今度はベッドの柵に強打して再び倒れた。

『オレこれで死ぬかも…』

意識が薄れる中で思った。

『もっと素直に埋もれてりゃよかった…』



「ニューモ、ねえニューモ!」

何だか聞き慣れた声がする。

「起きてよニューモ!」

フレイの奴が起こす声だった。

「わかってる!頭に響くから…」

ふと二日酔いでもしたかとガンガンする頭を軽く持ち上げ、頭に手をやると大きな瘤と治療した痕跡…そして全身の擦り傷と先程見たベッド。

そしてニューモが休むベッドの横に楽園にあるお布団が二つ並び、その上にはサラサラで真っ直ぐなフレイより濃い髪色の琥珀魔石の色の肌した小柄なお姉さんが…心配そうに覗き込んでいた。

移動する先々で色々と巻き込まれてるいるが、たまには良い事もあるようだ…。

『良くねぇよ!』

頭の中で、現在の境遇に幸せな叙述を自分自身で付けて見たが…今一つ納得いくものではなかった。



ニューモが落下後、フレイの叫ぶ声で誤解は解けた様だった。

お陰で、あの深い穴の底から拾ってもらえた上に介抱までしてもらった…心まで解放されそうになった。
現実に戻ってきてしまえば、二度と楽園に戻ることは出来なかったが、そこには新たな楽園が用意されていた。

フレイが宿の厩舎に預けっぱなしだった鎧小駝鳥アマドロマイオスのクリールを連れてきたらしい。

部屋の布団が気に入ったのかニューモを押し潰すようにベッドを占拠する。その為半分クリールが布団になっていた。
モフっとしたベッドは狭かったがある意味、幸せな感触だった。

でも、どちらの楽園を取るかと言えばニューモの中では断然に前者の方が優位であった。

ニューモの体調は半日で整った。

なかなか驚異的な回復力だ。
体調が整えば状況把握に着手する、現在居る場所と自分達を襲った組織について。
その部屋には、今は完全にニューモ達だけだ。一応警戒のために、意識がハッキリと戻ってからは結界と静穏の魔力は施してある。
なのでニューモが穴に落ちた後のことを聞いてみた。

「おいっフレイ!この状況はどういう事なんだ」

「私もわかんない」

相変わらず要点をまとめるのが下手くそなフレイ。
ニューモは一から確認するしか無かった。



あの後、ニューモに向けて叫んでいたフレイの声を聞き、襲撃者の攻撃の手が止まる。

「子ども??」

暗闇の中で尋ねる声がした。

「そうだよ子どもだよ!」

その返事に明らかに襲撃者たちに動揺が走る。

「男が話していた事は本当だったのか…」

襲撃者の声に悔恨の色が浮かぶ。

「私たちは、ある魔石を探すための手がかりが欲しかっただけだよ!」

フレイ達が勝手に閉鎖鉱山に侵入した事は、フレイの中ではニューモが落とされたことでチャラになってた。そのため、襲撃者達を責めまくる。

「…ニューモが話を聞いてくれって言ってたのに、何で聞いてくれなかったの!!」

「申し訳ない…」

怒りをぶつけるフレイの前に姿を現したその男たちは只々、頭を下げて謝罪するだけだった。
そして、悲愴感溢れる顔でフレイに告げた。

「此所の縦坑は深さが1キメル以上ある。しかも、ほぼ垂直の縦坑…悪いが…多分連れは助からないと思う…本当にスマン!」

それを聞いてフレイは吃驚する。
暗く重い空気がその空間に広がっていた。

「えっ…、ニューモ生きてるよ!」

不審そうな顔でフレイは答える。

「…それは難しいんだ…スマン」

子供の連れを勘違いで奪うことになってしまい、それを理解出来ない子供…とてつもない罪悪感がその者達を苛んだ…。

「だって、回路パス繋がってるもん。何か凄く痛かったみたいだけど生きてるよ!」

「!!?」

ニッコリとフレイリアルは微笑むのであった。



「それでそこから、別の入口に行ってニューモを助けたんだよ。大活躍でしょ!?」

フレイが大活躍した…とは言えなかったが役には立っていたようである。

「それで此所はどこなんだ?」

「…んー、山?」

フレイの情報は役立たなかった。


結局情報が得られたのは、お布団なお姉さんと襲撃者がセットで謝罪に来た時だった。

「チョット良いかい?」

さっきのお姉さんと一緒に襲撃者だった男と思われる気配の者が入ってきた。
まだ二十歳に届かないのではないかと言う感じの森の民の容貌をした男は、お姉さんと似た面差をしていて明らかに血縁者の様だった。
そして、お姉さんの方が場を取り仕切った。

「取り敢えず、今回の件を謝罪させてくれ…申し訳なかった」

男もその言葉と共に申し訳なさそうな態度で礼譲を尽くした。


そして、理由を話始めた。

この鉱山は廃坑として扱われているが、未だに研究で利用したり、他の資源についての調査をしたりしていて地下で活動している。

昔、ヴェステと魔石の取引をしていた頃、得られる収益を搾り取れるだけ搾り取る…と言う感じの酷い条件で契約をさせられた。
鉱山主の末裔たちは、また同じ轍を踏まないように…と思うぐらい嫌な目に会っていたようだ。
だから、今度はヴェステに関わらぬよう内密に、細々と研究や試掘を繰り返し、この村の再起を夢見て活動していた。
ただ、ここ最近1の月程で目的は解らないが鉱山に探りを入れてくるものが多発していた。この鉱山を探るものはヴェステの者の確率が高かったので、鉱山である利点を生かし魔石を豊富に使って結界を敷いた。

『それをフレイが破壊したのか…』

その事をニューモは口に出さないでいたが、フレイも誤魔化す気満々だった。

「そんな凄い結界なんて見なかったよ!」

フレイは言い切った。

確かにフレイリアルにとっての凄い結界は大賢者様が展開するような卓越し、震え上がるような空前絶後の魔法陣が標準だから、ここら辺に敷かれてるような結界は屑かもしれない…ので嘘は無いのかも知れない。

『流石、大賢者様の弟子…』

その知らんぷりしている不貞不貞しさが、ある意味そっくりと言えるとニューモは思った

只、最初から結界が消えていたという偽情報は他の者達を混乱へ導くことになるだろう。

それにしてもこの地はヴェステと繋がりが深いようだ。
ソレだけ危険を孕む地点であり、なるべく早く脱出したい所だがフレイが食いつく魔石がここにはたくさん存在した。

「ヴェステとは全く関係無いし、寧ろ俺たちもアイツらには近づきたくない」

その者たちに明確な意思を伝えたがフレイがすんなり出立するかは疑わしい。



ヴェステ王立魔石研究所。

スウェルの鉱山にあった魔石の展示場を観修したと思われる組織。

ヴェステ王国が誇る研究機関であり、内包者インクルージョンと隠者を研究員の最低条件とする精鋭のみ集まる超一流集団である。

魔石の効率良い利用法や、より強力な武器としての開発等が研究主題となることが多かった。だが特徴的なのは、それぞれが主題とする研究内容が極秘であるものが多い事だ。
そして、根幹となる研究所の至上命題は "人為的に大賢者を作り出すこと" だ。

賢者の塔が潰えた国では、大賢者を継承するものは存在しない。

大賢者は、先代の大賢者から魔石と共に代々の知識を受け継ぎ利用することが出来る。それは大賢者が無限意識下集合記録を内在しているのに近い存在であると、この研究所ではそう推測していた。

ここの研究者達が進める多くの研究題材が、賢者から大賢者に至る過程を導き出すことであり、大賢者を手にいれることで無限意識下集合記録の膨大な知識と情報をも得ることを目標としていた。

末端の研究の題材としては、通常生物が魔石を取り込む過程、魔石との回路を開き賢者となる過程、そちらから究極の目的となる大賢者へと至る過程を究明しようとする者もいた。

研究内容や検証実験は、かなりえげつないものも含まれ耐えられなくなる者も多い。

人間に無理矢理、魔石を埋め込んだり、毎日摂取させたりは可愛らしいと言える内容の研究であった。

魔物を捕まえてきて実験する者も多かった。魔石がそこに残るか残らないかは魔物と魔石の間にできた回路や魔力量が関係していると言われていた。
かなりの長い年月データは集められたがいまだはっきりとした関連付けは出来ていない。

ある研究者が残した論文を発見するまでは…。

論文の題名。

 ”魔石からの有効な魔力の取り出し及び、魔石から組む魔法陣の形成及び展開について” だった。

表題もずいぶん興味深い内容ではあるが、この研究所の主流と懸け離れた内容だった。
更に正式に提出された論文として扱われてなかったため、その内容に目を通すものは居なかった。

偶々、その論文は発見されたのだ。

著者は調査研究へ赴いた先で行方不明となっているヴェステ王立魔石研究所所属、研究員ニュロと言う者だった。
その内容は、死にきってない魔物から魔石を回収する事で、魔物が消え魔石が残る個体を発見したと言う報告であり、それを考察したものだった。
その出来事に対し熟考することで見えなかったものが見えるようになり、一足飛びに理論が構築され組み上げられ論文となっていた。

検証は、生きた魔物からの魔石の取り出しで終わっていた。

この先に進めるのを戸惑ったのか、その前に行方不明となったのかは謎である。

ただ、この論文が発見されてしまったことでこの論文に載っていた有効な魔石の採取方法が次の段階へ移行するであろう事は必然であった。
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