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15 変化

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翌日。
離婚することを決意してから私は何だかすっきりした気分になった。
もう我慢しなくてもいいのだと思うと心がかなり楽になった。


(何が何でも離婚してやるわ。認めないだなんてそんなことは絶対に言わせないんだから)


早朝に起きた私はすぐに離婚に関する準備をすることにした。


(何からするべきかしら……)


離婚をするための絶対条件。
それは夫の同意である。
そこが一番の難点だった。


オリバー様は私を愛していない。
そのため、離婚しようとする私を引き留めようとすることはおそらく無いだろう。
しかし――


(もし、彼が愛する愛人のために私をお飾りの妻にしたのなら……)


そう簡単に離婚は出来なくなってしまうかもしれない。
この生活を死ぬまで続けるのだと思うと吐き気がする。


この国では一夫一妻制が敷かれており、男女ともに愛人の存在は認められていない。
だからこそオリバー様は私に彼女の存在を言わなかったのだろう。
そして、夫の不貞というのは十分に離婚する理由となる。


念のためオリバー様の不貞に関する証拠も集めておいたほうがいい。
そう思った私はすぐに実家の伯爵家に手紙を書いた。


現当主であるお兄様は優秀な人だ。
何が何でも不貞の証拠を掴んでくるだろう。


(後は、旦那様と話し合いをする場を設けないとね……)


まぁ、それは証拠を揃えた後でいいだろう。
手紙を書き終えてペンを机に置いたそのとき、部屋の扉がガチャリと開けられた。


「奥様、お食事の用意が出来ました」
「そう。今日は自室で食事を摂りたいのだけれど、ここまで持って来てくれないかしら?」


私のその頼みに、侍女は眉をひそめた。


「それくらい自分ですればよろしいのでは?昔から言っておりますが私たちは暇ではないんですよ」
「……」


とてもじゃないが、主人の妻に対して言う言葉では無かった。
思えば、この侍女は最初から私に舐めた態度を取っていた。


(……ちょっと立場というものを分からせないといけないわね)


いつもなら大人しく退いているところだが、離婚を決意した私は違う。
そう思った私は、椅子からそっと立ち上がった。


「誰に対してそんな口を聞いているのかしら?」
「……えっ?」


侍女は間抜けな声を出した。
そうなるのは当然だろう、彼らの中での私は気の弱い公爵夫人だったのだから。
実際に、私はオリバー様はもちろん使用人たちにも反論など一度もしたことはなかった。
そしてそれが正しいことだと信じて疑わなかったのだ。
何て浅はかだったのだろうと自分でも思う。


「レビンストン公爵家の侍女はいつから公爵夫人より偉くなったのかしら?」
「な、何を……!」


彼女は慌てて反論しようとした。
しかし、その時間すらも与えないのが今の私だ。


「あら?」
「な、何ですか?そんなにじろじろ見て」
「貴方ってたしか、没落した男爵家の令嬢よね?」
「な、何故それを……!」
「ふふ、昔舞踏会で一度見たことがあるわ」


私は口元にニヤリと笑みを浮かべた。
彼女の弱みを知ってしまったからだ。


「――ねぇ貴方、お金に困っているんじゃなくて?」
「……」


図星を突かれたようで、侍女は肩をビクリと震わせた。


「当然よねぇ。だって貴方のご実家、当主が事業に失敗して莫大な借金を残したまま亡くなったんですもの。それはもう大変な思いをしていることでしょうね?」
「……!」


そう、彼女の実家は事業に失敗して全てを失った家だった。
後に自暴自棄になった当主が自殺したことで、娘である彼女がそれを背負わなければいけなくなってしまったのである。


(事情は可哀相だけれど……容赦はしないわ)


辛かったのは同情するが、主人の正妻である私に生意気な態度を取って良い理由にはならない。


「ねぇ、貴方……職を失ったら困るわよね?」
「あ、あなたにそんな権限は……!」
「あるわよ。貴方は公爵夫人という地位を舐めているのかしら?使用人一人クビにすることくらいどうだってことないわ」
「……」


彼女は黙り込んだまま俯いた。
クビになるのが怖いのだろうか。


(私も随分と舐められたものね)


しばらくして彼女は、崩れ落ちるように床に膝を着いた。


「た、大変申し訳ありませんでした……!無礼な態度を取っていたのは理解しております……ですが……ど、どうかお願いです……!それだけは……!職を失ったら私は……私は……!」
「……」


そして、額を床にこすりつけて必死で懇願し始めた。
声が震えている。
心から反省しているのだろう。


「今回だけは見逃してあげるわ。二度は無いわよ」
「か、寛大なお心に感謝いたします……」
「分かったならさっさと持ってきなさい。一分以内に出来るわね?」
「は、はいッ……」


侍女は震える足を必死で動かしてそそくさと部屋を出て行った。


(これでひとまず、あの侍女に関しては良さそうね……)


これまでのあの侍女の態度には心底腹が立つが、別に彼女に不幸な人生を歩んでほしいとまでは思わなかった。


(せいぜい完済出来るように頑張ることね……)


しかし問題はあの侍女だけではない。
私はこの邸にいるほとんどの使用人に嫌われている。
その中にはあからさまに態度に出す者もいる。


(私はもう気弱な公爵夫人じゃないわ……)


どうせすぐにここから出て行くんだもの。
最後くらい、好きにやってもいいわよね……?


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