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13話 悲しくて切なくて、残酷なトラウマ

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『お前のせいで俺の将来は……っ!』

『ごめんなさい……ごめんなさい……矢部さん』

『お前が壊したんだ。お前だって壊されても文句ないよな? なぁ、ムイト!?』



 あんなに穏やかで優しくて、僕を励ましてくれた矢部さんが……変わってしまった。

 変えてしまったのは……。

 僕は決して矢部さんに迷惑を掛けたいなんて思っていなかった。


 ごめんなさいーー。





 ーーパッと目が覚めたのは白い部屋。

 敏感に鼻孔に纏わりつく消毒液の匂い。


 まだ、ここはーー病院?……あれから、浅い夢を見ていたのかな……少しでも逃げたくて。


「遠野くん、気が付いたか」

 
 聞いたことのない大人の声。

 パリッと糊のついた白いシーツと掛布団、それと枕。

 似ているけど、違う。ここは病院じゃない。


「……あ、の」

「わたしは保健医の高岡と言う。遠野くんは突発性じんましんが起きたようだが今はキレイに消えているよ」

 じんましん……それで保健室。

「以前からアレルギーや何らかの疾患はあるのかい?」

 オレは首を振った。

「そうか……それじゃ本当に小椋くんの顔を見てじんましんが出たと言うのか?フフ」

「酷いですね、そんな事があるわけないでしょう」

 オレの頭部の上で話しているのは、ステージで聞こえた忘れもない生徒会長、あの“顔”が居る!

 見ない様に頭は上げない。

 今、見てしまったら、今度はオレは……悲鳴を上げる。



「熱も平熱だし、指も動かせられるし軟膏を塗るまでもなく直ぐに消えたから一過性のものだと思うんだ。新入生だからか気持ちの問題もあるかもな」

 保健医の先生はそう言って帰って良し!とオレをベッドから起き上がらせた。だ、だめ……“顔”が見える!!


「遠野、俺はこれから委員会に出なければならない時間だ。……一人で戻れるか?」

 こくんこくんと首だけを下げて返事をした。

「すべて明日からだから、今日は部屋でゆっくり休め」

「……こくん」

「なんだ “こくん”って?」

 後ろにいた生徒会長はオレの前に回り込んで顔を見ようとしただろうけど、それを自分の顔に手を添えて阻止した。

 じんましんは出てないようだった。

「わ、わかりましたって事です……寮に戻ります、オレは」

「……そうか。お前、やはり俺の方を見ないんだな」

ドキン

「小椋くんが近くて遠野くんが照れてるだろ? そんなにいじめないんだよ。しかし毛色の違うコをご所望なんだな」


「別にご所望ではなく補佐ですよ補佐。ふーん……それじゃ俺はこれで。……まっすぐ寮に戻れよ」

 ……こくん。


 生徒会長が保健室を出て行って、オレはひとまずほぅと深い溜息を吐いた。

「なるほど、彼は超絶イケメンとやらだもんな。直視できない程の緊張か、まぁこれから大変だ」

 高岡保健医先生がきわどいことを発した。

 でも、それは違うんですけどね!

「オレ、これからどうしよう……」

 ボヤキに近いことを呟いたら、「また俺のところに来たらいいさ。今度はイケメンに耐えられる薬を調合しておくよ」そしてはッはッはッと豪快に笑った。

 全く、人の事だと思って……それにしても保健医の先生のイメージとかなり掛け離れた高岡先生。

 めっちゃ厳ついスポーツ系の先生だった。

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