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3 蘇る記憶
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「綺麗……」
公爵家の今の状況とは似つかわしくないほど、公爵邸の庭園は美しい場所だった。
前公爵夫人……アーノルドの母親が花好きで手入れをしていたらしい。
アーノルドの母親は優しく穏やかな方で、幼い頃から私にとても良くしてくださった。
キャロラインのことで何も言えない私の代わりに彼に苦言を呈したり、最後まで助けられてばかりだった。
そんな夫人は少し前に流行り病にかかり、今は別邸で療養しているが。
「そういえば……」
アーノルドがキャロラインと密会を重ねていた場所も庭園だった。
初めて仲睦まじくする彼ら二人を見た、あの日のことが今でも忘れられなかった。
始まりは同じ学園に通う女生徒からの密告だった。
アーノルドがとある男爵令嬢と二人きりで会っているところを目撃したのだと。
そんなはずはないと、最初は彼を信じていた。
しかし女生徒に言われた場所を張り込んでいると、あっさりとその現場を見ることが出来た。
人気の無い学園の庭で、アーノルドがキャロラインを強く抱き締めていた。
私には一度たりとも向けたことの無い優しい笑みで。
『アーノルド様……愛してます……』
『ああ……私も愛してる……こんなに誰かを好きになったのは初めてだ……』
片方に婚約者がいる身でありながらも平然と愛を囁き合っていた二人。
アーノルドはきっと私との婚約を破棄するつもりでいたのだろう。
しかし結局、キャロラインが選んだのは別の男だった。
彼女が王太子からのプロポーズを受け入れたという話が広まったとき、彼は酷く落胆し、抜け殻のようになっていた。
顔から一切の表情が消え、勉学にも全く身が入らなくなるほど彼女に本気だったようだ。
それがどれだけ私を傷付けていたかなんて、彼は知りもしないだろう。
(私、アーノルドのこと結構好きだったのかしら……)
――分からない。
当時の感情がもう思い出せなかった。
優しく微笑んで話を聞いてくれた彼の顔も、舞踏会で壁の花になっていた私を助けてくれた彼の姿も何もかもよく思い出せない。
そのときにようやく気が付いた。
アーノルドがキャロラインと深い仲になっていたことは学園では周知の事実だったのだ。
ただ、誰も私を気遣って言おうとしなかっただけで。
キャロラインとの仲を諫めようとすればするほど、彼の心は私から離れていった。
それでもいつかはきっとあの頃に戻ってくれることを信じて待ち続けていた。
そんな期待は初夜にあっさりと裏切られてしまったけれど。
「あ……」
歩きながら、涙が零れ落ちた。
既に彼に対する未練は無いと、そう思っていたのに。
まだ残っていたのか。
初めて出会った頃、この人となら良き夫婦になれると信じて疑わなかった。
父と母のように互いを尊重し、信頼出来るパートナーになれると本気でそう思っていた。
何故アーノルドはこうも変わってしまったのか。
いくら考えても答えは出なかった。
公爵家の今の状況とは似つかわしくないほど、公爵邸の庭園は美しい場所だった。
前公爵夫人……アーノルドの母親が花好きで手入れをしていたらしい。
アーノルドの母親は優しく穏やかな方で、幼い頃から私にとても良くしてくださった。
キャロラインのことで何も言えない私の代わりに彼に苦言を呈したり、最後まで助けられてばかりだった。
そんな夫人は少し前に流行り病にかかり、今は別邸で療養しているが。
「そういえば……」
アーノルドがキャロラインと密会を重ねていた場所も庭園だった。
初めて仲睦まじくする彼ら二人を見た、あの日のことが今でも忘れられなかった。
始まりは同じ学園に通う女生徒からの密告だった。
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そんなはずはないと、最初は彼を信じていた。
しかし女生徒に言われた場所を張り込んでいると、あっさりとその現場を見ることが出来た。
人気の無い学園の庭で、アーノルドがキャロラインを強く抱き締めていた。
私には一度たりとも向けたことの無い優しい笑みで。
『アーノルド様……愛してます……』
『ああ……私も愛してる……こんなに誰かを好きになったのは初めてだ……』
片方に婚約者がいる身でありながらも平然と愛を囁き合っていた二人。
アーノルドはきっと私との婚約を破棄するつもりでいたのだろう。
しかし結局、キャロラインが選んだのは別の男だった。
彼女が王太子からのプロポーズを受け入れたという話が広まったとき、彼は酷く落胆し、抜け殻のようになっていた。
顔から一切の表情が消え、勉学にも全く身が入らなくなるほど彼女に本気だったようだ。
それがどれだけ私を傷付けていたかなんて、彼は知りもしないだろう。
(私、アーノルドのこと結構好きだったのかしら……)
――分からない。
当時の感情がもう思い出せなかった。
優しく微笑んで話を聞いてくれた彼の顔も、舞踏会で壁の花になっていた私を助けてくれた彼の姿も何もかもよく思い出せない。
そのときにようやく気が付いた。
アーノルドがキャロラインと深い仲になっていたことは学園では周知の事実だったのだ。
ただ、誰も私を気遣って言おうとしなかっただけで。
キャロラインとの仲を諫めようとすればするほど、彼の心は私から離れていった。
それでもいつかはきっとあの頃に戻ってくれることを信じて待ち続けていた。
そんな期待は初夜にあっさりと裏切られてしまったけれど。
「あ……」
歩きながら、涙が零れ落ちた。
既に彼に対する未練は無いと、そう思っていたのに。
まだ残っていたのか。
初めて出会った頃、この人となら良き夫婦になれると信じて疑わなかった。
父と母のように互いを尊重し、信頼出来るパートナーになれると本気でそう思っていた。
何故アーノルドはこうも変わってしまったのか。
いくら考えても答えは出なかった。
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