上 下
108 / 126
三章

婚前旅行④

しおりを挟む
「今日で最後かぁ……」
「あっという間だったな」


旅行二日目の夜。
時刻は既に夜の十時。


宿泊先のベッドサイドに隣同士で腰掛けた私たちは、自然と肩を寄せ合った。
今日は婚前旅行の最終日だ。


(明日、国に帰ることになるのよね……)


そうしたらまた忙しい日々を送ることとなる。
お父様もまだ目覚めていないし、国王陛下だって私を諦めていないからだ。
そのことを考えるととても気が重くなるが、いつまでも目を背けているわけにはいかない。


殿下と二人で平和に過ごす。
こんな時間が次はいつ訪れるだろうか。
少なくとも、陛下たちの問題が解決するまでは永遠に無いだろう。


「殿下、とっても楽しかったです。連れて来てくださってありがとうございました」
「ああ、俺もお前と旅行出来て嬉しかった」


ベッドの上で、殿下はクスッと笑った。


「また一緒に旅行しよう。今度は俺たちの子も連れてな」
「子……!?」


彼の突然の発言に顔が真っ赤になる。


(気が早いんじゃ……?私はまだ17歳で……)


そんな私の心の中を完全に読んだのか、殿下がフッと笑いながら口を開いた。


「気が早いだなんて、別にそんなことは無いだろう。お前に似ていたら可愛いだろうな」
「で、殿下……」


思っていたことを言い当てるだなんて、読心術でも持っているのか。


(私に似ていたらだなんてそんな……)


そうは思いながらも私は、自分と彼の子供を想像してみた。
王家の特徴である黒い髪に黒い瞳を持った、殿下に似た男の子。
彼に似ていたらそれはそれは愛らしいだろう。


(早く会いたいな)


「良い提案ですね、殿下」
「ああ、お前となら温かい家庭を築いていけるような気がする」


私たちはお互いの顔を見て笑い合った。


「セシリア、明日は早い。そろそろ寝よう」
「はい、殿下」


それから私たちは同じベッドに横になった。
私に布団をかけた殿下が優しく髪に触れた。


「今日も手出したりしないから、安心しろ」
「……」


昨日の夜も私たちは同じベッドで寝たが、殿下が寝てる間私に触れることは一度も無かった。
彼は誠実な人だから当然のことなのだが、そうやってキッパリ言われてしまうと何だか寂しく感じる。


(私たちの子……)


子を作るとなると、当然そういう行為をすることとなる。
私は既に殿下と一生を添い遂げることを心に決めている。
だから今ここで関係を持ったとしても、ただ時期が早まっただけだ。


「……出しても良いですよ」
「……え?」


殿下が驚いたように目を丸くした。
自分でもこのようなことを口にするとは思わなかった。


それを聞いた彼が正気かというような目で私を見た。


「お前、後悔するぞ?」
「後悔……とは一体何のことですか?」
「俺から一生逃げられなくなる」
「元より逃げるつもりなんてありませんから。今ここで寝たところで私たちの関係は何も変わりません」


そう言いながら私は彼の服をギュッと掴んだ。


「……」



彼はしばらくその手をじっと見つめていたが、突然私の顔の横に手を付いて覆いかぶさった。


「本気で言ってるのか?後で嫌と言われても止められないぞ」
「はい、殿下になら抱かれてもかまいません」


私がそう言うと、彼は私の唇にそっとキスをした。
優しく落ちたキスは次第に深くなり、私は自然と彼の首に腕を回した。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!

ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。 姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。 対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。 能力も乏しく、学問の才能もない無能。 侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。 人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。 姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。 そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

ループを繰り返す悪役令嬢。

❄️冬は つとめて
恋愛
ループを繰り返す悪役令嬢は、

黒猫令嬢は毒舌魔術師の手の中で

gacchi
恋愛
黒色は魔女の使いというお伽話が残るフェリアル王国で、黒髪に生まれた伯爵家のシャルリーヌは学園にも通えず家に閉じこもっていた。母はシャルリーヌを産んですぐに亡くなり、父は再婚して二つ下の異母妹ドリアーヌがいる。義母と異母妹には嫌われ、家族の中でも居場所がない。毎年シャルリーヌ以外は避暑地の別荘に行くはずが、今年はなぜかシャルリーヌも連れてこられた。そのせいで機嫌が悪いドリアーヌに殺されかけ、逃げた先で知らない令息に助けられる。ドリアーヌの攻撃魔術から必死で逃げたシャルリーヌは黒猫の姿になってしまっていた。多分、いつもよりもゆるーい感じの作品になるはず。

処理中です...