上 下
57 / 113

57 隠された真実 ルーク視点

しおりを挟む
(ふぅ……思ったより呆気ないな……)


ログワーツ伯爵令嬢エミリアとの食事から数日。
俺は今とある場所に来ていた。


「お帰りなさいませ、旦那様」
「ああ」


木の上に身を潜めた俺の視線の先にいたのは銀色の髪に紫の瞳をした一人の男だった。


――オリバー・レビンストン
王国屈指の名門レビンストン公爵家の当主にしてエミリアの元夫だった男だ。


ちょうど今その男が邸宅に帰って来たところのようだった。
俺はしばらくソイツを凝視した。


オリバーが邸宅に入ると、俺は別の場所に移動して今度は公爵邸に取り付けてある窓から中を見た。
こんな不審者のような真似をしている自分に嫌気が差す。


(自分でもよく分からないな……何故こんな場所にいるのか……)


俺がレビンストン公爵家を訪れる理由は特に無い。
ただ、一つ言うとすれば――


(……あいつのせいか)


エミリア・ログワーツの件で気になったことがあったからだった。




『レビンストン公爵夫妻が離婚したって!』
『嘘!?本当?いつかそうなると思ってたわ』
『やっぱり、天下の公爵様にあの悪女は相応しくないわね』


「……」




エミリアがオリバーと離婚したときちょうど、俺はこの国に滞在していた。
そして訪れていた酒場で偶然そんな話を耳にしたのだ。


あのときは別に何とも思わなかった。
しかし、あの女と実際に関わるようになってからはとてもじゃないがその噂が事実だとは思えなかったのだ。
だから今、こうやって隠されているであろう真実を探ろうとしている。


俺は屋敷の窓から中を覗いた。
先ほど見たオリバー、使用人たちの他には誰もいないようだった。
それぞれ各自の仕事をしており、特に変な動きはない。


(…………元夫の人格に問題があるのかと思ったが、俺の勘違いか?)


そう思ったそのときだった――


(ん……?何だ、あれは……?)


邸の一番端の窓に、ある女が見えた。
最初は使用人の一人かと思ったが、それにしては高そうなドレスを着ている。
――まるで、公爵夫人が着るものであるかのように。


(……)


何かを感じ取った俺はその女から目が離せなくなった。
じっと女を観察してみる。


しばらくして、朗らかな笑みを浮かべて使用人たちと会話をしていた女の元に一人の子供がやって来た。


「お母さん!」
「リオ!」


子供は女に駆け寄って思いきり抱き着いた。
俺はその子供の容姿を見て驚愕した。


(冗談だろう……?)


何故ならそれは、レビンストン公爵オリバーと同じ銀髪に紫の瞳だったから。


(もしや、離婚してすぐ再婚したのか?いや、しかしそれにしては……)


子供の年齢は十歳前後に見える。
エミリア・ログワーツとオリバー・レビンストンが結婚したのはたしか十年ほど前だったはずだ。
それらのことから予測できるのはただ一つ。


(まさか……)


確信に近い疑いを抱いたそのとき、俺の頭の中に幼い頃の記憶が蘇ってきた。




『お前さえいなければ、私の名誉が汚されることも無かったというのに!』


『何て汚らわしい子供なの……!こっちに来ないでちょうだい』


『あの子と仲良くしてはダメよ。出自が疑わしいからね』




(……)


ふと先ほどまで女と子供がいたところに目をやると、女に頭を撫でられている子供が純真無垢な笑顔を浮かべていた。
その笑顔に、ズキリと胸が痛んだ。


何故なら俺は、あの子の行く末を誰よりもよく知っていたから。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

私が妊娠している時に浮気ですって!? 旦那様ご覚悟宜しいですか?

ラキレスト
恋愛
 わたくしはシャーロット・サンチェス。ベネット王国の公爵令嬢で次期女公爵でございます。  旦那様とはお互いの祖父の口約束から始まり現実となった婚約で結婚致しました。結婚生活も順調に進んでわたくしは子宝にも恵まれ旦那様との子を身籠りました。  しかし、わたくしの出産が間近となった時それは起こりました……。  突然公爵邸にやってきた男爵令嬢によって告げられた事。 「私のお腹の中にはスティーブ様との子が居るんですぅ! だからスティーブ様と別れてここから出て行ってください!」  へえぇ〜、旦那様? わたくしが妊娠している時に浮気ですか? それならご覚悟は宜しいでしょうか? ※本編は完結済みです。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

処理中です...