上 下
39 / 41
皇太子アルフレッド編

復讐

しおりを挟む
(・・・シャーロット、本当に立派になったな)


舞踏会で母のドレスを着たシャーロットを見て、私は思わず涙が出そうになった。母にそっくりなシャーロット。そんなシャーロットを見ていると、幼い頃に母と過ごした大切な思い出が頭の中に流れてきた。


私は溢れそうになる涙を堪えるのに必死だった。


そして、彼女は華麗にプリシラとキャサリンを断罪してみせた。


それにより、プリシラとキャサリンの名誉は地に落ちた。あの二人を崇拝していた皇宮の使用人たちの顔を見るのが楽しみだ。私はもちろんプリシラとキャサリンだけではなくアイツらにも罰を与えるつもりだった。


本当は今すぐにでもシャーロットを抱き締めて「お疲れ様」と言ってあげたいところだが、今はそんなことをしている場合ではなかった。


私は舞踏会が終わってすぐ地下牢に閉じ込められているプリシラとキャサリンの元へと向かった。


二人は地下牢へ訪れた私を見るなり、何を勘違いしたのか目をキラキラと輝かせた。


「お兄様!助けに来てくださったんですね!やっぱり舞踏会で見せたあれはシャーロットを欺くための演技だったんだわ!」


「早くここから出してちょうだい!私は無実よ!」


一体どこからその自信が来るのか。我先にと助けを乞う姿が醜くて反吐が出そうだ。


私はプリシラとキャサリンをそんな夢から目覚めさせるために口を開いた。


「――私はお前たちを助けに来たわけではない」


「・・・・へ?」


「え、何?」


初めて見せる私の冷たい態度に驚いたのか、二人は間抜けな声を出した。


「もう一度だけ言うからよく聞け。私はお前たちを助けにここへ来たわけではない」


「「・・・」」


それでもまだ信じられないのか、二人は驚いたような顔で私を見つめている。


「お・・・お兄様・・・お前たちって・・・」


「な、何を言っているのよ、アル・・・」


いつもと違う私の様子に、二人は完全に狼狽えている。その姿を見た私はニヤリと口の端を上げた。


(・・・やっとだ、やっと本性を出せる)


プリシラとキャサリンがこのような反応になるのも無理はないだろう。私はずっと二人を騙すために自分を偽り続けてきたのだから。だが、それももう終わるのだと思うと何かから解き放たれたような気分になった。


「わ、私たちを助けに来てくれたんじゃないの・・・?」


「ねえ、ちょっと。何とか言いなさいよ・・・!」


縋りつくように私を見つめる二人に、私は絶対零度の視線を向けた。


「――本当に愚かだな」


「・・・ッ!?」


「・・・ウソ」


自分が置かれている状況が未だに理解出来ていない愚かな二人に、現実というものを突き付けてやろう。


「私がここに来たのは、お前たち二人に言いたいことがあったからだ」


「い、言いたいこと・・・?」


「な、何を言うつもりなのよ・・・」


私はそこで二人が入れられている牢屋に近付いて、そっと顔を寄せた。


「――皇帝に毒を盛って殺したのは私だ」


「「・・・・・・・・・・・え?」」


そして、見張りの兵士に聞き取れないほどの小さな声でそう言った。


「じょ、冗談言わないでよ!お兄様はお父様のことを尊敬していて・・・」


「尊敬?誰がするか」


「ウ、ウソ・・・そんな・・・」


プリシラが私を怯えたような顔で見つめた。優しかった兄の裏の顔を知って愕然としているのだろう。


そこでキャサリンが私を非難するかのような目で見た。まさかこの女にそのような目で見られるとは、不愉快極まりない。


「ど、どうしてなのよ・・・どうしてそんなことを・・・」


「何故って?」


「どうして・・・実の父親を・・・」


「ああ、それはだな・・・」


私は先ほどからずっと牢屋の中でビクビクしているキャサリンにグッと顔を近付けた。


「――母の復讐だ。こう言えば分かるか?」


「・・・!」


その言葉に、キャサリンの肩がビクリとなった。


「じゃ、じゃあもしかして・・・私たちは・・・」


「ああ、簡単に殺しはしない」


「そ、そんな・・・!」


青褪めるキャサリンと、言葉を失うプリシラ。


私が望んでいた通りの結末だ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

別れたいようなので、別れることにします

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリザは、両親が優秀な魔法使いという理由でルグド王子の婚約者になる。 魔法学園の入学前、ルグド王子は自分より優秀なアリザが嫌で「力を抑えろ」と命令していた。 命令のせいでアリザの成績は悪く、ルグドはクラスメイトに「アリザと別れたい」と何度も話している。 王子が婚約者でも別れてしまった方がいいと、アリザは考えるようになっていた。

婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~

岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。 「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」 開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。

どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?

石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。 ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。 彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。 八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

完結 王族の醜聞がメシウマ過ぎる件

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子は言う。 『お前みたいなつまらない女など要らない、だが優秀さはかってやろう。第二妃として存分に働けよ』 『ごめんなさぁい、貴女は私の代わりに公儀をやってねぇ。だってそれしか取り柄がないんだしぃ』 公務のほとんどを丸投げにする宣言をして、正妃になるはずのアンドレイナ・サンドリーニを蹴落とし正妃の座に就いたベネッタ・ルニッチは高笑いした。王太子は彼女を第二妃として迎えると宣言したのである。 もちろん、そんな事は罷りならないと王は反対したのだが、その言葉を退けて彼女は同意をしてしまう。 屈辱的なことを敢えて受け入れたアンドレイナの真意とは…… *表紙絵自作

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

処理中です...