上 下
65 / 126
二章

殿下へのプレゼント

しおりを挟む
そしてついに殿下と王妃陛下にプレゼントを渡す日がやってきた。
庭師が用意してくれた花束を手に、私は王宮へ向かう馬車に乗っていた。


(それにしても、本当に綺麗……)


右手には殿下に渡すための赤い薔薇の花束。
そして左手には、王妃陛下に渡すための赤いガーベラの花束を持っていた。


私が王妃陛下のために選んだのはガーベラという花だった。
何故この花にしたのか。
それについては直感で選んだというのが一番大きいだろう。


しかし、やはり私の目は間違っていなかったと今になってそう思った。


庭園の中でも存在感を放っていた赤いガーベラの花。
たった一輪だけでもこんなにも美しく見えるところが王妃陛下によく似ているなと思ったのだ。
赤色を選んだのは美しさの中に秘められた力強さを感じたからだ。
そういうところが王妃陛下と似ている。


(喜んでもらえるかしらね……)


馬車の中で終始私の胸はドキドキしていた。


「――お嬢様、着きましたよ」
「あら、ありがとう」


どうやら馬車が王宮に着いたようだ。


(何だかいつもより短く感じたわね)


緊張していたせいか、普段よりもこの道がとても短いように感じた。
御者の手を借りて馬車から降りると、すぐに殿下の姿が目に入った。
国王陛下がいつ接触してくるか分からないため、私が王宮へ来るときは毎回殿下が一番に出迎えをしてくれるのだ。


そんな彼の優しさに胸が温かくなる。
もちろん私だって彼に一番に会えるのは嬉しいことだった。


「殿下!」
「セシリア!」


私の姿を見た殿下が嬉しそうにこちらへ駆け寄って来た。
そんな彼の顔を見るのももう慣れた。


そして彼は私をギュッと抱き締めた。
私への気持ちを打ち明けてからの彼は少々――いや、かなり甘すぎるのだ。


「セシリア、会いたかったよ」
「殿下……私もです」


今となっては両想いだということをお互いが誰よりも知っているので、わざわざ隠す必要も無い。


(それにしても、毎回毎回会いたかったと言っているような気がするのは気のせいかしら?)


そんな疑念を抱いた私は、心の中でクスリと笑った。
決して不快ではなかったからだ。


しばらく抱き合ってから身体をゆっくりと離した殿下が、私の手に持っている物を珍しそうに見た。


「セシリア、それは何だ?」
「あ、これは……」


私は持っていた花束のうちの片方を殿下に差し出した。
赤い薔薇の花束だ。


「殿下、私からのプレゼントです。どうぞ受け取ってください」
「え、俺にか……?」
「はい、公爵家の離れにはとても花が美しく咲いている庭園があるのですよ」


殿下は少しだけ固まった後、そっと花束を受け取った。


「……ありがとう、大事にするよ」
「喜んでくださったのなら良かったです」


殿下はとても大事そうに赤い薔薇に触れた。
王太子殿下と花。
これほど似合わない組み合わせは他にあるだろうか。


そんなことを考えた私はフフッと笑みを溢した。


「いつか、殿下にもその場所を見ていただきたいです。本当に美しいんですから」
「ああ、もちろんだ。お前が好きな場所なら俺も好きになりたい」


殿下はフッと笑った後、私の頭を優しく撫でた。
そこでふと何かに気付いたかのように尋ねた。


「セシリア、そっちの花は……?」
「これは、王妃陛下に贈るために用意したものです」
「母上に……」


殿下は少しだけ考え込む素振りを見せた後に優しい口調で言った。


「そうか、喜んでもらえるといいな」
「はい、殿下」


私が殿下が自然に差し出した手に自分の手を重ねて王宮の廊下を歩き出した。
行き先は一つ。


(……どうか、上手くいきますように)


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】婚約破棄の次は白い結婚? ちょっと待って、それって私可哀想すぎると思うんだけど・・

との
恋愛
婚約破棄されるって噂を聞きつけたけど、父親から 【命に関わるから我慢しなさい】 と言われ、言いたい放題の人達に文句も言わず婚約破棄を受け入れたエリン。 ところが次の相手は白い結婚だ!と言い出した。 えっ? しかも敷地内に恋人を囲ってる? 何か不条理すぎる気がするわ。 この状況打開して、私だって幸せになりますね。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 大幅改訂しました。 R15は念の為・・

運命の番でも愛されなくて結構です

えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。 ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。 今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。 新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。 と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで… 「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。 最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。 相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。 それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!? これは犯罪になりませんか!? 心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。 難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

お幸せに、婚約者様。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

処理中です...