97 / 127
三章
殿下と男爵令嬢
しおりを挟む
何故、この二人がバチバチと火花を散らしているのか。
(あなたたち、真実の愛で結ばれたんじゃなかったんですか……)
殿下の腕に抱き締められたまま、私は彼の顔を見上げた。
すると、私の視線に気付いた彼がニコッと笑った。
「あ、殿下……」
「そんなことよりセシリア、急に王宮に来るなんてどうしたんだ?」
「突然訪問してしまって申し訳ありません……殿下にお願いがあって……」
「いいや、かまわない」
殿下はそう言いながら私の髪の毛に指を通した。
「あ、出来れば二人きりになりたいのですが……」
男爵令嬢の方をチラリと窺いながら言うと、彼女はどこかショックを受けたような顔になった。
そして何故か殿下は勝ち誇ったかのような笑みを浮かべていて。
「セシリアは俺と二人が良いそうだ。分かったならお前早く帰れ」
「うわぁ……ホントに嫌味な人!」
(仲が良いのか悪いのかよく分からないわね……)
少なくとも恋愛関係ではないということに間違いは無さそうだが。
「マリア様、せっかくこうして挨拶に来てくださったのにごめんなさい。殿下に大事なお話があるので少し席を外してくださいますか?」
「セシリア様…………分かりました。また近いうちに会いましょう」
男爵令嬢は殿下と私に一礼すると、大人しくこの場を立ち去って行った。
(どうして彼女がそんな反応をするのかしら……)
何だか今世のヘレイス男爵令嬢は変だ。
前世で私が記憶している男爵令嬢と違いすぎるのではないか。
殿下との仲もそんなに良いようには見えなかったし。
(私が変わったから……?それとも前世でも何か隠された秘密があったのかしら……)
「――セシリア」
「あっ……」
じっと考え込んでいると、彼に声をかけられた。
「それで、大事な話とは?」
「あ、それがですね……い、いい加減に離してください!」
冷静になった私は、恥ずかしくなってすぐに殿下の腕から抜け出した。
照れているのだということをよく知っている彼はそんな私を見てクスクスと笑った。
「その……頼みづらいことなのですが……」
「何だ?」
いくら相手が王太子殿下であろうと、王族しか立ち入れない場所に入るだなんて難しいだろう。
もしかすると生意気だと言われてしまうかもしれない。
しかし、これ以外に解決策は見つからない。
(ええい、覚悟を決めるのよセシリア!)
「あの……王宮の禁書庫に入りたいのですが……」
「禁書庫?」
「はい……調べたいことがあって……」
「ああ」
殿下は至って普通に、ただそれだけ返した。
(え、それだけ……?)
「い、良いんですか?」
「当然だろう、何をそんなに驚いているんだ」
「え、ええ!?」
あっさりと承諾され、拍子抜けである。
「で、ですがあそこって王族しか入れない場所じゃ……」
「お前はもうほとんど王族みたいなものだろ。何か言われたら殿下に良いって言われました!って言っとけばいい」
「ええ……」
殿下は茶目っ気たっぷりに笑ってみせた。
普段は大人びている彼だけれど、こうして見ると年相応だなと感じる。
「ありがとうございます……殿下……」
「ああ、気にせずに行っといで」
「はい!」
また一つ、殿下のことを好きになってしまった。
(あなたたち、真実の愛で結ばれたんじゃなかったんですか……)
殿下の腕に抱き締められたまま、私は彼の顔を見上げた。
すると、私の視線に気付いた彼がニコッと笑った。
「あ、殿下……」
「そんなことよりセシリア、急に王宮に来るなんてどうしたんだ?」
「突然訪問してしまって申し訳ありません……殿下にお願いがあって……」
「いいや、かまわない」
殿下はそう言いながら私の髪の毛に指を通した。
「あ、出来れば二人きりになりたいのですが……」
男爵令嬢の方をチラリと窺いながら言うと、彼女はどこかショックを受けたような顔になった。
そして何故か殿下は勝ち誇ったかのような笑みを浮かべていて。
「セシリアは俺と二人が良いそうだ。分かったならお前早く帰れ」
「うわぁ……ホントに嫌味な人!」
(仲が良いのか悪いのかよく分からないわね……)
少なくとも恋愛関係ではないということに間違いは無さそうだが。
「マリア様、せっかくこうして挨拶に来てくださったのにごめんなさい。殿下に大事なお話があるので少し席を外してくださいますか?」
「セシリア様…………分かりました。また近いうちに会いましょう」
男爵令嬢は殿下と私に一礼すると、大人しくこの場を立ち去って行った。
(どうして彼女がそんな反応をするのかしら……)
何だか今世のヘレイス男爵令嬢は変だ。
前世で私が記憶している男爵令嬢と違いすぎるのではないか。
殿下との仲もそんなに良いようには見えなかったし。
(私が変わったから……?それとも前世でも何か隠された秘密があったのかしら……)
「――セシリア」
「あっ……」
じっと考え込んでいると、彼に声をかけられた。
「それで、大事な話とは?」
「あ、それがですね……い、いい加減に離してください!」
冷静になった私は、恥ずかしくなってすぐに殿下の腕から抜け出した。
照れているのだということをよく知っている彼はそんな私を見てクスクスと笑った。
「その……頼みづらいことなのですが……」
「何だ?」
いくら相手が王太子殿下であろうと、王族しか立ち入れない場所に入るだなんて難しいだろう。
もしかすると生意気だと言われてしまうかもしれない。
しかし、これ以外に解決策は見つからない。
(ええい、覚悟を決めるのよセシリア!)
「あの……王宮の禁書庫に入りたいのですが……」
「禁書庫?」
「はい……調べたいことがあって……」
「ああ」
殿下は至って普通に、ただそれだけ返した。
(え、それだけ……?)
「い、良いんですか?」
「当然だろう、何をそんなに驚いているんだ」
「え、ええ!?」
あっさりと承諾され、拍子抜けである。
「で、ですがあそこって王族しか入れない場所じゃ……」
「お前はもうほとんど王族みたいなものだろ。何か言われたら殿下に良いって言われました!って言っとけばいい」
「ええ……」
殿下は茶目っ気たっぷりに笑ってみせた。
普段は大人びている彼だけれど、こうして見ると年相応だなと感じる。
「ありがとうございます……殿下……」
「ああ、気にせずに行っといで」
「はい!」
また一つ、殿下のことを好きになってしまった。
199
お気に入りに追加
5,921
あなたにおすすめの小説
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。
クロユキ
恋愛
「俺と離婚して欲しい、君の妹が俺の子を身籠った」
パルリス侯爵家に嫁いだソフィア・ルモア伯爵令嬢は結婚生活一年目でソフィアの夫、アレック・パルリス侯爵に離婚を告げられた。結婚をして一度も寝床を共にした事がないソフィアは白いまま離婚を言われた。
夫の良き妻として尽くして来たと思っていたソフィアは悲しみのあまり自害をする事になる……
誤字、脱字があります。不定期ですがよろしくお願いします。
【完結】愛すればこそ奪う
つくも茄子
恋愛
侯爵家の次男アーサーが結婚寸前で駆け落ちした。
相手は、侯爵家の上級メイドであり、男爵令嬢であるアンヌだった。二人は幼馴染の初恋同士であり、秘密の恋人でもあった。家のために、成り上がりの平凡な令嬢との結婚を余儀なくされたアーサーであったが、愛する気持ちに嘘はつかない!と全てを捨てての愛の逃避行。
たどり着いた先は辺境の田舎町。
そこで平民として穏やかに愛する人と夫婦として暮らしていた。
数年前に娘のエミリーも生まれ、幸せに満ちていた。
そんなある日、王都の大学から連絡がくる。
アーサーの論文が認められ、講師として大学に招かれることになった。
数年ぶりに王都に戻るアーサー達一行。
王都の暮らしに落ち着いてきた頃に、アーサーに襲いかかった暴行事件!
通り魔の無差別事件として処理された。
だが、アーサーには何かかが引っかかる。
後日、犯人の名前を聞いたアーサーは、驚愕した! 自分を襲ったのが妻の妹!
そこから明らかになる、駆け落ち後の悲劇の数々。
愛し合う夫婦に、捨てたはずの過去が襲いかかってきた。
彼らは一体どのような決断をするのか!!!
一方、『傷物令嬢』となった子爵令嬢のヴィクトリアは美しく優しい夫の間に二人の子供にも恵まれ、幸せの絶頂にいた。
「小説家になろう」「カクヨム」にも公開中。
辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです
茜カナコ
恋愛
辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです
シェリーは新しい恋をみつけたが……
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる