婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの

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33 断罪⑨

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「何を言って……気が狂ったか?」
「正常です」


殿下の真剣な眼差しに、陛下は呆れたようにため息をついた。
おそらく冗談だと思っているのだろう。


横にいた王妃は、自身を見下すような殿下の発言に憤慨した。


「私たちを引きずり下ろすですって?何て野蛮な子なの!」
「やはり血は争えないな……お前の母親も狡猾で面倒な女だった」


前王妃を貶すような陛下の発言に、殿下の握りしめた拳に力が入った。
しかし何とか平静を装い、表情を変えることなく口を開いた。


「今日、私は貴方がたの罪を明らかにするため……ここへ来ました」
「罪だと?私たちが何の罪を犯したと?」


陛下が眉をひそめた。


「まずは王妃陛下……貴方です」
「な、何よ!」
「――あれを持ってこい」


殿下の命を受けた侍従が、王妃に一枚の紙を渡した。


「陛下、こちらをご覧ください」
「一体何だって言うの、こんな紙きれに何が……ッ……」


紙に目を通した王妃が固まった。
さらに、彼女の顔はみるみるうちに青くなっていく。


「おい、どうした!」


そんな妻を心配した陛下が声をかけた。


「当然、驚くでしょうね……」
「ど、どうしてこんなものが……」


紙を持つ王妃の手が小刻みに震えている。
それほどにゾッとするようなおぞましい内容が書かれていたということだろう。


「おい、一体何が書いてあるというんだ!!!」


陛下が王妃の持つ紙を取ろうとすると、王妃は慌ててそれを破り捨てた。


「な、何でもないわ!!!」
「どうしたというんだ……」


いつもと違う妻の様子に、陛下は疑問を抱いた。


「貴方がそうすると思ってもう一枚紙を用意しておいたんです。こっちは国王陛下に見ていただきましょうか」
「や、やめて!!!」


王妃が慌てて制止しようとしたが、既に時遅し。
紙は陛下の手に渡ってしまっていた。


慌てる王妃とは対照的に、紙に目を通した陛下が首をかしげた。


「…………何だこれは?ただ貴族の名前が書いてあるだけではないか」
「……ええ、そうですね」


王妃の顔は相変わらず青いままだ。
陛下はわけが分からないというような顔で隣にいる妻を見つめた。


「陛下、リストの上の五人に見覚えはありませんか?」
「上の五人……?」


じっくりと紙を見つめていた陛下が、突然何かに気付いたかのようにハッとなった。


「こ、コイツらは……」


陛下はようやくそのリストの意味に気付いたようだ。


「学生時代、お前に横恋慕していた男たちではないか……!」
「ッ……」


王妃は涙目で俯き、陛下は激昂した。


「おい、こんなものを用意して何のつもりだ!彼女が選んだのは私だ!私を馬鹿にするためにこんなものを持って来たのか!?」
「いいえ、違います。陛下」
「では何故……」


未だに状況が理解出来ていない陛下。
そんな彼に現実を突き付けるように殿下が口を開いた。


「そのリストは単に王妃陛下に横恋慕していた者たちが書かれているわけではないのですよ」
「……それは一体」


まだ気が付いていないらしい。
この一枚の紙きれが自身を地獄へ突き落とすものになるということに。


――「このリストは結婚後、王妃陛下が関係を持った男たちです」
「なッ……!?」


陛下が持っていた紙を床に落とした。
あまりの衝撃で、手から力が抜けたようだ。


「う、嘘だ……そんなことあるはずがない……君が私を裏切るはずが……」


陛下はブツブツと呟きながら愛する妻の顔を見つめた。
しかし、肝心の王妃は夫と目を合わせようとせず下を向いたままだ。


「少し考えれば分かることです……何故王妃陛下の顔はこんなにも青褪めているのですか?何故貴方と目を合わせようとしないのですか?」
「……」


王妃は否定しなかった。
そうする気力さえ無いのか、それとも既に諦めているのか。


その反応を見て、陛下の疑念が確信に変わったようだった。


「そ、そんな……まさか本当に……」


陛下はガックリと膝を着いた。
絶望に打ちひしがれるその姿が、誰かと重なった。





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