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番外編
21 愛する人 リリー視点
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「うふふ♪」
王宮の一室にて。
久々に華やかなドレスに身を包んだ私は、明らかに自分より身分が上であろう王宮の侍女たちに身体の手入れをさせていた。
貴族令嬢に自分の世話をさせるのは本当に気持ちが良い。
(リアム様の寵姫だったあの頃に戻ったみたいね)
一時はどうなることかと思ったが、生まれ持った美貌というのは本当に役に立つ。
実際、この顔だけで私は平民から二度も王の寵姫になったのだから。
(楽勝だわ。今回も仕事は全て王妃に押し付けて私は寵姫として王宮で悠々自適な暮らしを送ってやる)
あの頃の贅沢三昧な生活を思い浮かべて、つい笑みが零れる。
「国王陛下はどちらへいるのかしら?」
「陛下は執務室におられます」
「そう、会いに行くわ!」
「……今からですか?執務の邪魔になられるかと」
「愛する女が会いに来るというのに何が問題なのかしら?」
私がそう言うと、侍女は呆れたようにハァとため息をついた。
(何よこの女!私が平民だからって見下してるのね!いいわ、後で陛下に言って追い出してもらうから!)
寵姫というのは、時には王妃よりも権力を持つことが出来るのだ。
現にリアム様の寵姫だったときもそうだった。
彼は私を溺愛し、私の言うことは何でも聞いてくれた。
(新しく恋人関係になった国王陛下だって私のことを深く愛しているもの!彼に言えば何だって望みを叶えてくれるはずよ)
そんなことを考えながら、私は軽い足取りで陛下のいる執務室へと向かった。
「陛下!」
「……リリー?」
部屋に入ってすぐ、椅子に座っていた陛下に抱き着いた。
「……」
背後に控えていた侍従が眉をひそめたが、そんなもの気にしない。
実際、当の本人が不快に思っていないのだから何の問題も無い。
「会いたかったです、陛下!」
「ああ、私もだ」
満面の笑みを浮かべて甘えると、彼は私を膝の上に座らせた。
「執務が忙しく、なかなか会いに行けなくてすまなかったな」
「いえ、私は平気ですわ。それより、そんなに多忙だったなんて全く知りませんでした。体調を崩されていないか心配です」
「リリーは優しいな……私も平気だからそう不安にならないでいい」
陛下は私の頭を優しく撫でた。
(ああ……最高だわ……)
私が亡命してきた隣国の国王陛下は眉目秀麗な上に文武両道であり、とても紳士的な方だ。
国民たちからも慕われており、賢王と名高い人である。
(こんなにも完璧な男性は出会ったことが無いわ……)
彼を落とすつもりが、逆に私が落とされてしまっていることに気付いたのはつい最近だ。
私はどうやら彼を本気で好きになってしまったらしい。
馬鹿なリアム様のことは愛してなどいなかったが、この人は違う。
「陛下、今日は私の部屋へ来てくださいますか?」
「ああ、もちろんだ。君は私の寵姫だからな」
陛下はフッと優しく微笑んだ。
その笑みにまた胸が高鳴る。
こんな気持ちは初めてかもしれない。
(この私が誰かに恋をする日が来るなんてね……)
それほどに彼は素晴らしい人だ。
これから先の陛下との幸せな生活を想像しただけで心が満たされた。
「リリー」
「はい、陛下」
「この王宮で暮らす上で、一つ君に言っておかなければならないことがある」
「……言っておかなければならないこと?」
陛下は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……王妃には出来るだけ関わらないでほしいんだ」
「王妃様に……ですか?」
私の愛する彼は五年前に結婚していて、正妻となる女性がいる。
それがこの国の王妃様だった。
(王妃様はたしか公爵家の令嬢だったっけ……よくある政略結婚ってやつね……)
――ああ、何て優しい陛下。
きっとその王妃様はとても心が醜いのだろう。
だからこそ、私に彼女とは関わるななんてことを言うのだ。
(陛下だって被害者なのに……)
好きでもない人と結婚させられて本当に可哀相。
彼は私を愛しているのに、王妃様が身分を笠に着て私たちを引き裂いているのだ。
「分かったか?」
「……はい、陛下。肝に銘じます」
口ではそう言ったものの、このときの私は全く別のことを考えていた。
(待っててね、私の愛する人)
――貴方の憂いとなっている王妃様は私が排除してあげるから。
王宮の一室にて。
久々に華やかなドレスに身を包んだ私は、明らかに自分より身分が上であろう王宮の侍女たちに身体の手入れをさせていた。
貴族令嬢に自分の世話をさせるのは本当に気持ちが良い。
(リアム様の寵姫だったあの頃に戻ったみたいね)
一時はどうなることかと思ったが、生まれ持った美貌というのは本当に役に立つ。
実際、この顔だけで私は平民から二度も王の寵姫になったのだから。
(楽勝だわ。今回も仕事は全て王妃に押し付けて私は寵姫として王宮で悠々自適な暮らしを送ってやる)
あの頃の贅沢三昧な生活を思い浮かべて、つい笑みが零れる。
「国王陛下はどちらへいるのかしら?」
「陛下は執務室におられます」
「そう、会いに行くわ!」
「……今からですか?執務の邪魔になられるかと」
「愛する女が会いに来るというのに何が問題なのかしら?」
私がそう言うと、侍女は呆れたようにハァとため息をついた。
(何よこの女!私が平民だからって見下してるのね!いいわ、後で陛下に言って追い出してもらうから!)
寵姫というのは、時には王妃よりも権力を持つことが出来るのだ。
現にリアム様の寵姫だったときもそうだった。
彼は私を溺愛し、私の言うことは何でも聞いてくれた。
(新しく恋人関係になった国王陛下だって私のことを深く愛しているもの!彼に言えば何だって望みを叶えてくれるはずよ)
そんなことを考えながら、私は軽い足取りで陛下のいる執務室へと向かった。
「陛下!」
「……リリー?」
部屋に入ってすぐ、椅子に座っていた陛下に抱き着いた。
「……」
背後に控えていた侍従が眉をひそめたが、そんなもの気にしない。
実際、当の本人が不快に思っていないのだから何の問題も無い。
「会いたかったです、陛下!」
「ああ、私もだ」
満面の笑みを浮かべて甘えると、彼は私を膝の上に座らせた。
「執務が忙しく、なかなか会いに行けなくてすまなかったな」
「いえ、私は平気ですわ。それより、そんなに多忙だったなんて全く知りませんでした。体調を崩されていないか心配です」
「リリーは優しいな……私も平気だからそう不安にならないでいい」
陛下は私の頭を優しく撫でた。
(ああ……最高だわ……)
私が亡命してきた隣国の国王陛下は眉目秀麗な上に文武両道であり、とても紳士的な方だ。
国民たちからも慕われており、賢王と名高い人である。
(こんなにも完璧な男性は出会ったことが無いわ……)
彼を落とすつもりが、逆に私が落とされてしまっていることに気付いたのはつい最近だ。
私はどうやら彼を本気で好きになってしまったらしい。
馬鹿なリアム様のことは愛してなどいなかったが、この人は違う。
「陛下、今日は私の部屋へ来てくださいますか?」
「ああ、もちろんだ。君は私の寵姫だからな」
陛下はフッと優しく微笑んだ。
その笑みにまた胸が高鳴る。
こんな気持ちは初めてかもしれない。
(この私が誰かに恋をする日が来るなんてね……)
それほどに彼は素晴らしい人だ。
これから先の陛下との幸せな生活を想像しただけで心が満たされた。
「リリー」
「はい、陛下」
「この王宮で暮らす上で、一つ君に言っておかなければならないことがある」
「……言っておかなければならないこと?」
陛下は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……王妃には出来るだけ関わらないでほしいんだ」
「王妃様に……ですか?」
私の愛する彼は五年前に結婚していて、正妻となる女性がいる。
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――ああ、何て優しい陛下。
きっとその王妃様はとても心が醜いのだろう。
だからこそ、私に彼女とは関わるななんてことを言うのだ。
(陛下だって被害者なのに……)
好きでもない人と結婚させられて本当に可哀相。
彼は私を愛しているのに、王妃様が身分を笠に着て私たちを引き裂いているのだ。
「分かったか?」
「……はい、陛下。肝に銘じます」
口ではそう言ったものの、このときの私は全く別のことを考えていた。
(待っててね、私の愛する人)
――貴方の憂いとなっている王妃様は私が排除してあげるから。
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