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87 招かざる客
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「それで、ただの旅人だと思ってた男が実は王弟だったってこと?」
「ええ、ホントにビックリよね!」
ルークが秘密を打ち明けた数日後、私はお茶会でレイラに事の顛末を話していた。
(衝撃すぎて誰かと共有せずにはいられないわ)
本当なら誰かに言うべきことでは無いが、王妃であるレイラなら良いだろうと話すことにした。
レイラは誰よりも信頼出来る友人だから。
「レイラは知ってたの?彼のこと」
「まぁ、そりゃあ名前くらいはね……」
「会ったことは?」
「だいぶ昔に何度か」
私は第二王子だったルークとはほとんど会った記憶が無かった。
彼は表舞台にはほとんど姿を現わさなかったし、私もそれほど社交的な性格では無かったから。
(だから気付けなかったのかしら……まぁ、でも仕方無いわよね)
私の考えていることを読んだのか、レイラがクスクス笑った。
「本当に相変わらずね、エミリア。普通は黒い髪に碧眼な時点で気付くでしょうに」
「か、返す言葉も無いわ……」
お兄様にも言われたことだが、改めて指摘されると結構恥ずかしい。
(お願いだからそれ以上はやめてー!)
「ルドウィク王子ね……そうね……陛下から何度か話を聞いたことがあったわ」
「国王陛下から?」
「ええ、陛下は王太子だった頃から何かと弟を気にかけていたから」
国王陛下は正義感の強い方だ。
彼の性格上、血の繋がった弟が辛い思いをしているのは放っておけなかったのだろう。
(国王陛下も大変ね……その弟を最も虐げているのが実の両親だなんて)
陛下も相当複雑な感情を抱いていたに違いない。
「エミリア、先王陛下がルドウィク王子を酷く嫌っていたというのは私も知っているわ」
「そっか……レイラは……」
「王太子の婚約者だったもの。当然、義理の両親との関わりもあったわ」
公爵令嬢だったレイラは、歳が近かったこともあって幼い頃に王太子殿下の婚約者となることが決められていた。
政略結婚ではあるものの、二人の仲は良好で誰から見ても相思相愛だった。
(いいなぁ、旦那さんから愛されてて)
ふとそんなことを思っていたそのとき、紅茶のカップを机に置いたレイラがふぅと一息吐いてから話し始めた。
「昔、陛下が言っていたのだけれどね……」
「……?」
「――先王陛下は親になってはいけない人だったって」
「え……」
レイラの口から飛び出したのは信じられない言葉だった。
先王を侮辱しているとも捉えられる内容だったからだ。
「それは一体……どういう……」
「さぁ……私も詳しくは聞いていないの」
「そっか……」
変な空気のまま、この日のお茶会は解散となった。
***
レイラと別れた私は、帰りの馬車に揺られていた。
さっき話した内容が、頭から離れない。
(国王陛下がそんなことを言ったですって?あの陛下が?)
とてもじゃないが信じられなかった。
誰よりも礼節を重んじる人だし、実の父親のことをそんな風に言うだなんて想像出来ない。
(ルークは先王から虐待されていた……妾腹の子だという理由で……でも国王陛下は王妃との間に生まれた跡継ぎだったわけだし……)
もしかすると、国王陛下も先王との間に何かあったのかもしれない。
何だか闇深い一族だ。
「――お嬢様、伯爵邸に到着致しました」
「あ……すぐに行くわ」
考え込んでいるうちに着いたようだ。
馬車から降りると、いつも通りの見慣れた光景が目に入った。
オリバー様と離婚して、レビンストン公爵家を出て行ってから既に半年近くが経過している。
私は今とても平和で幸せな日常を送っている。
こんな日々がずっと続けばいいのにと思うくらいだ。
しかし、時々怖くなるときもある。
――いつか突然、この幸せが崩壊してしまうのではないかと。
(……………あれ?何だろう、あの馬車)
伯爵邸の正門まで来た私は、傍に伯爵家のものではない馬車が停まっていることに気が付いた。
「……?ねぇ、誰か邸に来ているの?」
「それが……私にもよく……」
御者に尋ねるが、彼も知らないようだ。
気になった私は、停まっている馬車の近くまで歩いた。
「どこかの貴族ならきっと紋章があるはず……………えッ!?!?!?」
馬車の正面に回った私は、紋章を見た途端に心臓が冷えていくのを感じた。
忘れたくても忘れられない、忌まわしい印だったからだ。
(どうしてレビンストン公爵家の馬車が伯爵邸に……!?)
「ええ、ホントにビックリよね!」
ルークが秘密を打ち明けた数日後、私はお茶会でレイラに事の顛末を話していた。
(衝撃すぎて誰かと共有せずにはいられないわ)
本当なら誰かに言うべきことでは無いが、王妃であるレイラなら良いだろうと話すことにした。
レイラは誰よりも信頼出来る友人だから。
「レイラは知ってたの?彼のこと」
「まぁ、そりゃあ名前くらいはね……」
「会ったことは?」
「だいぶ昔に何度か」
私は第二王子だったルークとはほとんど会った記憶が無かった。
彼は表舞台にはほとんど姿を現わさなかったし、私もそれほど社交的な性格では無かったから。
(だから気付けなかったのかしら……まぁ、でも仕方無いわよね)
私の考えていることを読んだのか、レイラがクスクス笑った。
「本当に相変わらずね、エミリア。普通は黒い髪に碧眼な時点で気付くでしょうに」
「か、返す言葉も無いわ……」
お兄様にも言われたことだが、改めて指摘されると結構恥ずかしい。
(お願いだからそれ以上はやめてー!)
「ルドウィク王子ね……そうね……陛下から何度か話を聞いたことがあったわ」
「国王陛下から?」
「ええ、陛下は王太子だった頃から何かと弟を気にかけていたから」
国王陛下は正義感の強い方だ。
彼の性格上、血の繋がった弟が辛い思いをしているのは放っておけなかったのだろう。
(国王陛下も大変ね……その弟を最も虐げているのが実の両親だなんて)
陛下も相当複雑な感情を抱いていたに違いない。
「エミリア、先王陛下がルドウィク王子を酷く嫌っていたというのは私も知っているわ」
「そっか……レイラは……」
「王太子の婚約者だったもの。当然、義理の両親との関わりもあったわ」
公爵令嬢だったレイラは、歳が近かったこともあって幼い頃に王太子殿下の婚約者となることが決められていた。
政略結婚ではあるものの、二人の仲は良好で誰から見ても相思相愛だった。
(いいなぁ、旦那さんから愛されてて)
ふとそんなことを思っていたそのとき、紅茶のカップを机に置いたレイラがふぅと一息吐いてから話し始めた。
「昔、陛下が言っていたのだけれどね……」
「……?」
「――先王陛下は親になってはいけない人だったって」
「え……」
レイラの口から飛び出したのは信じられない言葉だった。
先王を侮辱しているとも捉えられる内容だったからだ。
「それは一体……どういう……」
「さぁ……私も詳しくは聞いていないの」
「そっか……」
変な空気のまま、この日のお茶会は解散となった。
***
レイラと別れた私は、帰りの馬車に揺られていた。
さっき話した内容が、頭から離れない。
(国王陛下がそんなことを言ったですって?あの陛下が?)
とてもじゃないが信じられなかった。
誰よりも礼節を重んじる人だし、実の父親のことをそんな風に言うだなんて想像出来ない。
(ルークは先王から虐待されていた……妾腹の子だという理由で……でも国王陛下は王妃との間に生まれた跡継ぎだったわけだし……)
もしかすると、国王陛下も先王との間に何かあったのかもしれない。
何だか闇深い一族だ。
「――お嬢様、伯爵邸に到着致しました」
「あ……すぐに行くわ」
考え込んでいるうちに着いたようだ。
馬車から降りると、いつも通りの見慣れた光景が目に入った。
オリバー様と離婚して、レビンストン公爵家を出て行ってから既に半年近くが経過している。
私は今とても平和で幸せな日常を送っている。
こんな日々がずっと続けばいいのにと思うくらいだ。
しかし、時々怖くなるときもある。
――いつか突然、この幸せが崩壊してしまうのではないかと。
(……………あれ?何だろう、あの馬車)
伯爵邸の正門まで来た私は、傍に伯爵家のものではない馬車が停まっていることに気が付いた。
「……?ねぇ、誰か邸に来ているの?」
「それが……私にもよく……」
御者に尋ねるが、彼も知らないようだ。
気になった私は、停まっている馬車の近くまで歩いた。
「どこかの貴族ならきっと紋章があるはず……………えッ!?!?!?」
馬車の正面に回った私は、紋章を見た途端に心臓が冷えていくのを感じた。
忘れたくても忘れられない、忌まわしい印だったからだ。
(どうしてレビンストン公爵家の馬車が伯爵邸に……!?)
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