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20. 働かされる男

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必要な魔力量を集める為に行う…魔力の導き出し。
それは通常の守護者契約や解約には必要のない手順である。

守護者契約が、フレイリアル自身の持つ他の繋がりと絡み合い…解約がままならぬ故に取る強硬手段。

「無理やりなんだから、魔力を多く集めないと難しいんだよ。ホントは魔力が多いやつ1000人ぐらい見繕って処分しちゃえば足りそうだけど、フレイも君も嫌がるし…それなら少しずつ…多くの場所から導くしかないよね」

その言葉に、少し…視線逸らしたニュール。
見逃さないリーシェライルは、込められた若干の不服を見破り…釘を刺すように付け加える。

「…魔力を導き出される者の危険伴うのは当たり前じゃない? だって…生命の根源に繋がる場所から奪ってくるんだもん…ね」

躊躇しながらもニュールが遣ると決めた後、リーシェライルが送ってきた助言。
語尾の一音に "今更…身に覚えがあるでしょ?" と言う、声に出さぬ揶揄が含まれているのを感じた。

「でも遣ると決めたのなら…ギリギリの所を見極め安全に取り組みなさい。そうしないと僕もフレイも、残念すぎて…悲しくなっちゃうよ。契約解除は必ず完了させるんだよっ! 時も労力も魔力も無駄にするのが一番…最悪の…害悪だよ」

励ましのような命令のような言葉を受け取る。
だが、語られた…フレイリアルとリーシェライルの "残念" の向けられる方向が明らかに違うのも理解した。
冷酷な含みある愉しげな笑み浮かべながら…指導のような…脅しの様な…物言いで、リーシェライルはニュールに発破をかける。
たとえ他者を傷つけたとしてもリーシェライルは表情変えることなく優美に微笑み続けるだろう。だがフレイリアルに不利益もたらすのなら、それこそ全てを賭けて破滅へと導くであろう。


ニュールは慎重に意識下の意識の中、更に自身の深淵を覗くように目を瞑り…繋がる全てのモノの魔力を動かし導き始めた。
他者から容赦なく魔力を奪い、全体に感覚広げ…少しずつ慎重に力を拾い上げる。

何処か…過去に味わった苦い記憶に近づいてしまいそうな、加減誤れば全てを奪い…世界を白紙に変えてしまいそうな…強烈で強制的な魔力の導出。
だが下手な調整を加えてしまえば不足する、究極の均衡を求められる…駆け引き。

間違えないため…出来るだけ近い感覚求め…大賢者の記憶の記録をサラリと探った。
そして…予想外に自身の記憶の中、最適解に符号する記録をニュールは見つける。

『あぁ…確かにサルトゥスの夜、フレイが魔力導き出した感覚が望む答えに近いかもしれないな…』

自身の記憶ではあったが、忘れていた感覚。
閲覧出来る記録として明確に示されることで気づく。
フレイリアルが魔力暴走起こしたサルトゥスの夜、樹海から魔力が押し寄せてきた時のような感覚。

『完全に強奪してしまうのではなく…導き…掻き集め…纏め上げるように、広範囲に…此の世界に均等に広げる感じで…』

此の空間にある全ての存在から、均等に行う魔力の導き出し。
気付かぬものが大半だが、気付いたものでも…一瞬の虚脱感を得たぐらいであろう。

意識下で目を開けたニュールが手にしていた力。
ほんの一瞬の間に纏め上げ…得た力は、小さな欠片程度を集めたものだが…此の地をひっくり返し…更地に出来そうな程の莫大な魔力となっていた。
完全に制御された…此の魔力の導き出しは、望みである…契約からの完全解放へ至る為の灯となる力。

「十分な魔力は集まったな、今度こそ本気で遣らせてもらうぞ」

次なる段階、直接…絡まった繋がりへ干渉する工程に進む。

しっかりと…丸ごと全ての繋がり断ち切る思いを描き…集めた魔力を注いでいく。
今度は吸収される以上の魔力を十分に繋がりに与えられ…初期化され、全ての絡まった結び目が解きほぐされる。

その状態を確認し、ニュールは大地と契約した "正統なる王" の承認を与えた。

他の繋がりに絡まって解約受け付けなかった守護者契約の繋がりは、承認を取り込み繋がりを解放し…閉じる。
守護者契約は完全に解除された。
ニュールの魔物な心持ちにも、新たなる感慨深き達成感…が刻まれる。

回路の繋がりを一度完全に断ち切られたリーシェライルの入るグレイシャムの空っぽな器は一瞬の完全なる自由を久々に得ていた。

放置されれば、生物として必要な魔力供給途絶え、其の枯渇と共に…擬似的生命活動が終了し…時が呼び戻され…その瞬間朽ち果てるだろう。
因果応報…とも呼ぶべき、もっともらしい帰結。
数百年ぶりの自身の…単独の…思考。

だが次の瞬間、グレシャムの自我は…グニャリ…と握り潰されたかの様に消える…。
フレイリアルの中に一度戻っていたリーシェライルは、手早く回路を繋ぎ直し…再度人形化した器としてのグレシャムの中に入っていく。

「やっぱり、良い感じに馴染んでいるね…」

自身の入った器を確認しながら呟く。

儀式の間…四方八方から魔力による攻撃が、今居る賢者の塔・中央塔へと…引き切り無しに及んでいた。
フレイリアルは今度こそ自分の手で守る…と言う使命感に燃え飛び出して行ったので、青の間で意識保ち活動するのは…リーシェライル只独りだった。

リーシェライルは器としてのグレシャムに戻った後、1人その場に残り…微笑み浮かべ…接続確認の終った手を見つめながら…他者に語り掛けるが如く独り呟く。

「…君が許される事は永遠に来ないと思って良いよ。そんな日が来るのなら、僕自身が心置きなく解放される日…かな?」

華麗で酷薄なリーシェライルの笑みが、器であるグレイシャムの相貌の中に華やかに咲き誇る。


ニュールが意識下から抜け出すと、青の間を包む結界周囲に様々な攻撃が仕掛けられている音や閃光が…朧気に意識に入ってくる。
其の中に鈴のように心地よい響き持つ声が耳に届く。

「やぁ、ニュールおはよう! 遅いお目覚めだね」

色々と…色々、山程文句を言いたい相手であるリーシェライルだが、早速戻ってきたグレイシャムの器の中で…楽しそうに涼しげな面持ちをニュールに向けているのが目に入る。
ニュールは立ち尽くした状態のまま青の間の天輝石に触れていた。
そして意識戻し…目を開けたニュールに対し、声をかけてきたリーシェライルの言葉が耳に入る。

「フレイが行きたいって言うから、外のお片付けを頼んだんだけどね…相当楽しんじゃってる感じがあって心配なんだ…」

儚げな表情浮かべ…少し困ったように首を傾げている婉美なモノ。
だが…この美しい男が食わせモノであると言う事を、ニュールは嫌と言うほど知っている。

「…だから君も、少し手伝ってあげてくれるかな?」

案の定…鬼畜な上官っぷりがとても似合うリーシェライルは、麗しくも…有無を言わせぬ圧力持つ笑みで…直ぐに仕事を振ってきた。
大仕事から戻ってきたばかり…と言う状況は、あまり考慮されないようだ。
たとえ此処で異議申し立てても、ニュールの事情が配慮されることは一切無い。
経験上身についた確信。

勿論ニュールに許された答えは "了解" しかないのだった。


ピオが確認した襲撃者が潜んでいた地点は、既にもぬけの殻だった。そして…残された痕跡から関与を把握できたモノは…大物であり、対処に困るような存在であった。

「判断仰ぐべき事案ですので、片付けつつ我が君の下へ直接参りましょう。儀式も終わったようです」

ピオは平常心保つように見えたが、ニュールの魔力の導き出しに気付き…其の身から抜き取られたモノを感じ…気持ち昂り…心沸き立つ歓喜の思いが溢れる。

『あの御方様に導かれ進めるのなら、自身の…魔力の…血の…最後の一滴まで振り絞り捧げられるし…是非受け取って欲しい』

其の狂気入る恍惚とした思いは奥底にしまい、周囲の怪しき者を始末しながら…心から求める主の下へ急ぐ。

だが、その前に遭遇してしまった…水と油なもの。

フレイリアルは既に3ヶ所程、攻撃仕掛けてきた者達を片付けてきた。
鍛えてきた魔力体術を駆使し、意識奪い魔力による拘束を与え転がす…丁寧な方式。

最初に発見したのは勿論、索敵・攻防・襲撃などの専門家であるピオ。
だが、一瞬にしてフレイリアルも気付く。
敵でないのに敵のように相対するフレイリアルとピオ…。そして…蚊帳の外的立場のカーム。
最初に口を開いたのは勿論ピオだった。

「おやっ、大賢者な姫様がこんなところに出向くなんて…エリミアの賢者の塔は余程人材不足なんですねぇ。お気の毒様です」

喧嘩を売る気満々の声掛けに聞こえるが、此れがピオの通常状態。
誰に対しても、ほぼ変わること無き対人間隔。
だが、普通のモノ…特にフレイリアルの様に…ピオから散々貶められる言葉を浴び、真正面から受けて立つモノは戦う。

「貴方が仕掛けたんじゃないでしょうね!」

違うと分かっていても口をついて出てしまった言葉。

「やっぱり馬鹿なんですね…本当に王宮の…深窓のお姫様…って感じですね…」

思いっきり冷めた口調で、吐き出すように述べ…更なる蔑みの言葉継ぎ足す。

「表になんて出てこなければ良いのに…百害しかないんじゃないでしょうか?」

「貴方に行動を規制される謂れは無いし、むしろ他国の城で勝手に行動している貴方達を疑って何が悪いと言うの?」

絵に描いた様な売り言葉に買い言葉。
唖然としながら、状況を静観するしかないカームの目が泳ぐ。
もっとも直前までカームは目に入ったあるモノに衝撃を受け固まり…半分以上は聞いてない。

「思ったからと言って口にすること自体、浅薄で愚かな行為の見本ですし…自国の腐った部分を省みず他所様を非難するなんて…まさしく王宮と言う汚泥に住む虫達と同じ思考です」

「……」
 
痛いところを突かれたフレイリアルがまたしても言葉詰まらせる。
其れを胸を張り見下すような目付きでせせら笑うピオ。

フレイリアルは再び唇を噛み締めるしか無かった。
それでも此れで終わるとは到底思えない。フレイリアルは在る意味、不撓不屈の精神持つもの。
負ける気は全く無かった。

だが今回、フレイリアルとピオの更なる低次元な舌戦繰り広げらる前に…救いの主が現れる。

2人の言い合いが激しく加熱し続く…と思った時、其の前へ…全く認識できない状態で…気配無く立つ…怪しい人影が目に映った。
…と気付いた瞬間、警戒態勢に入る前に其の者は…間を取り持つように声を掛けてきた。

「仲良く…とは言わないが、その様な実の無い争いをするならば…お互いを視界に入れるな。遭遇しても距離を保ては済むことだろ?」

激しく驚愕するが、敵意を感じず…隠蔽魔力による強力な認識阻害を跳ね除け…其の人影を皆しっかりと認識しなおす。
其処には…少し残念そうに顔をしかめ、仲裁するように間に立つ…ニュールが居た。
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