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13 強く シルビア視点
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「あ、あの……旦那様……」
「……何か用か?」
旦那様が振り返った。
騎士団長の子息として生まれた旦那様は、貴族令嬢の中でも小柄な私よりもずっと大きい。
冷たい目と相まってそれがさらに恐ろしさを感じさせた。
私はやはり彼の妻として相応しくない。
散々言われてきたことだ。
それでも何とか勇気を振り絞り、震える唇を無理矢理開いた。
「その……次はいつお帰りになられるのでしょうか……?」
「……」
旦那様が不快そうに顔をしかめた。
そんなにもいけない質問だったかと不安になる。
「……」
結局、彼は何も言わずに私の前から立ち去って行った。
結婚してからずっとこんな感じだった。
初夜すら放置され、一度も私の部屋へは訪れない。
それに加えてすぐ外に女を作り、家にはほとんど帰ってこないのである。
(今日も愛人さんのところへ行くのかしら……)
キャロライン様とそっくりな愛人さんと微笑み合う彼の姿を想像すると胸がズキズキと痛んだ。
彼と初めて出会ってから十年以上が経過している。
たくさんの努力をしてきたが、彼が私に笑いかけてくれることは一度たりとも無かった。
今までは誰のことも愛せない人なのだと諦めかけていたが、学園での彼を見てそうでは無かったということを思い知らされた。
旦那様は今でもキャロライン様を愛している。
その事実が私を惨めにさせた。
「あんなんだから旦那様に見放されるのよ……」
「伯爵夫人の威厳も無いんだから」
侍女にまで見下されている私の屋敷内での地位はかなり低い。
ここへ嫁いでからずっと辛いことばかりだ。
溢れそうになる涙をグッと堪える。
泣いたところでさらに嫌悪されるだけだ。
(シェリル様たちだって同じなのよ……それでも彼女たちは強く生きてるの……)
辛い状況にあるのは私だけでは無い。
シェリル様、ルーナ様にダイアナ様だって同じだった。
彼女たちのことを考えると、このままではいけないという気持ちでいっぱいになる。
(私も強くならないと!)
一歩踏み出す決意をした私は、陰口を叩いて笑っていた侍女たちに近付いた。
「――貴方たち、一体誰のことを言っているのかしら?」
「……奥様?」
私のことを舐めているであろう侍女たちは、突然の私の登場に眉をひそめた。
「一体何の用です?お茶なら自分で用意してくれませんか?私たちだって忙しいんです」
「そうですよ、奥様。せっかくセレナイト伯爵家に嫁いでこれたのですからそれくらいは自分でやらないと」
彼女たちはそう言ってクスクスと笑った。
私を完全に馬鹿にしているようだ。
(舐められたものね……)
いつもならここで引き下がるところだが、今回ばかりはそうはいかない。
「一体誰にそんな口を利いているのかしら?」
「誰って……ねぇ」
「ええ、うふふ」
二人が顔を見合わせてニヤリと笑った。
態度を改めるつもりは無いらしい。
(どうやら一度痛い目に遭わないと分からないみたいね)
そう考えた私は、一歩前に出て侍女の体を思い切り押した。
「キャアッ!!!」
突き飛ばされた侍女は尻もちを着いて倒れ込んだ。
「いたた……何するんですか!!!」
「いきなり暴力を振るうだなんて!旦那様に言いつけますよ!」
「――好きにしなさい」
毅然とした私の態度に、彼女たちがビクッとなった。
「言っておくけれど、私の生家は侯爵家よ。そして現侯爵夫人は王家とも縁の深い公爵家の出身。伯爵家の当主にすぎない旦那様が私をどうこう出来るとでも?」
「……!」
二人がハッとなった。
ようやく身分の違いに気付いたらしい。
(そうよ……この婚約だって元はと言えば旦那様の父親である前伯爵様が頼み込んだもの……)
「ところで、貴方たちの名前を聞いていなかったわね」
「……」
「侯爵家の令嬢である私を平然と侮辱出来るのだからそれはもう高貴な家の出身なんでしょうね?」
そう言いながら笑みを深めると、侍女たちの顔がみるみるうちに青くなっていく。
その顔を見ていると何だかとても気分が良くなる。
(どうやら……勝ったみたいね)
気弱な伯爵夫人はもういない。
これからは強く生きていくのだ。
「……何か用か?」
旦那様が振り返った。
騎士団長の子息として生まれた旦那様は、貴族令嬢の中でも小柄な私よりもずっと大きい。
冷たい目と相まってそれがさらに恐ろしさを感じさせた。
私はやはり彼の妻として相応しくない。
散々言われてきたことだ。
それでも何とか勇気を振り絞り、震える唇を無理矢理開いた。
「その……次はいつお帰りになられるのでしょうか……?」
「……」
旦那様が不快そうに顔をしかめた。
そんなにもいけない質問だったかと不安になる。
「……」
結局、彼は何も言わずに私の前から立ち去って行った。
結婚してからずっとこんな感じだった。
初夜すら放置され、一度も私の部屋へは訪れない。
それに加えてすぐ外に女を作り、家にはほとんど帰ってこないのである。
(今日も愛人さんのところへ行くのかしら……)
キャロライン様とそっくりな愛人さんと微笑み合う彼の姿を想像すると胸がズキズキと痛んだ。
彼と初めて出会ってから十年以上が経過している。
たくさんの努力をしてきたが、彼が私に笑いかけてくれることは一度たりとも無かった。
今までは誰のことも愛せない人なのだと諦めかけていたが、学園での彼を見てそうでは無かったということを思い知らされた。
旦那様は今でもキャロライン様を愛している。
その事実が私を惨めにさせた。
「あんなんだから旦那様に見放されるのよ……」
「伯爵夫人の威厳も無いんだから」
侍女にまで見下されている私の屋敷内での地位はかなり低い。
ここへ嫁いでからずっと辛いことばかりだ。
溢れそうになる涙をグッと堪える。
泣いたところでさらに嫌悪されるだけだ。
(シェリル様たちだって同じなのよ……それでも彼女たちは強く生きてるの……)
辛い状況にあるのは私だけでは無い。
シェリル様、ルーナ様にダイアナ様だって同じだった。
彼女たちのことを考えると、このままではいけないという気持ちでいっぱいになる。
(私も強くならないと!)
一歩踏み出す決意をした私は、陰口を叩いて笑っていた侍女たちに近付いた。
「――貴方たち、一体誰のことを言っているのかしら?」
「……奥様?」
私のことを舐めているであろう侍女たちは、突然の私の登場に眉をひそめた。
「一体何の用です?お茶なら自分で用意してくれませんか?私たちだって忙しいんです」
「そうですよ、奥様。せっかくセレナイト伯爵家に嫁いでこれたのですからそれくらいは自分でやらないと」
彼女たちはそう言ってクスクスと笑った。
私を完全に馬鹿にしているようだ。
(舐められたものね……)
いつもならここで引き下がるところだが、今回ばかりはそうはいかない。
「一体誰にそんな口を利いているのかしら?」
「誰って……ねぇ」
「ええ、うふふ」
二人が顔を見合わせてニヤリと笑った。
態度を改めるつもりは無いらしい。
(どうやら一度痛い目に遭わないと分からないみたいね)
そう考えた私は、一歩前に出て侍女の体を思い切り押した。
「キャアッ!!!」
突き飛ばされた侍女は尻もちを着いて倒れ込んだ。
「いたた……何するんですか!!!」
「いきなり暴力を振るうだなんて!旦那様に言いつけますよ!」
「――好きにしなさい」
毅然とした私の態度に、彼女たちがビクッとなった。
「言っておくけれど、私の生家は侯爵家よ。そして現侯爵夫人は王家とも縁の深い公爵家の出身。伯爵家の当主にすぎない旦那様が私をどうこう出来るとでも?」
「……!」
二人がハッとなった。
ようやく身分の違いに気付いたらしい。
(そうよ……この婚約だって元はと言えば旦那様の父親である前伯爵様が頼み込んだもの……)
「ところで、貴方たちの名前を聞いていなかったわね」
「……」
「侯爵家の令嬢である私を平然と侮辱出来るのだからそれはもう高貴な家の出身なんでしょうね?」
そう言いながら笑みを深めると、侍女たちの顔がみるみるうちに青くなっていく。
その顔を見ていると何だかとても気分が良くなる。
(どうやら……勝ったみたいね)
気弱な伯爵夫人はもういない。
これからは強く生きていくのだ。
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