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8 夫への報復
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「リア……」
私は何てことをしてしまったのだろう。
あのときディアン様を引き留めていなければ。
いつものようにあのまま別邸へ帰していたら。
少なくともこのようなことにはならなかったはずだ。
今になって後悔がどっと押し寄せてくる。
「ああ……私はどんな顔をしてあの子に会えば……」
娘に合わせる顔が無かった。
リアはあの言葉を聞いて何を思ったのだろうか。
簡単に想像がつくからこそ、娘と会うのがはばかられた。
気付けば既に夜が明け、朝になっていた。
私はいつまで経っても自室から出る気にはなれなかった。
ディアン様に無惨に踏み付けられた娘の肖像画が今も床に転がっている。
「あの……奥様……」
「……」
じっとうずくまっていると、侍女が部屋に入ってきた。
彼女は私を見て驚いたような顔をした。
酷い顔をしているから当然だろう。
侍女は困惑しながらも、用件を話した。
「お嬢様が……いらっしゃっていますが……」
「リアが……?」
驚いたのも束の間、リアがいつもと変わらない様子で部屋へ入って来た。
「お母様!」
「リア……」
リアが私の元へと駆け寄ってきた。
「お母様……すごく具合が悪そう。お医者様を呼んだ方がいいんじゃない?」
真っ赤になった私の目元に、リアの小さな手が触れた。
「……」
「お母様、どこか具合が悪いの?」
「あっ、いいえ……私は平気よ……」
まるで昨日のことなど無かったかのように目の前にいるリアは平然としていた。
(どうして……)
気になった私は遠慮がちに尋ねた。
「リアこそ、どこか悪いところは無いの?」
「悪いところ?特に無いけれど……でも……」
「でも?」
リアは戸惑いながらも、ゆっくりと話し始めた。
「お母様、私ね……最近の記憶が曖昧で……よく覚えていないの」
「……何ですって?」
「何だかすごく嫌なことがあったような気がするんだけど……それが思い出せないの」
「……リア」
それを聞いた私はすぐに部屋の外にいた侍女に命令を下した。
「今すぐ公爵邸に医者を呼んでちょうだい!!!」
***
「強いストレスやショックが原因で記憶喪失になってしまうのはよくあることです」
「じゃあ、リアは……」
「はい、おそらくですが……」
医者によると、リアは記憶の一部を失っている状態だった。
ディアン様のあの言葉が幼いリアにとっては衝撃的だったのだろう。
(不幸中の幸いなのかしら……)
記憶を失ったことは災難だ。
しかし、リアがあの酷い言葉を覚えていなくて良かったと思う自分がいたのもまた事実である。
私は椅子に座るリアに優しく声をかけた。
「リア、今は大丈夫?」
「うん、どこも悪くないよ」
それを聞いた私は衝動的に娘を力強く抱き締めた。
「リア……!」
「お母様?」
「リア、貴方は私が守るから……もう誰にも絶対傷付けさせないからね……」
困惑したようなリアの声が聞こえてくる。
このとき、私は娘を二度と傷付けないことを誓うと同時に、あることを決意した。
(あの男、絶対に痛い目に遭わせてやるわ……!)
それはリアに心の傷を与えたディアン様に必ず報復をするということだ。
これまでのように夫の顔色を窺っていた私はもうどこにもいない。
リアを傷付けたディアン様には絶対に制裁を受けてもらう。
私の心は復讐心でメラメラと燃え上がっていた。
(覚悟してなさい、たとえリアの父親だとしても容赦しないわ……!)
私は何てことをしてしまったのだろう。
あのときディアン様を引き留めていなければ。
いつものようにあのまま別邸へ帰していたら。
少なくともこのようなことにはならなかったはずだ。
今になって後悔がどっと押し寄せてくる。
「ああ……私はどんな顔をしてあの子に会えば……」
娘に合わせる顔が無かった。
リアはあの言葉を聞いて何を思ったのだろうか。
簡単に想像がつくからこそ、娘と会うのがはばかられた。
気付けば既に夜が明け、朝になっていた。
私はいつまで経っても自室から出る気にはなれなかった。
ディアン様に無惨に踏み付けられた娘の肖像画が今も床に転がっている。
「あの……奥様……」
「……」
じっとうずくまっていると、侍女が部屋に入ってきた。
彼女は私を見て驚いたような顔をした。
酷い顔をしているから当然だろう。
侍女は困惑しながらも、用件を話した。
「お嬢様が……いらっしゃっていますが……」
「リアが……?」
驚いたのも束の間、リアがいつもと変わらない様子で部屋へ入って来た。
「お母様!」
「リア……」
リアが私の元へと駆け寄ってきた。
「お母様……すごく具合が悪そう。お医者様を呼んだ方がいいんじゃない?」
真っ赤になった私の目元に、リアの小さな手が触れた。
「……」
「お母様、どこか具合が悪いの?」
「あっ、いいえ……私は平気よ……」
まるで昨日のことなど無かったかのように目の前にいるリアは平然としていた。
(どうして……)
気になった私は遠慮がちに尋ねた。
「リアこそ、どこか悪いところは無いの?」
「悪いところ?特に無いけれど……でも……」
「でも?」
リアは戸惑いながらも、ゆっくりと話し始めた。
「お母様、私ね……最近の記憶が曖昧で……よく覚えていないの」
「……何ですって?」
「何だかすごく嫌なことがあったような気がするんだけど……それが思い出せないの」
「……リア」
それを聞いた私はすぐに部屋の外にいた侍女に命令を下した。
「今すぐ公爵邸に医者を呼んでちょうだい!!!」
***
「強いストレスやショックが原因で記憶喪失になってしまうのはよくあることです」
「じゃあ、リアは……」
「はい、おそらくですが……」
医者によると、リアは記憶の一部を失っている状態だった。
ディアン様のあの言葉が幼いリアにとっては衝撃的だったのだろう。
(不幸中の幸いなのかしら……)
記憶を失ったことは災難だ。
しかし、リアがあの酷い言葉を覚えていなくて良かったと思う自分がいたのもまた事実である。
私は椅子に座るリアに優しく声をかけた。
「リア、今は大丈夫?」
「うん、どこも悪くないよ」
それを聞いた私は衝動的に娘を力強く抱き締めた。
「リア……!」
「お母様?」
「リア、貴方は私が守るから……もう誰にも絶対傷付けさせないからね……」
困惑したようなリアの声が聞こえてくる。
このとき、私は娘を二度と傷付けないことを誓うと同時に、あることを決意した。
(あの男、絶対に痛い目に遭わせてやるわ……!)
それはリアに心の傷を与えたディアン様に必ず報復をするということだ。
これまでのように夫の顔色を窺っていた私はもうどこにもいない。
リアを傷付けたディアン様には絶対に制裁を受けてもらう。
私の心は復讐心でメラメラと燃え上がっていた。
(覚悟してなさい、たとえリアの父親だとしても容赦しないわ……!)
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