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二章

夫の狂気 王妃エリザベスside

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リーナ・フルール公爵夫人は私が子供を産んだ一ヶ月後に同じように出産した。
しかし、彼女が生まれた子供の姿を目にすることは無かった。


リーナは出産と同時に亡くなってしまったから。


(そんな……!)


いくら好きではない相手だったとはいえ、死んでほしいとまでは思っていなかった。
母親として、生まれた我が子の顔を見ることが出来ないという苦しみも痛いほど理解出来た。
そして、生まれた子供も永遠に母親からの愛を受け取れないのだと思うと何だかやるせない気持ちになった。




***



それから一週間後。
リーナ・フルール公爵夫人の葬儀が行われた。


もちろん私と夫も国王と王妃として、リーナの葬儀に参列した。
リーナは皆から慕われていた。
葬儀会場にいる誰もが人目をはばからずに涙を流していた。
それほどに、彼女は素晴らしい人物だった。


(……私が死んだら、誰か悲しんでくれる人はいるのかしらね)


別に期待しているわけではないが、何だ悲しくなってしまった。
リーナの死に悲しんでいるのは皆同じだった。
私一人だけが、別の理由で悲しんでいる。
こういうときまで嫉妬するとは、何て醜い女なのだろう。


(ハァ……)


こんな女だから、夫にも愛されないのだ。
私の夫はリーナの訃報を聞いてしばらく部屋にこもりきりだった。
当然だ、彼はリーナを深く愛していたから。


(陛下は彼女の遺体を見てどんな顔をしているのかしら……)


気になった私は、横で黙り込んでいた陛下の顔を見た。


「……ッ!?」


彼の横顔を見た私は、戦慄した。
リーナの遺体をじっと見つめる夫は、歪んだ狂気的な笑みを浮かべていたから。


「……」


実の両親を失くしたあのときと同じ。
いや、それ以上に歪んだ笑みだった。


(な、何……!?リーナを失った悲しみで一周回っておかしくなったの!?)


愛する人が亡くなって笑うだなんて。
マークのいない世界を想像してみたが、もしそんなことが起きたら私は一生笑顔を失ってしまうだろう。


(信じられない……一体何を考えているの……?)


ただただ恐ろしかった。
狂気的な夫の横顔を見た私の頭の中にとんでもない考えが浮かんだが、信じたくなくて頭の中からかき消した。


(もしかして……いや、そんなことって……)


信じたくないが、この男ならやりかねない。
だって彼は、何のためらいも無く実の両親をその手にかけた人だったから。


(ああ……私は本当にとんでもない人に嫁いでしまったのね……)


血縁者や愛する女ですら躊躇せず殺害してしまう人だ。
私や愛する息子もいつ標的にされるか分からない。


(用済みになったら……少しでも出来が悪かったら……そのときは……)


その日から私は、息子に必要以上に厳しく接した。


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