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23 当日
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「お姉様!早く行きましょうよ!ギルバート様が待っていますわ!」
「……十分時間を取ってあるんだから、そんなに急がなくてもいいわ」
お茶会当日。
これでもかと着飾った妹はウキウキしながら愛するギルバートとの茶会へと向かっていた。
(随分高そうなドレスを着ているのね……)
もちろん、私は両親にそんな高いドレスを買ってもらったことは一度も無い。
昔から私と妹の扱いにはかなり格差があり、アイラが使わなくなった物を与えられることだってあった。
以前はそんなどうしようもない親から愛されたいと願っていたが、今ではどうだってよかった。
「――あ、ギルバート様だわ!」
「……早いのね」
しばらく歩くと、お茶会の席に着いていたギルバートが視界に入った。
彼は私たちを見るなり立ち上がり、礼をした。
「――王妃陛下、お久しぶりでございます」
「ええ、久しぶりね。ヘンリー公爵」
先に私に挨拶をしたのが気に食わなかったのか、アイラが一瞬だけムスッとした顔になった。
しかしすぐに笑顔を浮かべると、私の前を塞ぐようにしてギルバートに駆け寄った。
「ギルバート様!」
「……公女様?」
突然前に出てきたアイラに、彼は眉をピクリとさせた。
(あれだけヘンリー公爵様とお呼びしなさいと言ったのに……)
彼女なりに距離を縮めようとしているのだろうが、彼にとっては逆効果だったようで、不快感を隠せていない。
「私、アイラ・スイートって言います!ギルバート様と親しくなりたいと思って来たんです!」
「……そうでしたか」
ギルバートは紳士的な人だから口元に笑みを携えてはいるが、目が恐ろしいくらい笑っていない。
しかし当の本人はそんなこと気付きもせず、彼にキラキラした眼差しを送っている。
(……会わせない方が良かったかしら)
今になってそう思い始めるものの、全てが遅すぎた。
***
三人揃って席に着き、茶会が始まった。
「二人とも、今日は私の招待に応じてくれて感謝するわ」
「当然のことでございます、王妃陛下」
「別に私はお姉様のために来たわけじゃありません。勘違いしないでください」
ギルバートのカップを持つ手がピタリと止まった。
(……好きな人の前でくらい猫被りなさいよ)
「……久しぶりに顔を見れて良かったわ。元気にしていたかしら」
「はい、おかげさまで」
「嘘つかないでください、お姉様。本当は私とお母様のことを嫌っているくせに心配するフリをするだなんて」
カップを手に、固まったままの彼の目が冷たくなった。
(……お願いだから黙っていてくれないかしら)
何故、彼女はこうもせっかくの機会を台無しにするのだろうか。
口を閉じていれば可愛いものを。
「ところで、ヘンリー公爵は……」
「ちょっとお姉様!私を置いてギルバート様に話しかけないでください!」
「……」
ついにギルバートの顔から見せかけの笑みが消えていく。
このお茶会を経て、アイラがこれまで縁談を断られ続けていた理由がよく分かったような気がする。
(いい加減にしてほしいわ)
本当に彼の婚約者になる気があるのだろうか。
クロエに似ていると思っていたが、彼女以上かもしれない。
「ギルバート様、これすっごく美味しいですよ!」
「……」
とうとう彼が黙り込んでしまった。
しかしアイラはそんなこと気にも留めずに猛アタックを続けている。
(この子、不快な思いをさせていることに気付いていないのかしら……)
そういうところがあの愚かな父母によく似ている。
あの二人から生まれたのだからこうなって当然か。
だから彼女がこうなったのは仕方が無いのだと、そう思うことにした。
それから少しして、アイラがギルバートに気付かれないよう私に目配せをした。
(……出て行けということかしら)
何だか気まずくなってしまったため、素直にその指示に従うことにした。
アイラも二人きりならもう少し礼儀正しくなるかもしれないし、こうするのが正しいのだろう。
「ヘンリー公爵、アイラ。私は用を思い出したから少し失礼するわ」
「あらぁ、残念ですねお姉様」
「……陛下?」
私はそのまますぐに彼らに背を向けて歩き出した。
(後はお二人でどうぞ)
今のところかなり絶望的ではあるが、応援するだけしてみよう。
駄目なら駄目でアイラも諦めがつくかもしれないし。
そんなことを考えながら、私は一人になるためにこの場を離れていく。
――そんな私の背中をギルバートがじっと見つめていることに、このときの私が気付くことは無かった。
「……十分時間を取ってあるんだから、そんなに急がなくてもいいわ」
お茶会当日。
これでもかと着飾った妹はウキウキしながら愛するギルバートとの茶会へと向かっていた。
(随分高そうなドレスを着ているのね……)
もちろん、私は両親にそんな高いドレスを買ってもらったことは一度も無い。
昔から私と妹の扱いにはかなり格差があり、アイラが使わなくなった物を与えられることだってあった。
以前はそんなどうしようもない親から愛されたいと願っていたが、今ではどうだってよかった。
「――あ、ギルバート様だわ!」
「……早いのね」
しばらく歩くと、お茶会の席に着いていたギルバートが視界に入った。
彼は私たちを見るなり立ち上がり、礼をした。
「――王妃陛下、お久しぶりでございます」
「ええ、久しぶりね。ヘンリー公爵」
先に私に挨拶をしたのが気に食わなかったのか、アイラが一瞬だけムスッとした顔になった。
しかしすぐに笑顔を浮かべると、私の前を塞ぐようにしてギルバートに駆け寄った。
「ギルバート様!」
「……公女様?」
突然前に出てきたアイラに、彼は眉をピクリとさせた。
(あれだけヘンリー公爵様とお呼びしなさいと言ったのに……)
彼女なりに距離を縮めようとしているのだろうが、彼にとっては逆効果だったようで、不快感を隠せていない。
「私、アイラ・スイートって言います!ギルバート様と親しくなりたいと思って来たんです!」
「……そうでしたか」
ギルバートは紳士的な人だから口元に笑みを携えてはいるが、目が恐ろしいくらい笑っていない。
しかし当の本人はそんなこと気付きもせず、彼にキラキラした眼差しを送っている。
(……会わせない方が良かったかしら)
今になってそう思い始めるものの、全てが遅すぎた。
***
三人揃って席に着き、茶会が始まった。
「二人とも、今日は私の招待に応じてくれて感謝するわ」
「当然のことでございます、王妃陛下」
「別に私はお姉様のために来たわけじゃありません。勘違いしないでください」
ギルバートのカップを持つ手がピタリと止まった。
(……好きな人の前でくらい猫被りなさいよ)
「……久しぶりに顔を見れて良かったわ。元気にしていたかしら」
「はい、おかげさまで」
「嘘つかないでください、お姉様。本当は私とお母様のことを嫌っているくせに心配するフリをするだなんて」
カップを手に、固まったままの彼の目が冷たくなった。
(……お願いだから黙っていてくれないかしら)
何故、彼女はこうもせっかくの機会を台無しにするのだろうか。
口を閉じていれば可愛いものを。
「ところで、ヘンリー公爵は……」
「ちょっとお姉様!私を置いてギルバート様に話しかけないでください!」
「……」
ついにギルバートの顔から見せかけの笑みが消えていく。
このお茶会を経て、アイラがこれまで縁談を断られ続けていた理由がよく分かったような気がする。
(いい加減にしてほしいわ)
本当に彼の婚約者になる気があるのだろうか。
クロエに似ていると思っていたが、彼女以上かもしれない。
「ギルバート様、これすっごく美味しいですよ!」
「……」
とうとう彼が黙り込んでしまった。
しかしアイラはそんなこと気にも留めずに猛アタックを続けている。
(この子、不快な思いをさせていることに気付いていないのかしら……)
そういうところがあの愚かな父母によく似ている。
あの二人から生まれたのだからこうなって当然か。
だから彼女がこうなったのは仕方が無いのだと、そう思うことにした。
それから少しして、アイラがギルバートに気付かれないよう私に目配せをした。
(……出て行けということかしら)
何だか気まずくなってしまったため、素直にその指示に従うことにした。
アイラも二人きりならもう少し礼儀正しくなるかもしれないし、こうするのが正しいのだろう。
「ヘンリー公爵、アイラ。私は用を思い出したから少し失礼するわ」
「あらぁ、残念ですねお姉様」
「……陛下?」
私はそのまますぐに彼らに背を向けて歩き出した。
(後はお二人でどうぞ)
今のところかなり絶望的ではあるが、応援するだけしてみよう。
駄目なら駄目でアイラも諦めがつくかもしれないし。
そんなことを考えながら、私は一人になるためにこの場を離れていく。
――そんな私の背中をギルバートがじっと見つめていることに、このときの私が気付くことは無かった。
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