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24 二人きり
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(そろそろ仲が深まっている頃かしら……)
お茶会を出て行って三十分近くが経過した。
私が今いるのはお茶会が開かれているガゼボから少し離れた図書館の中だ。
今頃あの二人はどこまでいっているだろうか。
気にする必要なんて無いはずなのに、つい考えてしまう。
(アイラ……何だか昔の私みたいだったな……)
頬を染めながらギルバートへ積極的に話しかける姿は、エルフレッドに恋をしていた頃の私にそっくりだった。
彼が相槌を打ったり、時々微笑んでくれるのが嬉しくて、どんなことを話せば彼が笑うか毎日のように考えていた。
まだエルフレッドがクロエと出会うずっと前の話だ。
あの頃の彼はたしかに婚約者である私だけを見ていたし、他の貴族令嬢と浮名を流すことも無かった。
昔の楽しかった記憶が、今になって頭の中に流れてくる。
――もし、あの頃に戻れるのなら私は彼を再び愛してしまうだろうか。
もう二度と彼を愛したくない、あんな辛い思いはしたくない。
そうは思うものの、愛することは無いとキッパリ言い切ることは出来なかった。
(もし……もう一度彼を愛してまた死んでしまったら……)
ギュッと目を閉じてそんなことを考えていたとき、現実に引き戻すかのように私を呼ぶ大声が聞こえた。
「――王妃陛下!!!」
「…………ヘンリー公爵?」
目を開けると、こちらに駆け寄ってくるギルバートの姿が見えた。
(どうして貴方がここに……)
アイラと一緒にいると思っていたため、突然の彼の登場に驚きを隠せなかった。
「探してたんですよ!何故こんなところに!」
「貴方こそ……アイラとのお茶会は……」
「公女様には先に帰っていただきました」
「そ、そんな……」
ショックを受けたような私の姿を見て、ギルバートは何かに気付いたかのようにため息を吐いた。
「……やっぱり、このお茶会は最初から仕組まれていたんですね」
「あ……そ、その……」
慌てて言い訳しようとするも、こんなときに限って何も思いつかなかった。
「私と公女様を近付けさせようと……」
「……ごめんなさい」
素直に謝罪することしか出来ない。
彼からしたら心底不愉快だっただろう。
「私は王妃陛下に誘われたからここへ来たのです。公女様と二人きりになるのなら来たりしませんでした」
ギルバートは不機嫌そうに言った。
(クロエ以外には心を開かないということかしら……それならすごく悪いことをしてしまったわ……)
彼だって、王妃である私の誘いを断れなかったはずだ。
ギルバートは図書館の隅でしゃがみ込む私の隣に、同じようにしゃがんだ。
「あの方は本当に王妃様の妹君なのですか?」
「ええ、そうよ。母親は違うけれどね」
「噂には聞いていましたが、想像以上で驚きました」
「……不快にさせてしまったのならごめんなさい」
そのまま二人で会話を続ける。
礼儀に反する行為ではあるが、誰も見ていないから良いだろう。
「アイラはもう帰ったのかしら?」
「はい、かなりゴネていましたが何とか納得していただきました」
「そう、妹が迷惑かけたわね」
「私は平気ですから」
こんなところ、誰かに見られたらお互いにただでは済まないだろう。
しかし、何故だかここを離れようという考えには至らなかった。
何だかとても不思議な時間だった。
***
リーシャとギルバートが話に花を咲かせていた頃。
親し気な二人の様子を物陰から見ていた一人の女がいた。
「……ちょっと、どうしてあの二人が一緒にいるのよ」
何故、あの二人があんなにも近い距離で話しているのか。
傍から見れば密会をしている男女のようにも見える。
「どうして……どうしてなの……!」
生まれてから一度も感じたことの無い屈辱だった。
悔しさのあまり、彼女の握りしめた拳から血が流れた。
お茶会を出て行って三十分近くが経過した。
私が今いるのはお茶会が開かれているガゼボから少し離れた図書館の中だ。
今頃あの二人はどこまでいっているだろうか。
気にする必要なんて無いはずなのに、つい考えてしまう。
(アイラ……何だか昔の私みたいだったな……)
頬を染めながらギルバートへ積極的に話しかける姿は、エルフレッドに恋をしていた頃の私にそっくりだった。
彼が相槌を打ったり、時々微笑んでくれるのが嬉しくて、どんなことを話せば彼が笑うか毎日のように考えていた。
まだエルフレッドがクロエと出会うずっと前の話だ。
あの頃の彼はたしかに婚約者である私だけを見ていたし、他の貴族令嬢と浮名を流すことも無かった。
昔の楽しかった記憶が、今になって頭の中に流れてくる。
――もし、あの頃に戻れるのなら私は彼を再び愛してしまうだろうか。
もう二度と彼を愛したくない、あんな辛い思いはしたくない。
そうは思うものの、愛することは無いとキッパリ言い切ることは出来なかった。
(もし……もう一度彼を愛してまた死んでしまったら……)
ギュッと目を閉じてそんなことを考えていたとき、現実に引き戻すかのように私を呼ぶ大声が聞こえた。
「――王妃陛下!!!」
「…………ヘンリー公爵?」
目を開けると、こちらに駆け寄ってくるギルバートの姿が見えた。
(どうして貴方がここに……)
アイラと一緒にいると思っていたため、突然の彼の登場に驚きを隠せなかった。
「探してたんですよ!何故こんなところに!」
「貴方こそ……アイラとのお茶会は……」
「公女様には先に帰っていただきました」
「そ、そんな……」
ショックを受けたような私の姿を見て、ギルバートは何かに気付いたかのようにため息を吐いた。
「……やっぱり、このお茶会は最初から仕組まれていたんですね」
「あ……そ、その……」
慌てて言い訳しようとするも、こんなときに限って何も思いつかなかった。
「私と公女様を近付けさせようと……」
「……ごめんなさい」
素直に謝罪することしか出来ない。
彼からしたら心底不愉快だっただろう。
「私は王妃陛下に誘われたからここへ来たのです。公女様と二人きりになるのなら来たりしませんでした」
ギルバートは不機嫌そうに言った。
(クロエ以外には心を開かないということかしら……それならすごく悪いことをしてしまったわ……)
彼だって、王妃である私の誘いを断れなかったはずだ。
ギルバートは図書館の隅でしゃがみ込む私の隣に、同じようにしゃがんだ。
「あの方は本当に王妃様の妹君なのですか?」
「ええ、そうよ。母親は違うけれどね」
「噂には聞いていましたが、想像以上で驚きました」
「……不快にさせてしまったのならごめんなさい」
そのまま二人で会話を続ける。
礼儀に反する行為ではあるが、誰も見ていないから良いだろう。
「アイラはもう帰ったのかしら?」
「はい、かなりゴネていましたが何とか納得していただきました」
「そう、妹が迷惑かけたわね」
「私は平気ですから」
こんなところ、誰かに見られたらお互いにただでは済まないだろう。
しかし、何故だかここを離れようという考えには至らなかった。
何だかとても不思議な時間だった。
***
リーシャとギルバートが話に花を咲かせていた頃。
親し気な二人の様子を物陰から見ていた一人の女がいた。
「……ちょっと、どうしてあの二人が一緒にいるのよ」
何故、あの二人があんなにも近い距離で話しているのか。
傍から見れば密会をしている男女のようにも見える。
「どうして……どうしてなの……!」
生まれてから一度も感じたことの無い屈辱だった。
悔しさのあまり、彼女の握りしめた拳から血が流れた。
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