愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

67 体調不良 オリバー視点

（また眠れなかった……）


ローザと前妻のことを考えていた私は結局今日も眠ることが出来なかった。
いつものように一睡も出来ずに気付けば朝になっていた。


「旦那様、おはようございます」
「ああ……」


顔色の悪い私を見て、侍従がひどく驚いた顔をした。


「旦那様、大丈夫ですか……？」
「……」


その問いに、私は答えられなかった。
とても体調が悪くて、全く大丈夫ではなかったからだ。


（仕事が忙しいせいか……こんなのは初めてだ……）


ふいに窓ガラスに映った自分を見て驚いた。
目の下にはクマがあり、いつもより十歳は老けて見える。


「旦那様、今日はお休みなさってはいかがですか？」
「だが、執務が……」
「お身体を壊されてしまうのではないかと心配です。今日くらいはゆっくりなさってください」
「……分かった、そうしよう」


結局私は侍従の言う通り、部屋で休むことにした。
自室に備え付けられているベッドに横になった私は、念のため医師の診断を受けた。
結果、特に異常は無く日々のストレスと疲労過多によるもので休息を取ればじきに回復していくだろうとのことだった。


「ふぅ……」


侍従が気を遣ってくれたおかげで今日一日はゆっくり休めそうだ。
そのことに安心したせいか、途端に睡魔が襲ってきた。


「……」


私はやらなければならない面倒な仕事のことは一度忘れて、ゆっくりと目を閉じた。








＊＊＊



どれほどの時間が経っただろうか。


（ん……？何だ……？）


横になっている私の額に、誰かの手が触れた。
小さくて温かい手だ。


ゆっくりと目を開けると、そこにいたのは心配そうに自分を覗き込んだリオだった。


「リオ……？」
「お父さん……」


私が体調が悪くて寝込んでいるのに聞いたのだろうか。
泣きそうな顔でこちらを見つめていた。


「どうしてここに……」
「お父さんが、病気だって聞いて……」
「……」


ゆっくりと体を起こすと、リオが私の手をギュッと握った。


「お父さん、僕の傍からいなくならないでください」
「……」


そう口にしたリオの声は僅かに震えていた。
それを見た私は無言で息子を抱き締めた。


（……寝ている場合ではないな）


何だか今ので疲れが一気に吹き飛んだような気がした。
愛する息子が悲しんでいるのに、いつまでもこうしているわけにはいかない。


私はすぐにベッドから起き上がった。


「お父さん、もう体は大丈夫なんですか？」
「ああ、平気だ。リオが来てくれたから元気になったみたいだ」
「それは良かったです！」


満面の笑みを浮かべた息子を見て、自然と私の口元にも笑みが広がった。


「そういえば……お母さんは来ていないのか？」
「あ、お母さんは最近ずっと会ってなくて……」
「……何？」


リオがローザとずっと会っていないとは一体どういうことか。


（……そういえば）


私もローザとあの日大喧嘩をしてからは一度も彼女の顔を見ていなかった。
執務が立て込んでいたし、ただ拗ねているだけだろうと思って特に気にすることは無かったが。


（……一度ローザに会いに行くか）


私はこの後、久々にローザの部屋へ行くことを決めた。