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*閑話⇔過去*
しおりを挟む今から5年前ーー
中学三年。受験時期も近い秋。
教育実習の大学生が来るという話に心躍った。
前から聞いていたからだ。
そして、その中に僕の知る人の名前もあった。
放課後は急いで自転車に乗って家に向かった。
家に帰ると、既に僕の部屋には家庭教師で大学生の矢部さんがベッドの端に背凭れて本を読みながら帰りを待っていてくれた。
矢部さんの前に正座して急かすように教育実習の話を向けた。
「僕の中学になったんだね!名前を聞いてとても嬉しかったよ」
「ん~ 実は緑中とムイトの通う南中かで悩んだんだよね」
「ええ、悩んだの?」
「ははは、なんてな。速攻で南中にしたに決まってるだろ」
「だよね?中学校の実習って聞いてワクワクしてた」
「いやいや、おれのカテキョの成果を見るチャンスだからね」
「なんかその理由って納得いかないなぁ」
いじわる。子ども扱い。
じーっと、目前にある矢部さんの顔を見つめる。
「おれの顔、好きな?」
「うん大好き。うっとりする」
「顔だけ?」
「違うよ矢部さんの全て。だから見惚れるの」
「お前な、そう素直にませたことを言うから学校では浮くんだぞ?」
「そうさせたのは矢部さんだよ?それにませたって台詞は子供に言う言葉だから止めてよ」僕は頬を膨らませる。
「やっぱガキだわ」
「もーっ」
あはははと明るい笑い声が絶えまなく聞こえる僕の部屋。
なので、階下のキッチンで夕食を作っている母さんが「あなたたち真面目に勉強してるのー?」と、まるで矢部さんも自分の息子の様に世話をやく。
矢部さんは僕の家庭教師になってから2年目。兄のようにいてくれて友達のようでもあって、そして恋人になってーー。
あの頃が、オレは一番の幸せだったかもしれない。
まだ独占力を欲するほど底沼に嵌ってなくて、傍に居てじゃれ合いながらいろいろな話をして、矢部さんもオレを優しく庇護力の眼差しで見ていてくれた。
世間でいうところの胸がキュンってする恋をしていたーーひたすらに真っすぐ。
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