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第十二章 出航
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二人が、王都に戻って早三ヶ月。
王都に戻った途端、二人の生活環境が一気に変化した。
山岳の村で十年もの間、自分たちの教育を支援してくれた主君を、王様に即位させるために簒奪。護衛。復興と多くの事に携わって協力してきた。
それらすべてが成功した今、戴冠式の行われる五月を目標に、町の経済が活気を取り戻し、国民に笑顔が戻ったように見える。
近頃、港に多くの運搬船が往来するようになってきた。
広場に市や、大道芸人の姿が見受けられ、賑やかな音楽が流れている。
今朝の新聞には、『人身売買を行っていた奴隷商人たちを、王国騎士団が逮捕』という見出しが一面を飾っている。
ヘンリー国王の時代に、爵位と領地を剥奪された貴族一家が、行方不明になるという事件が多発。一族ごと暗殺される事件もあったが、半数近くが奴隷商に売買されたようである。
身売り先で、男性は過酷な労働を強いられ、女性の半数は、娼館で春を売っていた。
組織の黒幕がヘンリー国王であったために、奴隷市場を取り押さえる事は難しく、今回の簒奪により、漸く奴隷商人を逮捕できて、売春宿も摘発。『多くの貴族たちが、奴隷から解放』と新聞に記載されている。
アスケニア国では、エルスリーデ国王の時代に、奴隷制度を廃止した。
それでも、闇では奴隷商人が存在する。
ヘンリー国王は、自分よりも有能で支持の篤い貴族たちに、嫉妬や不満を抱いていた。
彼らの財産や爵位を剥奪して、奴隷商に売却する事で、自身の不満を満たしていたと思われる。その見返りに、奴隷商人たちから賄賂を受け取っていたことも発覚した。
次々とヘンリー国王の暴君ぶりが明るみに出てくる。
十二年にも及ぶ、ヘンリー国王の独裁政権は、国の経済や治安に大きな悪影響を与えていた。
幸い他国に、侵略や戦争を起こさなかった事だけは救いだが、三千万人もの国民が命を奪われ、圧政や剥奪、粛清により、国民を苦しめたのは事実である。
内閣府では、奴隷から解放された貴族たちの身元確認を行っている。
先に、カノイとノアーサが摂取された領地の所有者名簿を、揃えておいたお陰で、作業は捗っているようである。
少しずつではあるが、国民が労働や日常生活において、生き甲斐を持つようになれば、国の治安も安定してゆく事であろう。
ウィル卿が想像する以上に、官僚たちが動いてくれる。王宮の使用人たちも、ウィル卿に、篤い信頼を獲ているようだ。
カノイとノアーサは、ウィル卿の護衛として彼の傍に就き、彼の周りの環境が以前よりも、和やかであることを感じとっていた。
※
カノイとノアーサはこの日、ウィル卿の家族が住まう後宮に招待されていた。
即位を前に、ウィル卿は妃となる妻と王位継承者となる子供たちに二人を紹介しておきたいようである。
王族として即位すれば、一家の護衛も必要となって来るだろう。
簒奪前の、ウィル卿を取り巻く環境は常に緊迫していたが、彼の即位が決まってからのここ数日は、王宮を含め、周りの空気も穏やかに感じる。
二人はいつものように、ウィル卿の左右に就いて、後宮の中庭へと入った。
「お父様。おかえりなさい」
中庭で侍従と遊んでいた子供二人が、ウィル卿を見つけて走り寄ってくる。彼は膝を付き、両腕で二人の子供を抱き止めた。
「お前たち。いい子にしてたか?」
そこには父親としてのウィル卿の姿があった。
「紹介しょう。私の子供たちだ。長男のウィンズロー七歳と、長女のウェルマ五歳。この子らの護衛を頼む事もあるだろうから、その時はよろしく頼むよ」
そう言うと、二人の子供たちはカノイとノアーサに挨拶する。この子たちも、ウィル卿が即位すれば王子、王女と呼ばれるようになる。
長男のウィンズローは翌年から、王公貴族の子供たちが通う、寄宿制の学舎に入学すると話してくれた。
彼は、父親であるウィル卿の血を引き継いだようだ。銀髪で碧眼の瞳が、二人に好意の眼差しで話しかけてきた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは騎士なの?」
「はい。貴方のお父上の元で、護衛騎士を勤めております」
カノイがウィンズローに膝をついて目線を合わせ、そう答えた。
「じゃあ、剣が使えるの?」
「はい」
「凄い。僕も使えるようになりたい。強くなりたいから」
無邪気に話しかけるウィル卿の長男に、カノイは思わず笑みが溢れる。
「まあ、ウィンズローったら」
長い金髪を靡かせて、翆眼のまるで妖精を思わせるような美しい女性が呟く。
ウィル卿の奥方であろう。既に、王妃となるべき貴賓が感じられた。
「お母さま」
ウィル卿の娘ウェルマは、母親の声を聞くと彼女に抱きついてきた。娘は母親の血を引き継いだようだ。彼女と同じ髪と目の色をしている。末っ子で甘えん坊のようだ。
「ウィルから毎日、貴方たちの噂を聞かされているわ」
ウィル卿の奥方が娘を抱き上げると、二人に話しかけてきた。
「私の妻、マテリア。彼女はタルタハの王公貴族出身だ」
「話を聞いて驚いたの。タルタハの女王の王配と兄妹なんですってね。何だか不思議なご縁を感じるわ。」
彼女はゆっくり話がしたいと、中庭のテラスにお茶を用意させていた。二人は薦められて席に着く。
王妃となるマテリアはウィル卿と同じく、好奇心旺盛な性格のようだ。
彼女の言葉の時々に、タルタハ語でも北部の訛りがある。アスケニア語もタルタハ語も祖語は一緒なので、聞いてれば言葉の意味は理解できる。
「貴方たち、まだ、十代と聞いているけど、とても落ち着いているわね」
マテリアが二人に話しかける。
「それは、私が最も信頼できる相手として、育ててきたからね」
ウィル卿が同じ席について、妻に二人のこれまでの活躍を話した。
「『我が子ら』のご両親は二人とも王国騎士団。その血筋を引いていたのか、とても辛抱強く、根気もあった。因みに彼らには暗殺者としての腕も備わっている。簒奪の時は、ヘンリー前国王の刺客を一瞬で何人も倒し、私を守ってくれた」
「私は武勇伝よりも、二人の夫婦生活に興味があるわ」
聞かれてノアーサとカノイはお互いの顔を見合わせる。
「お互い、仕事も私生活においても互いに気の合う同胞です」
カノイが答えた。
「そういえば、君たちの約束をまだ果たしてなかったな」
ウィル卿は思い出したように呟いた。
「仕事が落ち着いたら『子作り休暇を出す』と前に話していたのを覚えているかね」
簒奪の後、確かに彼は内閣府でそんなことを呟いていた。いつもの冗談だと二人は思い、気にも止めていなかったのである。
「実は君らに、タルタハまで遣いを頼みたいのだが、引き受けてくれるかね」
隣国タルタハと聞いて、ノアーサが真っ先に思い付いたのは、兄夫婦の事である。互いの国が落ち着いた今、兄夫婦に逢えるものなら、逢いに行きたい。
「私の母を、迎えに行ってやってはくれないか。即位式は半年先だが、その前に、こちらで産まれた孫たちに逢わせてやりたいのだよ」
ウィルフォンス卿の母、エスメラルダは、アスケニア十六代国王エルスリーデの第三王女で、タルタハの王族に嫁いでいた。
彼女は十二年前、兄の十七代国王エルベルトの崩御を知り、当事、学舎を卒業したばかりのウィル卿を母国であるアスケニアに送り出した人でもあった。
「君らをタルタハの親善大使として、この仕事を任せたい」
親善大使という事は、兄夫婦の謁見の機会もある。以前のように気楽には話せない立場になってしまったが、遠くからでも、元気な姿を拝見したかった。
「願ってもない事ですが、まだ、国の治安や財政、経済は安定しておりませんし、主君も即位までは護衛が必要かと」
カノイはそう告げる。
「君らには、護衛以外に官僚が行うべき公務も任せてしまっていたね。お陰で君らはろくに休みもとれていなかっただろう」
「そういえば、女王に即位なさるアンジェリカ。身重と聞いているけど、奥様は妊娠してる?」
ウィル卿の妻、マテリアが訪ねた。
「いえ。その兆しもまだ」
ノアーサが答えた。
「それなら、タルタハには今、行っておくべきよ。ウィルは船旅を用意したのよ。お義母様もその方が、負担もなくて良いと思うわ」
アスケニアからタルタハまで、陸路だと片道6日。航路だと片道3日で到着できるという。
ノアーサたちが十年過ごした山岳の村は国境で、山脈を越える道もあった。
兄のノルマンは、そこで国境警備を努めていた事がある。
「君たちは住んでいた村を経由してタルタハに行きたいかも知れないが、王都からは距離がある。この国と同じように、王都には港があるから、君らの兄妹の住まう城も見えるぞ」
ウィル卿は兄夫婦の再会も含め、二人にそう告げた。
「そういえば、奥様は3日後、誕生日よね。晴れて成人ね。誕生日を船でお祝いできるように手配しておくわ」
ウィル卿の妻も二人のタルタハ行きを薦めているようだ。
「君らはこれまで、私に充分、尽くしてくれたよ。その恩赦としてタルタハ行きを受け取ってくれないか」
ウィル卿は二人に遣いを兼ねて兄夫婦に逢う機会を与えてくれるという。
「お受け致します」
カノイがそう答える。
急な事ではあったが、二日後に船を出港させるとの事。そのための準備が必要であろうと、その日は早退することにした。
「王国騎士団に寄れないかしら」
帰り道にノアーサがカノイに訪ねる。
「お義父さんに報告したいんだね。いいよ」
カノイが答えて、二人は王国騎士団へと向かった。そこで二人は父親にタルタハ行きを伝え、ノルマンやアンを知る騎士や看護士。医師たちから、手紙を預かった。
「王様になっても、昔の同僚を忘れる事はないと思うの。義姉も出産と即位を控えて大変だろうから、これが励みになると良いけど」
ノアーサは細やかではあったが、自分が今、兄夫婦のためにしてあげたい事を行った。
「女王と王配に逢えるのが楽しみだね」
「兄さんと話せる時間あるかしら?」
人生初の船旅と兄夫婦の再会が楽しみでたまらなかった。
※
王都の港に王族御用達の船が入港する。豪華な作りと、船の大きさに圧倒された。
アスケニアは海に面した大陸にあるために、造船所もある。十数年ぶりに王族の船が入港したとの噂で、今日は港に多くの見物人が訪れていた。
国王に即位するウィル卿の母を、迎える為に出航する船と聞いていたが、それにまさか自分たち二人が乗船するとは予想外であった。
「約十年ぶりに、この船も日の目を見たな」
ウィル卿が、船を見上げながらそう呟いた。自分の子供たちに船を見せてやりたくて、ウィル卿は家族で見送りに来ていた。
彼の一家を囲むように近衛兵が数名、周辺に同行している。
王族一家を拝見できると、見物客や新聞記者もいるようで、二人の周辺はかなり賑わっていた。
「我々騎士に、この王室御用達の船は豪華すぎます」
カノイが遠慮がちにウィル卿にそう、呟く。
「あまり使う事のない船でね。こういう時こそ、御披露目せねば」
そう、いってこの船が創られたいきさつを語り始めた。
この船は三十数年前、ウィル卿の母、エスメラルダがタルタハに嫁ぐ時に造船され、輿入れの時が処女航海となった。
その後は、王室御用達の船となり、船大工により長い間、整備されてきた。
この船を設計したのは、ヘンリー前国王の父親で、若くして亡くなったエドワードだと話す。
ウィル卿の祖父、十六代国王の弟であったエドワードは、人生の殆んどを病床で過ごした。それでもいつか完治したら、船旅がしたいと、船の設計や建築の勉強をしていて、多くの船の製図を書き残したという。しかし、それらの船は創られることの無いまま、彼は二十八歳という若さで天に召されてしまった。
「私の母は、叔父のエドワードが設計した船を作る事で、彼の生きた証を残したいと思ったのかも知れない」
ウィル卿の母、エスメラルダはタルタハに嫁ぐ時に、叔父の設計した船で嫁ぎたいと、父親である当時の国王、エルスリーデに願い出て、その願いが叶い、彼女はタルタハの王族に輿入れした。
「私の母を頼んだよ」
ウィル卿は二人にそう伝えると、取材待ちしている記者たちに声をかける。
「我が子らよ。私が記者たちの質問に答えている間に乗船したまえ」
そう、言うと報道陣の方へと歩いて行く。サービス心旺盛な所は相変わらずのようだ。
「いって参ります」
カノイがそう、呟くとノアーサと供に足早に船のタラップへと上がった。
二人が船に乗り込むと、タラップが外され、汽笛が鳴り響き出航する。
生まれて初めての船旅。そして、一番に逢いたかった兄夫婦との再会が待っていた。
※
「ノアーサ。今日で君も十八歳。誕生日おめでとう」
翌朝、船上でノアーサは十八歳の誕生日を迎えた。
カノイがノアーサの誕生祝いにと首飾りを贈る。
「ヘンリエッタさんが薦めてくれたから、君の好みか解らないけど」
「素敵」
小さな宝石がひとつ付いた首飾りではあったが、ノアーサは派手な装飾品は好まない。気に入ってくれたようだ。
「この宝石の意味は『永遠の愛』。これからも末永く君と暮らしてゆけたらと思っている」
そう言うと、ノアーサの首にその首飾りをつけた。
「ノアーサ。義兄さんや義姉さんに逢えるのが楽しみだね」
「でも、二人は今や、女王様と王配なのよ。兄夫婦と別れたのは三ヶ月前の事なのに、こんなにもお互いの生活環境が変わってしまうものなのかしら」
「確かに。この三ヶ月で、僕らの環境も様変わりして、お互い夫婦になった」
カノイは山岳の村で、兄夫婦と過ごした三年間を懐かしみ、戻れるものならあの頃に戻りたいと語った。
「私も、あの頃に戻りたい。私たちはまだ子供で、教えられた事を素直に学んでいたら良かったもの」
「でも、今の暮らしも嫌いではないよ。君と一緒になれた。そのうち子供も作って、賑やかな家族を築けたらと思ってはいるけどね」
「ねぇカノイ。もし、私のお腹に貴方の子供ができていたら、貴方、喜んでくれる?」
ノアーサが何気に聞いてくる。
「勿論だよ」
そう、言うと、ノアーサを抱き寄せた。
「僕は、君との家族が欲しいんだ」
「実はねカノイ・・・」
ノアーサが何かをいいかけた時、 二人の船室をノックする音がした。カノイがそれに返事して扉の方へと向かう。
別室で、ノアーサの成人祝いの宴席を用意してくれたとの知らせを、乗務員が伝えに来た。
カノイと供にノアーサは別室へと移る。そこでノアーサは乗員に歓迎されながらの十八歳の成人を迎えたのである。
※
王室御用達の船は、穏やかな航海を続け、三日目の早朝にタルタハの港へと接岸した。タルタハ帝国は大陸でも北方にあり、冬は雪と氷に閉ざされる。
アスケニアより歴史は二百年程古く、到着したこの日は、雪が舞っていた。
二人は用意していた防寒着を着込み、船を降りる。
タルタハの王都は、歴史を感じさせる建造物が多く目立った。中でも王宮は城壁となって高台に聳えている。
あの王宮のどこかに兄夫婦がいて、船の到着を待っているのかと思うと、早く逢いたい一心で胸が高鳴った。
二人が港に降りると、既に知らせを受けていた迎えの馬車に二人は乗り込んだ。
タルタハの王都は城壁都市で、町全体が城壁となっている。
都市の高台には、貴族や騎士、王族の住まう屋敷が並び、その中心に王様の住む王宮があると説明を受けた。
二人は王宮の門を潜り、迷路のような場所を抜け、城に入る。
馬車を降りると謁見の広間へと案内された。
兄夫婦に逢える。この日をどれだけ心待ちにしていた事だろう。
暫くして、義姉のアンジェリカ女王が兄のノルマンと一緒に玉座に着いたようだ。二人は頭を垂れて、片膝を付き迎えた。
「アスケニア帝国からの使者と伺っております」
懐かしい義姉のアンの声が聞こえた。
「面をあげて下さい」
二人は、そこで数ヵ月ぶりに兄夫婦に再会した。身形が立派で、山岳の村で暮らしていた頃とは見違えるようだ。
ノアーサは思わず、「兄さん」と叫びたくなりそうになるのを必死に堪えた。
「遠方よりお越し頂き、感謝致します。アスケニア国、次期国王の王大后も、お二方がお見えになるのを心待ちにしておりましたよ」
かつては兄妹として、親しく話せた仲なのに、改めて遠い存在になってしまったと気づかされた。
「長旅の疲れもありましょう。タルタハでの滞在を楽しまれて下さい」
そう伝えると、ノルマンは身重のアンを気遣うように手をとって謁見の間を離れて行く。
兄夫婦との再会はこれでおしまいなのだと二人は思った。
「ノアーサ。義兄さんたち元気そうで良かった」
兄夫婦を見送った後、ノアーサの肩に手を伸ばしてカノイがそう呟いたが、寂しい思いは一緒である。
二人が謁見の間を出ようとしていると、側近に声をかけられた。
彼は、二人を別の部屋へと案内する。部屋の扉を開けると、懐かしい兄夫婦が迎えてくれた。
「お前たち。良く来てくれた。立派になったな。結婚、おめでとう。それから、父さんは元気か」
兄は王配となっても、以前と変わらず気さくに話しかけてくる。
「ノアーサ。来てくれてありがとう」
アンがノアーサを抱き締めた。彼女のお腹が、当たったのを感じる。
「義姉さん。おめでとう。お腹に赤ちゃんがいるのよね」
「やっと安定期に入ったのよ。今、二十五週目(六ヶ月)。今のところ順調よ」
以前と変わらないアンにノアーサは安心した。
「謁見の間では、女王と王配として振る舞うように言われているのでね。他人行儀な扱いをしてすまない」
お互い、新しい環境に慣れるのは大変なようだ。兄夫婦も歴史や伝統を重んじ、年寄りの多い官僚や貴族たちの中で、苦労しているようである。
兄は王配となっても、思いやりと周囲への気配りは以前と変わらない。
そんな二人に、ノアーサは王国騎士団の人たちから預かってきた手紙の入った箱を差し出した。
「兄さん。これを受け取って貰えるかしら。二人を知る皆から預かってきたの」
二人は喜んで、その箱を受けとってくれた。箱の中には父、ノルディックの手紙も入っている。
「ノアーサ。父さんに、『勝手な事をして申し訳ない』と伝えて欲しい。でも、自分は女王となったアンと、産まれてくる子供たちを支えて、この国の為に生きるよ」
「お父さんは、兄さんを信じていたわ。だから、二人はこの国の人たちの為に、良い女王と王配になって。私たちもウィル卿の護衛騎士として、領民を支え、カノイと家族も作って行く」
同じ兄妹でも、互いに生きる道は違い、己の人生を精一杯に生きようとしている。それを確認できた。
「カノイ、ノアーサ。貴方たちに私たちから成人と結婚のお祝いを贈るわ。これは兄妹としてよ。受け取って貰えるかしら」
アンはそう言うと、側にいた侍従に二つの箱を持って来させた。箱の中には赤い宝石の入った勲章が入っている。
「タルタハ親善大使の勲章よ」
「こんな高価なもの受けとれないわ」
ノアーサが遠慮して答えた。
「これは、ウィル卿の母君、エスメラルダ王大后様からの、行為でもある」
ノルマンが受け取るべきだと伝えた。
「ウィルは私の従兄弟で、叔母でもあるわ。受けとってくれると叔母様も喜ぶと思うの」
そう言われ、二人は互いに勲章の入った箱を手にする。
「ありがたく、頂戴致します」
カノイがそう答えた。
四人が、再会に浸っていると、部屋の扉が開いて中年の女性が入ってきた。
「アンジェリカ。アスケニアからウィルの使いが見えたと聞いたけど、そちらにいるの」
王宮の離れから、船の到着を知り、待ちきれずウィル卿の母親と思える女性が駆け込んできた。
ウィル卿と同じ髪と、目の色をしているので一目瞭然である。
銀髪の髪を後ろで束ね、勝ち気な口調の女性は、女王となるアンに、拝謁する様子もなく、叔母として振る舞っていた。
「叔母様。紹介します。王配の妹夫婦。アスケニアから叔母様をお迎えに来たのですよ」
アンが二人を紹介すると、叔母のエスメラルダは二人を懐かしむように見つめた。
「貴方はカエサルの息子ね。そして貴女はローズ。昔のご両親にそっくりよ」
二人を見つめ、その場にいるアンやノルマンたちに思い出を語り始めた。
「私がアスケニアの王女だった頃、貴方たちの両親に私は助けられた事があった。私が十六歳の頃の話よ」
ウィル卿の母、エスメラルダは当時、二十歳以上も年の離れた王族の後妻としてタルタハに嫁がされる事が決まっていた。
それを受け入れる事が不満で、城から脱走したという。
「あの頃は、本当に世間知らずで、貴方たちのご両親に、運良く助けられたのだけど、本当に怖い思いをしたわ。その後、数日間を一緒にすごしたのよ」
その時の楽しい思い出を胸に、彼女はタルタハに嫁ぐ覚悟ができたのだという。
「タルタハに嫁いで三十年。その間に兄のエルベルトを失い、唯一の友だった貴方たちの両親や夫も失ったわね」
ウィル卿の父親は、彼が十五歳の頃に、肺炎を煩い他界していた。
「アスケニアに戻ったら、兄一家の墓参りをするわ。ウィルの家族にも逢えるのね」
息子がアスケニアの国王に即位。姪がタルタハの女王に即位する彼女は、最早、『両国の母』とも呼ぶべき存在なのかも知れない。
互いの思い出を語り合いたいと、その日は、ウィル卿の母も交え、カノイたちは、兄夫婦と夕食を供にすることになった。
※
ウィル卿の母、エスメラルダ王大后は、晩餐にてヘンリー元国王の両親の事、彼の幼少の頃を語ってくれた。
彼女は、尊敬していた兄、十七代国王エルベルトが、従兄弟のヘンリーに暗殺された事が、無念でならなかったと話す。
「兄は、甥にあたるウィルを我が子同様に可愛がってくれたわ。でも、今考えると、ウィルに王国を治めて欲しいと願っていたのではないかしら」
ウィル卿の母、エスメラルダは昔話を語りながら、二人に息子ウィルの印象を聞いた。
「良き、主君に恵まれたと思います。とても、奇策な方で、国民の声にも耳を傾け、思いやりのある御方です」
カノイがウィル卿の母にそう答えた。
「あの性格は叔父を真似たのね。良き兄だった。そんな兄一家の命をヘンリーは・・・」
エスメラルダ王大后がタルタハに嫁ぐ時、ヘンリー元国王は八歳。その後、兄一家を殺害し、国を簒奪して、国民を苦しめる暴君になるとは想像もつかなかったという。
「でも、過去は変えられないわ。だけど、アンジェリカの王配が、ノルディックとローズの息子で、ウィルが後の右腕にと育てた子がその妹。そして、カエサルとミランダの息子だったなんて、これは必然とも言うべきね」
「叔母様。それは私も思いました。王族から離れ、自立して生きようとアスケニアに渡り、看護士になった。そこでローズ先生に出逢い、ノルマンと結婚できたのです」
アンは正直、王族には戻りたくはなかったと話す。
「カノイ。ノアーサ。私たち三ヶ月前までは、山岳の村で、四人で暮らしていたのよ。楽しかったわね」
アンは山岳の村での生活は今でも一番の思い出だと語った。
「私たちも、あの頃に帰りたい。けど、あの時間は今のためにあったのよね。義姉さん。私、一番に報告したい事があったの」
ノアーサが、覚悟を決めたように口を開いた。
「まだはっきりしないのだけど、できたみたい」
「ノアーサ。まさか子供?」
驚いたカノイの言葉に、ノアーサは頷く。
「結婚式を挙げてから後、一度も来てないから、多分」
ノルマンがカノイに、悪戯めいた口調でたずねる。
「カノイ。勿論、覚えはあるよな。結婚しているんだから、恥ずかしい事はないぞ。義兄の前で、正直に答えろ」
「恐らく結婚式の後、領地に数日滞在していたあの時かな?」
カノイは、確認するようにノルマンに話した。
四人の会話が、かつて村で一緒に暮らしていた頃の空気と、変わらないように思える。
「ノアーサ。タルタハにいる間に私の主治医に一度、診て貰った方が良いわね。帰りの事もあるでしょ」
アンは、以前と変わらず義姉としてノアーサの体を案じている。
「ノアーサ。まだ実感湧かないのだけど、僕は父親になるって事だよね」
カノイが信じられないという表情を浮かべている。
「嬉しい。けど、ちゃんと父親が勤まるのかな」
「カノイ、それは俺も一緒だ。女は胎内に宿った時既に、母親としての母性本能が目覚めているらしいが、男というのは、産まれ出て来ないと、父親の自覚が芽生えないからな」
ノルマンが、自身の経験を元に語る。
「正直、アンが悪阻で寝込んでいる時も、何もしてやれなかった。今だって、大きくなるお腹に負担をかけないよう、付き添い、公務の代行を勤めてやる事しぐらいしか出来ない」
先に父親になるノルマンは、アンの即位に向けて代行で公務を行い、王配の評判も良いと聞いている。
「ノアーサ。恐らく、妊娠七週目くらいね」
看護士だったアンは、ノアーサの懐妊は間違いないという。
「年明けには悪阻で辛いだろうけど、それも長くは続かないわよ。お互いお母さんになるのよ。頑張りましょうね」
「でも、私、まだ十八歳になったばかりよ」
ノアーサが不安でそう答えると、横からエスメラルダが会話に入って来た。
「私がウィルを産んだのは十八歳よ。確かに当時は不安だった。でも、四十歳で世継ぎに恵まれたと夫は喜んでくれたわ」
子供はその夫婦に必要だからこそ、授かるのだとエスメラルダは話してくれた。
「出産、子育ては大変だけど、時が経てば良い思い出よ」
義姉のアンには、王大后の叔母がいてくれる。子育ての経験者が側にいる事で、出産や子育ても心強いだろうとノアーサは思った。
「私のお腹の子は双子みたい。心音が二人分聞こえるのよ」
アンが二人にそう告げた。胎動も激しく、互いにお腹を蹴ってくるという。
「ノアーサ。知らせてくれてありがとう。そして、おめでとう。きっと、ミランダ団長やローズ先生も喜んでくれているわよ」
翌日、ノアーサは、アンの主治医の診察により、妊娠七週目に入っている事が解った。
船での帰国なら大丈夫だとの診断も受け、二日後、二人はウィル卿の母を伴って帰国を迎えた。
翌年、互いの王が即位後、タルタハ帝国とアスケニア王国は、姉妹条約を結んだ。
王都に戻った途端、二人の生活環境が一気に変化した。
山岳の村で十年もの間、自分たちの教育を支援してくれた主君を、王様に即位させるために簒奪。護衛。復興と多くの事に携わって協力してきた。
それらすべてが成功した今、戴冠式の行われる五月を目標に、町の経済が活気を取り戻し、国民に笑顔が戻ったように見える。
近頃、港に多くの運搬船が往来するようになってきた。
広場に市や、大道芸人の姿が見受けられ、賑やかな音楽が流れている。
今朝の新聞には、『人身売買を行っていた奴隷商人たちを、王国騎士団が逮捕』という見出しが一面を飾っている。
ヘンリー国王の時代に、爵位と領地を剥奪された貴族一家が、行方不明になるという事件が多発。一族ごと暗殺される事件もあったが、半数近くが奴隷商に売買されたようである。
身売り先で、男性は過酷な労働を強いられ、女性の半数は、娼館で春を売っていた。
組織の黒幕がヘンリー国王であったために、奴隷市場を取り押さえる事は難しく、今回の簒奪により、漸く奴隷商人を逮捕できて、売春宿も摘発。『多くの貴族たちが、奴隷から解放』と新聞に記載されている。
アスケニア国では、エルスリーデ国王の時代に、奴隷制度を廃止した。
それでも、闇では奴隷商人が存在する。
ヘンリー国王は、自分よりも有能で支持の篤い貴族たちに、嫉妬や不満を抱いていた。
彼らの財産や爵位を剥奪して、奴隷商に売却する事で、自身の不満を満たしていたと思われる。その見返りに、奴隷商人たちから賄賂を受け取っていたことも発覚した。
次々とヘンリー国王の暴君ぶりが明るみに出てくる。
十二年にも及ぶ、ヘンリー国王の独裁政権は、国の経済や治安に大きな悪影響を与えていた。
幸い他国に、侵略や戦争を起こさなかった事だけは救いだが、三千万人もの国民が命を奪われ、圧政や剥奪、粛清により、国民を苦しめたのは事実である。
内閣府では、奴隷から解放された貴族たちの身元確認を行っている。
先に、カノイとノアーサが摂取された領地の所有者名簿を、揃えておいたお陰で、作業は捗っているようである。
少しずつではあるが、国民が労働や日常生活において、生き甲斐を持つようになれば、国の治安も安定してゆく事であろう。
ウィル卿が想像する以上に、官僚たちが動いてくれる。王宮の使用人たちも、ウィル卿に、篤い信頼を獲ているようだ。
カノイとノアーサは、ウィル卿の護衛として彼の傍に就き、彼の周りの環境が以前よりも、和やかであることを感じとっていた。
※
カノイとノアーサはこの日、ウィル卿の家族が住まう後宮に招待されていた。
即位を前に、ウィル卿は妃となる妻と王位継承者となる子供たちに二人を紹介しておきたいようである。
王族として即位すれば、一家の護衛も必要となって来るだろう。
簒奪前の、ウィル卿を取り巻く環境は常に緊迫していたが、彼の即位が決まってからのここ数日は、王宮を含め、周りの空気も穏やかに感じる。
二人はいつものように、ウィル卿の左右に就いて、後宮の中庭へと入った。
「お父様。おかえりなさい」
中庭で侍従と遊んでいた子供二人が、ウィル卿を見つけて走り寄ってくる。彼は膝を付き、両腕で二人の子供を抱き止めた。
「お前たち。いい子にしてたか?」
そこには父親としてのウィル卿の姿があった。
「紹介しょう。私の子供たちだ。長男のウィンズロー七歳と、長女のウェルマ五歳。この子らの護衛を頼む事もあるだろうから、その時はよろしく頼むよ」
そう言うと、二人の子供たちはカノイとノアーサに挨拶する。この子たちも、ウィル卿が即位すれば王子、王女と呼ばれるようになる。
長男のウィンズローは翌年から、王公貴族の子供たちが通う、寄宿制の学舎に入学すると話してくれた。
彼は、父親であるウィル卿の血を引き継いだようだ。銀髪で碧眼の瞳が、二人に好意の眼差しで話しかけてきた。
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは騎士なの?」
「はい。貴方のお父上の元で、護衛騎士を勤めております」
カノイがウィンズローに膝をついて目線を合わせ、そう答えた。
「じゃあ、剣が使えるの?」
「はい」
「凄い。僕も使えるようになりたい。強くなりたいから」
無邪気に話しかけるウィル卿の長男に、カノイは思わず笑みが溢れる。
「まあ、ウィンズローったら」
長い金髪を靡かせて、翆眼のまるで妖精を思わせるような美しい女性が呟く。
ウィル卿の奥方であろう。既に、王妃となるべき貴賓が感じられた。
「お母さま」
ウィル卿の娘ウェルマは、母親の声を聞くと彼女に抱きついてきた。娘は母親の血を引き継いだようだ。彼女と同じ髪と目の色をしている。末っ子で甘えん坊のようだ。
「ウィルから毎日、貴方たちの噂を聞かされているわ」
ウィル卿の奥方が娘を抱き上げると、二人に話しかけてきた。
「私の妻、マテリア。彼女はタルタハの王公貴族出身だ」
「話を聞いて驚いたの。タルタハの女王の王配と兄妹なんですってね。何だか不思議なご縁を感じるわ。」
彼女はゆっくり話がしたいと、中庭のテラスにお茶を用意させていた。二人は薦められて席に着く。
王妃となるマテリアはウィル卿と同じく、好奇心旺盛な性格のようだ。
彼女の言葉の時々に、タルタハ語でも北部の訛りがある。アスケニア語もタルタハ語も祖語は一緒なので、聞いてれば言葉の意味は理解できる。
「貴方たち、まだ、十代と聞いているけど、とても落ち着いているわね」
マテリアが二人に話しかける。
「それは、私が最も信頼できる相手として、育ててきたからね」
ウィル卿が同じ席について、妻に二人のこれまでの活躍を話した。
「『我が子ら』のご両親は二人とも王国騎士団。その血筋を引いていたのか、とても辛抱強く、根気もあった。因みに彼らには暗殺者としての腕も備わっている。簒奪の時は、ヘンリー前国王の刺客を一瞬で何人も倒し、私を守ってくれた」
「私は武勇伝よりも、二人の夫婦生活に興味があるわ」
聞かれてノアーサとカノイはお互いの顔を見合わせる。
「お互い、仕事も私生活においても互いに気の合う同胞です」
カノイが答えた。
「そういえば、君たちの約束をまだ果たしてなかったな」
ウィル卿は思い出したように呟いた。
「仕事が落ち着いたら『子作り休暇を出す』と前に話していたのを覚えているかね」
簒奪の後、確かに彼は内閣府でそんなことを呟いていた。いつもの冗談だと二人は思い、気にも止めていなかったのである。
「実は君らに、タルタハまで遣いを頼みたいのだが、引き受けてくれるかね」
隣国タルタハと聞いて、ノアーサが真っ先に思い付いたのは、兄夫婦の事である。互いの国が落ち着いた今、兄夫婦に逢えるものなら、逢いに行きたい。
「私の母を、迎えに行ってやってはくれないか。即位式は半年先だが、その前に、こちらで産まれた孫たちに逢わせてやりたいのだよ」
ウィルフォンス卿の母、エスメラルダは、アスケニア十六代国王エルスリーデの第三王女で、タルタハの王族に嫁いでいた。
彼女は十二年前、兄の十七代国王エルベルトの崩御を知り、当事、学舎を卒業したばかりのウィル卿を母国であるアスケニアに送り出した人でもあった。
「君らをタルタハの親善大使として、この仕事を任せたい」
親善大使という事は、兄夫婦の謁見の機会もある。以前のように気楽には話せない立場になってしまったが、遠くからでも、元気な姿を拝見したかった。
「願ってもない事ですが、まだ、国の治安や財政、経済は安定しておりませんし、主君も即位までは護衛が必要かと」
カノイはそう告げる。
「君らには、護衛以外に官僚が行うべき公務も任せてしまっていたね。お陰で君らはろくに休みもとれていなかっただろう」
「そういえば、女王に即位なさるアンジェリカ。身重と聞いているけど、奥様は妊娠してる?」
ウィル卿の妻、マテリアが訪ねた。
「いえ。その兆しもまだ」
ノアーサが答えた。
「それなら、タルタハには今、行っておくべきよ。ウィルは船旅を用意したのよ。お義母様もその方が、負担もなくて良いと思うわ」
アスケニアからタルタハまで、陸路だと片道6日。航路だと片道3日で到着できるという。
ノアーサたちが十年過ごした山岳の村は国境で、山脈を越える道もあった。
兄のノルマンは、そこで国境警備を努めていた事がある。
「君たちは住んでいた村を経由してタルタハに行きたいかも知れないが、王都からは距離がある。この国と同じように、王都には港があるから、君らの兄妹の住まう城も見えるぞ」
ウィル卿は兄夫婦の再会も含め、二人にそう告げた。
「そういえば、奥様は3日後、誕生日よね。晴れて成人ね。誕生日を船でお祝いできるように手配しておくわ」
ウィル卿の妻も二人のタルタハ行きを薦めているようだ。
「君らはこれまで、私に充分、尽くしてくれたよ。その恩赦としてタルタハ行きを受け取ってくれないか」
ウィル卿は二人に遣いを兼ねて兄夫婦に逢う機会を与えてくれるという。
「お受け致します」
カノイがそう答える。
急な事ではあったが、二日後に船を出港させるとの事。そのための準備が必要であろうと、その日は早退することにした。
「王国騎士団に寄れないかしら」
帰り道にノアーサがカノイに訪ねる。
「お義父さんに報告したいんだね。いいよ」
カノイが答えて、二人は王国騎士団へと向かった。そこで二人は父親にタルタハ行きを伝え、ノルマンやアンを知る騎士や看護士。医師たちから、手紙を預かった。
「王様になっても、昔の同僚を忘れる事はないと思うの。義姉も出産と即位を控えて大変だろうから、これが励みになると良いけど」
ノアーサは細やかではあったが、自分が今、兄夫婦のためにしてあげたい事を行った。
「女王と王配に逢えるのが楽しみだね」
「兄さんと話せる時間あるかしら?」
人生初の船旅と兄夫婦の再会が楽しみでたまらなかった。
※
王都の港に王族御用達の船が入港する。豪華な作りと、船の大きさに圧倒された。
アスケニアは海に面した大陸にあるために、造船所もある。十数年ぶりに王族の船が入港したとの噂で、今日は港に多くの見物人が訪れていた。
国王に即位するウィル卿の母を、迎える為に出航する船と聞いていたが、それにまさか自分たち二人が乗船するとは予想外であった。
「約十年ぶりに、この船も日の目を見たな」
ウィル卿が、船を見上げながらそう呟いた。自分の子供たちに船を見せてやりたくて、ウィル卿は家族で見送りに来ていた。
彼の一家を囲むように近衛兵が数名、周辺に同行している。
王族一家を拝見できると、見物客や新聞記者もいるようで、二人の周辺はかなり賑わっていた。
「我々騎士に、この王室御用達の船は豪華すぎます」
カノイが遠慮がちにウィル卿にそう、呟く。
「あまり使う事のない船でね。こういう時こそ、御披露目せねば」
そう、いってこの船が創られたいきさつを語り始めた。
この船は三十数年前、ウィル卿の母、エスメラルダがタルタハに嫁ぐ時に造船され、輿入れの時が処女航海となった。
その後は、王室御用達の船となり、船大工により長い間、整備されてきた。
この船を設計したのは、ヘンリー前国王の父親で、若くして亡くなったエドワードだと話す。
ウィル卿の祖父、十六代国王の弟であったエドワードは、人生の殆んどを病床で過ごした。それでもいつか完治したら、船旅がしたいと、船の設計や建築の勉強をしていて、多くの船の製図を書き残したという。しかし、それらの船は創られることの無いまま、彼は二十八歳という若さで天に召されてしまった。
「私の母は、叔父のエドワードが設計した船を作る事で、彼の生きた証を残したいと思ったのかも知れない」
ウィル卿の母、エスメラルダはタルタハに嫁ぐ時に、叔父の設計した船で嫁ぎたいと、父親である当時の国王、エルスリーデに願い出て、その願いが叶い、彼女はタルタハの王族に輿入れした。
「私の母を頼んだよ」
ウィル卿は二人にそう伝えると、取材待ちしている記者たちに声をかける。
「我が子らよ。私が記者たちの質問に答えている間に乗船したまえ」
そう、言うと報道陣の方へと歩いて行く。サービス心旺盛な所は相変わらずのようだ。
「いって参ります」
カノイがそう、呟くとノアーサと供に足早に船のタラップへと上がった。
二人が船に乗り込むと、タラップが外され、汽笛が鳴り響き出航する。
生まれて初めての船旅。そして、一番に逢いたかった兄夫婦との再会が待っていた。
※
「ノアーサ。今日で君も十八歳。誕生日おめでとう」
翌朝、船上でノアーサは十八歳の誕生日を迎えた。
カノイがノアーサの誕生祝いにと首飾りを贈る。
「ヘンリエッタさんが薦めてくれたから、君の好みか解らないけど」
「素敵」
小さな宝石がひとつ付いた首飾りではあったが、ノアーサは派手な装飾品は好まない。気に入ってくれたようだ。
「この宝石の意味は『永遠の愛』。これからも末永く君と暮らしてゆけたらと思っている」
そう言うと、ノアーサの首にその首飾りをつけた。
「ノアーサ。義兄さんや義姉さんに逢えるのが楽しみだね」
「でも、二人は今や、女王様と王配なのよ。兄夫婦と別れたのは三ヶ月前の事なのに、こんなにもお互いの生活環境が変わってしまうものなのかしら」
「確かに。この三ヶ月で、僕らの環境も様変わりして、お互い夫婦になった」
カノイは山岳の村で、兄夫婦と過ごした三年間を懐かしみ、戻れるものならあの頃に戻りたいと語った。
「私も、あの頃に戻りたい。私たちはまだ子供で、教えられた事を素直に学んでいたら良かったもの」
「でも、今の暮らしも嫌いではないよ。君と一緒になれた。そのうち子供も作って、賑やかな家族を築けたらと思ってはいるけどね」
「ねぇカノイ。もし、私のお腹に貴方の子供ができていたら、貴方、喜んでくれる?」
ノアーサが何気に聞いてくる。
「勿論だよ」
そう、言うと、ノアーサを抱き寄せた。
「僕は、君との家族が欲しいんだ」
「実はねカノイ・・・」
ノアーサが何かをいいかけた時、 二人の船室をノックする音がした。カノイがそれに返事して扉の方へと向かう。
別室で、ノアーサの成人祝いの宴席を用意してくれたとの知らせを、乗務員が伝えに来た。
カノイと供にノアーサは別室へと移る。そこでノアーサは乗員に歓迎されながらの十八歳の成人を迎えたのである。
※
王室御用達の船は、穏やかな航海を続け、三日目の早朝にタルタハの港へと接岸した。タルタハ帝国は大陸でも北方にあり、冬は雪と氷に閉ざされる。
アスケニアより歴史は二百年程古く、到着したこの日は、雪が舞っていた。
二人は用意していた防寒着を着込み、船を降りる。
タルタハの王都は、歴史を感じさせる建造物が多く目立った。中でも王宮は城壁となって高台に聳えている。
あの王宮のどこかに兄夫婦がいて、船の到着を待っているのかと思うと、早く逢いたい一心で胸が高鳴った。
二人が港に降りると、既に知らせを受けていた迎えの馬車に二人は乗り込んだ。
タルタハの王都は城壁都市で、町全体が城壁となっている。
都市の高台には、貴族や騎士、王族の住まう屋敷が並び、その中心に王様の住む王宮があると説明を受けた。
二人は王宮の門を潜り、迷路のような場所を抜け、城に入る。
馬車を降りると謁見の広間へと案内された。
兄夫婦に逢える。この日をどれだけ心待ちにしていた事だろう。
暫くして、義姉のアンジェリカ女王が兄のノルマンと一緒に玉座に着いたようだ。二人は頭を垂れて、片膝を付き迎えた。
「アスケニア帝国からの使者と伺っております」
懐かしい義姉のアンの声が聞こえた。
「面をあげて下さい」
二人は、そこで数ヵ月ぶりに兄夫婦に再会した。身形が立派で、山岳の村で暮らしていた頃とは見違えるようだ。
ノアーサは思わず、「兄さん」と叫びたくなりそうになるのを必死に堪えた。
「遠方よりお越し頂き、感謝致します。アスケニア国、次期国王の王大后も、お二方がお見えになるのを心待ちにしておりましたよ」
かつては兄妹として、親しく話せた仲なのに、改めて遠い存在になってしまったと気づかされた。
「長旅の疲れもありましょう。タルタハでの滞在を楽しまれて下さい」
そう伝えると、ノルマンは身重のアンを気遣うように手をとって謁見の間を離れて行く。
兄夫婦との再会はこれでおしまいなのだと二人は思った。
「ノアーサ。義兄さんたち元気そうで良かった」
兄夫婦を見送った後、ノアーサの肩に手を伸ばしてカノイがそう呟いたが、寂しい思いは一緒である。
二人が謁見の間を出ようとしていると、側近に声をかけられた。
彼は、二人を別の部屋へと案内する。部屋の扉を開けると、懐かしい兄夫婦が迎えてくれた。
「お前たち。良く来てくれた。立派になったな。結婚、おめでとう。それから、父さんは元気か」
兄は王配となっても、以前と変わらず気さくに話しかけてくる。
「ノアーサ。来てくれてありがとう」
アンがノアーサを抱き締めた。彼女のお腹が、当たったのを感じる。
「義姉さん。おめでとう。お腹に赤ちゃんがいるのよね」
「やっと安定期に入ったのよ。今、二十五週目(六ヶ月)。今のところ順調よ」
以前と変わらないアンにノアーサは安心した。
「謁見の間では、女王と王配として振る舞うように言われているのでね。他人行儀な扱いをしてすまない」
お互い、新しい環境に慣れるのは大変なようだ。兄夫婦も歴史や伝統を重んじ、年寄りの多い官僚や貴族たちの中で、苦労しているようである。
兄は王配となっても、思いやりと周囲への気配りは以前と変わらない。
そんな二人に、ノアーサは王国騎士団の人たちから預かってきた手紙の入った箱を差し出した。
「兄さん。これを受け取って貰えるかしら。二人を知る皆から預かってきたの」
二人は喜んで、その箱を受けとってくれた。箱の中には父、ノルディックの手紙も入っている。
「ノアーサ。父さんに、『勝手な事をして申し訳ない』と伝えて欲しい。でも、自分は女王となったアンと、産まれてくる子供たちを支えて、この国の為に生きるよ」
「お父さんは、兄さんを信じていたわ。だから、二人はこの国の人たちの為に、良い女王と王配になって。私たちもウィル卿の護衛騎士として、領民を支え、カノイと家族も作って行く」
同じ兄妹でも、互いに生きる道は違い、己の人生を精一杯に生きようとしている。それを確認できた。
「カノイ、ノアーサ。貴方たちに私たちから成人と結婚のお祝いを贈るわ。これは兄妹としてよ。受け取って貰えるかしら」
アンはそう言うと、側にいた侍従に二つの箱を持って来させた。箱の中には赤い宝石の入った勲章が入っている。
「タルタハ親善大使の勲章よ」
「こんな高価なもの受けとれないわ」
ノアーサが遠慮して答えた。
「これは、ウィル卿の母君、エスメラルダ王大后様からの、行為でもある」
ノルマンが受け取るべきだと伝えた。
「ウィルは私の従兄弟で、叔母でもあるわ。受けとってくれると叔母様も喜ぶと思うの」
そう言われ、二人は互いに勲章の入った箱を手にする。
「ありがたく、頂戴致します」
カノイがそう答えた。
四人が、再会に浸っていると、部屋の扉が開いて中年の女性が入ってきた。
「アンジェリカ。アスケニアからウィルの使いが見えたと聞いたけど、そちらにいるの」
王宮の離れから、船の到着を知り、待ちきれずウィル卿の母親と思える女性が駆け込んできた。
ウィル卿と同じ髪と、目の色をしているので一目瞭然である。
銀髪の髪を後ろで束ね、勝ち気な口調の女性は、女王となるアンに、拝謁する様子もなく、叔母として振る舞っていた。
「叔母様。紹介します。王配の妹夫婦。アスケニアから叔母様をお迎えに来たのですよ」
アンが二人を紹介すると、叔母のエスメラルダは二人を懐かしむように見つめた。
「貴方はカエサルの息子ね。そして貴女はローズ。昔のご両親にそっくりよ」
二人を見つめ、その場にいるアンやノルマンたちに思い出を語り始めた。
「私がアスケニアの王女だった頃、貴方たちの両親に私は助けられた事があった。私が十六歳の頃の話よ」
ウィル卿の母、エスメラルダは当時、二十歳以上も年の離れた王族の後妻としてタルタハに嫁がされる事が決まっていた。
それを受け入れる事が不満で、城から脱走したという。
「あの頃は、本当に世間知らずで、貴方たちのご両親に、運良く助けられたのだけど、本当に怖い思いをしたわ。その後、数日間を一緒にすごしたのよ」
その時の楽しい思い出を胸に、彼女はタルタハに嫁ぐ覚悟ができたのだという。
「タルタハに嫁いで三十年。その間に兄のエルベルトを失い、唯一の友だった貴方たちの両親や夫も失ったわね」
ウィル卿の父親は、彼が十五歳の頃に、肺炎を煩い他界していた。
「アスケニアに戻ったら、兄一家の墓参りをするわ。ウィルの家族にも逢えるのね」
息子がアスケニアの国王に即位。姪がタルタハの女王に即位する彼女は、最早、『両国の母』とも呼ぶべき存在なのかも知れない。
互いの思い出を語り合いたいと、その日は、ウィル卿の母も交え、カノイたちは、兄夫婦と夕食を供にすることになった。
※
ウィル卿の母、エスメラルダ王大后は、晩餐にてヘンリー元国王の両親の事、彼の幼少の頃を語ってくれた。
彼女は、尊敬していた兄、十七代国王エルベルトが、従兄弟のヘンリーに暗殺された事が、無念でならなかったと話す。
「兄は、甥にあたるウィルを我が子同様に可愛がってくれたわ。でも、今考えると、ウィルに王国を治めて欲しいと願っていたのではないかしら」
ウィル卿の母、エスメラルダは昔話を語りながら、二人に息子ウィルの印象を聞いた。
「良き、主君に恵まれたと思います。とても、奇策な方で、国民の声にも耳を傾け、思いやりのある御方です」
カノイがウィル卿の母にそう答えた。
「あの性格は叔父を真似たのね。良き兄だった。そんな兄一家の命をヘンリーは・・・」
エスメラルダ王大后がタルタハに嫁ぐ時、ヘンリー元国王は八歳。その後、兄一家を殺害し、国を簒奪して、国民を苦しめる暴君になるとは想像もつかなかったという。
「でも、過去は変えられないわ。だけど、アンジェリカの王配が、ノルディックとローズの息子で、ウィルが後の右腕にと育てた子がその妹。そして、カエサルとミランダの息子だったなんて、これは必然とも言うべきね」
「叔母様。それは私も思いました。王族から離れ、自立して生きようとアスケニアに渡り、看護士になった。そこでローズ先生に出逢い、ノルマンと結婚できたのです」
アンは正直、王族には戻りたくはなかったと話す。
「カノイ。ノアーサ。私たち三ヶ月前までは、山岳の村で、四人で暮らしていたのよ。楽しかったわね」
アンは山岳の村での生活は今でも一番の思い出だと語った。
「私たちも、あの頃に帰りたい。けど、あの時間は今のためにあったのよね。義姉さん。私、一番に報告したい事があったの」
ノアーサが、覚悟を決めたように口を開いた。
「まだはっきりしないのだけど、できたみたい」
「ノアーサ。まさか子供?」
驚いたカノイの言葉に、ノアーサは頷く。
「結婚式を挙げてから後、一度も来てないから、多分」
ノルマンがカノイに、悪戯めいた口調でたずねる。
「カノイ。勿論、覚えはあるよな。結婚しているんだから、恥ずかしい事はないぞ。義兄の前で、正直に答えろ」
「恐らく結婚式の後、領地に数日滞在していたあの時かな?」
カノイは、確認するようにノルマンに話した。
四人の会話が、かつて村で一緒に暮らしていた頃の空気と、変わらないように思える。
「ノアーサ。タルタハにいる間に私の主治医に一度、診て貰った方が良いわね。帰りの事もあるでしょ」
アンは、以前と変わらず義姉としてノアーサの体を案じている。
「ノアーサ。まだ実感湧かないのだけど、僕は父親になるって事だよね」
カノイが信じられないという表情を浮かべている。
「嬉しい。けど、ちゃんと父親が勤まるのかな」
「カノイ、それは俺も一緒だ。女は胎内に宿った時既に、母親としての母性本能が目覚めているらしいが、男というのは、産まれ出て来ないと、父親の自覚が芽生えないからな」
ノルマンが、自身の経験を元に語る。
「正直、アンが悪阻で寝込んでいる時も、何もしてやれなかった。今だって、大きくなるお腹に負担をかけないよう、付き添い、公務の代行を勤めてやる事しぐらいしか出来ない」
先に父親になるノルマンは、アンの即位に向けて代行で公務を行い、王配の評判も良いと聞いている。
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ノアーサが不安でそう答えると、横からエスメラルダが会話に入って来た。
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「ノアーサ。知らせてくれてありがとう。そして、おめでとう。きっと、ミランダ団長やローズ先生も喜んでくれているわよ」
翌日、ノアーサは、アンの主治医の診察により、妊娠七週目に入っている事が解った。
船での帰国なら大丈夫だとの診断も受け、二日後、二人はウィル卿の母を伴って帰国を迎えた。
翌年、互いの王が即位後、タルタハ帝国とアスケニア王国は、姉妹条約を結んだ。
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