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109 旅立ちの前

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一週間後。
私は久しぶりに伯爵邸へと帰っていた。


「大事なかったみたいだな、良かったよ」
「うん、私すごい頑張ったんだから!」


私は邸にある応接間でお兄様とお義姉様と話をしていた。


「お二人とも無事で何よりです。しかしあの方がまさか王弟殿下だったとは……」
「アハハ、そりゃあまあ驚きますよね……」


今回の件でルークの存在が貴族たちに知れ渡ってしまった。
ルークが国王陛下の弟だという噂は既に広まっている頃だろう。


(それなら一刻も早くこの国を出る必要がありそうね……)


彼もきっと今頃出国の準備をしているはずだ。


「エミリア、今日は父上と母上も久々にここへ来る予定だ」
「まぁ、お父様とお母様に会えるのね」


世話になった両親に最後の挨拶をするのは礼儀として当然のことだ。
それとエドモンドにも別れの挨拶をしておきたい。
再び会えるのはだいぶ先になりそうだから。


「私、ちょっと散歩してくるね」
「ああ、行ってこい」
「いってらっしゃいませ」


応接間を出た私は、伯爵邸にある広い庭へと向かった。


(この庭……小さい頃よく遊んだなぁ……)


幼い頃にレイラやお兄様たちと一緒にここを走り回った記憶が蘇ってくる。
涙が零れそうになるのを抑えながら、一歩一歩ゆっくりと歩んでいった。


歩みを進めるたびに大切な思い出が一つ、また一つと頭に浮かび上がった。
住み慣れたこの邸を、国を離れるのはやはり不安だ。


しかし、今の私にはそんな不安を一瞬でかき消してくれるほど大切な人がいる。
その人と一緒ならどこへでも行けるような、そんな気がした。


「それにしても、まさか自分の人生がこんな風になるだなんて思わなかったなぁ……」


オリバー様と結婚してからは地獄のような毎日を過ごしていた。
ただ黙って理不尽な仕打ちに耐えるしかないと、幸せなんて夢のまた夢だと諦めていた。


だけど、彼に出会ってから私の人生は一変した。


あのときは想像もしていなかったのだ。
もう一度、自分が誰かに恋をする日が来るということを。


今日は私がこの国で過ごすこととなる最後の日だ。
そのため、今日はレイラを始めとした友人たちや家族全員が伯爵邸に集まることになっている。
どうやら私の門出をお祝いしてくれるらしい。


皆の気遣いに思わず涙が出そうになってしまう。
こんな私を大事に思ってくれていた家族や友人たちには感謝してもしきれない。


(泣いちゃダメよ……最後くらいみんなにしっかりした姿見せないと……)


グッと涙を堪えた私は、弱々しいところ見せないようピンと背筋を伸ばして邸の中へと戻った。



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