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本編
15 魔法の特訓
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「ハァ・・・ハァ・・・」
「聖女様、この程度で息を切らすだなんて情けないですよ」
それは、アンジェリカ王女殿下とアレックスと遭遇して数時間後のことだった。
私は講師の指導の下、魔法の特訓をしていた。聖女として最も重要なのは光魔法がきちんと使えることである。そのため、魔法の授業は他の何よりも優先される。実際に私も王宮に上がったばかりの頃は魔法の特訓ばかりをさせられていた。
私は魔法の授業は別に嫌いではない。この力を使うことで誰かの命を救えるのなら私としても嬉しいし、私を聖女として慕ってくれる皆のためにもこんな風に魔法の練習の時間を取ってくれるのはありがたいことだ。
しかし―
(・・・・・・これもう絶対嫌がらせでしょ!)
このときの私はどうしてもそう思わざるを得なかった。
「あなたはこの国の聖女なのです、もっとしっかりなさってください」
「ハァ・・・ハァ・・・」
床に膝を着いて動けなくなる私を見て目の前にいる女性はそう言った。その女性の名前はマイラ・ヘルクォーツ様だ。この国の魔術師団の副団長を務めていて私の魔法の指導を担当している人物でもある。
そして、それと同時にユベール夫人と同じく私を嫌っている人物の一人でもあった。私を嫌う理由はおそらくユベール夫人と同じだろう。私のような平民と関わりたくないから。
私は今講師であるヘルクォーツ様にひたすら魔法の発動の練習をさせられていた。
(本当はもっと別のことやりたいのに・・・)
私は心の中でそう思った。
正直、ヘルクォーツ様から学んだことはほとんどない。彼女はいつもいつも私に同じことをやらせては使えないだの情けないだの口うるさく罵ってくる。ただ単に私に嫌がらせをしたいだけなのだろう。本当に理不尽だなと思う。
それでもここまで光魔法が上達したのは私自身が努力した結果だ。教会の皆のためにも頑張らなければいけないというその一心でここまで上り詰めた。
それでも歴代聖女に比べたらまだまだではあるが。
ちなみにそんな私は今、魔法を使いすぎて魔力切れを起こしている状態だ。
元々私の魔力量はかなりある方だったが、何度も何度も魔法を発動すれば当然魔力は減っていく。今の私の体はかなり疲弊しきっていた。
(もうダメ・・・動けない・・・)
おそらくヘルクォーツ様はそれを狙って魔法の発動を何度もさせているのだろう。きっと今頃心の中では私の惨めな姿を嘲笑っているに違いない。そう思うと気分が悪くなったが、今はそれどころではなかった。
「ハァ・・・ハァ・・・」
もう息も絶え絶えで苦しい。今すぐ自室に戻って横になりたい。
そんな私をヘルクォーツ様は蔑みの目で見下ろした。
「・・・本当に、勇者様が王女殿下を選んだ理由がよく分かります」
「・・・」
私は彼女のその言葉にグッと唇を噛んだ。
(またアンジェリカ王女殿下の話か・・・)
何故こうも皆王女殿下の話ばかりするのだろう。どう考えても今する必要は無いと思う。私のマナーや魔法の出来がアンジェリカ王女殿下と何の関係があるのか。
講師たちは皆アンジェリカ王女殿下のことを褒め称えるが、私は彼女が特別優秀だという話は聞いたことがない。フィリクス王太子殿下が王子として非常に優秀であるということはよく耳にするが、王女殿下に関しては・・・
「―聖女様?」
「あ、はい!」
いけないいけない。また講師の前で物思いに耽ってしまっていたようだ。
私が話を聞いていなかったことに気付いたのか、ヘルクォーツ様が不快そうに顔を歪めた。
「ハァ・・・」
「・・・」
(ため息をつきたいのはこっちだっての)
私は心の中でそう愚痴をこぼした。
「もうすぐ第一騎士団による魔物の討伐があるのですから、それまでにきちんと魔法の練習をしておいてください、聖女様。今のままでは立派な聖女とは言えません」
「は、はい・・・」
”もっと努力しろ”そういう意味だった。
◇◆◇◆◇◆
ヘルクォーツ様からようやく解放されて私はすぐに自室のベッドに横になった。そうでもしなければ体がもたなかったからだ。
「ハァ・・・ハァ・・・」
ベッドの上で楽な姿勢を取ると、自然と疲れが取れていくようなそんな感じがした。完全回復とまではいかないが、だいぶ楽になった。
本当なら、このまま目を閉じて一度眠った方が体の回復は早くなる。しかし、今の私はどうしても眠れる気がしなかった。
(ヘルクォーツ様の言う通りもうすぐ魔物の討伐がある・・・)
騎士のように私が前線に出て戦うことは無いが、魔物は手強い。おそらく今回もかなりの負傷者が出るだろう。
私はそんな彼らの治療をするために討伐について行くのだ。
(まぁ、その点ではヘルクォーツ様の言っていることも理解できないわけではないけど・・・)
彼女は騎士たちのためを思ってあんなことを言っているわけではない。ただ単に私が気に入らないだけだ。そのことをよく知っている私は、どうしてもヘルクォーツ様の発言に重みを感じられなかった。
(前回の魔物の討伐のときはどうだったっけな・・・)
私は前に討伐について行ったときのことを思い出した。
たしかに前回の私は聖女としては力不足だったように感じられる。怪我人を見てオロオロしてばかりで、騎士団の人たちにたくさん迷惑をかけてしまった。
(・・・今思うと本当に恥ずかしいなぁ。次はもっとちゃんとやろう)
過去の愚行を思い出し、今度こそはと気合いを入れるが私はそこであることに気が付いてしまった。
(・・・ちょっと待って。魔物の討伐ということは多分アレックスも一緒よね・・・?)
彼は勇者なのだからきっと今回の討伐にも参加するだろう。最近それどころではなくてすっかり忘れていた。
(・・・前の討伐のときも普通にいたし、絶対今回も来るんだろうなぁ)
私はアレックスに会わなければいけないということで憂鬱な気持ちになりながらも、現実から逃げるかのようにそのまま目を閉じた。
「聖女様、この程度で息を切らすだなんて情けないですよ」
それは、アンジェリカ王女殿下とアレックスと遭遇して数時間後のことだった。
私は講師の指導の下、魔法の特訓をしていた。聖女として最も重要なのは光魔法がきちんと使えることである。そのため、魔法の授業は他の何よりも優先される。実際に私も王宮に上がったばかりの頃は魔法の特訓ばかりをさせられていた。
私は魔法の授業は別に嫌いではない。この力を使うことで誰かの命を救えるのなら私としても嬉しいし、私を聖女として慕ってくれる皆のためにもこんな風に魔法の練習の時間を取ってくれるのはありがたいことだ。
しかし―
(・・・・・・これもう絶対嫌がらせでしょ!)
このときの私はどうしてもそう思わざるを得なかった。
「あなたはこの国の聖女なのです、もっとしっかりなさってください」
「ハァ・・・ハァ・・・」
床に膝を着いて動けなくなる私を見て目の前にいる女性はそう言った。その女性の名前はマイラ・ヘルクォーツ様だ。この国の魔術師団の副団長を務めていて私の魔法の指導を担当している人物でもある。
そして、それと同時にユベール夫人と同じく私を嫌っている人物の一人でもあった。私を嫌う理由はおそらくユベール夫人と同じだろう。私のような平民と関わりたくないから。
私は今講師であるヘルクォーツ様にひたすら魔法の発動の練習をさせられていた。
(本当はもっと別のことやりたいのに・・・)
私は心の中でそう思った。
正直、ヘルクォーツ様から学んだことはほとんどない。彼女はいつもいつも私に同じことをやらせては使えないだの情けないだの口うるさく罵ってくる。ただ単に私に嫌がらせをしたいだけなのだろう。本当に理不尽だなと思う。
それでもここまで光魔法が上達したのは私自身が努力した結果だ。教会の皆のためにも頑張らなければいけないというその一心でここまで上り詰めた。
それでも歴代聖女に比べたらまだまだではあるが。
ちなみにそんな私は今、魔法を使いすぎて魔力切れを起こしている状態だ。
元々私の魔力量はかなりある方だったが、何度も何度も魔法を発動すれば当然魔力は減っていく。今の私の体はかなり疲弊しきっていた。
(もうダメ・・・動けない・・・)
おそらくヘルクォーツ様はそれを狙って魔法の発動を何度もさせているのだろう。きっと今頃心の中では私の惨めな姿を嘲笑っているに違いない。そう思うと気分が悪くなったが、今はそれどころではなかった。
「ハァ・・・ハァ・・・」
もう息も絶え絶えで苦しい。今すぐ自室に戻って横になりたい。
そんな私をヘルクォーツ様は蔑みの目で見下ろした。
「・・・本当に、勇者様が王女殿下を選んだ理由がよく分かります」
「・・・」
私は彼女のその言葉にグッと唇を噛んだ。
(またアンジェリカ王女殿下の話か・・・)
何故こうも皆王女殿下の話ばかりするのだろう。どう考えても今する必要は無いと思う。私のマナーや魔法の出来がアンジェリカ王女殿下と何の関係があるのか。
講師たちは皆アンジェリカ王女殿下のことを褒め称えるが、私は彼女が特別優秀だという話は聞いたことがない。フィリクス王太子殿下が王子として非常に優秀であるということはよく耳にするが、王女殿下に関しては・・・
「―聖女様?」
「あ、はい!」
いけないいけない。また講師の前で物思いに耽ってしまっていたようだ。
私が話を聞いていなかったことに気付いたのか、ヘルクォーツ様が不快そうに顔を歪めた。
「ハァ・・・」
「・・・」
(ため息をつきたいのはこっちだっての)
私は心の中でそう愚痴をこぼした。
「もうすぐ第一騎士団による魔物の討伐があるのですから、それまでにきちんと魔法の練習をしておいてください、聖女様。今のままでは立派な聖女とは言えません」
「は、はい・・・」
”もっと努力しろ”そういう意味だった。
◇◆◇◆◇◆
ヘルクォーツ様からようやく解放されて私はすぐに自室のベッドに横になった。そうでもしなければ体がもたなかったからだ。
「ハァ・・・ハァ・・・」
ベッドの上で楽な姿勢を取ると、自然と疲れが取れていくようなそんな感じがした。完全回復とまではいかないが、だいぶ楽になった。
本当なら、このまま目を閉じて一度眠った方が体の回復は早くなる。しかし、今の私はどうしても眠れる気がしなかった。
(ヘルクォーツ様の言う通りもうすぐ魔物の討伐がある・・・)
騎士のように私が前線に出て戦うことは無いが、魔物は手強い。おそらく今回もかなりの負傷者が出るだろう。
私はそんな彼らの治療をするために討伐について行くのだ。
(まぁ、その点ではヘルクォーツ様の言っていることも理解できないわけではないけど・・・)
彼女は騎士たちのためを思ってあんなことを言っているわけではない。ただ単に私が気に入らないだけだ。そのことをよく知っている私は、どうしてもヘルクォーツ様の発言に重みを感じられなかった。
(前回の魔物の討伐のときはどうだったっけな・・・)
私は前に討伐について行ったときのことを思い出した。
たしかに前回の私は聖女としては力不足だったように感じられる。怪我人を見てオロオロしてばかりで、騎士団の人たちにたくさん迷惑をかけてしまった。
(・・・今思うと本当に恥ずかしいなぁ。次はもっとちゃんとやろう)
過去の愚行を思い出し、今度こそはと気合いを入れるが私はそこであることに気が付いてしまった。
(・・・ちょっと待って。魔物の討伐ということは多分アレックスも一緒よね・・・?)
彼は勇者なのだからきっと今回の討伐にも参加するだろう。最近それどころではなくてすっかり忘れていた。
(・・・前の討伐のときも普通にいたし、絶対今回も来るんだろうなぁ)
私はアレックスに会わなければいけないということで憂鬱な気持ちになりながらも、現実から逃げるかのようにそのまま目を閉じた。
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