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三章

殿下と男爵令嬢

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何故、この二人がバチバチと火花を散らしているのか。


(あなたたち、真実の愛で結ばれたんじゃなかったんですか……)


殿下の腕に抱き締められたまま、私は彼の顔を見上げた。
すると、私の視線に気付いた彼がニコッと笑った。


「あ、殿下……」
「そんなことよりセシリア、急に王宮に来るなんてどうしたんだ?」
「突然訪問してしまって申し訳ありません……殿下にお願いがあって……」
「いいや、かまわない」


殿下はそう言いながら私の髪の毛に指を通した。


「あ、出来れば二人きりになりたいのですが……」


男爵令嬢の方をチラリと窺いながら言うと、彼女はどこかショックを受けたような顔になった。
そして何故か殿下は勝ち誇ったかのような笑みを浮かべていて。


「セシリアは俺と二人が良いそうだ。分かったならお前早く帰れ」
「うわぁ……ホントに嫌味な人!」


(仲が良いのか悪いのかよく分からないわね……)


少なくとも恋愛関係ではないということに間違いは無さそうだが。


「マリア様、せっかくこうして挨拶に来てくださったのにごめんなさい。殿下に大事なお話があるので少し席を外してくださいますか?」
「セシリア様…………分かりました。また近いうちに会いましょう」


男爵令嬢は殿下と私に一礼すると、大人しくこの場を立ち去って行った。


(どうして彼女がそんな反応をするのかしら……)


何だか今世のヘレイス男爵令嬢は変だ。
前世で私が記憶している男爵令嬢と違いすぎるのではないか。
殿下との仲もそんなに良いようには見えなかったし。


(私が変わったから……?それとも前世でも何か隠された秘密があったのかしら……)


「――セシリア」
「あっ……」


じっと考え込んでいると、彼に声をかけられた。


「それで、大事な話とは?」
「あ、それがですね……い、いい加減に離してください!」


冷静になった私は、恥ずかしくなってすぐに殿下の腕から抜け出した。
照れているのだということをよく知っている彼はそんな私を見てクスクスと笑った。


「その……頼みづらいことなのですが……」
「何だ?」


いくら相手が王太子殿下であろうと、王族しか立ち入れない場所に入るだなんて難しいだろう。
もしかすると生意気だと言われてしまうかもしれない。
しかし、これ以外に解決策は見つからない。


(ええい、覚悟を決めるのよセシリア!)


「あの……王宮の禁書庫に入りたいのですが……」
「禁書庫?」
「はい……調べたいことがあって……」
「ああ」


殿下は至って普通に、ただそれだけ返した。


(え、それだけ……?)


「い、良いんですか?」
「当然だろう、何をそんなに驚いているんだ」
「え、ええ!?」


あっさりと承諾され、拍子抜けである。


「で、ですがあそこって王族しか入れない場所じゃ……」
「お前はもうほとんど王族みたいなものだろ。何か言われたら殿下に良いって言われました!って言っとけばいい」
「ええ……」


殿下は茶目っ気たっぷりに笑ってみせた。
普段は大人びている彼だけれど、こうして見ると年相応だなと感じる。


「ありがとうございます……殿下……」
「ああ、気にせずに行っといで」
「はい!」


また一つ、殿下のことを好きになってしまった。



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