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番外編

4 気になる人 フィリクス視点

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それから私は二人の行動に目を光らせた。
いつかあの二人を地獄に堕とすために少しずつだが執務の合間を縫って証拠集めをした。


父は仕事を大半を私に丸投げしている。
今や名ばかりの国王で、あの男を支持する貴族は少ない。


しかし、その方が都合が良い。
王を断罪するには、味方がたくさんいた方が心強い。


そうして私は少しずつ、あの男の持っていた権力を奪っていった。
いつの間にか側近たちも離れていき、残るは溺愛していた娘とごくわずかな使用人だけになった。
そうやって私は父の立場を弱いものにした。


しかし、愚かなアイツはそれにすら気付いていないようだった。
それもまた好都合。


それからしばらくして、ある問題が発生した。
妹がやらかしたのだ。
何でも聖女との婚約が決まっていた勇者と浮気したらしい。
しかもお互いに本気だったらしく、聖女と勇者は婚約破棄までする羽目になった。


(あのバカが……!)


やはり血は争えないのだなと改めて感じた。
容姿だけでは無く中身まで卑しい母親とそっくりだ。
あの側妃の血をしっかりと受け継いでいる。


ちなみにアンジェリカのやらかしは今に始まったことでは無かった。
私の従兄弟である公女も、恋人をあの女に取られている。


あのバカ妹は見た目だけは良いからか、騙される男が多い。
そんなことばっかりしているから一部の令嬢にはことごとく嫌われているらしいが。
まぁ自業自得だろう、兄として助けてやろうとも思えない。


アイツに婚約者を取られた令嬢たちのサポートは従兄弟のリリーナに頼むことにした。
同じ傷を負った者同士、仲良くやっているらしい。
どちらにせよ、被害者である彼女たちが立ち直れるならそれで良い。


聖女に関しては――


(……気になる)


聖女ソフィアはとても心優しい少女だった。
平民から聖女という地位に成り上がったにもかかわらず、民のために行動し続ける素敵な人だ。
彼女の噂はかねがね聞いていた。


そしてこの間、初めて聖女と交流を持った。
婚約者を取られて落ち込んでいるようだったが、既に将来のことについてしっかりと考えている強い一面も持っていたのだ。
それは元平民ゆえの強さなのだろうか。


とても気になった。
そして、私の母親のことを偏見と独断で差別したりしなかった。
あんなことを言ってくれた人は初めてだった。
だからこそ、気になってしまったのだ。


不思議だった。
今まで誰かを気にかけたことなんてほとんど無いのは自分でも分かっていた。
騎士団長や叔父、リリーナにもそのことを本当に驚かれた。
自分でも内心信じられなかった。


そしてその日から、私は聖女ソフィアと関わりを持つようになった。


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