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56 帰宅

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「お兄様、ただいま」
「ああ、おかえり」


ルークとの食事から帰った私は、伯爵邸のエントランスでお兄様と偶然出会った。


「こんなところにいるなんて珍しいわね。もしかして、お出迎えしてくれたの?」
「そんなわけないだろ、お前みたいに暇じゃあるまいし」
「……」


相変わらず冷たい人だ。


「そういえば、知り合いと食事してきたんだって?リーシェが言っていた」
「ええ、初めての異性の友人が出来たのよ」
「そうか、それは良かったな」


お兄様はそう言って私にクスリと笑いかけた。


(たまーーーーに優しいのよね)


元々お兄様はかなり容姿が整っているほうだ。
独身だった頃は、社交界でお兄様の姿を見た貴族令嬢たちが頬を染めてしまうほどだった。
しかし、昔からリーシェお義姉様一筋だったお兄様は自分に好意を向ける令嬢たちを冷たい視線で制していたが。


「それで、相手はどんな人なんだ?」
「……そんなことが気になるの?」
「特に意味はない。お前と友人になる人間がどんなやつか気になっただけだ」
「……何それ」


どんな人か、と聞かれた私は今までに見たルークの姿を思い浮かべた。


「とっても優しい人よ。普段は無愛想だけど、いざとなったら助けてくれるし……それに……」
「それに?」
「すごく、カッコイイのよ」
「……」


それを聞いたお兄様があ然となった。


「何がだ?」
「顔が」
「……」


そして今度は呆れたような顔で私を見つめた。


「……お前、もしかして遊ばれてるわけじゃないよな?」
「ち、違うわよ!失礼ね!私がそんなのに引っ掛かると思ってるの!?」


私が怒りを見せると、お兄様は口元を手で押さえて笑いを堪えるような仕草をした。


「ああ、悪い。今のは冗談だ。まぁ、お前がそう言うんだったら本当に良い奴なんだろうな」
「当然よ」


私がそんな男に引っ掛かると本気で思っているのか。


(ありえない!顔だけで中身が最悪な人間はもうこりごりよ)


少なくとも、ルークはオリバー様とは違う。


「ところで、その男はどこの貴族令息なんだ?」
「ああ、彼貴族じゃないのよ」
「平民か」
「ええ、旅人で世界各地を転々としているらしいわ。元々はここの出身みたいだけどね」
「そうか……」


旅人の彼はきっと、またすぐにこの国を出て行くだろう。
せっかく再会出来たのに、何だか複雑な気持ちだ。


(他には……何かあったかしら……)


私は記憶の中でルークの特徴を探した。


「ああ、それと黒い髪に青い瞳をしていたわ。本当に素敵よね。私とは大違い」
「……黒髪に碧眼?」


何気なく放った言葉だったが、お兄様は何かを感じたのかピクリと眉を動かした。


「……お兄様?どうかしたの?」
「……」


お兄様は顎に手を当てて何かをじっと考え込むような素振りを見せた。


(え、何?)


私はそんなお兄様の顔を観察した。
眉を寄せていて、難しい顔をしている。
こんな兄の姿は久しぶりだ。


「エミリア、その男は本当にただの旅人なのか?」
「え、ええ……そうだと思うけれど……」
「……そうか」


お兄様は再び黙り込むと、突然何も言わずにこの場から立ち去って行った。


(ちょ、ちょっと!何なのよ!結局何も言ってくれないわけ!?)


お兄様は昔からいつもそうだ。
私は無言で去って行く兄の後ろ姿を恨めしそうに見た。


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