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番外編
3 衝撃の事実 アレックス視点
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「アレックス」
「……?」
久々に本当の名前を呼ばれたような気がする。
王都を追放されてからはずっと「アレク」として過ごしてきていたから。
(だけど、俺の本当の名前を知っている人なんてここには……)
きっと幻聴だろう。
あまりにもソフィアに会いたいと願っていたせいか、ついに俺はおかしくなってしまったようだ。
「いつまでへこたれてんだい」
「……ッ!?」
その声に驚いて顔を上げると、そこにいたのは最初に働いたパン屋のオーナーであるイレおばさんだった。
おばさんは縮こまって座る俺をムスッとした顔で見下ろしていた。
「な、何でここに……」
「心配になって探したんだよ。アンタが急に出て行くから」
おばさんはそう言うと、俺の手首を掴んで無理矢理立たせた。
「お、おばさん……」
「ちょっとついて来な」
俺はおばさんに引っ張られるがまま、夜の道を歩いた。
イレおばさんに連れて来られた場所は近くにある宿だった。
俺は金を持っていなかったが、どうやらおばさんが出してくれるようだ。
それで俺は久しぶりに風呂に入ることが出来た。
(気持ちいい……)
何日ぶりかの入浴。
身も心もスッキリしたような気分になった。
風呂から上がると、おばさんは難しい顔で部屋にある椅子に座っていた。
俺はどうしても疑問に思ったことを尋ねた。
「おばさん……その……何で……」
「一番に言う言葉がそれとは……アンタはお礼も言えないのかい?」
「あ、いや……ありがとう……ございます……」
どれだけ考えても分からない。
何故おばさんがここまでするのか。
イレおばさんにとって俺は数日前に出会った赤の他人でしかない。
それなのに何故……。
もう一度尋ねようとした俺に、おばさんが衝撃の一言を放った。
「アンタさぁ、元勇者様だろ?」
「なッ……何でそれを……」
何と、おばさんは俺が元勇者で今は罪人として王都を追放されたアレックスだということを知っていたのだ。
「そりゃ知ってるさ。アンタ有名人だからね」
「……」
俺は焦った。
最も知られてはならない秘密がバレてしまったのだから当然だ。
(蔑まれる……)
善良な聖女を裏切り、王女と共に悪事を働いた男。
それが今の俺のイメージだった。
「言っとくけど、アンタが元勇者だって知ってるのは私だけじゃないから」
「え……」
「パン屋に来るお客さんは皆知ってたと思うよ」
「な、何だって……!?」
全員俺の正体を知っていただなんて。
衝撃的すぎて言葉が出なかった。
「アンタ目立つ顔してるし、新聞とかにもよく肖像画載ってたからそりゃあ皆知ってるだろうね」
「じゃあ何で……何で誰も何も言わないんだよ!」
パン屋に来た客に特に変わった様子は見られなかった。
俺が元勇者だと知っていたのなら、何故誰も何も言わなかったのか。
(それとも、本当は心の中で……)
そんな俺の考えを読んだのか、おばさんが呆れたようにため息をついた。
「何で言う必要があるんだい?アンタは私たちに何もしてないのに」
「え……?」
「……?」
久々に本当の名前を呼ばれたような気がする。
王都を追放されてからはずっと「アレク」として過ごしてきていたから。
(だけど、俺の本当の名前を知っている人なんてここには……)
きっと幻聴だろう。
あまりにもソフィアに会いたいと願っていたせいか、ついに俺はおかしくなってしまったようだ。
「いつまでへこたれてんだい」
「……ッ!?」
その声に驚いて顔を上げると、そこにいたのは最初に働いたパン屋のオーナーであるイレおばさんだった。
おばさんは縮こまって座る俺をムスッとした顔で見下ろしていた。
「な、何でここに……」
「心配になって探したんだよ。アンタが急に出て行くから」
おばさんはそう言うと、俺の手首を掴んで無理矢理立たせた。
「お、おばさん……」
「ちょっとついて来な」
俺はおばさんに引っ張られるがまま、夜の道を歩いた。
イレおばさんに連れて来られた場所は近くにある宿だった。
俺は金を持っていなかったが、どうやらおばさんが出してくれるようだ。
それで俺は久しぶりに風呂に入ることが出来た。
(気持ちいい……)
何日ぶりかの入浴。
身も心もスッキリしたような気分になった。
風呂から上がると、おばさんは難しい顔で部屋にある椅子に座っていた。
俺はどうしても疑問に思ったことを尋ねた。
「おばさん……その……何で……」
「一番に言う言葉がそれとは……アンタはお礼も言えないのかい?」
「あ、いや……ありがとう……ございます……」
どれだけ考えても分からない。
何故おばさんがここまでするのか。
イレおばさんにとって俺は数日前に出会った赤の他人でしかない。
それなのに何故……。
もう一度尋ねようとした俺に、おばさんが衝撃の一言を放った。
「アンタさぁ、元勇者様だろ?」
「なッ……何でそれを……」
何と、おばさんは俺が元勇者で今は罪人として王都を追放されたアレックスだということを知っていたのだ。
「そりゃ知ってるさ。アンタ有名人だからね」
「……」
俺は焦った。
最も知られてはならない秘密がバレてしまったのだから当然だ。
(蔑まれる……)
善良な聖女を裏切り、王女と共に悪事を働いた男。
それが今の俺のイメージだった。
「言っとくけど、アンタが元勇者だって知ってるのは私だけじゃないから」
「え……」
「パン屋に来るお客さんは皆知ってたと思うよ」
「な、何だって……!?」
全員俺の正体を知っていただなんて。
衝撃的すぎて言葉が出なかった。
「アンタ目立つ顔してるし、新聞とかにもよく肖像画載ってたからそりゃあ皆知ってるだろうね」
「じゃあ何で……何で誰も何も言わないんだよ!」
パン屋に来た客に特に変わった様子は見られなかった。
俺が元勇者だと知っていたのなら、何故誰も何も言わなかったのか。
(それとも、本当は心の中で……)
そんな俺の考えを読んだのか、おばさんが呆れたようにため息をついた。
「何で言う必要があるんだい?アンタは私たちに何もしてないのに」
「え……?」
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