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10 決別②
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あれから数日後。
私は以前のように変わらずクロエとのお茶会に参加していた。
「王妃様、来てくださってありがとうございます!」
「クロエ様」
こちらへ駆け寄ってきたクロエは私にギュッと抱き着いた。
「体調が回復したようで良かったです。私心配で……」
「もう平気ですよ、心配してくれてありがとうございます」
物凄い力で私の首を抱き締めるクロエをそっと引き剥がした。
そして私たちはいつものようにお茶会の席に座った。
「最近はいかがお過ごしですか?」
「平和な暮らしを送っていますわ……陛下が気遣ってくれているので」
「そうですか……陛下が……」
エルフレッドの名を出した瞬間、彼女の眉がピクリと動いた。
(何かしら?)
そのとき、一瞬だけクロエの顔が歪んだように見えた。
そういえば、最近の彼女にはどこか違和感を感じる。
私が体調を崩したあたりからだろうか。
前世を含め、彼女が不機嫌になるところは一度も見たことが無い。
――そんなクロエがどうして、エルフレッドの名前を出しただけで。
(……今はそのことを気にしてる場合ではないわね)
普段と違う彼女の態度は気にかかるが、私が今日ここへ来たのには別の大事な目的があったからだ。
「今日はクロエ様に話があってここへ来ました」
「話……ですか?」
「――これからは私をお茶会に誘わないでいただきたいのです」
「え…………それは、一体……どうしてですか?」
その言葉に、クロエは困惑したような顔になった。
以前とまるで雰囲気の違う私に驚いているのかもしれない。
それはお互い様だが。
「次からは是非陛下とお二人でお過ごしください。お二人の仲睦まじい姿を見たところで私は全く気にしませんので」
「……」
クロエの目を見てハッキリとそう口にした。
夫に未練など無く、彼ら二人がどれだけ愛を育もうが私にとってはどうだっていい。
そのような意味で言ったつもりだったが、彼女は何故かとんでもない勘違いをし始めた。
「そんな風に強がらなくてもいいんですよ、王妃様」
「……それはどういうことでしょうか?」
クロエは私を見てクスクスと笑った。
「エルフレッド様のお渡りがほとんど無いと聞いています。私のせいでそんなことになってしまって……本当に悪かったと思っています。私からエルフレッド様に言って……」
「――いいえ、結構です」
「な……」
クロエが何を思ってそんなことを言ったのかは分からないが、そのようなことを勝手にされては困る。
私はもう二度と、彼と必要以上に関わらないと決めているのだから。
「強がらないでください、王妃様。私からエルフレッド様に言えば……」
「いえ、別に強がっているわけではありません」
「ならどうして断ったりするんですか?エルフレッド様のこと、嫌いになったんですか?」
「そんなことはありません。私はいつだって陛下の幸せを願っています」
別に嘘では無かった。
愛を返されたことは無いし、良い夫とは言えなかったけれど、不幸になってほしいとまでは思わなかった。
ただ彼がどのような結末を迎えようとどうだっていいというだけだ。
「……」
クロエは俯いて黙り込んだ。
しばらくして急に顔を上げると、いつもの優しい笑顔を浮かべていた。
「私が側妃になってから、陛下は毎日のように私のところにいらっしゃるんです」
「そうですか」
「これでは私の体がもたなくて大変なんですよ」
「そうですか」
「……」
悔しそうな顔でクロエは再び黙り込んだ。
愛する人との時間を邪魔しないと言っているのに、何故だか不満そうだ。
(私に嫉妬でもしてほしいのかしら)
生憎彼への愛をとっくに捨てた私にとっては、それを聞いたところで何とも思わない。
「クロエ様、本当に私のことはお気になさらないでください。貴方と陛下の邪魔をするつもりは全くありませんから」
「私は……」
「用件が済んだのであれば私はこれで失礼いたします。後は陛下との楽しい時間をお過ごしください」
「ま、待ってください王妃様……!」
引き留めようとする彼女を無視し、私は庭園を出て行った。
こうして私は、側妃クロエとの最後のお茶会を何の未練も無く終えたのだった。
私は以前のように変わらずクロエとのお茶会に参加していた。
「王妃様、来てくださってありがとうございます!」
「クロエ様」
こちらへ駆け寄ってきたクロエは私にギュッと抱き着いた。
「体調が回復したようで良かったです。私心配で……」
「もう平気ですよ、心配してくれてありがとうございます」
物凄い力で私の首を抱き締めるクロエをそっと引き剥がした。
そして私たちはいつものようにお茶会の席に座った。
「最近はいかがお過ごしですか?」
「平和な暮らしを送っていますわ……陛下が気遣ってくれているので」
「そうですか……陛下が……」
エルフレッドの名を出した瞬間、彼女の眉がピクリと動いた。
(何かしら?)
そのとき、一瞬だけクロエの顔が歪んだように見えた。
そういえば、最近の彼女にはどこか違和感を感じる。
私が体調を崩したあたりからだろうか。
前世を含め、彼女が不機嫌になるところは一度も見たことが無い。
――そんなクロエがどうして、エルフレッドの名前を出しただけで。
(……今はそのことを気にしてる場合ではないわね)
普段と違う彼女の態度は気にかかるが、私が今日ここへ来たのには別の大事な目的があったからだ。
「今日はクロエ様に話があってここへ来ました」
「話……ですか?」
「――これからは私をお茶会に誘わないでいただきたいのです」
「え…………それは、一体……どうしてですか?」
その言葉に、クロエは困惑したような顔になった。
以前とまるで雰囲気の違う私に驚いているのかもしれない。
それはお互い様だが。
「次からは是非陛下とお二人でお過ごしください。お二人の仲睦まじい姿を見たところで私は全く気にしませんので」
「……」
クロエの目を見てハッキリとそう口にした。
夫に未練など無く、彼ら二人がどれだけ愛を育もうが私にとってはどうだっていい。
そのような意味で言ったつもりだったが、彼女は何故かとんでもない勘違いをし始めた。
「そんな風に強がらなくてもいいんですよ、王妃様」
「……それはどういうことでしょうか?」
クロエは私を見てクスクスと笑った。
「エルフレッド様のお渡りがほとんど無いと聞いています。私のせいでそんなことになってしまって……本当に悪かったと思っています。私からエルフレッド様に言って……」
「――いいえ、結構です」
「な……」
クロエが何を思ってそんなことを言ったのかは分からないが、そのようなことを勝手にされては困る。
私はもう二度と、彼と必要以上に関わらないと決めているのだから。
「強がらないでください、王妃様。私からエルフレッド様に言えば……」
「いえ、別に強がっているわけではありません」
「ならどうして断ったりするんですか?エルフレッド様のこと、嫌いになったんですか?」
「そんなことはありません。私はいつだって陛下の幸せを願っています」
別に嘘では無かった。
愛を返されたことは無いし、良い夫とは言えなかったけれど、不幸になってほしいとまでは思わなかった。
ただ彼がどのような結末を迎えようとどうだっていいというだけだ。
「……」
クロエは俯いて黙り込んだ。
しばらくして急に顔を上げると、いつもの優しい笑顔を浮かべていた。
「私が側妃になってから、陛下は毎日のように私のところにいらっしゃるんです」
「そうですか」
「これでは私の体がもたなくて大変なんですよ」
「そうですか」
「……」
悔しそうな顔でクロエは再び黙り込んだ。
愛する人との時間を邪魔しないと言っているのに、何故だか不満そうだ。
(私に嫉妬でもしてほしいのかしら)
生憎彼への愛をとっくに捨てた私にとっては、それを聞いたところで何とも思わない。
「クロエ様、本当に私のことはお気になさらないでください。貴方と陛下の邪魔をするつもりは全くありませんから」
「私は……」
「用件が済んだのであれば私はこれで失礼いたします。後は陛下との楽しい時間をお過ごしください」
「ま、待ってください王妃様……!」
引き留めようとする彼女を無視し、私は庭園を出て行った。
こうして私は、側妃クロエとの最後のお茶会を何の未練も無く終えたのだった。
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